くぅ、せっかくの休みだと言うのになんでわざわざ煽って撃たれてしまったんだ俺は。誰だ暴力は愛情表現の裏返しっていった奴は! 痛いもんは痛いわ! 愛どころか殺意すら感じたぞあの叢雲の攻撃には!
まあ、叢雲の戦いは五分五分で勝負はついたしよしとしよう。若葉と吹雪が止めなければ俺が圧勝してしまっていたのは言うまでも――ああ、言うまでもないさ。マジで。負ける要素とかゼロだった。絶対。ああ、絶対!
叢雲との激戦の後は、掃除するということで俺は吹雪に追い出されてしまった。俺も手伝うと言ったんだが、休みの日はしっかりと休まなきゃ駄目です! と言われてしまったんで、掃除や執務室の修繕は吹雪たちに任せ、俺は泊地から最寄の町をぶらついていた。
無論、任せっきりにするのは流石に罪悪感があったので修繕ぐらいは手伝うと言ったが、それは若葉と叢雲に却下されてしまったのである。ったく、このハイパーデザイナー司令官を追い出すとはなんたることか。後で仕返し――いや、なんか甘いもんでも買って行ってやるとするか。そして俺の優しさに三人とも心打たれてもう俺の威厳に惹かれまくるって訳だな、ハッハッハ!
そんな訳で俺が向かっている所はケーキ屋――ではなく、レンタルビデオ屋だ。一応。
最近はDVDどころかブルーレイが主流になっている気がするが、こういう所は今なんという名称で呼ばれるのか少し気になるとこだな。まあ、とりあえずレンタルビデオ屋でいいか。
帰る前にケーキは買いに行き、まずは目当てのブツを手に入れる。目当てのブツは最早言うまでもないだろう。
「っしゃいませー」
入ると、店員の気の抜けた声が聞こえてきた。さあて、借りるとするか――アダルティなDVDをな!
さーて、18禁コーナーはどこだったかなーっと。
「あっ、提督じゃーん! ちーっす!」
ん、誰だ? 俺のおっかけか!?
ははは全く、この俺の知名度が町にまで知れ渡っていたとは。やれやれ、目立たないように生きるのも大変だぜ。
そう思って声をかけられた方向を見ると、いたのは――
「鈴谷じゃねーかっ!」
一瞬どこの女子高生かと思ったが最上型3番艦の航空巡洋艦、鈴谷じゃねぇか!
「そう鈴谷だよ! ていうか鈴谷しかありえないじゃん? 相変わらず提督って面白系だよねー」
「はぁ? 全然違ぇしー、つうかマジでありえねぇし! 女子高生の追っかけとか思った俺の純情返せって感じぃなんだが!?」
「返せって言われても提督は純情なんて既に自分から投げ捨ててる気がするんですけどねー」
「バカ、お前俺ほど純情な奴はいない。純情少年と言われた少年時代もあるほど純情だよ」
「ふーん」
全然信じて無さそうにニヤニヤしやがってこのヤロー……! エロスに純情なエロ学生と言われるほど中学時代は純情だったというのに!
