どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と工廠

 やれやれ、もう何度目の大変かわからないが昨日も大変だったぜ。

 

 まさかあの槍が叢雲のもので、なんか嫌な感じがしたから投擲すると偶然にも俺がいたなんてな。中々の災難だった。

 あの叢雲も素直に謝ってくれたのだが、何故だか俺は逆に感謝をしてしまった。おかげで引かれた。

 

 感謝した理由は分からない、しかし何となくあの一撃を食らったのは仕方が無いと思ってしまったのだ。何故だろうか、神の意思か。勿論、俺はMではない。

 

 昨日、古鷹と蒼龍はどうもまだ来ていない艦娘について話していた事も聞いた。蒼龍は飛龍が着任するまで二航戦の名に恥じないように頑張っていきますから、と笑顔を見せていたがそれでも飛龍の着任を心待ちにしているだろう。二航戦の片割れだしな。俺も来て欲しいと思っている。

 そんな訳で俺は工廠に来ていた。戦力の増強、という意味でもそろそろ着任させたいからな、飛龍や長門を。

 

 てな訳で建造する場所の方を見ると、どうも現在進行形で建造してくれているようだった。

 

「おっ、頑張ってるな」

 

 思わず独り言を呟くと、建造作業をしていた者――妖精さん、という小さな人間みたいな姿をした者たちが手を止めて、こちらを見て姿勢よく敬礼してくれた。

 

「建造率はどんな感じだ?」

 

 と言うと、建造率は既に90パーセントを超えていると、と言う妖精さん。てことはもう少しで建造終了するのか。

 

「よし、じゃあそのまま頼む。手を止めさせて悪いな」

 

 いえ、そんな事はないですよ、提督さんもいつもお疲れ様ですと言って作業を再開する妖精さんがた。なんだかこんな対応のされ方が懐かしく感じるのは何故だろうか、至極当然な感じの態度だと言うのに。

 

 見ると現在ドックで2つの建造がされている。もう数刻で建造も完了するようなので、完成するまで俺はパイプ椅子に座って待つことにした。

 

 ……………………………残り10秒。9、8、7、6、5、4、3、2、1。

 ――おっ、建造終了したみたいだな。その証拠に妖精さんたちもぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。と思うと、妖精さんらは全員俺の前に集合して完成の知らせをして敬礼してきた。お前ら本当敬意払ってくれてるよなぁ。

 

「ああ、報告ありがとう。でも、もうちょい気楽にしてもいいぞ……って、コレは俺から言っていいとは思えないが、まあ口調を崩させても許せる超器量な持ち主な俺だから言える事ともいえるな、フッフッフ。――――えっ、提督さんは本当に器量の大きいお方です? お、おいおい、今更な事を言うなよハッハッハ!」

 

 ……素直に褒められると照れるな。ええい、褒められるのが当たり前な俺と言うスーパーエリート提督だと言うのにまだ慣れない! くっ、まだまだ心構えがなってないな俺も……!

 

「あれ、司令官来ていたのですか?」

 

 自分の威厳力は高い、高いんだ。そう、高すぎて限界突破している。つまり、褒められるのは必然にして当然かつ当たり前でクラッカー! だから賞賛されてもそれも普通にあたりまえだ。

 

「司令官?」

「うむ、そうだ、俺は司令官。威厳度マックス、もうマックスマキシマム司令官だ。……ふっふっふ、もう俺に心の隙は無い。欠点は優秀すぎるぐらいになってしまったな……いや、もう遙か昔からそんな感じではあるが……」

「あのー、司令官……?」

「んっ? なっ!? いつの間に現われた白雪!?」

「司令官が何か考えていた時からいましたよ」

 

 と笑顔で言う吹雪型2番艦、駆逐艦の白雪。結ばれている髪を指で揺らして遊ぶだけで1日過ごせそうな白雪だ。

 

「そうか……相変わらずお前は謙遜するな、その気配遮断能力はどこぞの運命の戦争にも出れる程だと言うのに」

「それはちょっと過大な評価と思われます、司令官」

 

