「威厳復刻キャンペーンだ」
「……はい?」
「威厳復刻キャンペーンだと言っているんだ、吹雪」
貴方といるから寒くない、そんな1フレーズっぽい台詞を幼なじみヒロイン辺りに言われたいぐらい少し寒めな今日。俺は立って窓を眺めた後、後ろにいる吹雪の方へくるりと回ってそう告げた。
「……聞き流しちゃ駄目でしょうか、司令官」
「そう、何故俺がそんな考えに思い至ったというとだな」
「ああ、やっぱり聞かなきゃ駄目なんですね……」
ふふふっ、聞きたくて仕方ないと言う感じで笑みを浮かべる吹雪。苦笑いに見えるのは俺の不安が産んだもの、心が弱っていると疑心暗鬼になるから現実ではないはずだ。幻覚じゃあ俺の心は折れんぞ弱気め、くっくっく。
「……そう、なぜこんなことを考えたのかというとだ。――吹雪、今日の俺を見て何か気付かないか?」
「えっ? そ、そうですね……うーん、あっ!」
「おっ、わかったか吹雪?」
「はいっ! 剃り残しがありますよ、司令官!」
「なに!? ど、どこにだ……!」
「私がとってあげますから、動かないでくださいね」
と言って俺に近づいて来る吹雪。取るって、それは引っ張って取るということじゃないのか吹雪!?
「いや、自分で取るからい――たぁっ!」
うごおおお、想定通り! 痛いっ! アゴに残ったヒゲを一本取られた感覚が痛い! 痛みとか言う残像が残った感が凄い!
「はいっ、取れましたよ司令官」
そんな人の気も知らず、取ったヒゲを見せて笑顔でやりきった感を見せる吹雪。ぬぐっ、こいつめぇ。
「お前なぁ、少しはゆっくり抜いてくれたっていいんじゃないか?」
「あっ、す、すみません!」
「いや、頭下げてまで謝らなくてもいいぞ。まあ――むしろ俺の威厳に傷つけるものを見つけたんだ、褒めてつかわしてやるぞ、うはははっ」
「わ、わわーっ!」
頭を撫でると、吹雪は慌てふためく。髪を少し乱してしまうが、それがささやかな復讐であるのは内緒だ。
「ううっ、酷いですよ司令官……」
「ははは、何のことやらだな。それでだな、俺のいつもと違うところはわかったか?」
「えっ、ヒゲの剃り残しじゃないんですか?」
髪を整えながら言う吹雪。やれやれ、まだまだ甘いな。
「いや、違う…………俺はな、今、傷心しているんだ」
俺は遠い目をしながら、恋愛ドラマの俳優の如く穏やかに言った。俺にかかる日差しと小鳥の声がその悲しみを演出する。――日差しもないし、小鳥じゃなく子日の声が聞こえて来るが俺には日差しと小鳥が演出しているように感じたい。
「そして弱気になっている、ブロークンハート司令官と化しているんだ」
「……えっ、そんな風に全然見えないですよ?」
「まあ、そこは空元気でごまかしているからな……」
「自分から言っちゃうんですね……」
「ああ、わかりやすくな。――ここまで言えば、そのブロークンハートな理由、分かるな?」
俺は吹雪に問いかける。吹雪は考え込むポーズをした後に、別に真剣でもない顔でこちらを見る。
「……もしかして、昨日菊月ちゃんに医務室に連れてってもらったのが原因ですか?」
「……見事、その通りだ」
かっこよすぎる渋い声を出して、俺は天地が動転する程の悲しみを演出するように呟いた。……だと言うのに吹雪の表情に特に変化が無いのはあまりの凄さに呆気を取られているということにしておこう。
「昨日は菊月に無様な姿を見せてしまった。俺は菊月の期待に応える、ハイパーイケメン司令官だと言うのにバナナの皮を踏み、すっ転んで地面に頭を打って気絶したという、最早古典じみたギャグみたいな失態をしてしまったのだ……」
「確かにそれは失態かもしれないですね……。あっ、でも龍驤さんが、芸人として基本は大事、ウチはありかと思うで! とか褒めてくれてましたよ!」
「それは褒めてるとは全然言わんぞ吹雪。と言うか黒潮に続き龍驤まで芸人扱いか!」
「えっと、でもまだ芸人と名乗るには道のりは遠い。もっと精進せないかんよ! 頑張ってな! とも言ってました」
「名乗らねぇし! ええい、これは余計に威厳復刻キャンペーンをしなければいけないな……!」
このままでは芸人提督とか言う、いちお笑い芸人の名前みたいになってしまいかねないからな……!
