どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と伊勢

「ほんとにごめんね提督! まさか提督が空中に現われるなんて全然思わなかったから~!」

「だからって昼間から花火する奴がいるかぁっ!」

 

 泊地内にある運動スペース。まあ、公園的なところで俺は謝ってくる伊勢型一番艦、航空戦艦の伊勢に向かって言ってやった。

 全く、てっきり伊勢の砲弾を食らったと思ったから身体が粉々になったと思ったぜ。主砲の音が聞こえてなかったのは恐らく俺が考えごとしていたせいかも知れんな。落下した地面もコンクリートだったのにダメージが少なかったのはラッキーだった。

 

「見ろ! 俺の提督服がお前の花火の直撃を受けて焦げたぞ! どうしてくれる!」

「焦げるだけで済んでる提督って一体……じゃなくて本当にごめんなさい! すごく反省しております!」

「全く…………まあ今回は許してやろう。次は無いぞ!」

「は、はいっ!」

 

 伊勢はビシッと敬礼する。ふっ、やはり提督っぽいぞ俺は。もう一回言ってやりたいが我慢だ、一度しか言わないから格好いいのだこういうのは。

 

「ところで、どうして提督は吹き飛ばされてたんですか?」

 

 ぎくぅっ!

 

 い、痛いところをつくじゃないか伊勢め。名取のおっぱい揉ませろと言ったから五十鈴に撃たれたなどとは言えない、謝ったの前言撤回とか言われかねん。

 

「……あれだ、名取と五十鈴が俺を恋の争奪戦として取り合った末に、二人を庇った結果吹き飛ばされてしまったんだ」

「はっは~、わかったよ提督、スケベなこと言ったんでしょ。はー、もうウチの提督はほんともー、ドスケベなんですから~」

「か、勝手なことを言うな伊勢! 俺がスケベだと!? それはまさにその通りだが、自分からエロスなことを言うと思っているのか!」

「うん、割と言うと思ってますよ」

 

 ニシシ、と笑いながら返事する伊勢。あっさりと見抜いて来るとは……! 伊勢め、侮れん。

 

「……ふっ、やるじゃないか伊勢。流石は航空戦艦、新時代の担い手だ」

「いえ、こんなことで航空戦艦の名を担ぎ上げられるの嫌なんですけど……」

「お前は謙虚な奴だな、このトルネードブレイカー提督の深層心理を読み取ったんだ、光栄に思っていいんだぞ」

「いえいえ、提督わかりやすいのであまり光栄じゃないです」

「俺がわかりやすい!?」

 

 な、なんだ、なんなんだこいつは……! ポーカーフェイス提督として名を馳せようとしていた俺を分かりやすい!? 伊勢め、毎回毎回扶桑に目の敵にされてる理由がわからなかったが成程、これは扶桑も恐れる脅威的な目利きだ……!

 まさか、味方にコレほどの人材がいるとは……凄いぞ、航空戦艦。やはり瑞雲は最強だった。

 

「うわぁ、提督なんか私に対してすっごい誤解してますよね今」

「ああ、誤解していた。お前の力量をな――今後、お前の力を更にアテにさせてもらう日が来るだろう。期待しているぞ伊勢」

「提督のエロいこと見抜いただけでそこまで評価されるってなんか嫌ですよ!?」

 

 もー、と言って何故だか呆れた顔をする伊勢。こうまで褒めているのに何が気に食わないのやら、たまに分からん時がある。

 

「それで、どうしてお前は花火なんて主砲に詰めて撃ったんだ? まさか暇潰し、なんて言わないだろう」

「それですか……。実は、深い訳があるんですよ提督……」

 

 むっ、なんだ、急に悲壮感溢れる顔になっただと……? これは、まさか何か重要な理由があるのか……?

