どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と蒼龍と古鷹の立ち話らしいもの

「……むうっ、昨日は甘いものを食っただけで終わってしまった」

 

 俺は鎮守府の廊下を歩きつつ、昨日の話し合いの事を思い出していた。

 結局、昨日の話し合いでは俺の良い所を見つけることは出来なかった。むしろ俺のプラチナハートが欠けにかけていった感じすら覚えるほどだった。

 

 しかし、満潮たちなりに俺のことを褒めてはくれていた。なんだかんだで吹雪も美味そうに甘味を堪能していたので昨日のことは悪くないとも思う。むしろ褒めてくれると思ってもみなかったので少し泣きそうになった。

 まあそんな訳で、甘いものを食べて満足し、提督業務に戻ってしまった訳だが……結局、俺の威厳を見つけることには至らなかった。

 

 良い所は何点か教えてもらった、しかしそれだけではいけない。あくまで威厳、威厳あってこその提督。いずれは全世界の美女を我が物にする為の威厳を探し出し、まずはしっかりと艦娘たちに伝えなければならないのだ。

 ふっ、艦娘たちの心の奥底に眠る俺の尊敬すべき点を引き出すのもまだまだ長い道のりだな……。

 

 そんな訳で俺が強者なりの苦労を顔面に醸し出してしまっていると、目の前に艦娘が2人話し合っている姿が見えた。あれは、蒼龍型2番艦で正規空母の蒼龍と古鷹型1番艦で重巡洋艦かつ、俺を震撼させた古鷹じゃないか。珍しい。

 

「おーい、何の話してるんだお前らー?」

 

 俺が2人に呼びかけると、2人はこちらを向く。

 

「あっ、提督! どうかしましたか? もしかして、重巡洋艦の良い所たくさん知りに来てくれたんですか!?」

「い、いや、それは、その、またの機会な」

 

 思わず目を逸らして言ってしまう。すると、古鷹は伏し目がちにそうですか……、と言ってガックシしている。くっ、すまない。俺は臆病で卑怯者――いや、待てよ?

 こんな事を言っていて真の提督になれるのか? マスターオブエンペラー・ザ・提督にこの程度でなろうと思っているのか俺は?

 

 笑止。よく考えてみればあの日から俺はあらゆる困難に対峙し生き残ってきた。アレだ、昔はイージーモードも難しかったが今となってはハードモードも指先一つで余裕っちな感じかもしれない。そう、あの日の地獄もインフレで余裕になっている可能性があるということだ……!

 

「あはは、しょうがないよ。提督だって人間だし、古鷹って張り切るととことんって感じもするし――」

「古鷹、安心しろ。またの機会というのは既に決まっている。その日を座して待つがいい。その時にこそ、俺の真なる実力、そしてパワーアップした俺の力を見せてやろう」

「本当ですか! ふ、古鷹、嬉しいです! 待ってますね!」

 

 と言って、目を輝かせて喜ぶ古鷹。特に片目は物理的に眩しく輝いて俺を照らす。サングラス持ってくるべきだったかも。

 

「提督、なんか墓穴掘ってないですかー?」

 

 と思っていると蒼龍が苦笑いしてそんなことを聞いて来る。

 

「いや、掘ってないさ。むしろ、コレは俺の威厳を高めるチャンスとも言えよう。鍛えぬいた俺の精神力と肉体で見事こなしてみせよう」

「提督じゃなくて、重巡洋艦の良い所見てあげるんじゃ……」

「………………あっ」

 

 そうだった、思わずあの地獄の日を耐えることばかりを考えてしまった。しっかりとその辺りの事も教えてもらわないとな。……待てよ?

 

「そうだったな、重巡洋艦の良い所を知るということが大切だった――それはつまり、全重巡洋艦の身体検査も俺がしてやることによってより深く知る仲になるという事か!」

「何言ってるんですか提督!?」

 

 蒼龍のツッコミが走る。だが何故ツッコミを、当然のことを言ってるだけだと言うのに。

 

「ふっ、よくよく考えたら胸部装甲ぐらいひと揉みふた揉みぐらいしないと重巡洋艦のことなんて完璧にわからないだろうと気付いただけだ。という訳で古鷹、その日が来たら身体検査も俺が行おう」

「て、提督がですか!? で、でも……恥ずかしいですよ……」

 

 困ったように照れながら、目線を逸らす古鷹。そんな古鷹の肩に、俺は優しく手を置く。

 

「なあに、最初だけさ。俺に身を預ければ怖いものなんてない、そしてその時には駆逐艦には見せられないめくるめく大人のラブロマンスが始まるのさ…………重巡洋艦全員と、な」

「その時点でラブロマンス感ないです提督」

 

 俺の甘すぎて空気すら甘ったるくなるボイスを聞いているのに、蒼龍が人でなしを見るような目でジトッと見てくる。な、何故そんな目を!

