「先攻、ですね……」
先攻を取ったのは長良チーム。三日月がコートの真ん中でボールを足で押し付けている。
「長良さん、お願いします」
三日月はそう言ってまずは長良にパスを――って、なにぃ!?
長良はボールを受け取ってすぐにこちらへ突っ込んでくる。正気か!? 前方にはこの俺と深雪、吹雪の三人が前方にいると言うのに!
「うはははははっ! 迂闊、迂闊だぜぇ長良ぁ! 深雪、吹雪! フォーメーションで一気に取るぞ!」
「何のフォーメーションですか!?」
「よぉーしっ! 深雪様に任せろー!」
そう言って先陣を切る深雪。ちなみに深雪と吹雪は艤装を装備していない。主砲だけつければいいとはいえ、重いことには変わりない。向こうの白露、長良、三日月もそれは同様に感じていたらしいな。
「ボール貰いますよ長良せんぱ――って、ありゃ?」
だが、突っ込んだ深雪をあっさりと抜き去る長良。だが抜いた先には吹雪がいる、そしてボールはもらっ――
「遅い――全然、遅いっ!」
「えっ!?」
えない!? 吹雪すらあっさりと抜くだと!? くっ、だがその後ろには俺がいるのだ!
「長良、覚悟ぉ!」
俺のスライディングがボール奪還のため、唸るぜぇ!
「よっ、と!」
――避けられたぁっ!? 障害物躱す程度の動きで!?
「惜しかったですね司令官! 長良の足を舐めないでくださ――って、ひゃあっ!」
前方から現われた艦載機の攻撃が長良の顔に当たり、粉塵が軽く発生する。その隙に、弓を持った瑞鶴がボールを掻っ攫う!
「もー、三人ともあっさりと抜かれすぎよ!」
「うはぁ! 瑞鶴先輩さすがっす!」
深雪が賞賛の声をあげる。
「よっしゃあ! よくやった瑞鶴! 後で格納庫まさぐってやる!」
「ほんと!? じゃあ私も提督さんに後で爆撃機飛ばして執務室ごとぶっ壊してあげる!」
「そうか! なら勘弁してやるぜ!」
勘弁して欲しいのは俺だと言うことは内緒だ。
「はい! 吹雪っちパス!」
「ふ、吹雪っち!?」
まさかの呼ばれ方にあたふたしつつも吹雪は瑞鶴からボールを受け取り、ドリブルしながら走る吹雪。おお、中々いい感じだな。俺ほどではないが。
俺と深雪も吹雪に続いて走る。そして、真ん中の枠線を抜け、三日月と足柄が立ちはだかる。
「深雪ちゃんパス!」
「おう!」
三日月がボールを取ろうとした際に、吹雪がボールを深雪にパスをする。俺はそのまま前方へ思いっきり走る!
「っ!? まさか!」
足柄はすぐに気付くが遅い! まさしく全然遅い!
「深雪、飛ばせぇー!」
「了解司令官っ! 深雪スペシャル・ロングパスバージョン!」
深雪は綺麗な円を描くようなパスを放つ。そして、走った俺の前方へ綺麗にボールが落ちてくる。それを俺は転がしていく! よし、いいぞ! このままなら行ける!
「させないよ、提督!」
そんな俺の行く手を邪魔するのは白露型1番艦、白露! だが、こっちにはお前対策の手段はあるのだ!
「白露! お前は何番艦だ!」
「え? それは勿論、いっちばーんかーんっ!」
「そうか、ありがとなっ!」
嬉しそうに左手を上にあげ、人差し指を突き出す白露をあっさりと抜き去る。
「あっ! 提督ずるい!」
「許せ白露! 勝負は常に非情とかマンガにあったんでな! うはははっ!」
よし、後はゴールへ一直線! 残りはゴールキーパー、赤城のみ! 艦載機は一機使えるがたかだが一機、ものの数ではないわ!
「終わりだ赤城、俺のミラクルライジング提督シュートの前になす術もなく崩れ去るがいい!」
「……慢心ですよ、提督!」
「何っ!?」
「そう、慢心よ提督!」
後方から声!?
振り向くと、そこには足柄がおり、俺の横に並んできた。早い、抜き去っていたはずだというのに!
