それから約1時間後、俺の作戦は見事に決まってしまった。
最早奇策、歴代に残る奇策と言っても過言ではない。提督界の諸葛孔明、もしくはハンニバル・バルカ、いや、竹中半兵衛と言われてもいいかも知れん。いや、それは言いすぎだな、流石に歴史上の天才軍師と言われるにはまだ早いか。まだ、な。ふふふ。
まあ今回は軍略じゃないが、これが上手く行ってしまったことにより俺なら軍略にも活かせるほどのスーパーコンピューターブレインの持ち主だと言う事が判明されてしまった。
「提督よ」
「なんだ利根、あまりの天才っぷりに惚れたか?」
「いや、お主大アホじゃろ」
「何っ!?」
これは予想外の反応!?
「お前、そこは尊敬の念を送るべきだろ!? 提督力抜群の采配に、惚れまくるべきところだろう!?」
「いや…………呆れるじゃろ、なんで泊地にいる者を我輩たち以外全て遠征に出すなんて無謀な真似をしたんじゃお主はぁ!」
今にも噛み付きそうな感じで言ってくる利根。少しビビッたのは内緒だ。
そうさ、俺はこの泊地にいる僅かな艦娘たちやその他の人達を遠征に行かせたり買い物に行かせたりした。
「ふっ、コレにより気兼ねなく、そして危険も及ばず探索が出来る。更に資材も増えるし完璧な采配だ。これからはハイエリートマスター提督と呼んでくれ」
「呼ばんわっ! これで深海棲艦がこの泊地を攻めてきたらお主どうするつもりじゃ!?」
「……はっ、確かに」
「て、提督! 利根姉さん! 深海棲艦が大量にこちらに向かってきます!」
「うわーっ! 言わんこっちゃない!」
ば、馬鹿な、俺の采配が、間違っていたというのか……間違って、いたと!
「す、すまない筑摩、利根、俺がこんな作戦を立案してしまったばかりに……」
俺は無力感にうな垂れる。このパーフェクトスーパー提督が、こんな失態を犯すなんて……。
「いいんですよ、提督」
「……筑摩……」
「そうじゃ、我輩も提督とならば本望じゃ」
「利根……」
くっ、そんな言葉をかけられてしまっては余計に申し訳がたたないじゃないか……!
「ただ、最後に一つお願いしていいですか?」
「……なんだい、筑摩」
「私は、提督がだ――」
ゴオォォォォォォンッ!
***
「……っ~!」
運動スペース近くの通路を歩いていた俺は頭を押さえた。何かが頭蓋に当たった……! もう少しで筑摩が俺に隠していた思いを打ち明けるシーンだったのに誰だ! 人の現実的妄想の邪魔をした奴は!
「すみませーん、ボール飛ばしちゃいましたー」
「って、あれ提督っぽい!」
野球ボールが飛んできた方向を見ると、走ってきたのは駆逐艦の夕立と五月雨だ。お前らな、当てるにしてももう少しタイミングがあるだろタイミングが!
「す、すみません提督! 手が滑ってしまって!」
五月雨が申し訳無さそうに頭を下げてくる。どうやら夕立とキャッチボールをしていたようだ。
だが、俺とて鬼では無い。ここは寛大な心で許――。
「いや、気にすることはないぞ? じゃが提督以外に当たってしまっては危険じゃ、次は気をつけるんじゃぞ!」
「は、はい!」
「すみませんでしたっぽいー!」
利根が言うと、夕立と五月雨は一礼してキャッチボールしに戻っていった。いやー、お姉さんしてるじゃあないか利根は。ははは。――ん?
「っておい、今当たったの俺なのになんでお前が許した?」
「うむ、まあその場のノリと言う奴だな」
「成程……納得だ」
「じゃろう」
うんうんと、俺は利根と一緒に頷く。ノリか、ノリなら仕方ないな――
「と、納得する訳あるかぁ!」
「や、やっぱり駄目か?」
苦笑いする利根。だが、ここでふにゃけた小僧のような回答をしない、それが俺だ!
「当たり前だ……! そして俺以外ってどういう意味かも少し教えてもらおうか……?」
最早俺は修羅。そう、寛大なだけでは提督とは務まらない。事と次第によっては、利根の装備をドラム缶だけにしてしまうほどの鬼となる……!