 

「い、いやー、あるぞ? ハーレム的ラブロマンス。全員が一言ずつ俺に愛の言葉を囁いて来るから、そこを素敵すぎるボイスで一人ずつ、その艦娘にあった別の言葉を言うのさ……」

「うーん、ボツですね」

「ボツってなんだ!?」

「やっぱり、ラブロマンスって言ったら二人っきりが一番ですよ提督。――って違います! そういうことじゃなくて、そういうの駄目ですよ、駄目!」

「何故だ! ハーレムを作る男としては避けて通れぬ道! 古鷹もそう思うだろ!?」

 

 視線を古鷹に向ける。すると古鷹は苦笑いをして、

 

「ふ、古鷹も駄目だと思いますよ、提督」

 

 と言った。何故だ、この崇高な理念をなぜ理解されない……! これが、男の苦悩……!

 

「それに、そんなことを羽黒にやって泣かれたりしたらどうするんですか?」

「……うっ」

「あと、絶対青葉にネタにされますよ、絶対」

「うん、青葉ならやりそう。すっごい嬉しそうに」

 

 蒼龍の言葉に同意して頷きながら言う古鷹。……確かに、我が泊地における取材者青葉なら俺の事を面白おかしく報道する可能性は高い……いや、高いなんて言葉自体がそもそもおかしい、まさしく絶対だろう。最近、司令官がバナナでこけた経緯教えて下さいとかなり嬉しそうに聞いてきたしな。全力ではぐらかしたが。菊月が言ってしまったので全力で無意味だったが。

 

「更に言うなら、あの妙高がそういうの許してくれると思いますか?」

「ああ、真面目な妙高も俺の前ではひとたび女になってくれると信じてる。前に説教されたが、アレは多分照れ隠しだ」

 

 蒼龍の問いに余裕で答える俺。そうだ、エロ本を執務室で読んでいたら妙高に説教されたのはきっとアレだ、私以外の女に靡くなんて提督ったらうふふふ、みたいなそんな感じに違いないのだ。

 

「提督、前向きですね」

「ふっふっふ、ポジティブな男はモテる。基本中の基本だ」

 

 笑みを絶やさない古鷹の言葉にそう返す。あれ、でも待てよ、もし妙高がそんな風に考えてくれていたとしたらだ――重巡洋艦ハーレム、子供はみちゃ駄目むふふな身体検査スペシャルをしたら再び正座6時間、説法6時間のコンボ食らうのか? ――――――それは、中々辛いかも知れない……。

 

「ポジティブも行き過ぎると逆効果ですよ提督…………あれ、なんで冷や汗かいてるんですか提督?」

「……いや、なんでも。まあその話はとりあえず置いておこう、永遠に」

「どんな心の変化ですか? ――でも、そうですね、そういう出来ないことは置いておいた方がいいですよ提督」

「そうだな…………蒼龍の九九艦爆をはみ出させるだけで今の所は我慢しておくさ。丸い、果実のような九九艦爆をな」

「なんですかその意味深な言い方!? 私の九九艦爆丸くないですよ!?」

「何を言うか、その胸部に搭載された九九艦爆は実に丸いしはみ出させがいのある――」

「提督、それ以上言うと蒼龍アッパー使いますよ……!」

 

 ちょっと怒ってるのか、頬を赤らめながら眉を吊り上げて右手を引いている蒼龍。空母の必殺拳を発動されると流石にこちらが分が悪い、て言うかヤバイ。か、からかいすぎたか。

 

「わ、悪い、許せ、冗談だ」

 

 と言うと、蒼龍は拳を収め溜め息を吐く。

 

「そういうタチの悪い冗談は止めてください、もう。古鷹が本気にしちゃうじゃないですか」

「ははっ、すまんすまん。つい、からかいたくなっちゃってな。それに古鷹も本気には――」

 

「て、提督とそーりゅーはそ、そういう、なんか、ふ、深い間柄なんだですね……き、気付かなくてごめんね、そーりゅー」

 