 頬をつつきたくなるような柔らかい笑みで返答する白雪。やれやれ、謙遜は要らないというのに奥ゆかしい奴よ。

 

「笑顔でごまかす必要はないぞ白雪、このスーパーサーチ司令官の見定めに誤りはゼロだ。それより、今日の工廠担当は白雪だったのか?」

「はい。吹雪ちゃんは今日はお休みなので」

「そうか、通りで今日は見ないと思った訳だ」

「ふふっ、寂しいですか司令官?」

「ふっ、馬鹿を言うな白雪。俺は司令官だぞ? 吹雪が1日2日休んだくらいで寂しがるわけ無いだろう」

「それなら、3日休んだのでしたらどうですか?」

「いや、別に3日も問題ない」

「4日、5日では?」

「……別に構わん」

「それでは――――」

「だあっ! 日数の問題じゃないんだよ白雪! どうしてそんなにしつこく聞いて来るんだお前は!?」

「いえ、特に他意はございませんよ司令官」

「他意の無い聞き方をする奴の態度には見えないぞ……まったく」

 

 クスクスと、どこか嬉しそうにほんわかと笑う白雪。何を喜んでるんだか。

 

「まっ、だが吹雪のおかげでこのエリートマイスター司令官な俺に会えてサインが貰えるんだ、後で吹雪に感謝しろよ白雪」

 

 俺は胸ポケットから、マイペンを格好良く取り出す。スッと取ってクルクル回してパシッ、って感じだ。今まで練習しておいたサイン捌きを見せる機会がようやく来てしまったようだな……。

 

「いえ、特にサインは欲しいと思っておりませんよ司令官」

「そうかそうか、制服に直に書いて欲しいのか。わかるぞー、俺からのサインだから見せ付けたいのはよくわかる。サインもらう第2号として光栄に思っていいぞー」

「い、いえ大丈夫ですから……ところで1号は誰だったのですか?」

「勿論吹雪だが?」

「……あっ、前に吹雪ちゃんがもって来た紙に書かれたサイン、司令官のだったんですね」

「おっ、見たのか? いやー、吹雪も最初は要らないとは言っていたが俺のサインの希少価値に気付いたのか、紙に書いて欲しいとか言ったんだよ。あの時は吹雪の目ざとさに、感心を覚えたほどだ……ふっふっふ」

「吹雪ちゃんはそんな事考えてないですよ司令官」

「そうか? まあ、その真偽はともかくとして今度こそ制服に――」

「そ、それより早く建造結果を見に行きましょう! 司令官!」

 

 おっ、そうだった。あまり妖精さんたちを待たせたままだと疲れてしまうだろうしな。

 

「そうだな、じゃあ先に建造結果を見てからにするか」

 

 とりあえず俺はペンを仕舞う。勿論、しまう時もエリートさを見せ付けるように華麗に回転させつつ、きっちりと胸ポケットにしまう。

 

「司令官、ペンの扱いお上手ですね」

「ふふふっ、まあ、天性のエリートだからな……ペンの扱いもお手の物さ」

 

 そう、何千回もこの動作を練習した俺に死角はない。言ったら情けないので絶対に言わないが。

 

「吹雪ちゃんが言っていた通り、ペン回しの練習しているって言うのはほんと――」

「さー、早くいこう! 無駄口を叩いていると後で靴下を脱いで廊下を素足で歩かせるの刑だからな!」

「えっ!? な、なんですか、それ!」

 

 驚く白雪に反応せずに俺は早足で妖精たちの方へ向かう。ええい、吹雪には言うなと言っておいたのに……! 後で脇腹くすぐりの刑だな……!

