どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と筑摩

「……ふううっ」

「今日は天気が良いですね。利根姉さん、今頃お昼寝してるかなぁ」

「はあああっ……」

「でも、利根姉さん暑いの苦手だから昼からはちょっと寝苦しくなっちゃうかもしれないなぁ」

 

 ……今日の秘書官である重巡洋艦、利根型2番艦の筑摩は俺の深く辛そうな溜め息に気付かずに、語りながら外の景色を見ている。ええい、何故気付かない。こっちは中々にセクシーな左足の絶対領域をチラチラと見ているのに。

 仕方ない、さりげなく分からせてやるとしようか。

 

「ためぇぇぇいきぃぃぃぃぃ、してぇぇぇるぅぅぅぜぇぇぇ、はああああああぁぁぁぁっ!」

「えっ、なんですか提督? 新しい必殺技とかの練習ですか?」

 

 こっちを振り向く筑摩。やれやれ、ようやく気付いたか。さりげない溜め息が必殺技に聞こえるなんて、筑摩は割と天然かも知れんな。

 

「いやいや溜め息だ溜め息、別に故意に出した訳ではないがな。なんかつい、出てしまったんだよ」

「そうなんですか……そんなことより提督、昨日提督は首の骨が折れたのと聞いていたので流石に当分お休みすると思ったんですけど、なんでそんな余裕でいつものように座っているのですか? 流石にゆっくりしていると思っていました」

「いやいや、首の骨が折れたってのは言いすぎだろ。首を捻っただけだ」

 

 弥生たちめ、俺を心配するあまりに誇大表現で色んな人に伝えてしまったらしいな。やれやれ、威厳ある提督ってのはよく心配されるから仕方が無いか。蘇ったは言いすぎだぜ。

 確かに、昨日判子を押すのをミスってしまい、机にぶつかってグキッと首を捻ってしまったが所詮その程度の事だった。

 

 死んだはずのバアちゃんや父さんが花畑にいるビジョンは見えていたが夢だ。こっちじゃなくてアンタはあっちとかお前はアッチだとか言いながら地獄みたいな方向に指を差していたし、可愛い息子や孫にあんなとこを紹介するはずもないだろうし完璧に夢だろう。

 起きたら医者もいて、弥生もいて飛鷹も加賀もいた。医者も加賀も飛鷹もあの弥生もハトが豆鉄砲食らった顔をしていたのは面白かったから笑ってしまった程だ。表情が固いって言ってたくせにそういう顔も出来るじゃないかとも思ったから思わず弥生の頭を撫でてしまったぐらいに表情が変わっていた。

 

 そういや医者は信じられない、とか変な事を言っていたな……恐らく、俺の提督力が凄すぎて信じられないって感じに気圧されてそんなことを言ってしまったんだろう。今考えるとあの医者、俺の提督力がわかるほどに凄い奴だったのかもしれない。そしてあふれ出す提督力を見せてしまう俺もまだまだ未熟か、ふっふっふ。

 

「そうでしたか、でも提督でしたら死んでも蘇りそうだとは思いますのであながち嘘じゃないかも知れないですね」

「ははは、いくらこの天才最強提督な俺でも死までは超越出来ないさ。過大評価し過ぎだぞ筑摩」

「過大評価というか、なんと言いますか……」

 

 苦笑いを浮かべる筑摩。成程、俺の凄さは言葉に表せないって奴だな? やれやれ、ウチの鎮守府は謙虚な連中が多いぜ。未だハーレムに入りたいという告白も来ないしな。

 

「でだ、俺が何故溜め息を吐いていたか気にならないか?」

「えっ? さっきまでのは何かの呼吸法ではなかったのですか?」

「おおっ! そうそう、こう武術的な呼吸法の一つでな? 提督拳と呼ばれる、提督にのみ伝わる呼吸法――って違う! 普通に溜め息だ溜め息!」

「あら、すみません。提督なのでありえるかと思いまして」

 

 驚いたように口元をお上品に手で隠す筑摩。やれやれ、確かに俺はストリートファイター提督とも言われかねないが、執務室で呼吸法なんてやる訳ないだろう。全く。

 

「では、なぜ溜め息を吐いていたんですか提督?」

「そうか、知りたいか?」

「ええ、是非教えて欲しいです」

 

 ニコニコと聞いてくる筑摩、やれやれ、そこまで聞きたいのなら仕方が無いな。

 俺は立ち上がり、ゆっくりと歩き始める。

 