 

「何か理由があるのか、伊勢」

「ええ……。最近、なんか花火見てないじゃないですか。私がそう思っていると、駆逐艦の子達も花火を見たいって言ってたんです。それを聞いたらもう撃つしかない、撃たないといけないって、赤の一航戦の人みたいに頭の中で誰かが囁いたんです」

「ああ、アレか……俺もよく囁いてくるんだよな、頭の中で」

 

 よく囁いて来るんだよなあれ、陸奥を見るたびにあのおっぱいを掴もうぜって。でもだ、揉む代わりに長門型の主砲食らうのはヤバイだろって言う理性で何とか押さえつけてるんだけどな。

 

「提督もですか? 私もよく囁いてきますよ、日向の目を掻い潜って間宮アイスもらおう! とか、赤城が食べてる時に1ボーキサイト分掠め取ってみよう! とかそれはもう色々と魔の言葉を囁いて来ますからね、たまに押さえられない時があるんで困るんですよねー」

「ああ、確かにな。あの魔の声は怖いもんだ、意に反することをさせようとしてくるからなー」

「本当ですよねー。いやー、なのに私が怒られるんですから理不尽ですよねー」

「ほんとになー、俺の意志じゃないってのに撃たれるんだから全く困ったもんだ」

 

 ハッハッハっと二人して笑ってしまう。……そろそろこの話題は切り上げないとな。

 

「さて、冗談はこれぐらいにしないと赤城に撃たれかねんからここまでにしよう。俺の数々の経験がそう告げている」

「そ、そうですね。提督のその辺りの直感はよく当たる気がしますし」

 

 褒められてるのか褒められてるのかわからんことを言ってくれるな。とりあえず褒められていると言うことにしよう。

 

「まあつまり、声云々を度外視すると――お前、暇潰しで撃ったな」

「いえいえ! 違います! 私は駆逐艦のみんなの声を聞いて試し撃ちしたので、正確には花火はまだ撃ってませんよ!」

「あ、ああ、そうか悪かったな――ってやっぱ撃っただろお前! 試射とはいえ花火撃ったって言っただろお前!」

「あ、あれー? やるじゃないですか提督、意外に気付くもんですねー」

 

 苦笑いしつつ、意外そうな声をあげる伊勢。なんで意外そうなんだよ! 当たり前に気付くわ!

 

「そりゃ気付くに決まってるだろ! どれだけ俺をアホと思っているんだ、エリート中のエリートの俺が気付かないはずないだろう!」

「そんなことばかり言うから気付かないと思ったんだけどね……」

 

 どういう意味だろうかさっぱりわからんことを言う伊勢。なんだ、これは伊勢の話術の一つなのか? 油断できん。

 

「全く、今後は夜撃てよ夜。昼間は俺が空に吹っ飛ばされる可能性があるから禁止だ禁止!」

「はい……。って、何ですかその怒り方! 夜なら撃っていいんですか!? というか昼間撃っちゃいけない理由が酷くないですか!?」

「全く酷くない、死活問題だ。俺は昼間、いかに格納庫やら胸部装甲を触ろうか考え実行に移し、失敗した結果空を舞ってしまう可能性がある。だから駄目だ」

「こんな理由で禁止されるって相当腑に落ちないんですけど!」

「何言ってるんだ、普通の鎮守府でも当然禁止と決まってることに対して不満を持っているのか?」

「いや、そうですけど……そうなんですけど、理由が全然違うって言いますか」

 

 俺の命がかかっているのに何故そんなに複雑そうな顔をするのやら。通常の鎮守府よりも大事な理由だろう、全く。

 

「ま、まあいいですよ、もうそれで。じゃあ夜撃っていい理由はなんですか? 撃とうとしてた私が言うのもなんですけど、うるさくないですか?」

「花火は夜見た方が映えるだろ?」

「……え?」

「なんだ、それも不満か?」

「い、いえ、確かにそれはそうですけど……」

「それに、川内がうるさいから何一つ問題ない。むしろ花火とアイツ、どっちがうるさいかも見ものだ。駆逐艦の連中も喜ぶかもしれんし、たまには良いだろ」

「…………無茶苦茶ですね、提督」

 

 声のトーンを押さえるように伊勢は言う。はっ、まさか今俺は失言を発して――!

