「それで、インベーダー(仮)を見つけようと思ったんだクマね……」
数十分後、俺を含め長月、利根、筑摩、球磨の合計五名で編成を組み、利根がインベーダーを目撃したと言われる泊地内の森を歩いていた。その道中で、俺は球磨にインベーダー捕獲作戦のいきさつを伝えていたのだった。
ちなみに加賀たちにも気をつけるようには既に伝えている。なぜか伝えた奴全員が、俺の正体がインベーダーだったとか言う聞き間違いをして来ていたのは恐らく口裏あわせのドッキリだろう。ふっ、このクールスペシャル提督の恐るべき冷静な判断力は時に空気が読めないと思われそうだぜ、ふふっ。
「そうだぞ球磨、これは俺達特殊艦隊編成組しか出来ん仕事だ。まさしく暗躍すべき影の部隊とも言って良い、わかるな?」
「……あんまりわからんクマ。と言うか、なんで球磨だけを追加で呼んだクマ?」
「そりゃ当然だ、このアルティメットファイター提督がいるとはいえ相手はインベーダー。ならば、熊並みの陸上戦闘能力を持ったお前の力は必要にもなるさ」
「何の話クマ!? 球磨にそんな能力無いクマ!」
「いいや、俺に隠し事をしても無駄だ球磨。最近お前がクマクマ鳴いている所を俺は目撃した、それがベアー的遺伝子を受け継ぐ熊艦娘である疑いようもない証拠だ」
「ベアー的遺伝子って何クマ!? 熊艦娘って何クマ!?」
やれやれ、意外に優秀と中々に謙虚な発言をするだけあって態度まで謙虚だ。それ故に、俺には隠そうとする強者のオーラは隠せないがな。
「おおっ……まさか球磨がベアー的遺伝子の持ち主とは、我輩も気付かなかったぞ!」
「成程……こんな近くに私の好敵手となる人物が司令官と合わせて二人もいるとは、中々血がたぎるぞ……!」
「なんで二人まで信じてるクマ!? 筑摩も何か言ってクマ!」
「球磨さん、かっこいいですよ」
「助けて欲しいのに間違ってると言ってくれる気なしクマ!?」
ニッコリと筑摩に返事をされてガックシする球磨。もう演技する必要は無いと言うのに。やれやれ。
俺は球磨の肩に手を置く。
「諦めろ、お前が地上最強なのはもう周知の事実なんだ」
「何を格上げしてるクマ!? それ既に熊じゃなくて鬼だクマ!」
「だが心配するな、流石に俺には及ばない。なぜなら俺はアルティメットオーガファイター提督だからな!」
「……あー、もう好きにするクマ……」
何やら諦めたというか呆れ――いや違う、力尽きたような顔をする球磨。ふっ、俺の力を感じ取ってしまったせいで疲れて閉まった訳か、自分自身の押さえられない力が怖いぜ、ふふふ。
「まあこれで我らがインベーダー撃退組は揃った。ついでにこの森の木々にインベーダーらしきものだけ引っかかる細長いワイヤーを仕掛けてそれに鈴を張る作業も終了済みだ。ちなみにインベーダーらしきものが引っかかると鈴から曙の《こっち見んな、クソ提督》というボイスが音量10、まあ涼風がやや元気にてやんでぇって言うぐらいの音量ぐらいで流れる作業もしている。そんな俺をトラップワイヤーマン提督と呼び称える艦娘達の賞賛に対しても平常心を保てる準備も完璧だ。耳元で如月から好きと言われても動じないレベルでな」
「………………ああ! 流石は司令官じゃないか!」
「長月、わからないならわからないでいいクマ。それが正常クマ」
「と言うかツッコミどころありすぎて何も言えんぞ提督よ」
とか渋い顔で言う利根。どこに突っ込みどころがあるんだ、こんな完璧な状態を。
「要約すると、インベーダー対策はバッチリと言うことですね提督?」
筑摩がおっとりした感じで問いかけてくる。
「まあ渋々要約するとそうなるな」
「渋らなくても良いじゃろ」
「いいや、良くない。要約されたら俺のハイパー提督的な天才有能発言がただの凡提督っぽくなるだろ?」
「……そーじゃなー」
利根は何故か棒読み気味に答える。恐らくぐうの音も出ない正論を言われてしまうも認めざる得ないが故だろう。ふっ、俺も少し大人げなかったな。
《こっち見んな、クソ提督!!》
そんな自分の凄さを再確認したと思った直後に少し遠めの場所から誰かが俺を馬鹿にしてきた。この生意気かつ幼げな声は!
