どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と霧島

 ……ふう、昨日は助かった。

 赤城を振り切れなかった俺は財布の轟沈以上のことを覚悟していたが、間宮は既に裏メニューなんてものは止めていたらしい。いつ頃から止めたのかと言うと、俺が言った翌日にだそうだ。理由については、もしかしたら酷いことになりかねないからという直感的なものだとのこと。その見事な直感のおかげで助かったが、翌日って早すぎやしないだろうかとも思った。

 

 そんなこともあって赤城はちょっと残念そうだったが、俺を責めることなく気にせずみんなと楽しく食べていた。あの穏やかで優しいところは流石は赤城と言いたい。――まあ、逃げて捕まった時はちょっと怒られたが。

 吹雪は見回りに行った事だしとっととこのしょぼい事務処理を片付けてしまおう。格好悪いことはすぐに片付けるに限り、そして、俺の威厳力を高めなければならないからな。

 

 ――っと、その前に。

 

 俺は後ろを振り向き掛け軸を見る。天才提督と書かれた俺直筆の掛け軸だ、ただしあまり評判は良くない。なぜだ。

 まあそんなことはいい。掛け軸をめくると、そこは当然のように壁がある。だがしかし――それだけに留まらないのが我が執務室よ!

 

 そう、ここには秘密の仕掛けがある。そうなのだ、掛け軸の裏の上の部分をグッと押すことで、なんと秘密の空間が現れるのだ。

 

 そして、その空間に俺は宝を隠していた。――そして、グッと押して壁の一部が自動ドアの如くスライドする。

 米袋一つ入れることが出来るぐらいのその空間に入れたものが何も変わらずにあり、思わず左拳を握る。陸奥め、この俺の仕掛けには気付かなかったようだな。やはりこのスーパーブレイン提督の知を上回ることは出来なかったか。

 さあて、吹雪も今はいないことだし読ませてもらうか――艦娘コスプレグラビアアイドル写真集をな!

 

 さあて、まずはこの表紙でも色っぽさが抜群な大和コスプレからっと……。うっへっへ。

 

「司令、まずはこの霧島のコスプレから見た方がよいかと」

「そうか? まあ楽しみは後に取っておけとも言うしな」

「いえいえ、本命中の本命と私の分析結果では出ておりますよ?」

「おいおい、本命中の本命は言いす――ぎぃっ!?」

 

 左を振り向くと、いつの間にか霧島が! 高速戦艦、金剛型4姉妹が一人、4番艦の霧島が!

 俺は本を持ちながら、カサカサと後ろへ後ずさり壁にぶつかる。背がちょっと痛いとか気にしない。

 

「あ! なぜ本を持っていくのですか司令! 私も見ていたというのに!」

「見るなよ!? いや、というかいつの間に執務室にいたお前!? ノック――いや、せめてドアを開けろ!」

 

 ノックとか最早諦めてるしな。

 すると、そりゃもう知的な感じでメガネを軽くクイッと動かす霧島。やべぇ、頭良さそう。

 

「ふふふ、私は高速戦艦ですよ司令? 吹雪さんが出て行ったと同時に一瞬で執務室に入り、壁を背もたれにして格好つけておくことすら容易なことでした」

「な、何っ……!?」

 

 くっ……少年漫画の新しい強キャラみたいな入り方をいつの間にかしていたって言うのか! メガネもあるせいですっげぇ頭良さそうなんだが……! 

 

「そして、司令がそのお色気本を読むことも想定済みでした。故に私は気配を隠して司令がそれを取り出すのを待っていたのですよ!」

 

 後ろにババーンッ! とか効果音が鳴りそうな感じで右手を突き出してポーズを決める霧島。な、なんてことだ……このハイパーブレイン提督の知を、霧島は見抜いていたって言うのか!?

 

「ぐ、ぬぬっ。おのれ霧島、以前俺に一斉射して消しカスにしようとしただけはある……!」

「ふふふ、アレは――申し訳ありませんでした」

 

 と言って霧島は姿勢正しく頭を下げてくる。てっきり気にしないと思ってたんだが真面目なやつ。確かに死ぬかと思ったが、アレどちらかと言うと俺のせいでもあった気がするしな。

 

「い、いや気にしてないから良いぞ。それより、何故この本を持っていることをお前が知っているんだ!」

「はっ! そうでした。それは勿論、司令の心理を読み取った結果の分析結果です!」

「し、心理をだと!? 俺の心を読んだというのか!?」

「いえ、正確には司令の行動パターンと性格から基づいた予測パターンというものですね。そして、司令が愛読しているお色気本のコンビニエンスストアでの発売日を含めて計算したその結果――今日! 司令がお色気本を吹雪さんや陸奥さんに隠れて読むことは想定済みだったのです!」

「な、何ぃ!?」

 

 さ、流石は霧島。艦隊の頭脳になるとか言っていただけあって冷静な分析力だ……この俺の思考を読むとは。伊勢同様、霧島も侮れん。

 

「さっ、という訳でその本を見せてもらいましょうか司令。コンビニエンスストアではビニールがかかっていて読めなかったので、ここで私の知識として蓄積させてもらいます!」

「断る! コレは男の聖域――サンクチュアリだ! 見せてたまるか!」

「なんで言い直したんですか今」

「カッコいいだろ!」

「成程……実に合理的な意見、流石は司令です! ですが、そう言われれば尚更見たくなるのがこの霧島です!」

 

 ちっ……霧島の意志は固い……! だがこのグラビア本は俺一人で見ないと見た心地にならん。煩悩を解放して見ることが出来ないのだ! 