 

「――でも、いいですね!」

 

 弁解をしようとすると、伊勢は急に楽しそうな笑みを見せてそう言った。

 

「ふふっ、なんか提督って本当に意味不明ですよね。理由が色々ごちゃごちゃ過ぎますよ!」

「ま、まあこれでも俺はミステリアスエックス提督と言われているからな、あらゆる理論を持って話を展開する能力があるからな」

「なんですかそれ、意味わからないですって」

 

 笑みを見せつつ話す伊勢。いきなり嬉しそうに話すお前も中々わからんが。まあ、楽しそうならそれで構わんか。

 

「よし、それじゃあ今日の夜やりますよ! 知りませんからねっ!」

「ああ、俺が許す! 存分にやっちまえ!」

「任せてくださいって、伊勢型一番艦、伊勢が全力で花火撃ちますからねっ!」

 

 そう言って、俺達は比叡の如く右手を出してグッと握った。

 

***

 

 そして、夜。

 俺は伊勢と吹雪を連れて海岸沿いに来ていた。伊勢はなんだか大きな風呂敷を、持っているが恐らくはアレだろう。

 

《やっせんー! やっせんー! やっせーんーっ! 夜戦の良さはもうやっせーん!》

 

 川内が訳わからない歌のようなものを寮の方で歌っている。その大音量たるや、夜戦したいという意志をヒシヒシと感じるほどだ。

 

「うーん、本当にうるさいね川内。こっちまで声が聞こえてるよ」

「だろ、まあ夜中には騒がない分マシだ。神通もいるし、そこまで長く騒ぎはしないさ。――まあ、今回は騒いでもらってるうちにやらなきゃいけないからな」

「そうですね、ふっふっふ」

「くっくっく」

「お、お二人とも何を企んでるんですか?」

 

 悪い顔をする俺達に、吹雪は不安そうに聞いてくる。そう、今回吹雪には何も言わずに連れてきたのだ。無論、他の艦娘達にも何も言っていない。

 何故なら、驚かせた方が楽しそうだからなっ!

 

「よーし、伊勢、準備はもう出来ているな?」

「ええ、艤装もつけてますし、準備は万端です!」

「何をするつもりなんですか、伊勢さん?」

「ふっふー、まあ見ていなよ吹雪。面白いの見せてあげるからさ!」

 

 伊勢は吹雪にそう言うと、風呂敷を置いた後に俺達から少し距離を取る。

 そして、砲門を海の方へ向ける。そして、ゆっくりと空へ角度をあげる。

 

「よーしっ! 主砲! 四基八門! 一斉射ーっ!」

 

 伊勢が大きな声をあげて主砲を発射し、風を切り裂くような轟音が響き渡る。そして――

 

 

 色とりどりの大量の花火が、夜空に広がった。

 

 

「……おぉっ」

 

 その光景を見て、俺は思わず声を漏らした。

 空に広がった花火は見事までに花印を作っている。伊勢の奴、こんな出来のいいのを一体どこで見つけて来たんだかな。

 

「わぁー……!」

 

 吹雪もそれを見て、喜んだ顔をしている。

 

「どうですか提督、見事なものだと思いませんか?」

 

 こっちに戻ってきた伊勢は、どんなもんかと言う顔をしている。

 

「ああ、見事すぎるぜ伊勢。ナイスだ!」

 

 俺がサムズアップで手を突き出すと、伊勢は笑顔で返してきた。

 

「すごい、すごいですよ司令官! 伊勢さんっ! こんな綺麗な花火、見れるなんて思いませんでしたよ!」

 

 そして目をキラキラさせて感想を告げてくる吹雪。その姿は年頃の女の子が喜ぶそれと大差が無く、なんか俺も嬉しくなってくる。ほんとお手柄だぜ伊勢。

 

「ふふん、こんなもので納得されちゃ困るよ吹雪。まだまだ、花火はあるからねっ!」

 

 伊勢は風呂敷から大量の花火玉を出す。やっぱり中身は花火だったか。

 

「よーしっ! ガンガン撃てぇっ! 撃って撃って撃ちまくっていいぞ伊勢ぇっ!」

「了解です提督! もうガンガン撃っちゃいますよーっ!」

 

 気分も上々っ! 寮にいる連中が全員見れるぐらいに撃ちまく――!

