「…………死ぬかと思ったなぁ」
先日のオリョクルの時、結果的に船を失った。
そう、なんとかオリョクルをこなしたものの、港に着こうとした瞬間に俺の作り上げた船、スーパーエリートデリシャス号が何故か火を吹いて船体が真っ二つに割れた。そして何故か俺はちょうどその地割れの部分におり、挟まってしまった。
通信機からゴーヤやイムヤの声が聞こえてきたので超かっこよく、「俺は問題ない、ハーレムをつくまでは死ねないさ」と言おうとした瞬間に、真っ二つになっていたスーパーエリートデリシャス号は真っ二つだったのにくっついた。それはかにバサミで完全に挟まれたソフビ人形状態とも言えよう。
お前も道連れだ、しねえええ、とか変なことを言う謎の声が、どろどろどろーという変な音と共に聞こえ、船は大爆発を起こしたが俺はなんとか生きていた。多分、俺のファンのヤンデレ系美少女だったのだろう。愛は爆発、って奴だったと思われる。
恐らく生きていた原因は、天が俺を生かしたとしか思えない。でなければ普通死んでるしな。ふっ、女神にも愛された提督として今後モテまくってしまうという事はこれでほぼ確定で困ってしまうな、ふふふ。
で、雷が頑張って作ってくれたカレーを食ったその後にオリョクルについて調べると、どうもやり方が全然違っていたらしい。先に俺がやっといてよかった、という気持ちとネットで嘘を教えた奴に黄色の潜水ヨ級を6体、鎮守府近海に送り込んで在中させてやりたい衝動にかられた。
ちなみに雷のカレーは普通に美味かった、ちょっと水が多めのルーだったが、それも功をなしたのか疲れた俺には食いやすかったしな。
という訳で現在は正しいオリョールクルージングの方法を実践させている。現在の出撃回数は少なめだが、少しずつ回数をこなせるようになってもらえたらいいと思っている。
……うーむ、だが威厳ある提督はギリギリまでこなさせるらしいし、その処置は甘いような気もしなくもない。俺もスーパーエリート提督としてはまだまだ甘い面があるな、気をつけなければな。
しかし、ここ最近の俺はどうにも無謀な真似をしたり危険に陥ったりしている気がするな。そして、それによって威厳を落としている気もしなくもない。オリョクルの件についても、もう少し調べれば落ち着いて行動できたであろうに。
そう、つまりこれは俺自身が功を焦っている面が見受けられるのだ。これにより、艦娘たちにも威厳が薄くなっているように見られている可能性が多い……!
て言うか、最近俺死にかかること多すぎだろ! 冷静に考えてみると俺なんで生きてるのか不思議に感じてきたぞ! 砲撃食らう程度じゃないレベルでヤバイじゃないか!
……よし、という訳で今日の目標は心頭滅却火もまた涼し。虎穴に入るのは冷静に考えてから、を目標にしよう。
確かに、冷静になることで恐れることを想像してしまいかねない情けなさはあるが少し今までを省みる必要がある。一体提督とはなんなのか、威厳とはなんなのか、大和のダイナマイッットボディは素晴らしいとか、最近他の演習見に行けてないとか、大和のグラビア写真集早く欲しいとか、むしろ大和は何故ウチに配属されないのか、とかな。ふふふ、俺の客観的自己分析は完璧の極みだな。
…………ん? 配属……?