「甘いわ提督! この私を振り切ろうだなんてね!」
「ちっ、流石に狼の名は伊達じゃないか……! だが、俺の実力もまだまだこんなものではな――」
「艦載機、攻撃開始!」
「な!」
足柄の背中の後ろから艦載機が出てきただと!? 一体いつの間に!
「ぶおっ!? 目が!」
「隙あり!」
しまった!
潜んでいた艦載機の攻撃により目を眩まされた俺は、足柄によってボールを奪われてしまう。せ、せっかく俺が威厳やばすぎシュートで全員の心を掴もうとしたというのにおのれぇ!
後ろを振り向くと、長良、足柄の2人がパスを回しながら既に真ん中の線より前へ出ている。ヤバイ、これはまずいぞ。負けてしまうっ!
俺も後ろへ戻っていくが、後ろからパス回しに翻弄されて深雪も吹雪もなす術なく抜かれてしまう姿が見える。
「くっ、艦載機発進!」
「さっきと同じ手は食いませんっ!」
遠いところからの声を聞き取ることがたまに可能な提督イヤーに声が聞こえてくる。現在ボールを持っている長良は、瑞鶴の艦載機攻撃をボールを持ちながら横に避ける。本当にアイツは運動上手いな!
「なら、直接取るわっ!」
「いいえ、取らせませんっ!」
「えっ、わあっ!」
そして、フェイントを混ぜたドリブルで瑞鶴を翻弄し、抜き去る長良。や、ヤバイ! 長良だけじゃなく足柄もいるし。後は加古だけじゃないかぁ! マジでヤバイ!
「加古ぉーっ! そっち来てるぞーっ!」
俺は叫ぶが、加古は顔を上げずにそのまま突っ立っている。……そうか、お前は大山の如し構えであの二人を迎え撃つつもりか! 流石はやる時はやる奴よ!
「提督さんっ! 加古の奴寝てる! 寝てるーっ!」
瑞鶴は叫んで俺に伝えてくれる。ちっきしょー! 前向きに考えていた俺が馬鹿だったぁ! さっき目ぇ冴えてきたとか言ってたくせにあのやろー!
だが、眠っている加古へ長良と足柄は容赦なく近づいていく。ぐっ――このまま、俺は負けるのか。そして間宮に殺されて、ハーレムどころかおっぱいの一つも揉み放題にさせてくれる人物一人作れず死ぬというのか――。
「うわっ、これ一点取られちゃうぞ! 間宮さんの無料券がー!」
「この勝負、私たちの勝ち、ですね!」
深雪が悔しそうな声をあげ、三日月が嬉しそうな声をあげている。
――敗北? 否、絶対に違う! 負けられるか、負ければ終わりじゃないか! 負けてられるかぁぁぁっ!
「――疾風、光速、全力疾走ぉぉぉぉぉぉっ!!」
「えっ!?」
駆けた。俺は、疾風の如く駆けた。白露がびっくりするような声をあげていたが気にせず駆けた。
いつも島風にかけっこ勝負を挑まれては負けることが俺は多かった。その度に苦汁を舐めていた。
しかし、今の俺は風を、音をも凌駕する神速の領域に達している! 今の俺には、長良も、島風も! 誰も追いつけない!
「なんか加古さん寝てるみたいだけど――もらいますっ!」
「――っ! 長良! 後ろ!」
おそぉいっ!
足柄の声に気付く長良だが、既にシュートをうった後だ。
ボールは左側へ放たれている。加古はゴールの真ん中で立ちながらグースカと寝ているし、空いてるところへ適当にうったのだろう。だがしかし、俺は左方向から追随した! 好都合!
いつもの俺なら、間に合わなかっただろう。だが今の俺は違う、速きこと俺の如し、疾風迅雷とは今の俺のための言葉!
もうボールは近い! 余裕で間に合う! 風を切り裂く感じがたまらん! これが、限界突破した俺の早さだぁぁぁぁっ!!!
