どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

22 / 39
提督と翔鶴

 ボールとの熱い死闘を繰り広げた後、ダメージも回復した俺は川内と翔鶴のいる方へと戻っていった。

 しかし解せぬ。あの陽炎型トリオめ、言うにことかいて何だあの感想は。あんなカッコいい倒れ方をしたというのに――。

 

「えっ? 司令の倒れ方がどうだったかって? どうって……よくわかんないな。えーっと……まあ、しいて言うなら……頑丈だよね、司令は!」

「感想? いえ、不知火からは特に何も」

「感想か? ああ、ほんま駄目やで司令はん、安易な気絶オチじゃお客さんにも愛想つかされる。身体張る芸人根性は感心するけど、それ一本でやっていくならあらゆるバリエーションやリアクションの変化を考えていかないけんよ。もっと精進してーな、期待しとるようち」

 

 倒れ方の感想じゃなかった陽炎の感想が一番マシだったってのがもうな。ていうかなんだ黒潮のやつ、俺は芸人じゃなくて司令だよ! なんで駄目だしされてんだよ俺! 別に一発芸とかやってるつもりねぇよ! それに不知火とかもうどうでもいいって感じだったしな、ほんと!

 だが、あの感想を聞いて感じた。やはり早くアイツらにも俺の威厳を教えてやらないと行けん。そして将来、いい感じに年を取って俺に抱きついてくれるぐらいに惚れてもらわないと駄目だな、うん。

 

「そんな訳で翔鶴、俺は数々の艦娘たちにこの意見を聞いてきた訳だがお前にも問いたい――どうやったら威厳を高められるか、な」

 

 俺は鎮守府の外に設置されているベンチに座り、翔鶴に問うた。この辺りは木々が多く立っているが舗装はされていない。上のクソジジイからいずれ舗装用の金を奪おうと画策中だ。画策しても一向に上手くいかないが、篭城を責めるが如く忍耐強く――いややっぱ暗殺して奪った方がいいか? まあそれはいずれ考えよう。

 翔鶴は隣に座っているが、川内は俺が無事戻ってきたのを見て眠いからと言って戻った。ちなみにさっきのボールを投げてきたのはどこぞの野球少年だったらしい、あんなボール投げるとか一体何者だよ。

 

「威厳、ですか……? それよりも、怪我は大丈夫ですか提督?」

「ああ、全然問題ない。いやそんなことよりもだ、今まで俺はもう普通にイケメンエリートかっこよすぎてもうパナイ提督としてお前達に知れ渡っていると思っていた。だが、最近その事実が若干違っていることに気付き始めたんだ」

「じ、若干、ですか……」

 

 何故か苦笑いでそう呟く翔鶴。その表情から何を考えているかは残念ながら汲み取れない。

 

「考えたくもない事実に俺は打ちひしがれそうになった。しかし、そこでくじけてはハーレムの道が終わる、提督なのにだ。提督なのに艦娘にモテモテにならず終る。威厳が無いから諦めて、品行方正に雑務してセクハラもせずにお前達と会話をし、普通の指示をする。そしてモテることなく終わる。地味提督、地味・ザ・地味提督という称号を得てザ・エンド。――そうならない為にも、以前の威厳を取り戻そうと思っているんだ翔鶴」

「以前の威厳、ですか……」

 

 すると再び苦笑い。むむっ……なんだ、この怪しげな感じは。翔鶴め、何かを隠してるな? このスペシャルアイ提督の目にはごまかしなど効かんぞ!

 

「翔鶴、言いたいことがあるなら言ってもいいんだぞ?」

「えっ? そうですか……? では言わせてもらいますね」

「おう、ガシガシ言って来ていいぞ。むしろ褒めてもいいぞ。て言うか抱きついても構わないぞ」

「とりあえず……普通は品行方正な提督の方が素敵だと思いますよ、提督?」

 

 ……何?