 

 などと考えて妖精さんのところに行くと、出来ていたのは2つの船の模型。いつ見ても良い出来栄えだ。妖精さんも良い出来だと態度で示している。

 

 だが、こっからが問題だ。

 この模型を、機械的な箱の中に入れる。見た目的にはどう見てもエレベーターのかごで、そして、最後にボタンを押す事で艦娘が着任してくれるシステムなのだ。ちなみにボタンもまんま開閉ボタンのような場所にある。箱の大きさは扶桑とか武蔵が艤装つきで入っても全然余裕なぐらいである。

 

 だから、建造と言うよりはその模型と引き換えに艦娘を呼ぶってシステムになっている。いわばファンタジー的な召喚に近い。

 それゆえにオリジナル呪文を詠唱してボタンを押した事もある、隣にいた名取や吹雪になんとも言えない顔をされたのも懐かしい。その時来てくれたのは確か五月雨だったな……。来た後に俺が教えた詠唱を頑張って覚えてくれた時にはちょっとした感動も覚えたな、今でもたまに一緒に詠唱してくれる良い奴だよ五月雨は……。まあ、よく噛むから足並み揃わないんだが。

 

「よし、今日こそ飛龍と長門を着任させてみせる……! やはりこのミラクルエリート司令官そのものが工廠に直接いなければ出てきてくれないらしいからな……!」

「あっ、だから今日はこちらにいらしたんですね」

「その通りだ。白雪、今日は俺の設定した規定値で建造しているか?」

「はい。本日の予定通り規定値での資材投入をしています」

「よしっ……なら問題ないな」

 

 正規空母や戦艦は一定の資材を投入しなければ建造出来ない。そして来てくれる艦娘もランダムだ。しかし、このミラクルラッキー司令官がこの場にいる以上は着任率100パーセント。飛龍と長門も以前からちょくちょく俺がここに来て建造しても着任しなかったが、100パーセントだ!

 だが、一縷の不安は俺にもある。だからこそ、あの詠唱を今こそ使うしかない……!

 

 俺は建造された模型を箱の中に置き、ボタンの前に指を構える。

 

「司令官、押さないのですか?」

「いや、押すさ。だが待て、今魔力を渦巻かせなければならない」

「えっ」

 

 さあ、久しぶりに本気で解き放つ時……! 召喚の詠唱を!

 

「大海原に座する海神よ……晴天を司る空帝の神よ……静して聞くが良い」

「あ、あのっ、司令官?」

「我は全世界の天才にして英知を司る神秘。水平線すら越えうる境界に立つ者……」

 

 来ている……感じる、俺の感覚が告げているぞ。魔的な、何かが俺の周りに来ている……。

 

「我が道は海(かい)。暁が燃やす、色を持たぬ自然の理。絶零にて無限――檻に等しき無量の地にある星屑。それら全ても愚かしく、全に配する者。――――――だあああっ!」

「えーーーーーーっ!?」

 

 俺はそのままの勢いでボタンを押した。そう、詠唱は完成したから押したに過ぎない。詠唱忘れたとか、俺なに言ってるんだろうとかそういう疑念は抱いていない。ただ出来たから、押したに過ぎない。魔的なのも来ていたしな。

 そして、ドアは閉まる。中でゴタゴタと少し音がしている。

 

「これはもう、確定して来るな……」

「え、ええ、ちょっとそうかもしれない、ですね……」

「ふふふ、自信を持て白雪。そら、俺達の待ち望んだ飛龍か長門の姿が見えるぞ」

 

 そして、音が止んでドアが開く。そして俺達の望んだものが……!

 

 

《軽空母、龍驤やー!》

 

 

 ……!?

