前回のあらすじ。
アリアさんが助けに来てくれた!?
逃げた二人の男は走っていた。廊下を進み裏口から逃げようと必死になっている。だが、廊下の角から一人の男が姿を現し二人の行く手を塞いだ。
「な、何奴!?」
「ん?俺か?聞いて驚くなよ」
男はゆったりとした動作で刀を鞘に入れたまま左手に持ち二人を睨み付け仁王立ちになった。
「火付盗賊改方、ジェノベーゼ・アイスラントである」
「う、嘘だろ!何で火盗が!」
「お、おい!かっ火盗なんて冗談だよなぁ!」
「冗談かどうか、そっちの奴に聞いてみな」
そう言って顎で二人の後ろを指す火盗、ジェノベーゼ。二人の男は顔から汗を垂らしながら恐る恐る後ろを振り向く。するとそこには…。
「ようシカシ、遊び人のモグ……またの名を…北町奉行、松戸士竜…だぜシカシ」
自慢の乱れ桜を見せながら
「き、聞いてねぇぞ!こんなの!」
「あぁ、言ってねぇからなシカシ」
「ひ、ひょっとして、お、お、俺達…」
「安心しな、ひょっとしなくても終わりだ」
「笑ってるぜシカシ、あんたの後ろの死神がなシカシ」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」
少しして、ずかずかと歩いてくる松戸とジェノベーゼを見つけたアリア。
「あら、早かったじゃない」
「あぁ。で、その仕事人はどうすんだ」
「色々と取り調べする必要があるぜシカシ」
「そうねぇ、重要参考人でもあるし…」
三人してジュリエッタを見た。ジュリエッタはすっかり観念したかのように傷口である腕を抑え膝をついた。
「……好きにしな…」
目を閉じたジュリエッタは正体がバレるのを覚悟した。勿論、それだけじゃないだろう。様々な覚悟をしジュリエッタは目を閉じたのだ。
タッ
近付いたのはアリア。アリアは手を仕事人に伸ばした。顔を覆っている布を取り払う為だろう。ジュリエッタはもう今までの生活に戻れないと瞬時に悟り僅かに涙を流した。
「…馬鹿ね」
アリアはそう言って血がだらだらと流れているジュリエッタの手を取った。それに驚いたジュリエッタ。
「あなたが誰だろうと構わないわ、怪我の手当てが先よ。腕を出しなさい」
ジュリエッタは漸く理解した。
「…金平糖ばかり食べるからこうなるのよ」
「ジュリっ…じゃねぇや……、仕事人、もっと綺麗に仕事出来なかったのか?」
「まったく、お前ら少しは隠せよシカシ…」
「お前が言うなよ!!シカシ野郎!」
最初から全てアリア達は分かっていたという事を。
「ほら、大丈夫?」
「…うん……うん、…ありがとうアリアさん…」
「泣くなよ仕事人のくせに」
「ほらよ、サラシだぜシカシ」
松戸は綺麗なサラシをアリアに手渡した。アリアはそれを受け取るとジュリエッタの腕に手際よく巻いていった。彼女はその間ずっと鼻をすすりながら涙を流していた。だが、そんな場面に似合わない二人組が突如として影から姿を見せる。
「取り込み中失礼…」
即座に反応したアリア達。
「何奴だシカシ?」
ぬっと現れたのはジュリエッタと同じように顔に布を巻いた輩だった。声からして男、雰囲気からして相当の手練れであるのは間違いない。
「…ん?よく見れば奉行に
「殺すには少々惜しい人材ですな」
殺すという単語を聞いた瞬間に構える四人。
「テメェら誰なんだ、こんな暗がりで俺達を見分けるなんざ凡人には無理さね」
「おっとこれは失礼」
「フッ、名乗りを忘れるとは騎士として減点だった」
「御託はいい!名乗れ!」
「私は…そうだな、