 今、翔鶴はなんと言った? 品行方正な方が素敵!? バカな、有り得ん。

 

「し、翔鶴、あまり俺を混乱させようとするな。不可解な言葉が聞こえてなんか脳にインプット出来ないぞ」

 

 頭をついつい手の平で押さえてしまうぞ。

 

「いえ、混乱させてるつもりはないのですけど……けれども、やっぱり真面目な方に好感が湧くと思いますよ、少なくとも私はそう思います提督」

「なっにぃぃ!?」

 

 な、なんてこったぁ……! マジか、真面目な方に好感が湧くのか! 誰だ、そんな常識生み出したヤツは! あの噂の提督か!? あの野郎! スケコマシ!

 

「でも」

「ん?」

「私は、提督も素敵だと思いますよ?」

「……はへ?」

 

 思わず変な声が出た。何を言ってるんだ翔鶴の奴は、今自分で何を言ったか忘れてしまったのか?

 

「悪いけどな、俺は品行方正なんて言葉からは程遠い存在だぞ? なんつうか、俺は確かにハイパーエリート提督だが真面目だのそういうのとは全然縁がないと自分でも思ってる。何せ、俺の中で真面目と威厳は結びつかないからな。つっても、真面目で立派な奴らがいるから世界は成り立ってるってのも大きい事実。だが、そこで威厳を取る俺は他の提督とまた違う点だな、ふっふっふ」

 

 そう、偉いやつはふんぞり返らないと嘘だからな。仕事が忙しいとか、そういうもんすら苦無くこなしてふんぞり返らないと威厳なんぞ保てないのである。

 

「他の提督と違うかはわかりませんがそうですね、提督にその言葉は合っていないとは私も思います。提督はいつも瑞鶴と仲良く遊んでますもんね」

 

 クスクスと小さく笑う翔鶴。いつもの大人っぽい翔鶴の態度からはあまり想像出来ないような、年頃の娘みたいな可愛い笑顔を見せる。

 というか、アレは遊びじゃない。デッドオアアライブをかけた戦いだ。奴によって何度俺の服が焼けたことか……瑞鶴が中破した時のセクシーポーズを考案した時が一番やばかったな。流石の俺も死を覚悟していた。

 

「んで、そこまで思っといてなんで俺も素敵なんだよ翔鶴。なんかの冗談か?」

「ええ、そうです――――って嘘です嘘! そんな提督らしくもない悲壮感溢れる顔をしないでください!」

 

 翔鶴が慌てて言い繕う。う、嘘か。全く、翔鶴から嘘をつかれると思ってなかったからかなりビビッたぜ。

 

「じゃあ、理由を教えてくれよ」

「それは――――提督が、提督だから、でしょうか?」

「……俺が俺?」

「ええ、きっと提督が私にとって素晴らしい提督だと思ったからそう感じているんですよ。正しく立派な方がいいと思うのに、何故でしょう?」

 

 本気なのか、冗談なのか分からないが首を傾げてしとやかな笑みで聞いてきた、そりゃ俺が聞きたいぞ翔鶴。

 

「おいおい理由を教えてくれと言ったのにその理由がわからないとはどういうことだよ翔鶴、お前が知らないのに俺が知るわけないだろう。いくら俺がスーパー天才提督だからと言ってもその謎理論は俺には解き明かせない――が、憶測で良いなら理由は一つしかない」

「あら、わかるのですか提督?」

「ああ――俺が提督の中の提督、キングオブ提督だからだな。――やっ、憶測とか言ったがもうそれしか有り得んな。流石だぞ翔鶴、俺の才覚を嗅ぎ取るその索敵能力は最高だ」

「そ、そうでしょうか……? わ、私はそれは違うものだと感じているのですが……」

「気のせいだ。――ん、待てよ? …………そうか! わかったぞぉ!」

 

 俺はつい思いっきり立ち上がった。

 そうか、成程な……ようやくわかったぞ、俺の威厳が他の艦娘に伝わっていない理由が!