 

 

 ウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーー!!!

 

 

 ……けたたましい音が鳴り響く。この音は知っているぞ、アレだ、サイレンだ。警報だ。

 

《第一戦闘配備っ! 敵戦艦が攻め込んだ可能性アリ! 各員、警戒せよっ!》

《迎撃準備! 各艦急げーっ!!》

 

 スピーカーから緊急発令的な声が聞こえて来る。……なんか嫌な予感がやばいぞ。

 海の近くにいる俺達から、深海棲艦は見えない。俺は伊勢や吹雪に目を配るも、二人は手を横に振る。やはり深海棲艦なんて来ちゃいないはずだ。

 

 つまり、この警報は――。

 

「……提督、確か俺が許す、って言ってくれましたよね」

「……ああ。だが、責任を取るとは言っていない」

「ええっ!? なんですかそれっ! 良いんですか! 提督が嘘ついていいんですかぁ!」

「ば、バカっ! 嘘はついていない! お前、これを俺がやれなんて言ったとバレたら加賀や陸奥に俺が殺される! 最近俺、無茶苦茶しすぎてやばいんだぞ!?」

「自業自得じゃないですかぁ! あたしだって、バレたら日向に説教食らっちゃいますよ!」

「いいだろ説教ぐらい! 俺は命がかかってるんだぞ!」

「提督死なないじゃないですか!」

「バカっ! 死ぬに決まってるだろ!」

 

 一体俺をどこのミュータントだと思ってるんだ! 生身の人間なのに死ねるに決まってるだろ!

 ぐおおおっ、驚かそうと隠していたのが仇になったぁ! ヤバイ、どうやって切り抜ける。実は愛の演出だったのさとか言ってみるか、だがこれで俺争奪戦と言う修羅場にむしろなってしまうのではないか……! どうする……!

 

「あ、あの、伊勢さん、司令官」

「なんだ吹雪、今俺達は死活問題をくぐり抜ける為の会議を――」

「三人とももう来てますよ……」

 

 ……え。

 その言葉を聞いて、表情が固まった。

 

「あらあら、まーた提督ですか……?」

「呆れ果てますね、懲りないとはまさに提督のことです」

「やれやれ、困ったものだな」

 

 ……い、いつの間に来てたんですかお三方。それも何でピンポイントで陸奥、加賀、日向という戦闘能力高いトリオがこんな早く現われてるんだよ。日頃の訓練の賜物か? いや、もう流石だお前達。

 ……俺はコホン、と咳払いをする。やるしかない、俺の演技力を見せ付ける時よ!

 

「…………ふっ、俺は嬉しいよ、僅かなことですら危険と思いすぐに駆けつけるお前達の警戒の高さに俺は感服した。なあ伊勢」

「そうですね、提督が行った緊急の訓練にもすぐ対応する。日向は流石だよねー」

「……うん、気は済んだか二人とも」

 

 ひ、日向の声がいつもより冷たい。……だ、駄目だ。俺と伊勢の息のあった演技も通用しない……!

 俺と伊勢は目を合わせる。そうか、やはりお前もその考えか。

 

「司令官、素直に言えば陸奥さん達もわかって――」

「……吹雪! なんか急に俺は走りたくなったから後は任せたぞぉ!」

「あたしも瑞雲取ってこないといけないからちょっと行って来ますっ!」

「えええええぇぇっ!?」

 

 俺と伊勢は脱兎の如く駆けた。既に伊勢は艤装を解除していた。抜け目がない奴だ。

 今の俺達なら逃げ切れる。――確実に!

 

 

 

 ――1分後、加賀の爆撃機の直撃を受けた俺達は捕まり説教された。

 

 

 

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