どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と改二のいち

 ……昨日は何と言うか、驚いたな。

 

 まさか、昨日建造出来なかったというのに出撃した蒼龍や陸奥が飛龍と長門を連れてくるとは。海域で会合してくるとは思ってもいなかった……。

 だが、なにはともあれあの2人が嬉しそうで何よりだし俺も嬉しい。飛龍に手始めに触ろうとしたら、めっ、と言われたが。

 

 長門とはセクハ――スキンシップする前に握手した。

 そして悟ったのさ、無闇に触ったら死にかねないな、と。握手して、粉砕された右手を見てね。

 

 しかし威厳のためにも声をあげなかった。それだけでなく痛みをごまかすように、ヒップホップ的なダンスをしながらカッコよすぎる言葉を出しまくっていたので優秀かつダンスの出来る提督と思われていたことは間違いはない。そう、結果オーライだ。まあ、俺の提督っぷりを見ていればいずれは分かる事だっただろうけどな。ちなみに右手も既に完治済みだ。

 

 そんな訳で我がエリートスペシャル艦隊は更に戦力が増強され、更に更に、ハーレムまで強化されてしまっている状況だ。後は艦娘たちが俺の威厳に気付き、積極的にハーレムに加わりたがればもう完璧だろう。ふふふ……自分の偉大さと計画性が怖い……。

 

 さて、今も俺は執務室でかっこよすぎる程に提督らしく腰を据えているが今日のこの執務室にはちょうど秘書官の吹雪はいない。

 なので今日はシミュレートでもするとしよう、来るべきモテモテハーレム空間で余裕と威厳を持った提督感を見せるためにもな。

 

 その為には見本が必要だ。視覚的に女性の肉体を見つつシュミレートする。脳内だけでは補いきれない可能性もある。それも出来るだけ肌色を露出している方が好ましい。

 そう、アレが必要だ。エロほ――いや、視覚的に三大欲求である一つを高まらせてくれる文化的桃色系保険体育のような、大人の為の教育的な本を読む必要がある。

 

 無論、通常の隠し場所は陸奥やら妙高やらに見つかってしまい没収、もしくは注意されて自室に戻されている。

 だがだ、俺の隠し場所は108箇所ほどある。奇しくも煩悩の数と同じなのは数奇な運命とも言える。

 

 そのうちの一つが――この俺の足元の床だ。

 コイツを思いっきり踏みつけることで、飛び出す本のごとくピョイーンって感じで出てくる。勿論コツはいるが。

 

 さあ、早速出すぞ……俺の右手に納まれエロほ――いや、重要文化物!

 

「ふんぬっ!」

 

 思いっきり床を踏みつける俺。すると俺に踏まれるのを待っていたかのように、喜んで重要文化物を射出する。くっくっく、よく出来た床だ……!

 そして落下する本は我が右手に――!

 

「提督さん提督さんていとくさーんっ! 夕立、提督さんにご用事っぽーいっ!」

「ひゃっはーっ! イエス! 何のご用事っぽいんだね夕立ぃっ!」

 

 俺は落ちてくる本を受け止めず、右手は夕立に挨拶するように上にあげた。同時に再度床を踏みつけ、エロ本は空いた床へ帰るように華麗に落下して俺の視界から消えてしまった。その軌跡は、俺との別れを惜しむ捕らわれたジュリエットの如き表情にも感じた。くううう……。

 ……ま、まあいいさ。別に永遠に読めない訳ではない。後で読もう後で。特選、胸部装甲~大きい胸部装甲は、す・き?~という今すぐ読んでおきたい内容も表紙にあったが我慢だ我慢。

 

「うん、ご用事はね――――夕立を、改二にしてほしいっぽい!」

「…………カイニ?」

「そうっぽい!」

 

 ……期待に満ちた表情でワクワクしている白露型4番艦、駆逐艦でソロモンの悪夢とまで言われ、ノックせずに颯爽と現われた夕立はそう言った。……だが、俺は言いたい。

 

 

 カイニって、なんだ。

 

 

 カニなら分かる、朧もよく連れてるしな。しかし、カイニってなんだ……? 何か新しい生物か……? 二回目の改造とかか……? いや、なんか違う気がするな……。

 問いかける事は簡単だろう、だが夕立のこの表情で俺にはわかる。これは、提督なら知ってて当然みたいな用語だという事を……!

 

 いかん、これを聞いてしまえばこのナイトメアエリート提督たる俺の知恵に傷がつく……! 以前も知識不足で何度か呆れられたことはあったが、最近はそんな失態を起こさないパーフェクトな提督として艦娘たちの目を釘付けにしているのにそれはまずい……!

