「……なあ吹雪、サイコメトリーってどうやって覚えられるんだろうな」
「き、急にどうしたんですか司令官?」
半壊したり仕掛けがあったりする我が執務室の提督席に座りつつ、俺は吹雪に聞いてみた。
昨日翔鶴を医療所に連れて行ったあと、隠れたその心は提督へのラブコール大作戦を加賀と陸奥に決行しにいったが、その作戦は失敗に終わった。しつこく聞きすぎて、頭のネジが飛んでいると思われたのが原因だろう。おかげで加賀ナックルと陸奥ハンマーを一発ずつもらった。どこから持ってきたかわからない陸奥のハンマーのせいでまだヒリヒリするぞチクショウ!
「いやな、やはり心を引き出すには相手の心を引き出すしかないと思ってな……。俺に威厳を感じてもうヤバイくらい好きだと言う気持ちを奥底から引き上げるには相手の気持ちがわからないと行けない、その為には相手の思考を読み取るサイコメトリー能力が重要だと、そう思っただけだ」
「多分、司令官がその力持っててもあまり意味ないと思いますよ……」
「な、なにぃ!? 俺への威厳を感じている心を引き出すにはサイコメトリー能力でも駄目だと言うのか!?」
「よくわからないですけど、はい」
よくわからないって言ってるのに否定されたぞオイ。
……待てよ、つまりそれは吹雪が俺の実力を買っているということ。威厳を感じているからこそ俺に小手先の能力なんて不要と思ってくれている! そういうことか!
「全く、遠回しな信頼の仕方をしてくれるじゃないか吹雪。流石は俺の秘書官」
「えっ? は、はい……?」
ふっ、甲斐甲斐しい奴だ。わざと気付いていないようなフリをして俺を労わるその演技力には脱帽モノだ。
「吹雪のその俺への信頼ぶり、確かに受け取ったぞ。超能力には頼らず、己の手で乳は――いや、道は切り開くさ」
「一体どんな勘違いしたからそこまで考えが一変したんですか司令官……」
おいおい、そこまで気付かないふりをするような顔に声を出してくれるか。本当に優しい奴だ、ここは俺も気付かないふりをしておくのがいいだろうな。吹雪の気持ちを汲み取る為にもな。
そう考えていると時計の音が鳴って時刻を教えてくれる。現在時刻ヒトヒトマルマル、11時だ。
「そういえば、今日は新しい艦娘が入ってくるらしいな」
「はい、昨日元帥さんから直々の電文がありました!」
そうだ、電文と言う名のメールがあのクソジジイ共の一人である元帥、別名白長アゴヒゲ元帥から「一応、最近僅かながらに使えるようになってきているから、新しい艦娘を一人着任させてやろう」とか上から目線丸出しのメールが送られてきたのだ。俺の媚びへつらってやっている要望メールも全部却下の一文だけ送ってくるあのクソジジイからだ。
「確か、しゅうつしゅうだったか?」
「いえ、名前は――」
「全然名前違うかもぉーっ!」
ノックもなくバタンッと最早恒例の如く開くドア。だが、叫ぶ声は聞いたこともない声。
そこには、全然見たことのない艦娘がいた。胸部装甲はそれなり、なんかデカイ艦載機っぽいものも持っている。服装とかも見たこと無い感じで薄紫色っぽい髪色でもあり完全に見たこと無い艦娘だ。
「誰だね君は。この真・超弩級天才最強究極提督であり有能、そしてあらゆる深海棲艦に苦汁を飲ませた末に深海棲艦たちにとって危険な存在と認識された伝説レベルの新時代司令官な私に何か用かね」
「司令官、ちょっと盛りすぎじゃ……」
「吹雪くん、誤解を招くような発言は慎んでもらおう」
どこの艦娘か知らないが、最初に威厳を見せつけておくのは大事……! よく言うからな、最初が肝心と! 口調も威厳溢れる感じだし、これだけ言えばなんか凄い提督として認識されるはず……!
「何用も何も、今日からこの泊地に配属された水上機母艦の秋津洲(あきつしま)よ! 大艇ちゃんともども、よろしくかも!」
気のせいか。全然緊張とかしてない気がするぞ。って、あきつしま?
「あきつしま……? しゅうつしゅうなら解るが、君もウチに配属される艦娘なのかね?」
「司令官、《しゅうつしゅう》じゃなくて、今日配属される方は《あきつしま》さんです」
「何っ!?」
よ、読み間違えだと!? ば、バカな、確かに子日を《こにち》と読み間違えたり時雨を《ときあめ》と読んだり、日向を《ひむかい》と読んだことはあるが、まさかの4回目のミス……!
「もー、しっかりしてほしいかも! ちゃんと二式大艇ちゃんと一緒に名前覚えてよね! とりあえず、今後ともよろしくっ!」
うむ、元気の良いのはいいが……駄目だ、このままではいけない!
このまま終わってはマヌケな提督として印象付けられて終了だ。この秋津洲に良い印象を持たせ、口コミでやはり提督は威厳溢れる立派な提督だったと他の艦娘たちにも広めてもらわなければ行けない……!