「お、落ち着くのじゃ提督よ! そこは、あれじゃ!」
「あれ、とは?」
「あんなボールの一つや二つ、提督ならば効かなかったり避けられるじゃろうが我輩たちだと少し危ないと思ってそう言っただけじゃ、けして提督は死なんから問題ないとか思っておらんぞ! けっして!」
慌てて弁解してくる利根。――成程、つまり利根は俺を信頼していると言う事か。ふう、まあそれなら仕方ないな。やれやれ、そういうことは早く言ってもらいたかったものだ。
「そうか、その信頼は嬉しいがいくら俺でも野球ボールは効くぞ」
「そ、そうじゃな! 我輩も浅はかな考えをしてしておった! わはははっ!」
動揺した感じで笑う利根。笑顔の似合う奴だが、なんで焦ってるんだ?
「それに、奴は俺の好敵手――尚の事、無傷じゃいられん相手だからな……」
「むっ? それはどういうことじゃ?」
「――アイツは、白球の野球ボールは好敵手と書いてライバルと呼べる存在だ。俺が認めた男だからな、アイツは」
「ん? 何故野球ボールがライバルなんじゃ?」
「ふっ、近く遠い思い出話だ」
あの時、俺を暗殺する気概を持っていた奴は後にも先にも奴だけだった。この俺の将来性を見抜いた奴はな……。
「ふむ、提督にも色々あるんじゃな」
「そうだ。まあミステリアスノベル提督とでも今後は呼んでいい」
「いや、それは遠慮しておこう」
「いや、遠慮せずにガンガン――」
「それより提督、作戦とはどういうものなんですか?」
筑摩の一言で思い出す。ああ、そうだった。さっきまで妄想していた作戦の事を言うのを忘れていた。よし、早速伝え――って、しまった……!
今考えていた作戦は脳内利根にアホと言われて、深海棲艦に滅ぼされ、俺と筑摩が悲劇的に結ばれるエンドで終わってしまったじゃないか!
「どうした提督よ、何故いきなり汗をかき始めておる?」
「あ、ああ、いやー、あつはナツいからな。汗くらい書くさ」
「いつの時代のギャグですか提督?」
クスクスと笑う筑摩。まずい、どうにかいい感じの作戦を言わねば。だが、とりあえずさっきの作戦はまずいってのは脳内妄想でわかってしまった。……どうする、この俺がエリートインベーダーゲット提督になる為にはどういう事を言えばいい……!
……そうだ、俺は閃きの天才! こういう時にこそ閃くのだ。
まずは目をつぶる事により集中力を高める。……来い、閃け!
……来ている、脳内に来ているぞ。天の声、閃きの声が……! さあ、教えてくれ、この天才の脳に閃きを与えろぉっ!
《小僧、モテるにはな…………先手必勝、脱がす前に脱げじゃ。ワシはこれで、何百人もの女子(おなご)をキャーキャー言わせたぞ……!》
……はっ! この言葉は、幼少の頃に近所のモテないじいさんに聞いた名言! 公然わいせつ罪で何度も捕まったじいさんの台詞じゃないか! だが、何故それが閃くんだ…………?
……そうか! つまり、そういう事か!
「よし、作戦の全貌を教えるぞ二人とも! その作戦は……!」
俺は胸を張る、そして――閃いた言葉を言う!
