どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督とボール

 ぐぬぬ……昨日もどうしようもなく格好悪かったな俺は。

 結局、あの後目覚めた俺が自室に戻ると、後から自室に来た陸奥がグラビア本を返してくれた。どうやらエロ本ではなくグラビア本だったことが幸いしたと思われるが、溜め息つかれたあげく、次に執務室で読もうとしたらこの本で火遊びするわよ、とかまで言われた。気をつけねばならん。

 

 だがだ、俺はグラビア本を一通り目に通して見飽きた後に気付いた訳だ。これじゃあどっちが上かわからねぇじゃん! とな。

 というか最近、俺の威厳力が下がるようなことしか起きていない。これはいかん、だから最近陸奥の方が主導権握ってる感じがするのだ。

 

 いい加減、俺の威厳力を高めねばいかん。その為にはどうするべきか……。

 

 事務処理なんてもんはさっさと終らせ、俺は迷える男の如くそんな深く真理的なかなりカッコいいことを格好よく考えつつ鎮守府の外を歩いていた。今の俺を見た艦娘達は恐らく俺の儚き姿に惚れまくってしまうだろう。今までそんなこと言われたことはないが、そろそろ言われる気配を感じるしな。

 いや、むしろ今まで言われなかったことがおかしいのではないか? 自分で言うのもなんだが俺はイケメン、飛鷹からは寝ぼけるのも大概にして早く艦載機整備するの手伝ってよ、とか言われたがイケメンだ。そうに違いない。池の中にいそうなメンズなら正しいとか家族の一人には言われたがアイツは無礼者だから参考にもならん。なんだ池の中って、俺は河童か。

 

 そんな風に考えて歩いていると、あくびを抑えつつ歩く一人の人影が見えた。――って、なにぃ!? 川内だと!?

 俺は急いで近寄った。あのバカ、こんな時間に何をしてるんだ!

 

「おい川内!」

「ふああ……あ、どうしたんですか提督」

 

 こっちを見て川内はそう言うが、その覇気の無さは夜の川内とは全く別! ヤバイ、もう時間は無さそうだ!

 俺は川内の肩を両手で掴む。

 

「なんでこんな時間に歩き回ってるんだ……!」

「えっ、それは駆逐艦たちの訓練を遠征に行った神通の代わりに見ていて――」

「日光浴びてたらお前ヤバイぞ!?」

「……え、私今やばいの?」

「ああ、このままだと絶対ヤバイ。もう轟沈レベルでヤバイ。本気でな」

 

 すると寝ぼけ眼だった川内の目が見開き、青ざめた。

 

「ええええぇぇっ!? な、なんで!? どうして!?」

「そりゃお前、俺にはもうわかっているんだよ。お前が――吸血鬼だって事は」

「……え」

 

 見開いた目が半眼になる。なんだ、その呆れた目は。

 

「だってお前夜戦好きだろ? その特徴から俺はこのジーニアスブレインな脳で推測した訳だ。吸血鬼は夜活動するって言うしな」

 

 最早この予測能力は昨日の霧島を超えると言っても過言ではない。それよりもだ、それよりも俺が危惧することは……!

 

「そして、吸血鬼は日光浴びたら灰になるんだぞ……!」

 

 そうだ、最近の漫画やアニメでは日差し余裕な吸血鬼も多いが実際は灰になってしまうんだ。川内ももしかしたらそう言う系統かも知れんが、万が一そうであれば危険極まりな――

 

「いやいや、私は吸血鬼じゃないって」

 

 そう言って川内は手を垂直にしながら横に振る。――あれ?

 

「いや、そんなバカな。そら、その証拠に今にも倒れそうなテンションじゃないか。隠さなくても俺は気にしないぞ。それにアレだけ夜戦が好きなのに吸血鬼じゃないって言われたらお前は一体何かわからないぞ!?」

「一体も何も、艦娘だって提督」

「……あ、そうか」

 

 そう言われて、川内から手を放してポンッと左手を右手の手の平に置いた。

 そうだよ、よく考えたら川内の奴は昼間でも普通に遠征とか出撃とかしてるじゃないか。

 

 待てよ、となると――。

 