「曙か! くっ、またも俺の有能さに嫉妬を抑えきれない曙が俺に悪口を!」
「いえ、先ほど提督自身で仕掛けたと言っていました曙さん音声が流れたのかと思いますよ」
「なんだ、曙本人じゃないのか――って事は、インベーダーか!」
早速引っかかってくれるとは愚かな奴、さあその姿を見せてもらおうか!
「よーし! まずは俺が先頭を取る! 俺の後ろには利根、球磨。その後ろに筑摩と長月が続け! ワイヤーは気にするな、インベーダー以外には引っかからないからな!」
「一体どこでそんなワイヤーを買ってきたクマか……」
「最早赤外線センサーじみとらんか?」
「つべこべ言わずに行くぞトネクマ!」
「阿武隈みたいな呼び方するでない!」「阿武隈っぽいニュアンスで言うなクマ!」
二人同時に抗議してくる。呼びやすいと思ったが不評か、そうだな、やっぱり同じ長良型の由良と鬼怒がいる時じゃないと合わないか。球磨と利根の反論も全くな話だぜ。
そして俺達は走る、曙ボイスのした方向へ走る。走っている途中でワイヤーが前方に見えるが、これは無視。眼前まで近づくが無視だ。そう、何せコイツはインベーダー以外には触れ――ザシュッ。
「ぎゃあああああっ! 俺の右目玉さんがぁー! 左目玉ちゃんがぁーっ!」
《こっち見んな、クソ提督!!》
「ぬわああーっ! おのれ曙! 俺への照れ隠しに目潰しまでするとは、こいつはまさにモテすぎて困るの極みかぁーっ!」
「その声は曙ではないぞ司令官!?」
目を抑えゴロゴロとしたり魚の如く跳ねたり、時にオリンピック選手ばりのバク転をしながら悶える俺に長月の声が聞こえた。何、曙じゃないのか!?
「じゃあ朧か!? 曙の影響を受けてツンデレ路線になったのか!? ――いや、漣なのか!? 何か俺の心を射止められる言葉をネット検索したのか!? ――ま、まさか潮なのか! 俺に反抗するその心意気は成長と評して撫でてやりたいが、ちょっと言葉の棘が強くなりすぎやしないか!? 折れるぞ、俺の心はポッキーするぞっ!?」
「だからお主が仕掛けた曙のボイスじゃとさっき筑摩が言うたじゃろうが! 少し落ち着け提督よ!」
はっ。
利根の声に俺は冷静さを取り戻す。くっ、俺とした事が目の一つや二つに尖ったものが刺さったぐらいで慌てすぎてしまった。
冷静になり、俺は普通に目を開ける。赤い森に赤い風景、よし、全然視力に異常はないな。これはただ血で風景が赤くなっているだけだ、拭けばすぐにいつも通りになるだろう。
「ふう、悪かった。ちょっと取り乱したが、今のはインベーダーがワイヤーにかかった時の反応を真似ただけで俺自身のダメージでは無いから心配は要らないぞ」
「ほ、本当なのか司令官? なんか色々とオーバーリアクションしていたが」
慌てふためく長月。ふっ、長月も優しい奴だ。
「案ずるな長月、俺は嘘をつかないノンフィクション司令官だぞ? ちょっと演技をしすぎてお前達まで騙してしまったのは済まんと思っている。で、俺の目玉を赤く濡らして迫真の演技を手伝ってくれた小賢しい暗殺者はどこにいるんだ?」
「暗殺者はいないが……司令官がワイヤーに目をぶつけた瞬間に司令官は悶えたぞ」
なぬっ!?
俺は自分が通りぬけようとしたワイヤーに目線を向ける。そこには赤くしたたる、俺と言う名提督の血液。よく見たら妙にギザギザしていて尖った部分がある。……思い切ってワイヤーを触ってみると、普通に触れる。
と言うことはこのワイヤーは……インベーダー専用なんかではなかった!?
ぐああああっ! なんて失態! 手で設置した俺本人が何故それに気付かなかったんだぁー! 馬鹿か、俺はアホかぁーっ!
「おおっ、本当にすり抜けるのぉこのワイヤー」
「あら、本当ですね姉さん」
……え。
「見事にすり抜けるクマー」
すり抜けないはずのワイヤーを球磨たちが手をブンブンとワイヤーへ振っても触れた感じは無いだと。な、何故だ……!