「し、司令官っ! 前、危ないっ!」
ゴォーーーンッ。
……長良の声が聞こえた時には既に遅かった。
そう、車で制限速度スピードを超えて走ればどうなるか、そう、その分事故が起きやすくなる。咄嗟に反応するには難しいからだ。急には止まれないって奴でな。
今の俺もまさしくそんな感じだ。ボールだけを追いすぎて、ゴールポストを見てなかったが故の弊害。――端的に言うと、ゴールポストに思いっきり頭ぶつけた。
そして、コロコロと転がるボールが見えた。つまり、俺は負けたという訳か。
て言うか、死んだって訳か。ははは。
「ふああ~、なんかうるさいなー。……あれ、何してんの提督」
……そんな心境も知らず、今頃起きた加古の気の抜ける言葉を聞いて俺は全身の力が抜け、地面に伏した。
こうして、1点を取って勝利したのは――長良率いる、長良チームであった。
***
その後も、1点取っただけで終るのも勿体無いってことでサッカーを続けた。続けているうちに、夕焼け空になってきた。
「よぅーしっ、んじゃあ今日はここまでにしとくか」
そう言うと、みんなは俺の声に応答する。
くそっ、結局一点もゴールに入れられなかった……。むしろ足柄と長良に翻弄されただけで終ってしまった。俺がやれたことと言えば、吹雪のシュートにブリザードシュートと命名してやったぐらいではないか……? それすらかなり不評だったが。
「あーっ! 楽しかった! 深雪スペシャルと加古先輩の加古スペシャルの合わせ技、ツインスペシャルシュートは最高でしたよね!」
「うんうん、アタシも結構いい感じだったと思うねアレは! という訳で提督、今日は疲れたし明日は休んでいい?」
「明日が休みの日程ならな」
「うええ~、酷い話だー」
加古は肩を落としてガックリとする。どうも明日は休みではないらしい。少し悪いことをしてしまった気がするな、俺が無理に誘った感じだったし。
「まっ、楽しかったしいいかな! よぉーしっ、次は演習とかでダブルスペシャルやっちゃおうか深雪!」
「あ、いいっすねそれっ! 炸裂させちゃいましょうよ!」
などと言って盛り上がる二人。砲撃戦の時や雷撃戦の時にダブルかす当たりスペシャルとかしないでくれよな。
「でも負けたのは悔しいなー、間宮の無料券、翔鶴姉にあげようと思ったのに」
「あ、そういえばそういう話だったわね」
瑞鶴の言葉に足柄が思い出したかのように呟く。…………仕方ない、この手は使いたくなかったが。
「よし、今からとって来るから待っててくれ。その後に皆で間宮に行くとするか!」
「りょーかーいっ! ふふーん、なに頼もうかなーっ!」
「今から、楽しみですね」
「白露ちゃん達、いいなぁー」
「ほんとだよなー」
嬉しそうに声を出す三日月と白露の言葉に羨ましそうに声を出す深雪と吹雪。よし、これならばれずに……。
「提督、何か不審な企みをしてませんか?」
ぎくり、と心臓が跳ね上がる。やはり、勘付くか赤城……!
「な、何のことだ? 無料券ならしっかりと持ってくるぞ、これに嘘偽りは皆無だ。俺はノーフェイク提督だからな」
「そうですか? ですが頭の中で何かが囁いているのです。私に、良くない事が起きると……」
赤城は自分の頭に人差し指を置いて言う。ぬぐぐっ。い、一体頭の中の何かはなんなんだ! 赤城の警報探知機か何かか!
そう、実際にそうなのだ。俺の最終作戦は一つ――無料券を取りに行くついでに間宮の裏メニューを取り消しに行く作戦……! これによって、赤城には悪いが間宮への損害を防ぐという寸法だ。
「なので、私も一緒に同行していいですか提督? 提督に不審な気持ちを抱いたまま待つなんて真似、したくはないのです」
……どうする。どうする俺。――いいや、迷うことはない。一つしかないか。
「……お前のその真偽を見極める猜疑心と俺を信じてくれている忠誠心、実に嬉しい限りだ、赤城」
「提督…………」
「だが許せ」
「へっ?」
「今の俺はまだ、こんな理由では死ねないんだぁぁぁぁっ!!」
「あっ! やはり何か隠してますね提督! 逃がしません!」
「提督さんと赤城さんが高速で駆け抜けてった!?」
「長良も顔負け――いえ、足負けですねー」
瑞鶴の驚く声と長良の呆気に取られたような声を微かに聞き取りながら、俺は赤城から全力で逃走した。