……ああ、そうだった! 今日は確か新しい艦娘が来る日だったのを思い出したぞ。さっき吹雪が迎えに行ってきますとかいっていた。
これは絶好の機会だ。俺がいかに素晴らしい提督かどうか教えてやれるぞ。前回の秋津洲のように名前を間違えることもない、しっかりと覚えておいたからな。
しかし、どう接して見るべきか。明るくフランクに行くか、威厳たっぷりで喋り厳しさを教えてやるか、いっそ無視をしてお前に興味ないスタイルを取ることで一風変わった天才さと気難しさを表現するか。
うーむ……迷う。迷うぞ、いかに冷静沈着に、そして本当の超威厳持ち提督っぽくなれるか、この一瞬にかかっているんだからな。
考えていると、ノックの音がコンコンッと聞こえて来た。
「司令官! 速吸さんお連れしましたー!」
「おーっ、入っていいぞー」
「し、失礼します!」
そう言って、椅子に座る俺の前に吹雪ともう一人、ジャージっぽい服をつけた子が並んだ。そして敬礼をしてきた。
「初めまして! 艦隊随伴型の給油艦、速吸です! よろしくお願いします!」
「おおっ、よろしく。俺は提督、まああまり俺が凄いオーラを出しているからといって固くなる必要ないぞ」
「はいっ! よろしくお願いします提督さん!」
元気よく、なんか既視感がある感じで真っ直ぐな挨拶をしてくる速吸。まあ、元気なことは良い事だ。とりあえず、新しい艦娘にどう接するか考えるのは後にするか。
「まあ、とりあえず俺の部隊に配属したからには最強の艦娘に否が応でもなってしまう、その辺りがまあ、俺の弱点でもあり欠点でもある。このスーパーエリート提督の傘下に加わるからには、頑張ってもらうぞ速吸」
「はいっ、速吸、頑張ります!」
うむうむ、流石は俺の部隊に入る艦娘だ。俺の提督オーラに怖気つくことなくしっかりと発言する。なんとなく、名取と一緒に学園青春ラブコメの後輩ヒロイン役をしてもらいたいと思ったのは俺だけの秘密にしよう。
「改めて、今日からよろしくお願いしますね速吸さん」
「うん、こちらこそよろしくね吹雪ちゃん」
そんで早速打ち解けているようで何より。まあ、吹雪の奴は大抵の奴とは打ち解けられる感じはするし、どうも2人とも良い共通点ありそうな感じもするからそう打ち解けるのも難しくなかったんだろう。吹雪の話し方からして、来るまでに結構話してたみたいだしな。
「あっ、そうだ。お近づきの印にこれ差し上げます!」
と思って見ていると、速吸が持っていたスポーツバックみたいな艤装から何かを取り出そうしている。
「おお、なんか差し入れでも持ってきてくれたのか?」
気が利くなー、どこぞのクソジジイに爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ。一体どんな上納品でも持ってきて――
「これを持ってきたんですよー! 補給物資です!」
……と言って、ドンッ! と俺の机に大きなドラム缶とか素材を置いてくれる速吸。――――俺の身体を覆い隠せる程の大きなドラム缶を。
うん、気持ちはありがたい。ありがたいがな、何はともあれ一つ言いたい事があるぞ。
「な、なあ速吸。一つ言っていいか」
「なんですか? ――はっ! す、すみません! こんなところで補給物資なんか出してしまって!」
俺が言う前に察したかのように、あわわわー、と顔を赤くして持っていた肩下げカバンみたいな艤装に大きなドラム缶とかをしまう。まるでマジシャンが手品するかのように消えた。
「こ、これです! じゃなかった! えーっと、これでもなくて、これでもなくて。あっ! ってこれも違う違う! うーっ、じゃなくて、じゃなくてー!」
船みたいな艤装なのか船型のカバンなのかわからないものから、速吸は焦りながら物資とか機材とかグローブとかバットとかサッカーボールとか瑞雲とか流星とか茶碗とかペットボトルとかカロリーなメイトとかどんどん変わったものを出す。もう飛び出てるといってもいいかもしれない。吹雪も飛び出す品々に驚き顔を隠せていない。
「あっ、ありました! ありましたー!」
と言って一つ何かを取り出すと、出していたものを素早い手つきでどんどん艤装カバンに片付ける。
「すみません、先ほどのは工廠に持っていく予定のものでした! こっちが提督さんにお渡ししたかったものです!」
そして、はいっ、と俺にお土産品としてよく見る和菓子の箱を出して渡してくる速吸。俺もそれを快く受け取る、だがだ、やっぱり聞きたい。
「ああ、ありがとう速吸。でもな、それよりも一つ聞かせてもらっていいか?」
「なんですか?」
「お前のそのカバン、一体なんだ!?」
俺は速吸の持つ艤装カバンに指を差した。吹雪も俺の言葉にうんうん頷く。
「えっ、これですか? これはただの糧食や補給用のものを積める艤装ですよ? ただ、今回は配属先に使いたいと思っていた私物も入れてしまってたので、いつもより余計に積んでしまってまして……」
えへへ、と照れ隠しする速吸。はは、そうかそうか、だったら有り得――ないっての!
「いや、積めるとかそういうレベルじゃないほど入っていたぞ!?」
あんなデカイ物から大量の物資とかまで、絶対にその肩にかけてる艤装だけじゃ入りきらないぞ!? それこそ、ネコ型ロボットなポケットみたいに収納されたり物を出されたぞ!
「えっ、それは流石に気のせいですよ提督さん」
「絶対気のせいじゃないですよ速吸さん!?」
俺が言おうとしたことを吹雪が言ってくれる。だが速吸は吹雪に対してニコッと笑みを見せた。
「やだなー吹雪ちゃんまで。アレぐらいならちょっと上手く入れれば簡単に積めるよ?」
「そ、そういうものなんですか?」
「うん、今度やり方教えてあげるね!」
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
……吹雪、お前の疑問はそれで解決してしまっていいのか……。
ま、まあいいか、速吸本人がそう言ってるんだしな。これ以上の追求は回答を困らせるだけだろう。
「あっ、提督さんも良ければどうですか? 速吸、整理整頓には自信があるんです!」
「さっきコレを探しきれてなかったように見えたが」
「……そ、それは例外ってことにしてもらえると助かります」
自信満々に言ってきた速吸だったが俺が駄菓子を見せると、速吸は恥ずかしそうに目を伏せた。
「冗談だよ冗談。是非とも今度教えてくれ、俺にとって非常に使える技術になりそうだからな!」
「! はいっ! 任せてください提督さん!」
俺がサムズアップすると、敬礼して元気よく返事をする速吸。あの技術は難しい所にエロ本を隠すために非常に使える可能性があるからな……! 是非習わなければいけない。陸奥に怒られない為にもな!
