例えばこんな結婚生活(仮)   作:水代

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さらに続きの話

 

 フランドール。

 それが愛しの彼女の名前らしい。

 自分の名前を名乗ることも、相手の名前を知ることも無く、本当にいきなりプロポーズしてしまったので、目の前の少女の名前すら知らないことに、今頃になってようやく気づいた。

 天使だ。一目見た瞬間、そう思った。

 だから天使ちゃんと呼んだのだが、ようやく緊張が解けてきたのか、苦笑しながら名前を教えてくれた。

 

 本名はフランドール・スカーレット。名前まで素敵だ、と言うと、視線を反らしながら、ありがと、と返してくるそんな彼女に抱きつく。いや、もう我慢とかできなかったから。反則的に可愛い。

 びっくりした彼女が硬直し、その直後自身を突き飛ばすと凄まじい勢いで部屋の端まで転がされた。

 

「あ…………」

 

 顔を蒼くして、すぐさま駆け寄ってくる彼女、軋む体をそれでも無理矢理起こし…………けれど下半身が動かない。どうやらしこたま痛めたらしい。

「大丈夫っ?!」

「あーうん、大丈夫大丈夫、だからちょっと待ってね」

 そんな自身の言葉に、彼女が泣きそうな表情で自身の腰を摩ってくれる。

「ありがと、楽になるよ」

 素直に感謝の言葉を述べる、だが彼女の表情は暗い。

 口も閉ざしてしまい、陰鬱な空気が部屋に満ち始めるのでそうはさせまいと口を開く。

「それにしても、凄い力だねえ…………天使ちゃんって鍛えてるの?」

「…………フランだよ」

 天使ちゃん、と言う言い方は好きでは無いらしい。それでも声を出させることには成功したので良しとする。

「驚かしちゃってごめんねー」

 そう言って茶化すように謝ると、すぐさま彼女が口を開く。

「こっちこそ、ごめんなさい…………その…………えっと…………」

 なんて言えばいいのか、分からない。様子からして、きっとそんな感じ。

 どうやら彼女、対人経験があまり無いらしい、軽度のコミュニケーション障害が見られる。

 ただそれでも俺に対して、精一杯会話をしようとして、しどろもどろになってしまうところなど、ひどい話ではあるが、凄く可愛い。そして愛おしい。思わず抱きしめたくなるほどに。

 けれど、それだと先ほどと同じことの繰り返しになるので、もう少しソフトにタッチしていくことにする。

「大丈夫だよ、だからそんな顔しないで」

 精一杯の笑みを浮かべ、そうして目の前の彼女の髪を梳いていく。

 うん、やっぱり柔らかい。それにサラサラしててとても綺麗だ。

 癖になりそうな感覚に、思わず髪を梳く手に感覚が集中するが、どうやら少しくすぐったかったらしい彼女が身を捩る。

 少しだけ二人の距離が離れる。

 その分だけ、お互いが良く見えて、だから少し冷静になれる。

「大丈夫?」

 もう一度、彼女が尋ねる、だから。

「うん、もう大丈夫だよ」

 そう言って立ち上がる。

 

 それから。

 

「ねえ、抱きしめて良い?」

 

 そう呟くと。

 

「ふぇっ? え、あ、えっと…………あの………………………………うん」

 

 しばしの葛藤、けれどやがて頷く。

 そんな彼女を驚かせないようにゆっくり、まずは頭を撫でていく。

 優しく優しく、その柔らかな髪を梳きながら、やがてその手を頬へ当てる。

 指先で頬を揉むように動かすとくすぐったいのか彼女が肩を上げて首元を隠す。

 そして、そのまま手を肩へと降ろし、そうして。

 

「ん…………ぎゅーってしていい?」

「うん…………良いよ」

 

 ぎゅっと抱きしめる。

 少しでも力を込めれば折れてしまいそうな華奢な体は、けれど確かな体温を自身へと伝えてくる。

 けれどそれは彼女にも同じだったようで…………。

 

「…………あったかい」

 

 やがて、彼女の手が伸びてくる。

 そうして、彼女の手が自身の背中に回されて。

 

 ぎゅっと力が込められる。

 

 先ほどとは違う、力強いのに、けれど優しい。

 

「…………暖かいねフラン」

「うん…………あなたも暖かいよ」

 

 ぐっと自身の胸元に顔を押し付けてきているので、彼女のその表情は分からない。

 

 ――――けれど。

 

「タカヤ…………みんなそう呼ぶから、だからフランもそう呼んで」

「…………うん、分かった。タカヤ」

 

 ――――きっと。

 

「ねえ…………本当に私でいいの?」

「…………うん、勢いもあったと思う。けど、俺は」

 

 ――――俺と同じ。

 

「好きだよ、愛してる、一目惚れなんてあるわけないと思ってたけど、正真正銘、一目惚れだ。けどね、衝動的じゃない、計画的でもない、ただ一目見た瞬間キミが好きなんだと理解した。キミじゃないとダメなんだって直感した。キミだけなんだって思った。だからお願いします、キミが好きです、キミを愛しています、キミがいないと俺はもう生きていけません、結婚してください、俺と生きてください」

 

 

 

 好きと言われた瞬間、顔が紅潮した。

 愛してると言われた瞬間、心臓が高鳴った。

 結婚してくださいと言われた瞬間、頭がくらくらした。

 

 フランドール・スカーレットの歴史の中に、ここまで直球の好意を示されたことは無い。

 だからこんなにも、顔が赤くなるのだろうか。

 フランドール・スカーレットの交友関係の中で、ここまで友好的に接せられたことは無い。

 だからこんなにも、心臓が強く鼓動を打つのだろうか。

 