「そう、今筑摩が言った通り俺は首を捻ってしまった。だがそれは、判子押しミスとか言う情けない失態をしてしまった事実をも表す。故に俺は溜め息を吐いていたのだ、自らの威厳が再び損なっているという、悲しき事実の為に」

「まあ、それは大変ですね」

「だろう? これは非常に大変な問題だ。お前の姉、利根にとってもだ」

「姉さんにとってもですか……それは、凄く大問題ですね」

 

 気のせいに決まってると思うが、利根の名前を出した瞬間にさっきとはうって変わって滅茶苦茶真剣な顔をしたように見えるな。まあ気のせいだろう。

 

「でもそれが利根姉さんと一体どんな関係があるのですか?」

「ああ、利根は将来俺のハーレムに加わる予定だ。それなのにこのままでは利根はハーレムに入ろうと思わなくなってしまう。――聡明なお前なら分かると思うが、筑摩、つまりお前にもその問題は関わっているんだ……!」

「…………」

 

 少しの沈黙の後、アゴに手を置いて目線を少し上にあげる筑摩。そして改めてこちらを向きなおす。

 

「それは大変なことですねー」

 

 ……何故ニコニコしながら言うんだ筑摩。まるで不安を解消しましたって感じの顔で。

 

「筑摩、わかっているのか? この事象の大変さに」

「はい、わかってます。提督の人生が大変、ということですよね?」

「そうだ、なのに何故そんなニコニコしてるんだ」

「えっ? あらやだ、すみません。提督は真剣にお悩みになっているのにニコニコしてしまって」

「……そう言っているのに何故ニコニコしっ放しなんだ筑摩、コレはお前の将来にも関わることなんだぞ……!? もっとしっかり真面目に聞いてもらわないと困るぞ!」

 

 やれやれ、筑摩も俺のハーレム要員の一人なんだからその辺自覚を持ってもらわないと困るもんだ。

 

「……すみません、提督」

「!?」

 

 と思うと、急に落ち込んだような顔をしてしまう筑摩。し、しまった、言い過ぎてしまった!?

 

「い、いやっ、別にそこまで気にしてないぞ? ほら、笑顔は良い事だしな、ただ将来的なこともあるからこそ真剣に聞いて欲しいとな……」

「……すみませんでした提督。提督が真剣にお話をされているのに無神経に笑顔で返してしまうなんて……秘書官、失格ですね」

 

 顔を背けて俯かせる筑摩。も、もっと落ち込み始めた!? 下手したら泣いてしまいそう!? ま、まずい、ハーレム談義で艦娘を泣かした男なんて知れ渡ってみろ、それこそ威厳も――って、そんなん今はどうでもいい!

 

「い、いやー、気にするなよ筑摩ー、て言うか俺のハーレム談義にそこまで真面目に耳傾けてくれていつもありがたいと思ってるんだぜ? だからほら、泣くより笑おうぜ? やっぱ話は楽しくしようぜ! 例えばほら、加賀と赤城のパンチ力はどちらが上だとかさー!」

「…………ふふっ」

「俺的には意外に蒼龍が――って、えっ?」

 

 クスリと笑った気がすると思うと、筑摩は落ち込んだ顔を一変させて、また笑顔でこちらに向き直った。

 

「すみません、冗談ですよ提督」

 

 その笑顔はさっきまでと同じ、楽しそうな顔だ。――ほっ、落ち込んでた訳じゃないのか、なら良かった。――じゃない。

 

「お、お前なぁ、この提督をからかうなんて許されざるぞ?」

「すみません、なんだか提督が利根姉さんと似てるところがあったのでついつい」

「俺が利根と…………?」

 

 …………いや、全然似てないだろ。ちょっと大人ぶって、自由奔放なとこがあるが中々面倒見のいい奴ってのが俺にとってのアイツのイメージだが、パーフェクトエリート提督な俺とは似ても似つかない。

 

「いいや、全然似てないな。お前の気のせいだ、流石の利根でも俺のスーパーエリート提督な感じに似たところはさっぱりない」

「あら、そうでしたか、それは失礼しました」

 

 そう言った筑摩の顔は笑顔で、失礼したって顔には見えない。まあいいか、普通の提督なら諌めてしまう所かも知れないが、何となくピンと来てしまった。

 好きな子にはイタズラしてしまう、それはこの時代にも残る言葉だ。つまり筑摩は俺が好きでしょうがないからついお茶目なイタズラをしてしまったと言うことに他ならない。そうなると心の余裕も出来るというもんだ。