 

「あっ、龍驤さんのボイスカードと艤装が置いてありますよ司令官」

「……いつから飛龍は龍驤に……!? 更にこんな独特なシルエットになっているとは……! ――ふっ、だが歓迎しよう。よろしくな、龍驤型正規空母の飛龍!」

「司令官、残念ですけれど……飛龍さんではありませんよ」

 

 白雪が苦笑いしながら言ってきた現実的言葉が俺を射抜く。

 くっ、わかってたさ、飛龍がこんな独特すぎる形してるはずがないと。て言うかただの艤装とボイスカードだし。

 そうさ、この泊地に既に着任している艦娘が建造される場合はこのように艤装とボイス付きカードだけが来る。解体も艤装とカードを差し出す事で可能だ。カードだけ取っておこうと思ったが、エラーになったので泣く泣く一緒に出した最初期は懐かしい話だ。扶桑のカード解体しようとした時に山城から延髄蹴りからの打ち上げ攻撃、そして主砲一斉射コンボ食らって根負けした結果、山城の近代化改装に使ったのも懐かしい。

 

 まあ、2人目の同じ名前の艦娘も上層部に申請すれば着任してくれるとは聞いているが……だったら来て欲しい艦娘の申請も通せと言いたい。

 

 ――いや、実際に言った。言ったが、その程度も着任させることができなくてエリート提督などとは片腹痛い、元々片腹痛かったが。とか偉そうに言ってきやがったので、絶対に着任させてみせると心に誓ったんだったな……。思えばあのジジイの挑発に乗ってしまっただけなのではないだろうか、俺は。

 

「ほ、ほら司令官、こちらの船も建造しましょう。今のは龍驤さんだったので、こちらが長門さんですよ、きっと」

「そ、そうだな……よしっ! 来い長門!」

 

 白雪が模型を置き、俺はボタンを押す。シンプルかつ流れるような動き、これはもう来た。間違いなくき――

 

《古鷹型2番艦のかこってんだー、よっろしくー!》

 

 …………。

 

「…………おー、かこってんだー型の長門か! よろしくぅ! へぇいっ!」

「ち、違います、違います司令官。これは加古さんの艤装とボイスカードなんです……」

「何を言ってるんだ、どこをどう見ても長門だ。間違いない」

「間違いしかないんです……」

 

 顔を背けて言う白雪。……ああ、わかってるさ。建造で何度も失敗した事もある俺だ、それぐらいはもうわかってるが……慣れるもんじゃないから目を背けただけなんだ……。

 

「……で、でも司令官、やはり建造は運ですから、こういうことは仕方がないかと思われます! いつか長門さんも飛龍さんも来てくださりますから!」

 

 そんな俺の気持ちを察するように応援してくれる白雪。

 

「……ふっ、そうだな。悪い、要らん気遣いをさせてしまったな」

「いえ、そんな……」

「だが白雪、安心しろ。このスーパーエリート司令官たる俺はコレぐらいではくじけん。むしろもっとくじけそうになった時も多くあったからな……むしろだ、俺が間違っていた」

「間違っていた、でしょうか?」

「ああ、着任してもらうんじゃない、俺から着任するよう頼むべきだったのだ」

「ど、どういうことでしょう……? って、どうして司令官、箱の中に?」

「それはだな…………この装置は特殊な模型で艦娘を着任させるシステム。つまり――俺自身が装置の中に入れば、着任して欲しい艦娘を威厳とイケメン力で呼べるという事だ!」

 

 模型の力に惹かれて艦娘が着任するのであれば、俺が呼びに行けばメロメロになり間違いなく俺の所に来る……! 下手をすれば一人だけじゃなく100人以上来る可能性も大……!

 

「司令官、それは違います! 司令官は早まってるだけです!」

「早まる? ふっ、俺は早まった事は一度もないぞ!」

「私が着任した時から沢山ありますよ!」

「気のせいだ! さあ、いいからボタンを押すんだ白雪! 俺のフェイトデスティニー司令官たるが所以を見せよう! さあ、押せぇ!」

「だ、駄目ですから! 早まらないでください!」

 

 と言って俺の腕を両手で引っ張る白雪。くっ、力強い!

 

「は、離せ! 俺は呼ぶ! あ、妖精さん達まで何故俺を箱から降ろそうとするんだ!? 奇跡を見せてやるから離せぇー!」

 

 

 

 ――数十分後、俺は白雪と妖精さんの意志と出撃時間が迫っていたので諦めた。

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