「泊地内にいるもの全てが、全裸になぁるっ! そして黒色の奴がいたら、まずは可愛らしく怯える感じで俺に抱きついてから恐怖を乗り越えて、インベーダーを捕まえ、俺のハーレムの一員として距離感を大きく近づかせる大さくせ――!」
「命令阻止っ!」
「ごふぉっ!」
ビターンとカエルのように地面に張り付いてしまう。
う、ううっ。え、延髄に、誰かの蹴りが。な、なんて威力だ、もう主砲級だろこれ。
「ん? おお、長月ではないか! こんな所で何をしてるんじゃ?」
俺はまるで何事もなかったかのようになんとか立ち上がる。そうか、今の蹴りは長月か。駆逐艦、睦月型8番艦の長月か。流石は長月、駆逐艦と言って侮るなとか言っていただけある蹴りだ。
「ああ、ちょうど散歩をしていたところだ。そしたら司令官がトチ狂った作戦を言っていたのが聞こえたと同時に考える前に身体が動き、言わせる前に蹴ってしまった……命令になってしまうと、流石に困るからな。すまない司令官」
ぺこりと謝る長月。やれやれ、やんちゃな駆逐艦だ。やんちゃ過ぎるのも困りものだ。
「なあに気にするな長月よ、提督はあの程度ではくたばらんほどの生命力の持ち主じゃからな」
「長月さんは案外武闘派ですねー」
「だが俺から言わせればまだまだ、と言うところだな。今の蹴りでは所詮駆逐艦止まりだぞ、長月」
そう、長月の蹴りは所詮駆逐艦の主砲止まり。まだまだ、このメタルコーティング司令官を倒すには程遠い。
「その割には痛そうに身体を震わせとるぞ提督よ」
「これはあれだ、長月への将来性を考えて、とんでも逸材が現れたかもな……、的についぶるっと震えてるだけでけして痛くは無い。だからもう延髄蹴っても無駄だから絶対蹴るなよ長月さん」
「なんで長月に敬語つかっとるんじゃお主」
「使ってない、今の延髄蹴りに長月サンダーとつけただけだ」
「つけないでくれ司令官。もう技名はついている」
「ついとるのか!?」
俺の咄嗟に考えた必殺技名をあっさりと却下する長月に驚く声を出す利根。ま、まあいい、とりあえず言い間違えたことはごまかせたから良しとしよう。
「で、何故あんなトチ狂った作戦を立てようとしたんだ司令官。おかげで私の必殺、神速延髄蹴りが発動してしまったじゃないか」
「ああそれはだな、俺が天才故に常人とは違う発想をしてしまったが故に思いついてしまった作戦なんだ。だがいずれ、この作戦は世界にも通じる作戦になる。しかし、もう一度延髄蹴り食らうのはこわ――いや、そんな奇策で慣れない作戦はまだお前達には難しいだろうと、お前の蹴りを食らって思い知らされたよ。効いてないけどな」
滅茶苦茶痛かった。痛すぎたが、流石に駆逐艦の蹴りに慄いているなんて艦娘たちには絶対に言えないからな……!
「そうか、流石は司令官だな……! 私以上の艦娘はいないと思っていたが、やはり立ちはだかるは司令官か……!」
おい止めてくれ、闘志を燃やすな……! 燃え上がって超神速延髄蹴りとかそんな技を身につけようとするなよ……! いくら俺でもまずいからな、延髄どころか首から上の頭蓋骨がパイルダーオフって感じでもげそうだから止めろよ!
「それで、何故そんな作戦を思いつこうと思ったんだ?」
「実は、いんべーだーが泊地内に現われたんじゃ」
「いんべーだー?」
長月の言葉に利根がうむ、と頷く。
「そうだ。んで、さっきの作戦を考えたんだけどな――やっぱ少数精鋭によるインベーダー捕獲作戦で行こう。よくよく考えれば、人数を増やしまくれば見つかるってもんでもないだろうからな。一応、訓練所とかにいる何人かの艦娘にも伝えておくさ」
さっきの延髄蹴りを食らって閃いた案を伝えるとみんなは納得してくれる。よし、とりあえず神通とか加賀とか陸奥に重要なことは言わずに伝えよう。最初からそうすれば良かったぜ全く。ふふっ、俺とした事が悪知恵が働かない頭で困るぜ。
「成程、ならばこの長月も力になろう。駆逐艦と侮らないでくれよ、司令官」
「そうか。ありがとな長月、頼りにさせてもらうぞ。その自慢の蹴りで是非ともインベーダーを昏倒させてくれ、首は刈るなよ」
「いや、それは流石に無理だぞ司令官」
出来そうだから言っているんだ長月……!
「さあ提督よ、早く探索に行こうか!」
利根が元気よく言ってくる。そうだな、さっさと捕まえて俺の提督人生を更により良いものにしないとな! うっはっはっはっは!
「の前に、なんでさっき長月の蹴りをお前が許し――」
「提督よ、そんなことよりも早くいんべーだー退治か捕獲せねばならんぞ! 時は一刻を争うのじゃ!」
はっ、そうだった!
「そ、そうだな! よしっ! とりあえず今度こそ作戦を実行する! 作戦名、オペレーション・ハーレムオブゴールドマネー・ザ・モテモテメディア・イン・インベーダー!」
「「「…………」」」
……あれ、反応が薄い。
「…………色々とひっどい作戦名じゃなぁ」
「提督ですからー」
「司令官だしな」
……ふ、ふふふ、今まで俺の作戦名に対してセンス良いですねの一つも言われた事もないが、今回もやはりこの最強天才提督の近未来的センスにはまだまだついていけないか。――おまえら覚えていろよ、ちくしょー。
こうして、今度こそ作戦を開始する事にした。