 それは違うだろう、と自身でも理解する。

 

 一体何が理由なのだろう、と考える理性は、けれどそこに理由を求めない本能が塗りつぶしていく。

 

 ただこの暖かさを手放したくないと思った。

 

 だから、二度目のプロポーズに、彼女は。

 

「私は、好きなんて気持ち分からない、愛しているなんて気持ち分からない。それでもキミが好きだよ、キミを愛してる。だから結婚してください。私と結婚してください、私はキミがいないと嫌だし、キミが居てくれるなら何だってするから。だからお願いします、私と結婚してください、私と生きてください」

 

 彼の言葉に、笑顔で答えた。

 

 

 

 

「どうするつもり?」

 不機嫌そうな表情を浮かべ、ティーカップを持つ親友に対してそんなことを尋ねる。

「どう、って?」

 親友が短く返す。相当に不機嫌なことがその声音だけで理解できる。

「そうね、まず前提として、レミィ、あなた妹様の結婚には反対なのね?」

「…………………………」

 そうして問うた前提条件と自身で予想していたその問いに、意外にも返って来たのは沈黙だった。

 どういうことだろう、とパチュリー・ノーレッジは思案する。

 この親友の考えが良く分からない。てっきり即座に、反対に決まってるじゃない! とでも言い出すのだと思っていただけに、この不機嫌顔で押し黙ると言う反応は予想外も良いところであった。

 返ってこない返答に、さてどうしたものかと考え。そうして視線をふと反らしてみればそこには親友の最も信頼するメイドの姿。

 メイドに視線で尋ねてみるが、けれど返って来たのは首を横に振ると言う答え。

「…………………………そうね」

 そうして、もう一度話を切り出そうかと思っていた矢先、親友が口を開く。

「賛成か、反対か、そう言われれば…………反対ね」

「その割に、随分と悩んでみたいだけど?」

「………………咲夜、紅茶のお代わりを頂戴。ただし、ゆっくり十分ほど時間をかけて戻ってきなさい」

 自身の問いに、視線を横に居るメイドへと向けた親友がそう告げると、メイドがかしこまりました、と告げてその場から消え去る。時間停止を使ったのだろうと予想する。

 そうしてテラスに自身と親友、二人だけが残される。だが未だに親友の口は閉ざされたままだ。

 カップに入った紅茶が全て親友の喉へと流し込まれる。

 と、その時になってようやく親友がその重い口を開く。

「あの人間、ただの人間だったわね」

「そうね、私が見た限り正真正銘ただの人間だったわ。巫女や魔法使い、咲夜とも違う、本当にただの一般人」

「けどフランは吸血鬼よ」

「そんなこと今更言われなくても知ってるわよ」

 親友が何を言いたいのか、分かりかねる。妹様ほどでは無いにしても、自身とてそれほど会話が得意と言うわけでは無いのだから。

「吸血鬼に寿命なんて概念は無いわ、私たちは血さえ得られるのなら半永久的に生きる」

 吸血鬼。この妖怪の箱庭たる幻想郷でも屈指の列強種族。生まれながらの強者。

 それが自身の親友、レミリア・スカーレットの生まれであり、その妹であるフランドール・スカーレットの種族である。

 吸血鬼は日の光を苦手としている、銀も苦手だし、流れる水も渡れない、弱点の多い種族だ。

 だがその強さは幻想郷でもトップクラスに数えられる。特に、夜になると一層その強さを増す。

 まあそんなことは置いておいて。

「それで?」

「あの人間がフランに良い影響を与えているのは、先ほどの会話で分かったわ」

 先ほどの会話、あの暴走しかけていた妹様を一瞬で止めたあの少年。これまで幾度か妹様の癇癪に付き合い、それを鎮めてきただけに、たったあの程度のことで、あんなにもあっさりと止めてしまったあの少年は印象深い。

 確かに良い影響を与えてきている。これまでに無かった妹様の大人しい反応、これからも少しずつあの少年を通して成長していくのならば確実に彼女は変わっていくだろう。それは興味深い。

「でもね…………あの人間は、どうあってもフランより先に死ぬわ。人間だもの、たった百年も生きられないようなヒトと永遠を生き続ける吸血鬼。どうあってもつりあっているわけが無いわ、そもそも生きている時間が違う」

 だったら、と親友が続ける。

「これからあの人間を大事に思うほどに、フランは将来苦しむことになる。そんなことになるくらいだったら、最初から切り離したほうがいいと思うのは道理ではないかしら?」

「…………レミィにしてはまともな理由ね」

「誰が私にしては、よ」

 ジト目でこちらを見ながら、空になった紅茶のカップを揺らす。

 そんな親友の視線を流しながら、さらに話を続ける。

 

「それで、そんなレミィの思いを踏まえた上で」

 

 カップを弄ぶ手の動きを完全に止めた親友がこちらを向く。

 

 そうして自身もまた親友のほうを向き。

 

「…………それで、どうするの?」

 

 そう尋ねた。

 

 




選択には責任が付きまとう。
権利には義務もまた付きまとう。
選ぶことには覚悟が必要だ。その結果を自身で負う覚悟が。
それが例え、どんな結末であろうと。


というわけで三話です。
ろくぞーのやつが推薦で無駄にハードル上げるから、妹様と主人公のシーンが凄いふわふわしてる。
書いてて自分で死にたくなるくらい恥ずかしい。
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