 

「悪いが霧島……絶対に見させん!」

「やはり司令の意志も固い、ということですか……いいでしょう! なんとしても見させていただきますよ!」

 

 そう言って霧島はメガネのずれを直して、俺と対峙する。緊迫した静かな空気が、肌を包む。

 那珂が外で歌ってる声が聞こえて来る。熊野が砲撃してる時の声が外から聞こえて来る。子日がねのひだよっ! と、外で言っている声が聞こえている。――本当に緊迫してるか分からなくなって来たが、今この場は緊迫しているはずだ。そうに違いない。

 

「――司令っ! 美少女のパンツが司令の斜め45度前方に落ちていますっ!」

「なにぃ!?」

 

 俺は思わずその方角を目にやってしまう。――無いっ! いや、当然だ! だが、霧島はどの美少女のことを言ったんだ!? 霧島に関連のある簡単に思い当たる美少女――榛名か!? だが、榛名は大丈夫と言っているのに執務室でパンツを脱ぐような奴ではない! それにあれば俺がすぐさま気付くし吹雪も気付く! ――だが、あったとすればそれはそれでエロスがあるな。むしろそういう榛名でも俺は大丈夫かもしれん。いいや、しかしあの真面目な榛名だからこそ良い――いや、しかし、そのイメージのギャップから生まれるこの感覚は一体――!

 

「隙ありっ!」

「ちぃっ!?」

 

 間一髪。

 俺は霧島が伸ばしてきた手を避け、右に飛んでなんとかグラビア本を死守する。あ、あぶねぇ……意識を完全に奪われてしまっていた!

 

「くっ、やりますね司令。今のは完全に不意をついたと思ったのですが」

「ふっ、残念だったな霧島。パンツじゃなく下着と言っていれば俺の不意を完全につけていたかも知れないのにな……」

「っ! 迂闊でした……司令は日本人、故に漢字の方が馴染みがあるというのにこの霧島、不覚……!」

 

 悔しそうに顔をゆがめる霧島。……実はどっちでも構わんというのは内緒の話だ。

 

「ですが、まだ諦めませんよ司令! ここからが本番です!」

「そのあく無きまで知識の渇望――俺も見習いたいところだが、それでもお前にはこの陸奥から守り抜いた偉大な本は見せられん。己が威厳にかけてな……!」

 

 という訳で――

 

「まずはこの部屋から撤退! さらばだ霧島!」

「なっ、戦略的撤退!? その手がありましたか!」

 

 ふっ、今は退く。だが、いずれはお前を正面から乗り越えて見せるぞ、霧島!

 さぁーって、どこで読むかなー! 波止場辺りで読むのもオツかもなー!

 

 そう思いつつ、ドアを開けると――

 

「あらあら提督、何をしているの?」

 

 ……長門型2番艦、戦艦の陸奥があらあらと立っていた。

 

「――陸奥、いつからそこに」

「さあ、いつ頃からかしらね」

 

 ニコニコと話す陸奥。何故だろうか、何らかの威圧感を感じているんだが。

 

「……陸奥、今から俺みんなの様子を見てこないと行けないからちょっと退いてもらっていいですかね」

「ええ、そこの本を置いていってもらえばいいわよ」

 

 ば、バレてる……。

 

「そ、そこを何とか……」

「あらあら、何とかしてもらえると思う?」

「……ああっ! 思う! 俺はお前を信じてる!」

「そう、嬉しいこと言ってくれるわね。でも、何とかならないわよ?」

 

 うぐっ……信頼の言葉で陸奥を感動させようと思ったが効果がない。

 だが、無理な話だよなそりゃあ。読むなら自室でって言ってたしな、以前執務室で「うっおおおおおっ! 大和のおっぱいとか腰とか全力で近代化改修的マッサージしてぇぇぇっ!」って大声で言った前例もあるしな、それ以外にも読んでる時に何度も叫んだ覚えがあるしな、そりゃあ陸奥だって止めるわな。

 

「そうか、やっぱそうだよな残念だ。大人しく、コイツは陸奥に渡そう――と言って諦める俺ではないわあぁぁ!」

「なっ!?」

 

 俺は陸奥の横をヘビのように掻い潜る! ふはははぁ! 残念だったな陸奥よ! この一冊だけは絶対に譲らん! 譲りはせんっ!

 

「ちょっ、提督! そっちには――!」

「はははっ! 聞く耳もたんぞ! 俺は絶対に読――」

 

 ゴォンッ!

 

「そっちには――扶桑が艤装積んで歩いているって言おうと思ったのに」

「だ、大丈夫ですか提督……?」

 

 扶桑の心配するような声が聞こえる。――昨日といい、前方不注意が多い日だぜ、全く。

 渾身の衝突事故により、俺の意識は途切れる寸前だ。もしかしたら、昨日のダメージも蓄積された結果かもしれない。だが、これだけは、聞かねば。

 

「……陸奥、見逃しては――」

「あげないわね」

 

 ……だよな。ふふふ、むしろ晴れやかだぜそこまですっぱりと言われるとな。

 そして、扶桑の砲塔に思いっきり顔面ぶつけた俺は沈むようのったりとうつ伏せに倒れる。

 

 なのに陸奥は無情にも俺の手にあるグラビア本をあっさりと奪う。ちょっと力込めたがあっさりと取られた。ち、ちきしょう。

 

「やはり知識を得る為の最大の障害は陸奥さんなのかもしれませんね……」

 

 霧島のそんな声を聞き、頭の中で同意した後――俺はそのまま意識を失った。せめて、顔をあげて陸奥の下着でも見ておきたかった……がくっ。

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