むくり、と咲夜の手の中から言葉も無く、起き上がる。
そして。
「絶対にダメえええええええええええええええええええ!!!!!」
蝋燭の灯りに照らされた薄暗い地下に姉…………レミリア・スカーレットの絶叫が轟く。
ビリビリと反響する音にその場にいた全員が耳を塞ぐ。
「お姉様、もうちょっと静かにしてよ」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!!」
自身、フランドール・スカーレットが顔を顰めながら自制を促す声も、レミリアの興奮を増長させるだけの結果となる。
「だいたいフランが結婚なんて早すぎるわ!!」
指を突きつけてそう一方的に言い放つ姉の姿に、だんだんとだが自身も抑えが効かなくなってくる。
だいたい姉はいつもそうやって一方的に自身に指図するが、自分こそどうなのだ…………。
そう思ったらもう自制なんて言葉は吹き飛んだ。
「煩いよ! だいたいそういうお姉様はどうなの?! 人のこと言えるほど立派でもないくせに!」
「なんですってぇぇぇぇぇ!!! 妹の癖に生意気な!!」
「そっちこそ、姉だからって一方的に命令できるなんて思わないでよ!!!」
互いに抑えていた魔力を解き放つ。館が軋み、地下がぐらぐらと崩れかけているが、どうでも…………。
と、その時。
「はいストップ」
その時、背後から抱きかかえられる感触。ヒートアップしていて気づかなかったが、いつの間にか後ろにいた自身の契約者の少年。
抱きかかえられたことには一瞬驚いた…………が、何だか暖かくて、どうしてだかそれを振りほどく気にはなれず、私はされるがままになっていた。
「ストップよ」
そして同時に姉もその友人によって待ったをかけられていた。
「…………ぱ、ぱちぇ…………なんで私だけ…………こんな方法…………」
丸焼きにされて。あれはパチュリーのスペルカード、ロイヤルフレア。日属性の炎と言う私たちの天敵のような技だがさすがに加減してあるらしく、全身黒こげだが生きているようだった。
ふと部屋の入り口で待機した咲夜の視線が私の後ろに向いていることに気づく。
そして、自分の今の状況を思い出し、それを他人に見られていることが酷く気恥ずかしく感じ…………。
「は、放して」
思わず自身を抱える少年の手を振りほどこうともがく。
「もう暴れない?」
吸血鬼たる自身の全力で振りほどけば脆弱な人たる少年などあっさりと壊れてしまう。
そう考えたら、思ったように力が出せず振りほどけない。
加減と言うものをしたことが無いだけに、少年の拘束を振りほどく程度の力、と言うものが分からないのだ。
どの程度の力を出したものか困惑しながら足掻く私に、少年が耳元でそっとそう呟く。
「…………うん、分かった。大人しくするから」
抵抗を止め、頷くと少年がその拘束を解く。
気づけばパチュリーや美鈴までこちらを見ていて…………恥ずかしさのあまりに頬が熱い。きっと今私の顔は真っ赤なのだろう。
普段なら恥ずかしさのあまり全力で暴れて有耶無耶にしてしまうような…………そんな状況。
なのにどうしてだろう…………今日だけは、どうしてもそんな気にならず。
「…………うー」
すごすごと自身のベッドに潜り込み、布団を被って視線を遮る。
「うー…………」
姉じゃないが、変な声はしばらく止まりそうになかった。
「…………誰?」
いや、苦笑いしている人間の少年もそうだが、あの布団の塊の主…………あれは一体誰だろう?
パチュリー・ノーレッジの知るフランドール・スカーレットは一言で言えば狂気の塊だ。
別の言い方をすれば、導火線の分からない爆弾だった。
一体どういう精神構造をしているのか…………いつ何時、何が切欠で狂気に陥るとも分からない。
一度狂気に陥れば災害のように暴れ狂う。
唯一の救いは、積極的に他者と交流しようとしないことだろうか。
フランドールが500年近い年月、地下にいたのは姉であるレミリアが閉じ込めていたこともあるが、フランドール自身が閉じこもっていた部分もある。
感情が不安定で一度傾けばどこまで一つの感情に転がっていく。その癖、ほとんどの感情が怒りに直結しやすく、破壊することに悦楽を覚える。
いや、正確には怒り以外の感情をほとんど知らないのだろう。
妖怪とは不変の存在だ。
何故ならその存在は人間に【定義付け】されてしまっている。
だが妖怪だって停滞する存在ではない。本質が変わらないだけで、表面的にはいくらかの成長も見せる。
つまるところフランドールがあそこまで不安定なのは他者との交流が極端に少ないからだろう。
人は…………妖もだが、自身以外の相手と出合った時、いくつかの選択肢が突きつけられる。
そこから相手との友好に応じて選択肢を選ぶことになる。
だが、その選択肢は全て対人関係によって増やしていくものだ。
けれどもフランドールはその対人関係が壊滅的だ。
だからフランドールは他者と出合った時、選択肢が非常に少なく、基本的に二つしかない。
会話するか、攻撃するか…………その二択だ。
フランドールにとって不幸だったのは、彼女自身が吸血鬼と言う最強クラスの存在だったことだろう。
興味が無ければ攻撃、興味を覚えて会話しても興味が尽きれば攻撃。
そうして牙を向いた彼女から生き延びれる存在と言うのがあまりにも少ない。
出会う人間、妖怪を合う端から殺していっては対人関係など望めるはずもない。
そうして心が未成熟のまま館の地下へと閉じ込められ…………それっきりだ、だったはずだ。
だとすれば、これはどういうことだろうか?