「あれ、それなら何故司令官はワイヤーに当たったんだ?」
長月から疑問が発せられる。……普通に考えるなら、実は艦娘だけ引っかからないワイヤーと考えた方がいいのだろう。だが、そんな当たり前な答えでは全員納得しないだろう。て言うか俺がしない。そんなつまらん事実は伏せたい。
故に、俺が出した答えは一つ。
「それはな、長月。――俺がインベーダー程の凶悪かつ最強、有能すぎる司令官オブ提督だからだ!」
「おおおおおおっ!」
声をあげて凄く嬉しそうに瞳を輝かせる長月。いいぞ、その尊敬するような視線、うんうん、すっごいいいぞ! 俺も嬉しくなるぞ!
「成程、あの謎の不死身っぷり、何となく納得じゃ」
「提督がインベーダー……何となくではありますけど、そんな予感はしていたんですがそうだったんですね」
筑摩も利根も納得している。なんか曲解してる気がするが多分気のせいだ。
「いやいや、実は艦娘だけ引っかからないワイヤーなんだと思うクマ」
き、気付かれた!
「むっ、確かにそっちの方がありそうじゃな!」
「えっ? あ、そ、そうですね、そちらの方が正しそうですね」
く、球磨ぁぁぁっ! なんて察しのいい奴!
「そ、そうなのか司令官?」
少し残念そうに聞いてくる長月。どうする、どうする……!
「……ま、まあ…………そうだな…………今回の真実、球磨の方が正しいということにしておこう。敢えて、な」
「あ、敢えて!? 流石司令官、私はなんだか司令官の底知れぬ実力を早く見てみたくなって来たぞ……!」
「ふ、ふふふ、まあまだ長月も経験が足りないからな、もっと修行をして練度を極めたその時には俺の実力を見せたり、見せなかったり……」
「ああ任せてくれ! 司令官に本気を出させる程に強くなるぞ!」
そう言って長月はグッと拳を握った。燃えてる、長月の心が熱く燃え滾ってるのを感じる……! ……長月の発言が将来実現しないことを祈るか。
「それじゃあ早く行こうクマ、早く行かないと逃げられるクマー」
「あ、ああそうだな! さあ、隊列を直して再度突撃だお前らぁー!」
***
さて、これは一体なんなんだろうか。
「て、提督、これは一体何クマ……」
あの球磨ですらなんか不安げに聞いて来ている。俺も逃げたい、凄く逃げたい。
俺は自分で仕掛けたワイヤーを頑張って避けようとして引っかかって、何回もクソ提督と呼ばれた。そしてようやくたどり着いたのになんだこれは。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
もう……なんかめっちゃデカイ黒いのがワイヤーに引っかかってる。なんか大きいヒグマを一回り大きくしたような奴。それも暴れてたのかわからんが、ワイヤー切れそう。妙に黒い姿が生物的にウネウネしている。新しい深海棲艦ではない、絶対に。
「こ、これじゃ! 我輩が見たのもこれじゃ! なんか見た時より大きくなっとる気がするが!」
「そ、想像以上に危なそうなものが引っかかりましたね……!」
あの筑摩も警戒するような声を出している。だが……予想外だ、俺はてっきりあのドット絵な宇宙インベーダーみたいな奴がいると思ったのに、世界観とかへったくれもない怪物が出てくるとは。別の世界から飛んできましたって感じでコラボしたスマホゲーの敵みたいな存在だぞこれ絶対。もう捕まえて一攫千金とかそういうの考えるにはちょっとヤバすぎる気がする
「ど、どうするクマ! 提督!」
球磨が俺に聞いて来る。そうだ、こんな時こそスペースブレイン提督な俺の実力の見せ所! そうだ、俺がここで選ぶべき選択は……!
「……よし! 見なかった事にするぞ!」
「いやいやいや、その意見に乗りたいのは同意クマけど、それは色々とまずいクマ提督!」
「う、うむ、我輩も撤退には賛成したいがいかんと思うぞ」
うぐぐっ……。やっぱり駄目か。
だがこんな怪物どうすれば。ここは艤装を装備してもらい、利根、筑摩に砲撃してもらうのがベストか……?
よし、それで――!
「司令官、やろう!」
「えっ?」
「私と司令官、球磨がいればあんな怪物、おそるるに足らないぞ!」
おおっ、も、燃えている。長月が少年漫画の主人公の如く燃えている……! なんで今日のお前はクリティカル連発出来そうなぐらいに燃えまくっているんだ長月……!