 

「て、提督?」

「ありがとう翔鶴、お前のおかげで威厳力を高められそうだ。そう――ウチの艦娘たちは、潜在的に俺に威厳を感じていたと言うわけなんだよ翔鶴!」

「……え? え?」

「何を不思議がっているんだ翔鶴。それを今お前が教えてくれたじゃないか、そう、俺に威厳が足りないと思っていたのはあいつらが俺の伝えていた威厳の正体に気付いていないからだ! いやぁ、おかしいとは思っていたよ、この俺に威厳を感じているのが微々たるものだったのは何故かと寝る前によく考えていたがようやくわかった。心に不思議なものとして残していたと言うわけだ! ふっふっふ、俺もこれで疑問が解けに解けた! お前に会えてよかったぞ翔鶴!」

「て、提督? ちょっとおっしゃることがやや支離滅裂してるかと……もう少し考え直しませんか? このままだと提督、とんでもない過ちを犯すような気がしますよ?」

 

 翔鶴が焦りつつ言ってくる。過ち? いいや、今までが過ちの日々だっただけだ。くっそう、これに気付いていれば今までの艦載機攻撃や主砲攻撃が抱きつき攻撃やキスキス攻撃にうって変わっていたのに……まあ、気付けたことが僥倖と思っておくとしよう。

 

「じゃあ早速、心の謎を解いてくるぜ。まず手始めに陸奥と加賀を篭絡だぁーっ!」

 

 そして好き好き提督デラックスのはじまり始まりってなぁー! うはははははっ!

 

「あ、提督待っ――いたっ!」

 

 翔鶴の元から走り去っていこうとした時、小さく声が聞こえた。

 後ろを見ると、歩こうとした翔鶴がベンチからこけてしまっていたようだ。俺は逆戻しのように背を向けながら翔鶴の方へと戻っていく。

 

「おいおい大丈夫か翔鶴? 出撃もしてないのに小破状態になったら困るぞ?」

「す、すみません。私、つまずいてよく転んだりしてしまって……」

 

 地面をよく見ると、小さいでっぱりがあった。コレに転んだのか、ちょっと運が悪いな。

 

「別に気にすんなって、俺もよく模擬戦の流れ弾が飛んできて脇腹にクリーンヒットしたり、鎮守府近海にいる駆逐艦煽ってたら主砲がクリーンヒットしたり、祥鳳の格納庫から胸部装甲までまさぐろうとしたら腐った卵を瑞鳳に投げられたこともあるしな。運の悪さならお互い様だ」

「二つ程は運が悪いと言うのでしょうか提督……」

「ま、まあ、自分でもちょっとそう思うな」

 

 ちなみに今も辞めずに煽ってるせいであの深海棲艦の駆逐艦、たまに目が赤くなったり黄色くなったりしてるような気がするのは気のせいだろう。俺に撃って来るたびに命中精度上がって来ているのも気のせいだろう。

 

「それより怪我とかないか? あると困るぞ? お前はこのエアウイング提督空母部隊の重要な翼なんだからな」

「いつの間にそんな部隊が出来てたんですね……。でも大丈夫です、少し膝を擦りむいただけですから」

 

 翔鶴は涼しげな笑顔を絶やさずに言う。右膝には確かに擦りむいた後がある、少しって言うがこういうのは割と痛いからな。

 

「そうか、だったら早く治さないとな。そら、特別にこのマッスルバスター提督が背負ってやるぞ」

「え? いえ、かすり傷ですからそんな気を使わなくても……」

「ふっ、甘いにも程があるぞ翔鶴。そのかすり傷ってのは戦場に出ると大きく戦況をわけかねない、こまめな修繕が勝利を生むんだぜ?」

 

 と、最後の一文は利根から聞いたのは言わないでおこう。

 

「それはそうですけど……。けれど、私重いですよ……?」

「なあに言ってんだ翔鶴、俺はお前らの提督だぞ? お前一人背負うくらい何の苦も無いっての。ほれ、早く乗れよ。それとも俺がエリート過ぎて乗ることすら出来ないか?」

 

 俺は背をかがめつつ、若干嫌味げに言って挑発する俺。すると、クスッと翔鶴は笑った。

 

「――じゃあ、お願いしますね提督」

「おう、任せとけって」

「お、重かったらすぐに言っていいですからね?」

「なに心配してるんだお前は。そら抱きついていいぞ、もう愛情全開で歩いてる時に大好き提督ってチューしてくれてもいいぞ翔鶴!」

「し、しません! もうっ……」

 