「ところでその威厳復刻キャンペーンって何をするんですか?」
「名の通りだ。今回の菊月の件で落ちてしまった威厳や人を芸人と思っている連中への意識改革、つまり、やっぱり提督はハイパー凄い! 司令官ウルトラ強ぇ! 司令はエリートかっこいい! という意識、感情を思い出させるキャンペーンだ」
「司令官、思い出すも何もそんなことみんな思ってなかったと思います」
「ふっ、それは違うぞ吹雪。皆、心の奥底でそう思っていたが忘れてしまっているだけなんだ、お前含めてな」
「そ、そうだったかなぁ……」
うーん、と悩み始める吹雪。よし、悩んでいるという事は心の奥底では全員俺を尊敬しているという可能性があるということ。初期艦の吹雪が思っているのだ、間違いは皆無!
「という訳でまずは満潮のとこに行くぞ」
「えっ、満潮ちゃんの所ですか?」
「そうだ、満潮なら俺の凄さをわかっているが分かりすぎて厳しい的な感じのはず。改めて俺のことを聞くと、実はウルトラエリート司令官だったという事実を思い返し、尊敬度マックス100パーセントでいつ告白してもハッピーエンドで行ける。そして同時に俺の知らなかったエリート過ぎる所も教えてくれることにより一石二鳥。その情報を他の艦娘たちに伝えることでハーレムルートまっしぐら! いける、コレはいける以外の道が見えないほどに行ける! そう思ったが故だ」
「すっごい前向きな感じで意味不明な感じですね」
苦笑いして言ってくる吹雪。やれやれ。まだ吹雪には早すぎたか。
「そんな理由から満潮の所に行こうと思うが、どう思う?」
「そうですね…………あ、でも満潮ちゃんなら司令官の暴走も止められるかも知れないし…………はいっ! それじゃあ満潮ちゃんの所に行きましょう司令官!」
「引っかかる言葉が聞こえたがよし行くぞ!」
***
「で、何の用?」
「……あー、用、というか、なんていうか、だな……」
「何よだらしない。ちゃんと真っ直ぐ目を見て話しなさいな!」
「そうよこのクソ提督」
なんてことだ、これはアクシデント。
今俺は甘味処間宮に来ていた。そして、満潮がいた。
外から見ると満潮しか見えなかったんだ。だが、朝潮型の面子と一緒に食べに来たんだろうとタカをくくっているとだ、まさか綾波型8番艦の駆逐艦の曙と朝潮型10番艦の駆逐艦の霞と一緒にいたとは……!
ええい、満潮一人なら良かったがまさかトリプル言葉が厳しい駆逐艦ズがいるとはな。だが大井がいなかったのは良かった。アイツもいれば俺のダイヤモンドハートも4人の言語砲撃によって粉々にされて轟沈されていたからな。
しかし、それでもこの三人相手なら大破は覚悟しなければならないであろう。それにより俺が脱いでサービスカットもしなければいけない。
だが、それは最終手段。俺が脱いだら吹雪含め4人とも俺の美的肉体に惚れ惚れしてしまうだろうからな、そこにスーパーエリート性は薄い。あくまで俺の内なるエリートマインドでハーレムを作らなければならない! だから、脱ぐか脱がないかは俺の心の被弾率によって決めるだけだ。
それに、これはチャンスでもある。3人とも俺の威厳に気付くチャンスがある、と言うな……!