 

「全く、仕方が無いな筑摩は。ともかく、次俺をからかうという天も恐れそうなことをやったら胸部装甲と艤装をまさぐっていじってやるからな?」

「それをされたら流石に通報してしまいますよ提督……」

「! ……ば、バカ、冗談だ冗談。お前が冗談を言ったから言い返しただけだハハハ」

 

 苦笑いで言ってきた筑摩に言い返す。あ、危ない危ない、まだそこまで許されてはいなかったか。心の壁はまだまだ厚いってことか、やれやれ。

 

「さあて、そろそろ艦娘達の訓練でも見に――――」

 

「提督よぉーっ! おるかーっ!」

 

 その瞬間であった。

 髪型がツインテールで、筑摩と同じく左足の絶対領域で男性の心を揺さぶる服装の艦娘が元気よくドアを開けた。その艦娘は――

 

「……利根姉さん?」

 

 利根型1番艦の重巡洋艦、利根だった。相変わらず嫌気のない笑みを見せてくれるぜ。

 

「おおっ! おったか提督!」

「なんだ利根、筑摩と俺は今将来について話し合っていたんだぞ?」

「なんとっ!? 筑摩! 我輩はこれを将来の婿にするのはお勧め出来んぞ!?」

「これってお前な」

 

 俺に指を差しながら筑摩に言う利根。一応、お前の提督だぞ。色々歪んだ愛情表現で変な言われ方をするが俺はスーパーエリート提督だぞオイ。

 

「利根姉さん、そういう将来の話ではないので大丈夫ですよ。それより何かあったのですか?」

「おおっ、そうじゃった。提督、大変なんじゃ!」

「一体どうした? ――はっ、もしや俺のファンがここに押し寄せて来ているとかそういうのか!?」

「そんな妄言か戯言なんぞではない! ――いんべーだーじゃ!」

「何っ!?」

 

 インベーダー、だとっ!? て言うか今さらっと俺の発言を妄言扱いしやがったコイツ。ええいそれよりもだ。

 

「インベーダーって、あのドット絵のインベーダーか!? 俺が凄腕のゲーマーと持て囃されチヤホヤされていたが、その俺を超えたゲーマーがいて天下が一瞬で終わってしまったという苦い思い出を作り出させたあのシューティングゲームか!?」

「いや、それは知らん……じゃなくての、見たこともない怪物をこの泊地でさっき見たのじゃ!」

「なんだと……!? それがなんでインベーダーだ?」

「うむ、それは簡単じゃ。その方が危なそうな感じがするじゃろ」

「成程……正論だ」

「じゃろう」

 

 俺と利根は頷き合う。流石は利根、この辺りの冷静な判断は重巡洋艦達の中でも1、2を争う程だ。名前によるインパクトは非常に重要だ。

 

「利根姉さんの見間違いとかではないのですか?」

「なっ、我輩を疑うのか筑摩!」

「いえ、そうではないのですけど……」

「我輩はこの両目でしっかり見たのじゃぞ! 黒っぽい何かを!」

「なんだ黒っぽい何かって――――まあそれよりも、そのインベーダーは今どこに」

「うむ、見つけた瞬間に我輩は逃げてしまったからわからん」

「そうか、まあいい判断だ。海上ならともかく、陸上だとどうなるかわからないしな」

 

 俺ならまあ、余裕でぶっ倒せて――いや、やっぱ戦略的撤退するな、無茶はよくない。ビビッてはいない、全然ビビッてない。

 そう考えていると、少し肩を落とす利根。

 

「すまぬ……あの時は驚いて逃げてしまったが、よく考えれば我輩は逃げずに戦うべきだったのに」

「だから良い判断って言ってるだろう? 無謀な真似は、それしか手が無い時だけだ」

「そうですよ、利根姉さんは偉いです」

「ううっ、筑摩ぁ~」

 

 涙目な利根を宥めるように撫でる筑摩。やれやれ、どっちが姉かわかったもんじゃないな。――おっ、今の言葉は口に出した方がカッコいいぞ。よし、今から言おう。

 

「やれやれ、どっ――」

「まあ、提督に無謀と言われても説得力がないとは思いますが」

「それはまあそうじゃな」

「うぐっ!?」

 

 言おうとする前に説得力なしとか言われてしまった……! く、くそぉ、今の台詞は俺の名台詞ベスト10位に入れようと思っていたのに! いや、それより早く弁解しなければ!