「て言うか今さらっと球磨の名前入れなかったクマか!?」
「勿論だ、球磨も私と同様陸上接近戦闘が可能な艦娘だからな」
「だからそんな設定は無いクマァ!」
騒いでいる球磨。何故今の今も実力を隠そうとしているんだ……。
いや、それよりもだ。長月には悪いが流石にあんな化物相手に接近戦を挑むのは……。
チラリと、長月の目を見る。――背ける事もない、幼く真っ直ぐに熱い目を俺に向けていた。
その時。
「ぐああああああっ!」
黒い奴はワイヤーを無理やり千切って封印から解かれてしまった。
「くっ、提督下がってください! 利根姉さん、球磨さん長月さん! 陸上での戦闘は不慣れだと思いますが砲撃戦を――!」
「いや、筑摩こそ下がるんだ」
「えっ……?」
俺の言葉に筑摩が驚いた。
そして、俺は黒い奴の前へと一歩踏み出す。
「ちょっ、流石に提督でもアレはやばいクマ!」
「そ、そうだぞ提督よ! 長月も頭冷やすんじゃ!」
「ふっ……あまり俺を舐めるな二人とも」
そうだ、ここで逃げるのはアグレッシブヒーロー提督として恥ずべき行為。俺の脳内が辞めとけとか絶対死ぬとか摩耶の時と同じ錯覚状態になってるだけだから目を覚ませアホとか騒いでいるが知った事か。長月に見せてやらねばいけん、俺が真の提督たるが所以を……!
そして俺はカンフー的な感じに構える。今の俺にはブルースなあの人が乗り移っているような気がする程自信があふれ出る。よし、これは行けるぞ……!
「私もやるぞ司令官!」
俺に近づこうとする長月に、俺は制止するよう手を平たく出す。
「手を出すな長月」
「し、司令官!? 何を!?」
「お前は艦娘故に、まだ武の練が低い。だから見ておくがいい長月、これが武を極めし世界の頂点、そして無敵最強のアルティメットハイパースーパーレジェンドスペース司令官の実力、だあああああああっ!!」
***
「そしてそのみなぎる一撃により怪物は爆散し、スーパーハイパーな司令官はみんなの命を救った英雄として称えられた、っと……ふぃー、完璧だ。これはもう俺の武勇伝の中でも最高の一説だな。さっ、読んでいいぞ吹雪」
執務室で椅子に座り、ようやく書き終えた俺の自伝を吹雪に見せる。いやー、今回の自伝は超大作な一日分になっているからな、吹雪も俺のかっこよさに惚れ惚れしすぎて俺に抱きついて来ても仕方ないな。――と思ったが、真面目に俺の書いたものを見る吹雪の顔は何故か険しいものになっている。
「どうだ、吹雪?」
「……司令官、これどこまで本当でどこまで嘘ですか?」
「俺が情けない所以外は全て事実だ。インベーダーもいて、それを倒した。本当はトラップも駆使しつつインベーダーを撃破したんだが、まあそこは割合させてもらったと言わせてもらうぜ」
「でも私、利根さんから提督がインベーダー見つけたから退治しに行こうと誘われたから見事我輩が退治したのだと聞いたんですけど……」
「それはまあ、アイツなりのプライドがあったんだろう」
「筑摩さんからは、変な人物と司令官が戦って返り討ちにされたとも聞きました。そして筑摩さんが罠を駆使して退治したと」
「ふっ、筑摩もお茶目な冗談を言う奴だ」
「長月ちゃんは私の好敵手はまだまだこの泊地には沢山いるって言ってました。目標は司令官を倒す事とも」
「ははは、困ったもんだ。――――割と本当に」
「最後に球磨さんからは、もうあの時のこと思い出すのはしんどいから嫌だクマ、って呟いてたんですけど…………本当にこの時どんな事があったんですか司令官!?」
吹雪は俺に問い詰めてくる。だが、これを言う気は無い。色々な意味で、言う気は無いのだ。
「さあーて、飯でも食いに行くかー。食堂に行くかー、いっそ間宮のとこでも行ってみるかー」
「あーっ! はぐらかさないでくださいよしれいかーんっ!」
教えて欲しいと言わんばかりに顔を膨らませつつも俺についてきてくれる吹雪に対して笑顔で返しつつ、俺は飯を食いに行った。
――世の中、知らない方が良い事もあるんだよ、吹雪。