「……やれやれ、私を甘く見てもらっては困るな秋津洲くん」
「何がかも?」
「今のはほんの小手調べ、私の冗談について来れるか試したに過ぎんよ」
「廊下の方で盛大にあたしの名前間違ってるの聞こえてたかも」
「……かも?」
「あっ、こ、これは口癖になっているだけかも……。じ、実際には聞こえていたってこと!」
「そ、そうか……」
つまり、夕立のぽいぽい言ってるのと似たようなもんか。まあ、そんな気はしていたがとりあえず話を戻そう。
「まあ、名前を間違えたのは君が来るのがわかっていたからだ。あえて、名前間違えの話題に乗ってくるか試したのだよ。我が提督スキルを舐めていただかないでもらおう」
「そんな嘘つかないで欲しいかも。提督の噂はあたし聞いてるんだからね!」
「何っ……? 私が異性にモテモテで、常に艦娘達から言い寄られているエリートイケメン提督という噂か?」
成程な、泊地内ではなく外で俺の有能性が噂されていたという訳か。全く、あのクソジジイめ、それを俺に教えてくれれば良かったのに。恐らく俺が出世して自分の位が下がってしまうのを恐れているんだろう、小さい所まで保身をかけるその慎重さは認めてやるとするか、ふっふっふ。
「全然違うかも」
「何?」
「見栄っ張りで馬鹿で阿呆でゾンビみたいに不死身な提督って聞いてたかも、白ヒゲの長い元帥の人から」
や、野郎……! あのクソジジイか、人をスカウトして大ぼら吹いたあのクソジジイか……! 正反対なことを秋津洲に吹き込みやがってぇぇ……! 誰がゾンビだあのヒゲ長ジジイ!
だがここで怒りを露わにしてはいけない。何故なら俺はクールスカッシュ提督、いかなる状況でも冷静にしかなれない提督だ。
「ほ、ほほぉ……? そうかそうか……だが残念ながらそれは全て嘘だよ、あの元帥殿は私に怯えふためきいつも眠れない夜を過ごしているからそんな悪口を言ったに過ぎない。全く、あのご老体は私のことを心底妬んでいるらしいなハハハ」
「……本当に見栄っ張りかも。あっ、秘書官の吹雪ちゃんの事も聞いてるよ、元帥さんがこれからもアホ提督をよろしくって言ってたかも!」
「き、恐縮です! 私だって司令官にいつも助けられてますし……」
「そうなの? 吹雪ちゃんは謙虚でいい人かも! これからもよろしくかも!」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
そう言って手を取り合う二人。おい、俺はスルーか。て言うか今聞き捨てならないこと言ってなかったか秋津洲の奴。
「でも、ごめんなさい秋津洲さん。お迎えも出来なくて……」
「いいかもいいかも! 元帥の人が、どうせ提督は暇だからさっさと行って来なさいって言ってたから時間より早く送ってもらっただけかも!」
「はははっ、奇特なことを言うボケ老人だ」
二人の会話に思わず声が出てしまった。誰がヒマだあのクソジジイ。人を何もしてないような印象を持たせおって……! やっぱ一度頓挫した計画を再開する必要があるか、贈り物に下剤入れてクソ提督に成り下がらせる作戦をな。くっくっく、俺を怒らせた自分を呪えジジイ……!
「まあ何はともあれ、このエリート提督の傘下に入ったからにはもうエリートな艦娘しかなれないからよろしく頼むぞ、ふっふっふ」
「任せるかも! 出撃の時には秋津洲流戦闘航海術をお見せしちゃうかも!」
きりっとした顔が少し可愛らしさを残す元気の良い返事をしてくれた。クソジジイは最悪だが、秋津洲は良い感じだな。
確か、水上機母艦だったな。見たところ練度はまだまだって所だし、千歳や千代田と一緒に頑張ってもらうとするか。逆にクソジジイには頑張らないでいただき引退していただくがな、けっけっけぇ!
「あっ、そういえば元帥の人から提督宛にプレゼントがあるよ!」
「俺宛に?」
あの面倒な口調は止めて、普通の口調で返す俺に秋津洲は頷く。
「大艇ちゃん、お願い!」
すると、ペッと吐き出すように現われる白い箱。――二式大艇が口みたいに開いたのは見間違えだろう。
そして、箱を両手で取って俺に差し出す秋津洲。
「艦娘には食べられない、天才提督専用せんべい詰め合わせセットって元帥からの贈り物だって! 早速もらうかも!」
「何っ!」
天才提督専用せんべい……!? そんな俺専用のせんべいがあったのか!
おのれクソジジイ、下げて上げるとはまさにこの事。秋津洲にはくだらない噂を伝え、実は敬服の意を込めた贈り物を送り俺の有能性を理解していると言うメッセージという訳だな?
「ふっ……やれやれ、元帥殿も人が悪い」
俺は差し出された箱を受け取る。
「ありがとう秋津洲、受け取っておくよ」
「お礼なら元帥の人に言ってかも!」
「そうだな、そうさせてもらうとするか。さて吹雪、そろそろ秋津洲を寮のほうに案内してやってくれ」
「はいっ! 了解です司令官! それでは秋津洲さん、私についてきてくださいね!」
「うん、任せるかも!」
俺に敬礼した後に吹雪は秋津洲を連れて執務室を出て行った。
さあて、天才提督以外に食べることの出来ないせんべいか……まずは一枚、食べて見るとするか。食い終わってから礼の電文でも送ってやるとしよう。まったく、回りくどい元帥様だぜ。
俺はそんなことを思いつつ、箱を開いてせんべいを食べた。
――――十秒後、凶悪な程の便意とともに白アゴヒゲ元帥野郎を絶対に暗殺すると心に誓った。