「……ああ、空はあんなに青いのに」
廊下を歩きながら、俺は思わず扶桑の言葉を真似て呟いてしまった。
はああ、昨日は本当散々だった。第六駆逐隊メンバーが喜んでいたからまあ若干は良いとしても、やはりおっぱいをじっくりと見る機会を失ったのは口惜しい。演習は当分どっかの幼い軽空母とかどっかの装甲空母とかが目玉らしいし全く興味がない。近くの提督が妙にテンション上がっていたが、何故テンションがあがるのかさっぱりわからん。出るものが出てないのに見て一体何が楽しいというんだ。
まあいいさ、とりあえず今日も1日やってやるか。とりあえず何とかモチベーションを高めねば……。
「あっ、提督おはようございます」
執務室に入ると、右手に装着された艤装がよく目立つショートカットの艦娘、重巡洋艦の古鷹がいた。今日も左目は明るそうである。
「おー、今日は古鷹が秘書官か。吹雪はどうしたんだ?」
「吹雪ちゃんなら今日は工廠の方で開発任務に行ってますよ」
「おお、流石吹雪だ」
一日の任務状況により、資材の増加量も増える。俺は自然にあのクソジジイ共が支給する分だけでいいんじゃないかと吹雪には言っていたが、「出来るだけ持ってたほうがいざという時、役に立ちますよ」と言って俺の代わりに任務をしてくれたり他の艦娘に指示をしたりしてくれている。――たまにアイツが提督やった方がいいんじゃないかと思う時があるがきっと気のせいだ、俺はスーパーエクストラ提督だからな。
「まあそういうことなら今日はよろしく頼むぞ古鷹」
「勿論です! 秘書官になったからには、私、重巡洋艦の良いところを沢山お伝えするためにいつも以上に頑張りますね!」
胸の辺りで両手をグッと握って、頑張るぞポーズ的なものを見せる古鷹。
重巡洋艦の良いところね、戦艦には及ばないがその火力は俺にとって大いに助かって――――ん、待てよ……!
重巡洋艦の良いところを知る、ということ。それは――あんなところやこんなところをまさぐりまくっていいということか!
くそっ、なんて愚か! 古鷹は着任した頃から俺を慕って心も身体も許していたってことじゃないか! 乙女心も理解出来ていなかったとは、このミラクルウルトラ提督、一生の不覚!
だが、俺はそれに気付いた。練度についてはけっして高いとは言えないが、知るか。良いところを知ってからケッコンカッコカリをすればいいもんな。俺も鈍い男だぜ。
「古鷹」
「はい、なんですか?」
「じゃあ……早速俺に、重巡洋艦の良いところを教えてくれないか……?」
「えっ……?」
俺は手を差し出し、甘いボイスを吐いた。ふふふ、自画自賛してしまうぐらいにカッコいい声だぜ、摩耶にこの声で話した時には「ウザイ声出して何言ってんだ?」とか言われたがアイツは多分俺のボイスに波長が合わなかっただけに違いない。
そして古鷹は顔を赤らめた。ようやく気付いてくれた、そんな感じの顔だろうきっと。
「提督、本当ですか……?」
「ああ、勿論だ古鷹。沢山教えてくれ」
甘い雰囲気が感じ取れる。もう雰囲気はラブコメムード。古鷹は俺の手に右手と左手でゆっくりと包み込むようにさわってくる。
――じゃなくて、思いっきり掴んできた。
……って、えっ?
「提督、ほんとうに、本当なんですねっ! 重巡洋艦の良いところ、いっぱい知りたいんですねっ!?」
キラキラとした目で、すっごく嬉しそうな顔で俺を見つめる古鷹。あれ、なんか想像していた感じと違うんだが。もう少し照れながら言うのかと思ってたんだが。
「わかりましたっ! もう古鷹、今日は全身全霊をもって重巡洋艦のいいところ、あますことなく提督に教えてあげます!」
しおらしさとかムードとかそんなのはなく、むしろ熱血的な雰囲気になってきている気がする。あれ、俺は何か凄いミスをしてしまったのでは――。
「少し待っててくださいね提督! まず、重巡洋艦の皆を呼んできますね! それで重巡洋艦の良さをお見せできる海域をピックアップして沢山出撃しましょう! 早く加古や青葉、妙高や鳥海を呼んで来なくちゃ!」
いかん、古鷹のやる気ゲージが溢れんばかりとなっている。こ、このままでは終日まで連続出撃かつ、連れまわされる! は、早く止めなければ!
「ま、待った古鷹! 慌てるな! お前がいつも言ってることだろ!?」
「はい提督! 私も慌ててしまうほど嬉しくて仕方ないです! 提督が重巡洋艦のことをもっと知りたいと思ってくれたこと、古鷹はありがたいです!」
「い……いや、だからだな?」
「それじゃあ早速準備に取り掛かります! 提督は少しここで待っててくださいね!」
「あ、ま、待てっ! 古鷹ぁぁぁぁっ!!」
俺の手を放し、動物園とか水族館を見に行くのを楽しみにして準備しに行く子供のようにはしゃぎながら古鷹は走り去っていった。長良も早いと認めてしまいそうなぐらいすぐに行ってしまった。
……なんてこった、裏を読みすぎた結果が、とんでもないことを引き起こしてしまった。あんな嬉しそうな古鷹を止めることができるか、いや出来ない。少なくとも俺には出来ない。
「おーい提督、遠征戻った――って何うなだれてんだ?」
そして入れ替わるように入ってきた軽巡洋艦の天龍。どうも遠征から戻ってきたらしい。
「……なあ天龍、乙女心はわからんな」
「はあ?」
俺の言葉の意味などわからんというように、天龍は不思議そうな顔をした。ふふふ、勘違いって怖いぜ。