「で、お前何してんだこんなところで。女子高生はさっさと帰って勉強しろ」
「誰がJKだし! それより提督こそこんな所で何してんの?」
「俺か? 俺はまあ、今後必要になる知識を高めに来たんだよ」
「ほぉーっ、例えば?」
「……大学のセンター試験問題のなんたらとか大学教授の実験のなんたらとか、軍艦の歴史的ななんたらとか歴代の提督のドキュメンタリーなんたらとか提督業に置いて必要ななんたらとか保健体育とかリーダーシップのある司令官に必要ななんたらとかだ」
「絶対見ないようなのばっかじゃん! ……あれ、一つだけなんか提督が見そうなの混じってた気が」
「気にするな。とりあえず俺に嘘はない、少なくともそういうものを1つは借りる為に来た」
そう、アダルティなのをな。求めるのはこう、お淑やかな娘が積極的に性的に――いやいや、脳内で語る訳には行かないなこれは。こういうのは帰ってからのお楽しみだ。
「じゃなくて話を逸らすな! 先に質問したのは俺だぞ!」
「別に逸らした覚えはないよ。まあ、ここに来た理由って言うのは三隈とDVD借りに来たんだよねー。ボッチな提督と違って鈴谷たちはちょー仲良しだからねー、もういっつも仲良く行動しちゃうんだよねー」
「誰がボッチだ誰が! いいか、俺はあえて一人で借りに来ただけだ。ボッチとかそういう言葉にはかなり無縁、いいや、そんな言葉は俺の辞書には不要って感じで罰印がついているぐらいだ。一声かければ世界中の美女から地底にいる地底人まで全員俺の元に集まるぐらいには俺はリアル充実提督なんだが? お前のように見栄っ張り娘と同じしないでもらおうか!」
「うわっ! 見栄っ張りの王様みたいな提督に言われるとなんかムカつくんだけど!」
「誰が見栄っ張りの王様だこの女子高生!」
「JKじゃないし! 艦娘だし!」
「まあまあ、すずにゃんも提督も落ち着いてください」
俺と鈴谷がにらみ合っていると、そこに割り込んで来たのは最上型2番艦、鈴谷同様に航空巡洋艦の三隈だ。別名くまりんこの三隈と俺はたまに脳内で呼ぶ。
「そんなに大声で話していると他の人から注目浴びてしまいますわ」
「三隈、俺は常に注目を浴びる存在だから一向に構わないぞ?」
「いえ、正確に言うとお店の方にご迷惑がかかってしまいますわ提督」
……うっ、確かに。
「……あ、ああ、そうだな。すまんすまん、この俺としたことが考え違いをしてしまった」
「えー、そんなこともわからなかったの提督ってさー」
悪戯っぽい笑みを浮かべる鈴谷。後で甲板ニーソ触りまくってやろうかコイツは。
「すずにゃんも煽っちゃ駄目ですわよ。もがみんやくまのんがいなくて寂しいのは十分に伝わりますけど」
「んなっ!?」
三隈の言葉に顔を赤くする鈴谷。そういや熊野と最上は遠征行ってたな。だから二人だったのか。
「ほー、寂しいのか、寂しいのか鈴谷ー?」
先ほどの鈴谷の真似をするように俺は聞くと、鈴谷は顔をツイッとそむける。
「べ、別にそんなことないしー! 熊野と最上がいなくても寂しくなんかないしー! 鈴谷たちは心で繋がってる感じだし、三隈がいるからマジで寂しくないし!」
「あら、嬉しいですわ。ありがとうですわ、すずにゃん」
「な、なんで礼とか言ってくるんだってば~~!」
何故か顔を真っ赤にさせて声を出す鈴谷を見て、右頬をしとやかに手で支える三隈。呼び捨てだが、どことなく姉妹な感じを思わせてくれるなコイツらは。
「で、そのすずにゃんってなんだ。鈴谷のあだ名か?」
「そうですわ。猫みたいに可愛らしいのですずにゃんなんですよ提督」
「……まあ生意気なとこは猫そっくりだな」
「ふふん、生意気なくらいが可愛いって言うしー」
さっきの真っ赤な顔もいつの間にか治まって生意気全開なことを余裕の表情で言う鈴谷。自分で言う台詞じゃないだろそれ。
「だが、三隈のつけたあだ名はまだまだだな」
「あら、そうでしょうか?」
「ああ、俺ならスズヤーヌ5世とつけてやるからな。この冴えすぎたネーミングセンスは凄いと思うだろ三隈?」
「三隈、言っちゃっていいよ。壊滅級にチョベリバなネーミングセンスって」
「誰が壊滅級だコラ!」
それにチョベリバって最早死語だぞ死語。チョーベリーバッド、略してチョベリバとか駆逐艦共に言っても絶対通じないぞ。
「いえ、提督のお付けしたあだ名も素敵だと思いますわ」
「おっ、そうか。いやー、三隈はよくわかっているな。よーし、DVD借りる代金なら払ってやろう」