「川内は吸血鬼艦娘……!? それも、昼でも活動可能な感じか……!」

「いやいやいや、そんな訳ないって」

 

 ローテンションな川内のツッコミが入る。まあ、流石にこれは俺だって冗談で言った。吸血鬼艦娘って最早艦娘なのか吸血鬼なのかわからないしな。

 

「くっ……俺の推測は違っていた訳か。霧島のように上手く行かないな……まあ何にせよ早とちりして悪かった、川内」

「いーよいーよそれぐらい、だって提督だし」

「それはどういう意味だ」

「深く考えない考えない」

 

 緩く言う川内。なんか知らんが毎回そんな感じのこと言われる気がしているのはきっと気のせいだ。

 

「それについては追求したいところだが――お前本当に大丈夫か? いつも夜しか動いてないから眠いのか?」

「うーん、まあそうですねー。一応、最近夜戦もないから睡眠はいっぱい取れてるけど……やっぱり、夜戦したいなー」

 

 もうだるっだるな感じで言う川内。ほんとに夜と昼じゃ雰囲気も全然違うなコイツは。

 まあ、問題ないなら構わないか。川内は夜戦のエキスパート、このスーパーエリート提督率いる夜戦メンバーの一員として倒れてもらっては困るしな。

 

「そのうち機会は作ってやるさ、期待していろ。このスケジュールマスター提督にな」

「本当!? うん、よろしくね提督!」

 

 ニカッと歯を見せて笑みを見せる川内。

 

「ああ任せろ、超任せてろ。このレジェンドナイト提督にな!」

 

 俺もその笑顔に笑顔で返してサムズアップする。全く、コイツらの笑顔には応じてやりたくなるのはなんでだろうな。

 

「そう言えば、提督はなんでこんなところにいるの?」

「そりゃ勿論威厳を高める為のインスピレーションを高める為に決まって――ん?」

 

 ふと前を見ると、のほほんと歩いている正規空母の姿が見える。以前サッカーを一緒にやった瑞鶴の姉、翔鶴型1番艦の翔鶴だ。今日は天気もいいし散歩でもしているのだろう。

 

「あ、翔鶴さんだ。こんにち――、って、うわっ!」

 

 声をかけようとした川内の驚きつつ、目つきが鋭くなる。一体どうし――なっ!

 俺も目を見開いた。翔鶴の後方から高速で野球ボールが接近している!? なんだあの弾丸レベルの速さは! ジャイロ回転してるぞ!? あれ、当たったらシャレにならないぞ!

 

 それも野球ボールのコースは翔鶴の頭にクリーンヒットしてしまう位置。一体どっから飛んできたのか皆目検討つかないが、いくら艦娘とは言えアレはヤバイんじゃないか!? 罰を受けなれている俺や伊勢や青葉ならともかく、翔鶴が当たるとヤバイ気がするぞ! 瑞鶴に言われもない爆撃される気もするぞ! 俺が!

 

「お、おいっ! 翔鶴! 後ろ、後ろぉーっ!!」

 

 俺が叫ぶも、翔鶴は俺の必死な声など意に介していないかのような笑顔でこちらに手を振って来ている。聞こえてないのか!?

 俺と川内は走り出す。くそっ、真っすぐにいるとは言えやや距離がある!

 

「くっ……駄目! 間に合わない!」

 

 川内がそんな声を漏らす。くっそぉ!

 

「避けろ! しょうかぁぁーくっ!!」

「えっ?」

 

 翔鶴が声を小さく漏らす。駄目だ、あたっ――

 

 ギュンッ!

 

「きゃあっ!?」

 

 ――らなかった。当たらなかった!

 ボールは急に、音が聞こえる程のうねりを上げて奇跡のように曲がって翔鶴から離れた。翔鶴は小さく悲鳴をあげるだけでボールは当たらなかった!

 

 思わず安堵の息を漏らす。って、いかんいかん、なんだ今の叫びは、もっとカッコよく叫ぶべきなのにまた微妙な叫び方してしまった! くっ、これはもう翔鶴が俺に抱きついてくるぐらいしてくれなきゃ割に合わないな。そりゃあもう、愛しすぎて五航戦! ってな感じで俺の胸に飛び込んでくるぐらい――

 

「て、提督! 前、まえっ!」

「なんだ川内、前から翔鶴が抱きついてく――べぼぉっ!?」

 

 ズゴォッ! っと、何か強烈に破壊力あるものがふ、腹部にクリーンヒット……!?