 

「ま、まあ俺は提督だからな、ダイナマイトクラッシャー提督だからな、俺は無謀と思わせて全然無謀なことはしていないからな、むしろ他から無謀と思われていることは俺にとって無謀とは言えないって感じだな。――そんなことよりだ、人畜無害かどうかは知らんがもしそいつが訓練場などに現われてしまったり、倉庫や工廠に現われてしまえば混乱を招きかねない。すぐに公にするのは控え、さっさと編成を組んでどうにかするに限るな」

「そうですね。……なんだか提督らしい事言うのが少し不思議に思ってしまいます」

「うーむ、いつもがいつもじゃしなぁ」

 

 クスッと笑う筑摩。フッと笑む利根。今のはどこも笑いどころないだろう!

 

「じゃが、やはり教えた方が良いのではないか? いくら訓練が中断になると言っても、危険を回避するに越したことはないじゃろう?」

「うーん、まあそうだな…………やっぱりそうすべき――」

 

 いや、待てよ。

 一応相手の出方次第で倒そうとは思っていたが、捕まえるのはどうだろうか。よし、脳内シミュレーションだ。

 

 インベーダー現る。それを捕まえたとなると俺はテレビ局に報道される。そこで俺の威厳の溢れっぷりを演説する。そしてウチの艦娘がいかに有能かをアピールしつつ、全て俺のハーレムに加わっている事もアピール。すると未確認生物を売り飛ばして金も貰えて、俺は全国の美少女に惚れられてしまう。そして更なるハーレムの建造――これだ!

 

「いや、それはやはり止そう。それより、そのインベーダーは捕まえるべきだ」

「あら、何故ですか?」

「そのインベーダーを捕まえて金にして更なるハーレムけいか――いや、命を無慈悲に奪うってのもアレだからな、出来れば穏便に事を進めたいんだ」

「お主、言い直したつもりで欲望ダダ漏れじゃぞ」

「いや、気のせいだろう。ともかく、加賀とか陸奥には却下されるだろうし、その辺りの耳には入れないようにはしたい。暗躍、って奴だ。そう――暗躍だ」

「何故2回も言ったんじゃ。じゃなくての、別にそれでも良いがもしものことがあったら、やはり危ないじゃろう?」

「そこなんだよな、暗躍によるその辺の危険性は俺だってわかっている。だが、暗躍して捕まえた後にテレビ局に顔を露出して知名度を上げ、暗躍しつつ威厳溢れる提督としてアピールも――」

「暗躍暗躍うるさいぞお主!?」

 

 ぐっ、暗躍と言う響きの良さに惹かれてつい使いすぎてしまったか。

 けど確かに、捕まえたい気持ちはあるが暗躍し過ぎて艦娘たちが怪我をしてしまえば元も子も無い。どうすれば良いかと言われると、まずはそのインベーダーがいることを全員に伝えて対応するのがベストだろうな。……そうなると、俺の計画もおじゃんになるが。

 

「…………ともかく、なんとか捕まえたかったんだが艦娘たちに対する危険性を考えるとやっぱ、捕まえるのは諦め――――待てよ!」

「いきなり声をあげてどうしたんですか?」

 

 筑摩の不思議そうな問いかけに俺はニヤリと、歯を光らせる。

 

「――いい考え、思いついたぜ」

 

 と、滅茶苦茶イケメンな感じで言った。これはもう、目がハートマークになってもおかしくないぐらいのイケメンっぷりだ。こんな感じのイケメンボイスを五月雨に聞かせた時には、提督、風邪気味ですか? と言われたがまあ五月雨はまだ駆逐艦故にこの大人のボイスはまだ効果が無かっただけだろう。絶対にそうに違いない。

 

「……凄いろくでもなさそうな考えじゃと思うの我輩だけか」

「利根姉さん、言っちゃ駄目ですよ」

 

 呆れ顔の利根に対し、口元に人差し指を当てて言う筑摩。せっかく格好良くいえたのに声には反応無しか! スルーか! そして信用を全然してないなお前ら……!

 

 だが見てろよ、俺の作戦にアッと言わせてやるぜ……!

 

 インベーダー捕獲してかっこよすぎるエリート提督は更にモテモテで威厳溢れてマイッチングなテレビ出演2時間スペシャル大作戦をな……!

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