 

「ねえねえ、提督さんいいでしょーっ! 改二になりたいっぽいー! 夕立、もっと活躍して提督さんの役に立ちたいっぽいー!」

「……そ、そうか。でもな、今でも十分に活躍してくれてるからな……そ、そのカイニとやらにはならなくても、今のままの夕立で俺は良いと思ってるんだがな……」

 

 まずい、冷や汗が出てくる……! なんか視線も外してしまう……! これは分からないと自白しているようなものではないか……!

 

「そんなことないっぽい! 夕立、他の夕立も見たことあるけど、改二になったら更に火力が上がって、敵もばーんっとやれちゃうぐらいすっごい強くなるっぽい! っぽい!」

「し、しかしなぁ……そのカイニ、って言うのは、やはりリスクもあるような、ないようなだな……」

「おっぱいも大きくなるっぽい!」

 

 ……なに。

 

「……ワンモア。ワンモアだ、夕立」

「提督さんの好きなおっぱいも、パワーアップするっぽい!」

 

 ……っ!

 

「………………そうか」

 

 俺は思わず、回転椅子をクルリと回して夕立に背を向ける。

 よくわからん、よくわからんがこのカイニという奴は身体的成長を施す何かと見た。つまりだ――――夕立が、大和なみのグラマー美人になってしまう可能性がある、そういうことだろう。

 

 うむ、確かに夕立には将来へのポテンシャルは非常に高いと俺は見ている。だが、そのカイニによって大和みたいな夕立が来てしまうなら……非常にウェルカムだ。

 駆逐艦である夕立が、戦艦級な感じになる。そんな夕立が俺に対して懐くようにじゃれてくる。アリだ、大アリだ。

 

 しかし、今の夕立の精神から成長しない状態で肉体的覚醒が及ぼされるとすれば、それはただ発育の良い駆逐艦なのではないか?

 それだとまずい。何がまずいか明確にはわからんが個人的にはまずい。まだ見ぬ扉が開かれるような気がするぐらいにはまずい。

 

 どうする……カイニの正体も不明だと言うのに、一体どうすればいい……。

 

「……夕立。そのカイニとやらになったお前は、どれぐらい変化しそうだ……?」

「うーん、すごい強くなってもっともーっと提督さんのお役に立つぐらい強くなるっぽい!」

「……見た目は?」

 

 ……思わず、喉をゴクリと鳴らしてしまう。もし、大和級なら俺は……!

 

「見た目? えーっと、他の夕立を見た感じだとー……夕立が少し成長した感じっぽい!」

「おーっし、じゃあとりあえずは保留!」

「急に軽い喋り方になったっぽい!?」

 

 再びクルリと椅子を回して夕立の方を見て言うと、夕立は驚くようにそんな返しをして来た。いやー、安心した安心した。少しなら問題ないな。

 

「とりあえずそのカイニ、についてはもう少し考えておく。何せ、肉体的変化を伴うものっぽいしな。能力の向上についても通常は生半可に上げられるようなものではないものっぽいはずだしな。そのカイニっぽいものが今の夕立に対して本当にすべきものか、やはり一度は考える必要があるっぽいものだと俺は判断したっぽい」

「わかったぽい……。でも、提督さんなんで夕立の真似してるっぽい?」

「い、いや、別に真似はしていないっぽいぞ」

 

 本当に《っぽい》と思ってるだけだからな……!

 だが、夕立は俺のそんな思いも気付かず顔を膨らませて怒っている。っぽい。

 

「えー! 絶対にしてるっぽーい!」

「い、いやー、してないっぽーい」

「ううん、してるっぽい! 夕立、わかるっぽい!」

「ははは、してないっぽいぽーい」

「うーっ! だまされないっぽいー!」

 

 両手を上げて怒る夕立。正直なところ、今はまさしく真似している。そして、からかうのが少し楽しくなっては来ている。

 そんな訳で、俺はもう少し夕立と話して遊ぶことにした。話す、という言葉が当たってるかはわからないが。

 

***

 

「なんてことをしていたらだな、夕立の口癖が移ったっぽい」

「何してるんですか司令官……」

 

 夕立との対話――いや、最早共鳴に近い会話をして終わった後、俺の語尾が変わってしまった。一緒に廊下を歩く吹雪からはまたも呆れた声を出される始末だ。

 

「油断していたっぽい……! これじゃあ、このソロモンナイトメア司令官の威厳があますことなく発揮されない可能性があるっぽい……! この語尾じゃ、威厳を感じないっぽい!」