 ……なんか顔を真っ赤にして、口調がちょっとグダッてるぞ古鷹。蒼龍の言い方もなんか緩いぞ。

 

「だ、大丈夫! 古鷹、この事は誰にも言いません! 一言一句もらしません!」

「わあ、凄い勘違いしてる!」

「……どうやら、本当に蒼龍のおっぱい艦爆を揉む間柄にならなければならないようだな……ふっ、やれやれ」

「やれやれじゃないですよ! て言うか嫌です!」

「なん……だと……!?」

 

 胸を両手で隠すようにして恥ずかしそうに怒る蒼龍。ま、まさか嫌と言う返答が来るとは、これは俺の予測し得なかったことだ……! てっきりこのドサクサに紛れて良いですよ、今後ともポロっても……と恥ずかしそうに言ってくれると思ったのに……。

 

「ちくしょう……この海よりも深雪よりも深い悲しみ。光る磯波すら越えそうだ……」

「なんでそんなにショック受けて地面に膝をついてるんですか!? そんなことしてないで、ちゃんと誤解とかないと!」

「なに!? 叢雲のパンツは空色で青い!? じゃあ大和は!?」

「ああっ、会話が通じてないっ! て言うかそのデタラメ、叢雲に怒られますよ!」

「えっ、そ、それはまずいな……」

 

 アイツ、容赦ないからな……手加減の加減率が5パーセントぐらいしかないレベルの容赦の無さだからな……。ま、まあ本気出せば問題ないがな、このスピードフラッシュ提督な俺ならな。3割ぐらいは避けきれるからな。

 

「ま、まあ、大和のパンツについては置いておこう。古鷹の誤解を解く、だったよな」

「は、はい。なんか変な事で冷静になりましたね提督」

「何をバカな、俺はいつだって冷静だ。とりあえず誤解を解くならエキスパートネゴシエイター提督な俺に任せておくといい」

「なんか不安な肩書きですね……」

 

 そんな訳で俺は目をグルグル回している古鷹の方を見る。

 

「古鷹、落ち着いて聞いて欲しい。さっきのは誤解だ」

「……えっ?」

「そう、誤解なんだ。実に、非常に、物凄く狂おしい程に残念で無情で悪夢的な事実だが、悲しすぎる程に現実は厳しいって感じの誤解なんだ。思わず、涙が出るほどにだ……!」

「じ、実際出ちゃってますよ提督……」

 

 正気を取り戻したかのように言う古鷹はちょっと引き気味だが優しい笑みを見せる。良かった、無事誤解は解けたようだ、だが涙は止まらない。なんでだろう、少しも悲しくなんかないのに。

 

「そっか、誤解だったんですね……ごめんなさい提督、蒼龍。早とちりしてしまって」

 

 そして申し訳無さそうに頭を下げてくる古鷹。別に気にすることはないというのに。

 

「ううん、いいよ、誤解だってわかってもらえればそれで」

「そうだぞ、結局遅かれ早かれそういう関係になるんだからな」

「提督、あまり変なこと言わないで下さいね」

 

 そう言って俺の肩を掴む蒼龍の握力は強い。なんてこった、アッパーだけじゃなくアイアンクローも強力そうだ。我慢してるが相当痛いぞ、ふふふ。

 だが、俺はなおも言う。

 

「なあに心配するな古鷹、いずれきたる日は来るさ……」

「えっ?」

 

 古鷹の不思議そうな声が漏れる。

 俺はスタスタと窓の方へ歩く。そして、窓をゆっくりと開ける。日差しが俺を照らし、素晴らしい演出効果を発揮している。

 

 そして、上半身を古鷹の方へ向けて、言った。

 

「お前の、胸部装甲をポロリとさせる日――」

「て、提督、後ろー! 後ろー!」

「えっ?」

 

 蒼龍が言ったときに振り向くと、何故だかその一瞬がスローモーションに感じた。

 

 そう、俺の視界に入ってきたその光景は――――なんか、吹雪型のどこかの誰かさんが持っていそうな槍がミサイルの如く飛んでくる光景だった。

 ゆっくり、ゆっくりとこちらに向かって来る。だが、こっちの身体も動かない。まったくの万事休す。

 

 あっ、そういえば何の話をしているのか聞くの忘れてたな。再生してから改めて聞こう。あ、ついでにかっこよすぎる散り際にするためにも爽やかな笑顔もかかせなザクッ。

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