黛と名乗った男は静かに刀を抜いた。見るからに名刀。月の光を反射しながら妖しく光っている。
「儂は………小沢、小沢伊周と申す」
小沢、そう。剣術指南役、小沢伊周。彼は顔を隠していた布を取り払うとアリア達を薄目で見た。
「な、なんですって……」
「け、
「そっちの黛って奴も、何だか怪しいぜシカシ」
劍聖、小沢十一段。剣術を極めた小沢が誰からも畏怖の念を込めて呼ばれる名。こと現代において、剣道十段の段位を持つ者は存在しない。だがこの小沢は十一段と呼ばれる。つまり限界を超えた至高の剣術を会得した人物なのだ。
「さて、あんた達は知りすぎた。この屋敷も、そしてその秘密も」
実は松戸とジェノベーゼが既にこの屋敷を調べていたのだ。その結果、どうやらここの地下で贋金作りが行われていたらしく、道具や材料が放置されていた。
「…あんた、何者だシカシ。黛なんて名前嘘だろシカシ。少なくとも北町には居ねえぜシカシ」
「南町にもそんなのは居ないわ」
「フッ」
「……その口癖…」
「おしゃべりはここまでにしましょうか。……レストインピース、ですよ」
黛が刀を構える、すると小沢も刀を構えた。だがその構えに驚く四人。黛の構えは小沢の構えの対をなすような構えなのである。
「こ、こいつ…」
「小沢は鬼鉄流の達人……それに対をなす構えは…まさか」
「柊……柊流剣術よ、これを扱えるのを私は一人しか知らないわ」
「奇遇だなシカシ、俺様も同じだぜシカシ」
「奇遇も重なると必然ってな、俺も一人だけピーンときたな」
「必然じゃなくて運命だよ、私も柊流を使う人は一人しか知らない」
四人が呼応し共に構える。それを見て目の色を変えた小沢と黛。四対二、数の上では圧倒している。だが相手は劍聖とそれに近い人物。勝率はむしろ低い方だった。
「…参る!」
床を蹴ってジェノベーゼに飛び込んで来たのは小沢。正確に腹を狙った一撃を防いだのも束の間、瞬時に刀を逆手に持って切り払いをかけて来たのだ。それにはジェノベーゼも驚いた。そんな使い方見たことも無かったからだ。更に其所へ黛が小沢の影から瞬時に姿を現し、ジェノベーゼを斬りつける。小沢の一撃すらまともに防ぎきれない所に黛の攻撃は脅威だった。だがこちらは四人。
「能動的衝撃っ!」
ギン!
アリアの全力を込めた一撃が黛の刀を捉える。数秒の鍔迫り合いの最中、後ろを取っていたのは仕事人、ジュリエッタ。
「はぁぁぁぁ!」
「!」
「ちぃッ!」
小沢と黛は力任せにジェノベーゼとアリアをそれぞれ引き剥がすとすぐさま振り向きジュリエッタの攻撃を防御した。だがジュリエッタはニヤリと笑っていた。
「俺様を忘れてるぜシカシ!」
ジュリエッタはその声を聞くなり身を屈めた。その時、小沢と黛の瞳に飛び込んで来たのは二丁の短筒を構えた松戸。
「逝きなシカシ!」
ドン!バン!
この時、四人は勝利を確信していた。どんな人間であろうとこの距離では鉄砲を回避するなど不可能。更に二人は生身。盾等の防具を装備している訳ではないからだ。
だが、その確信は瞬時に打ち砕かれた。壁を超えた強さ。それがこの二人だった。
「ふん!」
「はっ」
二人はその持っている刀で鉄砲の弾を叩き斬ったのである。驚く間もなく、隙だらけの背中にアリアが再び攻撃を仕掛ける。やるなら今しかないと直感的に感じたのだ。
「絶対的落日!」
絶対的落日、相手が背を向けている所を全力の居合で切りつける技。美しい小太刀の鞘からは小さな小さな木片が僅かに飛び散る。
回避はほぼ不可能、そうにらんでいたのだが…。
ギン!