「ほら、突っ立ってないで座りなさいな。何か用があって来たんでしょう? 吹雪も立ちっぱなしにならないで、ほら」
「あ、うん。ありがとう霞ちゃん」
と言って霞の横に座る吹雪。おっと、よく見ると、四人席。俺は座る所が無い。
だがわがままを言うような俺ではない。即座に、的確にしっかりと間宮に――
「あ、間宮さんすみません! そこのクソ提督の為に椅子借りていいですか!」
「いいですよ~」
「ありがとー」
……そんなやり取りを間宮として、椅子を机の真ん中に置いてくれる曙。俺が言おうとする前に言ってくれるとは……。
「……あー、曙……?」
「……何ジロジロ見てんのよクソ提督! 見てんじゃないわよ! さっさと座れば!」
睨んで威圧的に言ってきやがったコイツ! 人が感謝しようと思ったところを!
「お前、人が感謝しようと思った矢先に……! その口の悪さ何とか出来ないかお前は!」
「はあ? 感謝とか………………。っ~! 感謝とか要らないわよこのクソ提督! バカクソ提督!」
「何バカを追加してんだお前は! だったらお前は…………えーっと」
「何よ!」
ぐっ……思いつかん、高度な悪口が思いつかない……! クソとかバカは二番煎じ、ならば何がある……! 弩級戦艦あけぼの? いやいや、悪口にもなってない!
「ええい、ありがとうだありがとう! このありがとう曙め! 全力で感謝してやるから更に顔を赤くして怒れぇー!」
「はあ!? 赤くしてないし! て言うか悪口じゃないじゃないこのクソ提督!」
「はははっ! 感謝の裏を返せば悪口になる気がするから構うものかチクショー!」
と、滅茶苦茶適当なことを言ってみた。これぞ逆転の発想、まさにジーニアスリバース提督! ぶっちゃけヤケクソだがな! ……ぐぬぬ。
「ま、まあ今日のところは引き分けにしておこうじゃないか。だが次回は俺の弁舌が冴え渡ると覚悟しておくといい」
そう、俺の本当の恐ろしさはこれからだ。今はまだ片鱗すら見せてないだけだ、あくまで今日は話に来たんだからな。本当のことだ。
「ったく、ほんとクソ提督なんだから……」
「素直じゃないわね、曙って」
「ほんとね」
「な、何の事よ! て言うかアンタ達に言われたくないんだけど!?」
メロンソーダを飲む霞と麦茶を飲む満潮に怒り出す曙。よく怒るな曙の奴は、裏を返せば元気とも取れるか。
「はい、メニュー表。吹雪も司令官も何か頼むでしょ?」
とか考えて座るとメニュー表を俺達に渡してくる満潮。
「ありがとう満潮ちゃん」
「おお、サンキューな」
「別にこれぐらい礼を言われるようなことじゃないわよ」
俺と吹雪の言葉に呆れたような顔をして言う満潮。しかし、この3人は案外しっかりしてる感あるな。
「ふっ、3人とも意外と気が利くタイプだな。偉い偉い」
「そりゃそうよ、クソ提督だらしないし」
「クズ司令官がシャンとしないからよ、しっかりやってよね」
「2人に同意ってとこね」
曙、霞、満潮の順に言ってくる。……ふふふ、やるじゃないか。色気抜群な俺ボイスをものともせずに颯爽と小破状態に持ち込むとは、これは脱ぐしかないな。
「って! 何をいきなり脱いでるのよ!」
「心の戒めだ」
「はあ!? 意味わかんない!」
「たあっ!」
「肌が痛いっ!?」
み、満潮に言われながらも上着を脱ごうとして半分露出した上半身に、しなるムチみたいな一撃が……。
「お店の中でも意味不明行為するのやめなさいな! 迷惑って事をちゃんと覚えてなさい!」
「うっ……す、すまん……」
どうやらムチっぽい何かを放ってきたのは霞だったようだ。どこからそんなものを持ってきたかはともかく、なんて正論。頭が上がらない。
「脱ぐならちゃんと自宅で、もしくは店の人に迷惑かけない場所でしなさいよね」
「俺としたことが場所も考えずに脱いで悪かった。ちゃんと執務室でお前達を呼んで脱ぐことにする」
「そう、それでいいわ」
「よくないよ霞ちゃん!?」
話がまとまりそうだったとこを吹雪が止めた。なんだ、一体何が不満なんだ……?