「言葉だけ聞いてると夕立ちゃんが司令官になったみたいで面白いんですけど、やっぱり声が違うので違和感が凄いですねー」

「そうなのかっぽい? ふっふっふ、ならば見せてやろうじゃないかっぽい。このレインボーボイス司令官と言われたが所以をな……っぽい」

「えっ、言われてたんですか?」

「ああ、言われてたっぽい」

「どっちですか!?」

 

 と言ってくる吹雪だが、俺は目を逸らして敢えてノーコメント。便利な口癖だなコレは意外と。

 そんな訳で俺は喉の調整をする。

 

「んっ、んんーっ、ごほんげふん――――さあ、行くぞっぽい! しかして聞くといい! コレがセブンスコール司令官の変幻自在、ミステリアステリトリーボイスっぽい!」

「わあっ! ほ、本当に似てる!」

 

 あっ。

 

「ち、ちょーっと待てっぽい! これはノーカンっぽい! 今から言うのが本気モード――」

「わあー! 凄い、凄いですよ司令官! 夕立ちゃんにものすごくそっくりです!」

 

 パチパチと楽しそうに拍手してくれる吹雪。しまった、つい声を変えてから口上してしまった。とはいえ、喜んでくれてる吹雪に対し、今から仕切りなおしてもそれはそれでグダグダしそうだしな……。

 ま、まあ結果オーライだ。とりあえず声を元に戻そう。

 

「んっ、ゴホン。――という訳でコレが俺の1000個あるうちの特技の一つだ」

「そんなにあるんですか!?」

「ああそうだ。そんな俺のことは今後、美しき魔提督司令官と呼んでもいいぞ」

「それは止めときま――――あっ! 司令官、語尾治ってますよ!」

「なにっ!」

 

 ほ、本当だ! 夕立の真似をしたことで、口癖が夕立の声の方へ引き寄せられ、俺の声からは取り除かれたという事か! ……なんて僥倖、そして一瞬でこの解を導き出してしまった俺はやはりエリートジーニアス司令官に他ならなすぎる……!

 

「ふっふっふ、またも俺がスーパーエリート司令官だと言う事が証明されてしまったな……」

「そんな要素あったようには感じなかったんですが……」

「いつか感じ取れるようにもなるさ……。っと、ちなみにだな、真似出来るのは夕立だけじゃないぞ?」

「えっ、他の方の声真似も出来るんですか!」

「ああ、言っただろう? レインボーボイスに再現出来ないものはない。例えばあそこで一人で歩いてる大井がいるだろう? そんな大井すら騙せる程の再現性で北上の真似も可能だ」

「えーっ、それは流石に無理だと思いますよ司令官」

 

 と言ってやんわりと笑む吹雪。やれやれ、冗談と思っているようだな。

 

「はっはっは、甘く見るな吹雪。だが確かに声だけでは俺だとすぐにバレるだろう。しかし、この北上風お面をつけることで姿、声ともに全くバレないようになるのだ」

「どっから出したんですかそれ!?」

「その辺りは気にするな。ちなみに扶桑や睦月、大井に青葉風のお面もある。無論、それ以外にも多数ある」

「なんでそんな物いっぱい持ってるんですか!?」

「それも気にするな。じゃあ、早速実践するから見ておくといい吹雪。このレインボーボイス司令官の凄さをな!」

「あーっ!」

 

 はやまるなとでも言いたげな吹雪の声に立ち止まることなく、俺は北上風お面をつけて歩く大井の所へ走って向かう。声の調整も完了! では早速……!

 

「おーい、大井っちー! 大井っちー!」

「あら、北上さん!? もう遠征からかえっ――」

 

 こっちを輝かしい目で見たと思うと、訝しむような目でこっちを睨む大井。バレた……? いやこんなすぐにはバレないはず。

 

「あれー? どうしたの大井っちー、目つきが怖いよー?」

 

 そんな声を出すと、大井はニコリと笑った。やはりバレてはいないらしい、しかし何故だ、なぜ頭の中で警報が鳴っているんだろう。なぜ、この笑顔に危険信号を感じているんだろう。

 

「……提督? 何のつもりですか?」

 

 ……!

 

「……な、何のことかな大井……じゃなくて大井っちー? あたしはかっこよすぎて威厳が凄い提督じゃなくて北上だよー」

「そう、あくまでそう言い張るんですね? わかりました。それじゃあ、少しアッチでお話しましょうか……」

「あ、あれ……!? なんで襟首掴――ま、待て! 悪かった! ちょっとしたお茶目と冗談だ! だから首根っこ掴んで引きずるなー!」

 

 

 声もつい戻ってしまう程の必死の弁解に大井は耳を傾けることなく、襟首を掴み俺を引きずりながら大井はまっすぐ歩いていった。…………致命傷で済むことを、祈るとするか。ふっ……。

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