アリアの小太刀、瞬瞳的刹那に衝撃が加わる。それは小沢の持つ刀、神刀弁財天だった。
「フッ、バッドエンド…」
黛の僅かな声の後だった、アリアが音も無く倒れたのは…。
「…あ、アリア……さ…ん…」
それを愕然と見つめているジュリエッタ。声にならない声を何度もあげ、アリアを呼ぶ。だが倒れたアリアは反応しない。更にはその倒れたアリアから血が広がっていく様が見てとれた。
「峰打ちのつもりだったが、打ち所が悪かったか?まぁいい、次はお前だ」
「あ、…あ…………アリ…ア……さ……」
もうジュリエッタの瞳には倒れたアリアしか映っていなかった。だから後ろで小沢がジェノベーゼと松戸を倒す瞬間も分からなかった。二人もまた音も無く倒れ気を失っていた。
「ほれ、残りはお主一人じゃぞ。あっという間に形勢逆転じゃな」
「……わ……わた…」
「フッ、怯えて声も出な」
「私のアリアさんを返せぇぇ!」
刹那の出来事だった。ジュリエッタが黛に飛び掛かり肩を切り裂いたのは。
「ぐぁっ!」
「シルヴィ!大丈夫か!」
「…よくも…私のアリアさんを」
今でも羅刹さ…そんな言葉を言ったジュリエッタ。俺はお前に殺されかけた…ジェノベーゼが言った言葉は嘘ではない。瞳は紅く染まり上がり殺意以外の感情を完全に表に出さない、まさに羅刹。ジュリエッタはアリアに数えきれないほどの恩を受け取っていた。ましてや自身を養子にまでし、たった一人の家族になってくれた。そんなアリアが血を流して倒れている。
「くっ、小娘が、覚悟し」
ゴスッ!
黛の顎を脇差しの峰で殴打する。まるで仕返しかのような行為に小沢は恐怖感を覚えていた。何故ならその一撃で黛(シルヴィ)が倒れたからである。
「おい!シルヴィ、しっかりし」
「人より自分の心配でもしな!」
気付いた時にはジュリエッタが目の前だった。しかし流石は劍聖、その速度に反応し一撃を防いだのだ。だがジュリエッタは二刀流、左手に持った脇差しを小沢の死角から振り上げる。
ヒュン!
その刃は小沢の左目に吸い込まれるように直撃した。
「っく!」
だが、小沢は左目を負傷しながらも、その一瞬でジュリエッタの腕の傷口を抉るように刀を 捌いていたのだ。鍔迫り合いをし、ジュリエッタが左手の脇差しを降り下ろす瞬間、 右手の力が僅かに緩んだ。それを見逃す小沢ではなかった。自身の左目と引き換えにジュリエッタを戦闘不能に陥らせるだけの攻撃を与えたのである。
「うあっ、…アリアさん…ぐぅ」
「引け仕事人、これ以上は無用。そのアリアとやらを助けたければ引け」
左目を押さえながらジュリエッタにそう言う小沢。ジュリエッタは了承したのか脇差しを鞘に戻しアリアに駆け寄った。
「…あの小娘、やりおる」
小沢は自身の腹に痛みを感じ手を宛がうと出血していた。そう、ジュリエッタはわざと力を抜いたのだ。そうして小沢の腹をかっさばく。全てはジュリエッタの手の上で戦闘をしていた事になる。小沢は情けをかけられたのだから。
「この儂に情けとは………手数でも負けていたか…」
小沢は黛…シルヴィに肩を貸し起こした。彼の顎にはアザ。そして肩から胸にかけて裂傷。腕には3つもの斬られた痕があった。
「………悪鬼羅刹…か…。恐ろしい四字熟語じゃな…」
小沢はそう言い残すと気を失ったままのシルヴィを連れて闇へと消えた。
数ヶ月後
あの大立回りの傷もすっかり癒えた四人はいつものようにそれぞれの役目を全うしていた。
「どうしたのジュリエッタ?」
「金平糖が…無くなって…」
「…昨日山ほど買ったアレはどうなったのよ……」
そして再び歯車が動き出す。
「お奉行様!」
「あら、どうしたの?報告にはまだ早いわよ」
「いえ、それが…」
「…金平糖……」
この江戸の街に起きる大きな騒動。
「え?十両入った手提げが盗まれた?」
「十両もあったら沢山金平糖が…」
「…。で、誰の手提げなの?」
「はい、最近越してきたばかりの……」
今度もまたもや波乱の予感!!