「まっ、この泊地には俺を愛している艦娘しかいないからな、衝突しないように仲良くな!」
「提督さんモテるんですか……流石ですね!」
「速吸さん、嘘だから気にしないで下さいね」
「あ、あれ?」
クエスチョンマークが多分2つぐらい浮かんでそうな顔をする速吸。相も変わらず吹雪が人のモテモテハーレムが嘘だと訂正してくれるが、それは俺の提督力を見れば後で分かるからいいとしよう。
「それじゃあ吹雪、早速速吸を寮に案内してやってくれ」
「はいっ! 了解です司令官! それじゃあ速吸さん行きましょう!」
「あ、はい! それでは失礼します提督さん!」
2人は敬礼して、この執務室ではもうレアな感じで普通に退出した。アイツらなんか妙に似てるとこあるし、結構仲良くなるかもな。絆を深め互いに切磋する、いいことだ。
そしてこんな感じのことを考えてる俺もいい感じだ。往年の有能提督っぽくていい気がするぞ、ふふふ。
さーて、新しい艦娘が来た時の態度を考え直さなければな。そう、新しい艦娘である、改風早型1番艦で補給艦の速吸を――。
……ん? 新しい艦娘で、補給艦の、はや、すい……?
コンコンッ。
「失礼します。水雷戦隊旗艦の由良、帰投し――」
「ぬあああああああああっ!! しまったぁぁぁぁぁっ!!」
「!?」
なんて、なんてこったぁーっ! 今話してたのがまさに速吸なのに何をしてるんだ俺は! 後回しじゃなくて今考えることだっただろーがぁぁぁ!!
「て、提督さん!? なんでいきなり机に頭打ちつけてるの!? 何があったの!?」
ん? 誰かいる?
前を見ると、軽巡洋艦の由良がいた。なんか驚かせてしまったらしい。
「おおっ、どうした由良。ついに告白をしに……?」
「ううん、それは違うかな」
「即答か……じゃあなにかの報告か?」
「うん。遠征から帰投したから報告に来たんだけど、提督さん、頭打つのでなんだか忙しそうだし、由良は戻――」
「いや、ちょうどいいぞ由良! 一緒に速吸の所に行くぞ!」
「えっ!?」
「聞け由良。俺は今、新しい艦娘の速吸に提督の魅力をさっぱり伝えずに寮に向かわせてしまったんだ……!」
「それでいいんじゃないかなって由良は思うな。それじゃあ由良はまた遠征に――」
「いいや、それが全然良くないんだよ由良……!」
「!?」
俺は去ろうとする由良のスカートを裾を掴んだ。隠しておいた、如意棒的伸縮自在マジックハンドを伸ばして掴んだ。そう、全くによくないんだよ……!
「いいか、新しい艦娘には俺のエリートっぷりを余す事なく伝えなければいけない。それはお前にもよくわかっていることだと思う」
「う、うん! わかったから由良のスカート放して提督さん! そこは由良にとって掴まれたら困るところだから!」
「そうか、わかってくれたか!」
由良のスカートからマジックハンドの手を放す。珍しく由良が照れている気がする。
「という訳で、俺が誤って普通に伝えてしまった俺の魅力を100割増しぐらいに伝えなければいけない! さあ行くぞ由良、お前の10000のいいとこの一つ、提督大好きだから良いところをガンガンスピーチして提督凄すぎるということを存分に教える事が出来るという良いとこを披露してもらう時が来たぞ!」
「ゆ、由良にはそういうのは荷が重いかなって……」
「案ずるより産むが易し! さあ、行くぞ由良ー!」
こうして、なんか仕方無さそうに見えるが俺のために協力をしてくれる気満々だと見受けられる由良と共に俺は速吸と吹雪を追い、改めて俺のレジェントエリートな歴史と魅力を伝えに向かった。
……なおその目論見は速吸から駄菓子をもらっていた赤城が、走ってきた俺に赤城パンチカウンターを鳩尾に食らわせてくれたことにより阻止された。
その見事すぎるカウンターの前に、俺は気絶する前に――空母の拳、恐るべしと呟いてしまった。恐らく名台詞として伝承に引き継がれるんだろうなと、思った。