「あら、良いのですか?」
「ええっ!? ズルっ! それズルくない!?」
「別にズルかないな。上を立てれば、上はそれに応じるのだ。成り上がるために重要な手段と覚えるがいいぞ鈴谷」
通用しない例外もいるがな。あの白長ヒゲ元帥ジジイとか言う暗殺対象のクソジジイが。
「な、なんか納得行かないしー」
「ふふふ、大人の世界は大変だからな。そんな訳だ、今回は特別にお前の借りる分も払ってやろう」
「えっ、いいの?」
「おう、下に与えることも威厳溢れるかっこよすぎる提督として重要なファクターだからな。そしてこの提督の寛大かつ偉大さに心打たれるといいぞ! ふははははっ!」
「ふひひっ、あざーっす提督! マジ初めて提督カッコいいと思った!」
「初めてってオイ」
今までお前は俺をどういう目で見てたんだよ。
「まあまあ、提督の素敵な行動をすずにゃんは褒めてるんですわ」
「そうそう、超褒めまくってるだけだって!」
なんか釈然としないが、まあ褒められて悪い気はしないな。ふふふ。
「だがただし、自分達のカードで借りるんだぞ。俺は別々に借りるからな」
「えっ、なんで? まとめて借りた方が楽じゃん?」
「そうですわ、提督も一緒にお借りして一緒に視聴しませんか?」
「えっ、まあ、それもいいがな、俺はちょっと早めに返すかも知れないしな。だから別々に借りるべきとかそんなんでな」
いかん……一緒に借りたら俺がアダルティなのを借りられなくなってしまう! 確かに、最早そういうのを借りてもおかしくないと俺は一部の艦娘からは思われている気がしなくもないが、せっかく俺の行動に偉大さを感じた二人の評価を下げてしまうのは芳しくない……! だが、アダルティなものを借りずに帰るのも口惜しい……!
「あっ、もしかしてアニメとか借りようと思ってるから威厳保てないとか思ってるの? へーきへーき! 鈴谷も三隈もアニメとか全然イケるから問題ないって! 深夜アニメだって余裕だし!」
ええい、借り辛いジャンルが違う。違うんだよ鈴谷!
「いや、そういう訳でもなくてな。さっきも言った通り、俺の選ぶジャンルはちょっと渋さとバイオレンスな感じがもうなんか凄いからな、お前達には目に毒と言えば毒になるんだよ。それに俺は探すのも長くてな。それに帰りは吹雪達にケーキも買わなきゃならないと時間がかかりすぎてしまうから、先に行ってもらう為にもだな」
「あら、お気遣いなく提督。せっかく提督がお金を出していただけるのに薄情にも帰ったりはしません、お付き合いいたしますわ」
「うんうん、気を使うなんて全然らしくないじゃん。もっとついて来いみたいな感じで全然オッケーだって。鈴谷だって帰ったりしないって!」
ぐぅぅぅぅ、この信頼感がいつもならありがたいのに! 嬉しく感じるものなのに最大の障害みたいになっている! 二人の優しさを物凄く感じるおかげで断りきれもしない! て言うかこれ墓穴掘ってないか!? 変に事情話して自分でアダルティなの借りる可能性潰さなかったか俺!
「いや、大丈夫だ! 提督は大丈夫ですから!」
「榛名さんみたいな口調になってますわよ提督?」
「まあまあ、実は決めてないとかだったら鈴谷も一緒に探してあげるからさ。ほーら探すよ提督ー!」
「お、おい! 腕に絡めるな!」
「あら、提督まだ決めておられなかったんですのね。それならくまりんこも一緒にお探ししますわ!」
「でぇぇぇっ! 三隈まで!?」
左腕に三隈。右腕に鈴谷が腕を組んでくる。ははは、両手に花って奴か。エリートなら仕方ない状況――じゃねえよ! このままじゃ清楚系エロスお姉さんやアダルティ美少女が借りれない! 借りられない!
「あっ、アレとか楽しそうじゃん提督!」
「あちらも面白そうですわよ提督ー」
待て、待つんだ! そっちはアダルティコーナーとは反対なんだ! というかお前ら自分の好みのもん押してるだけじゃないのか!? コメディだのラブロマンスだの!
ああっ、遠ざかって行く! 俺の――俺の! エロスティックアダルト清楚系だが実は性的美少女ビデオ達ぃーっ!!
――結果、俺は最早吹っ切れたかのごとく一般DVDを三隈と鈴谷たちと探し、吹雪たちにも見れそうなもんも借り、ケーキを買って泊地へと帰っていった。
だが、俺は誓っていた。――――次の休日には、必ず借りてやると、深海棲艦打倒とか言うもんは投げ捨てて心の奥で強く誓った。