「この夜叉の血錆になりな。なに、簡単なことさ」
ジェノベーゼ・アイスラント
「おうおうおうおう!俺様の短筒が火を噴くぜシカシ!!」
松戸士竜
「この椿の花のように、綺麗に首を落としてあげるわ」
アリア・ツバキ
「ほら見てみな、綺麗な地獄が見えるだろう…」
ジュリエッタ・ツバキ
彼らはきっと君たちを待っている。この大きな江戸の町のどこかで…。
完
どうも、柊憂です。
じゅりのおしごとを読んでくださり有り難うございます。最初は色々と不安がありましたが、無事終わらせることが出来ました。本当はもう少しのばす予定だったんですが、のばすとなんだかストーリがおかしくなってしまって…。
次回作ですが、じゅりのおしごと2ではありません。その辺は投稿をお楽しみにということで。
用語等解説
夜叉、短筒・大入道嵐山、瞬瞳的刹那、生殺与奪・活殺自在
それぞれ、ジェノベーゼ、松戸、アリア、ジュリエッタの武器。松戸は当初の予定では槍だった。
お白州
取り調べと裁判を兼ねたようなもの。お奉行がどんなお白州の調べ方をするかはその場になってみないと分からない。つまり、テレビで見る金さんのようなお白州もあったのかもしれない。因みに、お白州で砂利が白いのは公平さと神聖さを表しているのだ。
神刀弁財天
小沢の持つ太刀。神が持っていたと言われる刀で凄まじい切れ味を誇る。この刀の作者は不明である。
黛(シルヴィ)の刀
紫水月(しすいげつ)と呼ばれる銘刀。刀身が僅かに紫色で、水に映る月を斬り裂き、そのまま月が丸に戻らなかったという謂われからその名がついた。この刀の作者は不明である。
バッドエンド
シルヴィ(黛)の得意とする技。本来は相手を気絶させる技ではなく、胴体に凄まじい一撃を加える技である。その名の通り瀕死以上のダメージを相手に与える。
梟首
アリアの必殺技。解説は作中にあり。本当はもっとサディスティックに鋸引き(のこぎりびき)にする予定だった。
絶対的落日、能動的衝撃、流動的風雅
アリアの技。~的と付くのは、小太刀・瞬瞳的刹那を意識しているから?
鬼鉄流、柊流
小沢とシルヴィがそれぞれ極めた剣術の流派。対になっている流派で、この二つの流派を会得した者二人と対峙する場合は最低でも五人は必要、と言われる。
鬼べー
ジェノベーゼの事。元ネタ、鬼平をどうにかして使いたかった為こうなった。
なんですって!?
アリアの口癖。実はアリアという人物像を作る際に一番最初に出来たのがこの口癖である。なんていうか、お嬢様が驚く=なんですって!的な方程式がピーンときた。なん…ですって…。な、なんですって!!等、驚き具合に応じて色々パターンがある。
四字熟語
作中には様々な四字熟語(?)が登場する。連帯責任、玉石混淆、悪鬼羅刹、妖魔夢幻……等々。勿論、ジュリエッタの武器や技の名前とのコラボ。本当はもっと色々四字熟語を使う予定だった。
金平糖
沢山ジュリエッタにもって行けば、もしかしたら仕事を請け負ってくれるかもしれない。子供の時に誰もが食べた小さくて甘く美味しいカラフルな御菓子は、あのセピア色に輝く思い出の中に今も大事に残っている…。
次→次回作に乞うご期待!