一度感情が昂ぶったフランドールがあれほど容易くその矛を収めるなど。
あまつさえ、羞恥心を覚え、他者から逃げるなど。
それらの選択肢は、確実に今までのフランドールには無かったはずのものだ。
視線を向ける。その先にはフランドールの契約者である少年の姿。
平凡だ。特筆するような特別性はなんら感じ取ることはできない。
フランドールはおろか、自分ですらその気になれば…………いや、無意識的に殺してしまうかもしれない程度の脆い典型的な人間。あの巫女や泥棒とは違う。勿論、うちのメイドとも。
だと言うのに、その平凡なはずの人間は、自分たちには到底不可能なことをこともなげにやってしまった。
「……………………面白いわね」
そう思ってしまうのは、研究者肌の自身の性格からだからだろうか。
変わるかもしれない…………フランドールは。
正直言って、それ自体はどうでもいいが。
フランドールが暴れることが無くなれば自身の負担も減るだろうし…………何より。
人間が妖怪を変える…………それは、とても興味深い。
だから総評してのこの一言だ。
「本当に…………面白いわ」
結婚とは何だろう?
少年、タカヤは考える
結婚、人生の伴侶と生涯を共にすること。男女が夫婦になること
辞書に載っている意味などが最初に頭に浮かぶが、きっとそんなものは結婚の表面的なものだろう。
好きあっているから付き合う、交際する。
そして愛し合っていたから結婚する。
では、恋人と夫婦の違いは何だろう?
それは結婚したかどうかとか、そんな子供騙しみたいな話ではなく。
同居した恋人は、夫婦と何か違うのだろうか?
別居している夫婦は、恋人と何か違うのだろうか?
実情的に言えば同じようなものなのかもしれない。
けれどそれは確かに違うものだと思う。
そう、そこに違いは存在するのだ。
結婚したか、否か。その違いによって、差異が生まれる。
ではその差異を有無結婚とは何なのだろう。
タカヤは考える。
結婚とは契りであると。
契約である。
盟約である
約束である。
血の繋がらない他人同士の縁を繋げる契り。
契りにて繋がれた者は一つの輪となり、夫婦となり、家族となる。
1+1を1にする魔法の公式。
それが結婚なのだと、タカヤは思っている。
フランドール・スカーレットは戸惑っていた。
突然現れ、自身と契約した目の前の少年に…………
先ほどから暴れ狂い、一向に収まる気配を見せない自身の感情に、だ。
いつもなら何かに当り散らして、壊して、壊して、壊して、部屋中のものを壊しつくして衝動を解消するのだが、どういうわけか今はそんな気持ちに全くなれない。
同じ部屋に彼がいる、とそう考えただけで顔に血液が集まり、紅潮した頬が熱を帯びる。
ちらっ、と視線を向けると、こちらを見ていた彼と視線がばっりと合い…………。
サッ、とすぐ様反らす。これ以上視線を合わせていたら心臓が爆発してしまいそうで。
「うー…………」
思わず姉のような声を漏らしながら、じたばたとベッドの上で暴れる。
ばふん、ばふん、と綺麗に整えられたベッドが音を立てる。
完全に、心を奪われていた。
さっき会ったばかりの少年に。
たった一言で。
“結婚してください”
それは契約だ。
彼が提起し、自身が了承した時点で、結ばれた人と悪魔の契約。
悪魔は契約に従順である。悪魔は約束を破らない。そう言う概念を持った生物だから。
けれど困るのは。
この感情が、契約によるものとは別のところから来ていること。
つまるところ。
フランドール・スカーレットもまた、少年、タカヤに恋してしまったと言う事実である。
偶には最初からお互い恋しててもいいじゃん?
昔本屋ちゃん書いてて「一目惚れとかあるわけねえじゃん」とか言ってたけど、弥生に一目惚れしてからそう言うの止めたんで(
と言うわけで、ひたすらデレ99%(嫉妬1%)の妹様を書こうと思う。