 

 意識を刈り取られそうになるが――俺は耐える。伊達に毎回ダメージを負っちゃいない……!

 だがなんだこの衝撃は! 翔鶴の愛情表現か!? 翔鶴タックルか!? なんて刺激的なっ!

 

 そうか、翔鶴のような清楚な感じの艦娘は一度燃え上がると激しいって訳か。成程、俺はそういうのも嫌いじゃない。

 

 ――って、騙されん。騙されんぞこの野郎がぁぁぁっ!

 

 俺は目を見開いて、腹部へ突っ込んできた奴の正体を見る。そして確証を得た。

 この鳩尾を狙ってくるような攻撃。わかっていたさ、俺に惚れまくってもう愛しすぎて五航戦! な感じで抱きついてきた翔鶴ではなく貴様だとな。

 

「――そうだろう、白き凶弾――野球ボール!」

 

 翔鶴を避けた、白き野球ボールは俺がそう言い放つと、言葉に応じるが如く腹部を貫かんとばかりに回転を加速させ、炎すら纏ってくる。その姿は、まるでドリルのような紅の竜巻……!

 ふっ、俺の身体をそのまま持っていく剛の力、認めてやるさ。現に今俺は貴様の力強さによって宙に浮かされ真っ直ぐと吹っ飛ばされている。その破壊力によって、意識が吹っ飛ぶかもとも思った。

 

 貴様が一体、どこのヤツが投げてこうなったボールかは知らん。だが、俺はメタルディフェンス提督! この程度でやられ――ぐっ!?

 

「ぐ、ぐうううっ!?」

 

 さ、更に回転を高めるだと!? バカな、それでは燃焼が加速し摩擦熱とオーバーロード――があるかは知らんが、自爆すると俺の中のキュピーンな感覚が伝えてきたぞ! お前だって死――。

 

「――――そうか、お前は俺をそこまでの覚悟で倒しに来たってな訳か」

 

 呟き、確信する。コイツは、死を持って俺を倒しに来た訳か。

 無機質なくせに、なんて覚悟だ。さっきのアレも、翔鶴ではなく元々俺を狙ってきたって訳だろう? やってくれるぜ。このジーニアスエリート提督の命を狙う、その度胸は大きく買ってやる。

 

 その威力に思わず歯を食いしばってしまう。だが、俺はゆっくりとボールに手を伸ばす! 俺は意識があるぞ野球ボール! 大井や霧島、摩耶の主砲を食らって生きている俺を舐めるな!

 

「貴様の回転一つ止めることぐらい、訳なんかないんだよ! この野球ボールふぜっ――」

 

 

 ドガァァァァァァァンッ!!

 

 

「誰かが鎮守府の壁に突っ込んでクレーター作ったーっ!?」

「し、不知火に落ち度はないですよ?」

「いやわかっとるで!?」

 

 物凄い衝撃音の後に、慌てる陽炎型1番、2番、3番艦トリオのそんな声が聞こえてきた。

 ぐっ、が、がはっ――や、やってくれたじゃないかこの野球ボールめ。まさか壁にぶつけて俺に更なるダメージを与えてくるとは。というかこんな威力と加速力があったとは。背骨が痛くてヤバイ。

 

 ……くっ、意識が朦朧としてきたぜ。ちっ……認めざる得ないか。

 

 俺は動きが止まって腹部に埋まった野球ボールをゆっくりと手に持つ。炎によって、その白球の姿は少し焦げている。

 ああ、認めよう。お前は――俺の、好敵手(ライバル)、だと、なっ……。

 

「突っ込んだの誰やー! 大丈夫かー!? って司令っ!?」

「なんで野球ボール持ってるんだろ……」

「さあ」

 

 そんな黒潮と陽炎と不知火の声を聞きながら、俺は誇らしく気を失う寸前だ。とりあえず、起きたら後でこの格好良すぎる気の失い方を見た感想を三人に聞くとするか……ふっ。

 ――て言うか、なんでこの野球ボール、こんな凄い威力なんだよ……。

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