「無駄よ吹雪、霞も司令官と接してきた期間が長すぎて最早常識の境目がわからなくなって来てるから」
「ああ……そんな、霞ちゃんが司令官ウイルスに感染してたなんて」
「うわあ、恐ろしいわね……」
「ち、ちょっと! 人をバカみたいに言うの止めてくれない!?」
「ふふふ、既に霞は俺の色香に染まってしまっているからな」
「黙ってなさいクズ!」
「クズッ!?」
その二文字だけ、シンプルが故に心が抉られる……! なんて速く、重い攻撃だ……! 歴戦の提督たちはこ……こんな霞と戦っていたのか……!!
そもそも俺のウイルスってなんだ……! 特許とって儲けられるのか……? 後で明石辺りにでも聞くとしよう……!
って、ええい違う! そうじゃないだろう俺! 脱ぐとかクズとかクソとかそんな事じゃない! 俺の目的はなんだ! そう、威厳復刻の為に来たんだろう!
「待てお前達! とりあえず、俺が来た理由を今告げる!」
「急に何よ。まあいいわ、それで何の用があったの?」
よし、満潮が食いついた! それに合わせて吹雪と霞と曙も見た!
「ああ、心して聞くんだお前達…………それは!」
「「「それは?」」」
吹雪以外の3人が聞いて来る。さあ、しかと驚け!
「俺の凄すぎるところを存分に聞きに来たという、名誉かつ今後の状況を大きく変える大切な事を聴取に来たのだぁ! さあ、早速存分に俺の凄いところを――――」
「「「ない」」」
…………ふ、ふふふ、なんて無情かつ最適な一言。当たり前のような顔で言うそれも、この言葉の効力を的確に表している。それも1秒の考える時間もなく、だ。
俺の心は一瞬でハートブレイク。見事、見事だお前達。それでこそ、お前達は――――――
「そんなことよりクソ提督、早く頼めば?」
「そうよ! はい、さっさと決める!」
「え? あ、ああ、おう」
お、俺の悲しみにくれた心などそ知らぬ感じで俺に注文を急かす霞と曙。少しは気にしろよ! なんか悲しみにくれた顔をして目を閉じた俺を!
「ほら、吹雪ももう選び終わってるんだから二人の言うとおり選びなさいよ。……良いとことやらはちゃんと喋りながら探してあげるから」
「ほんとか!? み、満潮……お前と言う奴は……!」
「か、勘違いしないでよね! 無い物を探してあげようって思ってるだけなんだから!」
と言って、怒ったように顔を赤くして言う満潮。ふっ、何を勘違いするのかはわからないがまだ俺の威厳ポイントを見つけるチャンスはある!
「いいや、無くはない! そうだ、直感と感性だけで無いと決め付けちゃいけないぞお前ら! さあ、心の底にある俺に対する威厳ポイントな所を探すんだ!」
「いや、だからないわよ」
「そうそう」
「霞、曙、それはまだ見つけていないだけだ。さあ吹雪、俺達も注文するぞ! おーい間宮ー! プリーズカモンベイベー!」
そんな訳で、俺達は間宮を呼び注文を始めた。満潮が全く、うるさいんだから、と小さく言っていたが、何となく優しげに感じた。……まっ、気のせい、だろうけどな。