 可愛らしく顔を赤くしつつ、俺の背中に寄りかかってくる翔鶴。よりかかってきてくれてんのはなんだかんだで、信頼してくれたのかね。そうなら、ちょっとは嬉しいもんだ。

 そんで、俺は翔鶴を背負って立ち上がり、歩き出す。

 

「……重くないですか、提督?」

「重くないぞ、むしろ軽い軽い。燃料とか弾薬補給して無いか心配になるぐらいだ。してないならしっかりしろよー?」

「ち、ちゃんとしてます」

「なら良いけどな。それより翔鶴、胸当て取ってくれたら俺は更に嬉しい気分になるんだが取らないか。すると俺のコンディションがキラキラ状態になるぞ、パワーアップするぞ!」

「は、外しませんっ! 瑞鶴に言いつけますよ提督!」

「げっ、アイツに言うとシャレにならないから止めろ!」

 

 それも翔鶴のことに関してであれば、艦載機の艦爆、艦攻、艦戦全てを全力で駆使した空中乱舞で踊り狂わされる未来しか見えん……! 浮きながら死んでやがる、なんて言われてもおかしくない空中コンボを食らってしまう可能性ありだ。

 

「まあ、仕方ないから今回は翔鶴が抱きついてくれてるだけで勘弁してやるさ。うっへっへ」

「なんだか降りたくなってくるんですが……」

「う、嘘だ嘘! じょーだんだ冗談!」

 

 あんだけ格好つけといて降りますなんて言われちゃ、威厳云々通り越して情けないとしか言えないぞ。

 

「もう、だから提督は素敵なのに残念なんですよ」

「素敵なのに残念ってなんだ」

 

 相変わらずウチの艦娘たちは褒めてるのか褒めてないのかわからん言い方をしてくれるな。

 

「まっ、今はそれで甘んじてやるさ。だけどな」

「?」

「今みたいな怪我をしなくても俺に抱きつきたくなるぐらい威厳溢れる提督になってやるから、そん時は遠慮なく抱きついていいからな翔鶴」

 

 俺は翔鶴の方を向いて、サムズアップしてやった。……あれ、反応が薄いぞ。もしかして降りたく――

 

「――ええ、期待していますね提督。私も、一航戦や二航戦の先輩方、提督に負けないぐらい頑張りますっ」

 

 ……一瞬不安になったなんて杞憂、そう言わんばかりに翔鶴は優しそうな笑顔で返してくれた。何ビビッてんだよ俺は全く。

 そんなことを考えていた自分に気恥ずかしさを感じつつも俺は翔鶴の笑顔に、笑顔で返した。

 

 そんなやり取りをした後、再び歩き出しながら空を見る。広がるのは、青空。翔けるのは、二羽の鳥だ。

 

「いい天気ですね、提督」

「ああ、そうだな。――っと、のんきに歩いてる訳には行かなかったな! 提督エクスプレス、出撃だっ! 風をも超えてやるぜっ!」

「て、提督!? あ、危ないですよっ」

「心配するな! 速さと安全性が提督エクスプレスの特徴だ! さあ行くぜーっ!」

 

 

 そして、青空の下を俺は翔鶴を背負って駆け抜けていった。

 

 

 

 ――って、待てっ。待て待てまてよっ。

 そのまま駆け抜けて行きそうになったが、本当に抱きつくだけで終わってしまったらどうする。翔鶴のことだ、ほんとに抱きつくだけになるかも知れない! こ、コレはしっかりと訂正しておかねば!

 

「翔鶴!」

「は、はい、なんですか提督?」

「さっき抱きついていいと言ったがそれ以上もしていいからな! 接吻とかもしまくっていいぞ、むしろ胸部装甲触られたければ存分に言ってくれよ!? ウェルカムだぜ俺は!」

「…………提督、なんか台無しです」

 

 走りながら聞こえる風に混じって、はあ、と翔鶴から溜め息の声が聞こえた。な、何故……!?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告