どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と島風

「きょーうも、おれはー、やばすぎるー。るるるー」

 

 鳥が鳴き始める、まさに朝の中の朝。

 俺は朝日を見ながら建物の外をハードボイルドに歩いていた。今の俺を誰かが見れば、渋すぎて胸キュンして俺に抱かれたがること間違い無しだ。いや、前に朝走ってた長良と野分に普通に挨拶されただけで変わった反応をされもしなかったことがあったから100%に近いほぼ間違いなしと訂正しておこう。

 

 しかし……夜明けの俺は絵になりすぎてるな。これは絵描きでも呼んで書いてもらったら最優秀賞をもらえてしまうレベルと見た。

 そしてモデルとなった俺の前に美少女に美女達が集まり、更にはファッションモデルとしてスカウトされる始末……。ふふふ、ファッションモデル提督か、悪くない肩書きだ。

 

 おっと、そうなるとファッションモデル的な歩き方も身につけておかないとな。

 

「よし、まずは足を真っ直ぐにし、こう、スッ、と歩く。……よし、いい感じな気がするぞ。勘だけでファッションモデルの歩き方までマスターできるとは……自分の才能の奥深さにむしろ興味すら惹かれてしまう……!」

 

 僅かに足を交差させて歩く。あまりファッションモデルは見たことないが、確かこんな感じだった気がする。よくわからんが、何となくイケてる気がしかしないな……!

 

「ねえてーとく、なんで変な歩き方してるの?」

「変? これが変だと言うのはお前がまだまだ市民的だからに過ぎないぞ島風。これはまさに選ばれしイケメンにのみ許された素晴らしい歩行術だからな」

「ふーん、じゃあてーとくには許されてないですねー」

「いやいや、許されすぎて神にも土下座でやって欲しいと言われるレベルだ。やれやれ、エリートは神すらひれ伏させてしまう俺の天才さはまさに地上に納まりきることはない――ってなんでここにいるんだ島風!」

「えー、てーとく反応おっそーい」

 

 高速すぎて首が折れるかと思った程に超反応で島風のいる方向を向いたというのに遅いと言うとは……流石我が泊地最速――いや、俺の次に最速な艦娘、島風型1番艦の駆逐艦、島風! うさ耳リボンの島風だ!

 

「いいや、反応は早かった。正直全世界の超反応選手権があれば俺がぶっちぎりでナンバーワンだ」

「こっち向いたのは早かったけど、気付くの全然おそいですよー」

「ぬぐっ…………やれやれ、じゃあ今回はそういうことにしておいてやろう。で、なんで珍しくこんな朝に起きているんだ?」

「それは勿論、島風は起きるのだって一番早いもん!」

 

 両手を腰に当ててエッヘンとか言いそうな島風、と連装砲ちゃん。成程、だから早かったのか。しかし。

 

「そうかそうか、だが今日は俺が早かったらしいな。いやー、すまんなぁ島風、やはりこの泊地最速かつ最速起床者はマッハモーニング提督たる俺のようだ」

「何言ってるんですかー、てーとくより私の方が全然早かったもん!」

「おやおや、見苦しいぞ島風。お前も確かに早いが俺の方が早かった、しっかりと認めることだ、ハッハッハ!」

 

 背骨を大きく曲げて笑う俺。はっはっは、勝利と言うものはいつだって格別だなぁ!

 

「むーっ! 絶対ウソですよー! だって私、今日3時起きだったもん!」

「なっ……」

 

 さ、3時起きだと? ま、まずい、俺は確か4時――いや、ギリギリ3時だった! 秒針はまだ4時になっていなかった! よしセーフ!

 

「お、俺も3時起きだったぞ……? ざ、残念ながら、勝ちとは言いがたいんじゃないかね島風くん」

「うーっ……! だったら、競争しましょうよてーとく! この泊地一周して、速かった方の勝ちで!」

「何ぃ……? この俺と、かけっこ勝負をしようと言うのか島風……!?」

「うんっ! かけっこなら絶対負けませんしね!」

 

 自信満々で言ってくる島風。成程、確かに自分の得意なもので決着をつける……恐ろしく、勝ちやすい良い手とも言える。だが……!

 

「くっくっく……ふっふっふ……」

「あれ、いきなり右手で自分の顔掴んでどーしたの?」

「ふふふふふ、くっくっくっく…………はぁーはっはっはっはっはぁっ!!!!!」

「!?」

「ふはははははははっ!!!! くーはっはっはっはっはっ!!! ひゃーっはっはっはっはっ! だぅあーはっはっはぁっはっはぁぁぁ!!!! しゃーっはっはっはっはっはぁ!!! きひゃひゃひゃっひゃっひゃぁー!! ぐわーっはっは――」

 

「うっせぇーっ!」

「どげふっ!?」

 

 痛い! 後頭部に何かが! こ、これは、目覚まし時計!?

 投げられた方向を見ると、タンクトップ着けている摩耶が窓から見ていた。今にも第二の目覚まし時計を投げつけて来そうな形相で。

 

「ってあれ、提督じゃん。朝からうっせえぞ!」

「ま、摩耶、司令官さんに対してそんな口の聞きかたしちゃいけないわよ」

 

 怒る摩耶をなだめるように同じ高雄型の鳥海がパジャマ姿で宥める。そうか、この辺りは摩耶達の部屋付近だったか。

 

「まあ待てっ! コレにはしっかりとした理由がある!」

「ほぉー、言ってみろよ」

「何段階も大声で笑った方が大物感が凄いだろう! なあ島風!」

「えー、全然ですよー」

 

 あっけらかんと言い放ってきた島風。そうか、島風には大物的笑い声の美学はまだわからないようだな……。まあ速さに特化しているのだし、そういう美学がわからずとも仕方が無いな。

 

「鳥海、お前ならわかるだろう!」

「す、すみません、私の計算でも全く持ってさっぱり理解出来てません……」

「な、なんだと……!? その知的なメガネでもわからないのか……あと髪乱れてるぞ鳥海」

「えっ!? あ、やだっ……!」

 

 と言うと、鳥海は照れるように部屋の奥へと行ってしまう。ははは、可愛い奴よ。

 

「という訳でわかったな摩耶! 俺の大いなる理由が!」

「おう、わかったぜ提督。とりあえず二個目の時計探してくるから待っててくれよな」

「第二次攻撃準備!?」

 

 や、ヤバイ摩耶の奴、頭に怒りマークがついて納得してない感じ全開じゃないか! このままでは第二次攻撃でトドメを刺され、時計も大破する!

 

「ねー、早く勝負しよーよ、てーとくー」

「はっ、そうだな! よし、よーいドンッ!」

「あっ、ずるい!」

 

 俺は第二次攻撃回避と島風に勝つために駆けた。

 

 この勝負、勝算しかなかった。

 俺はあのいつぞやのサッカーのとき、島風を完全に超えてしまっていた。まさに神速、光速の域に達するほどのスピードを得てしまったのだ。

 

 本来ならばあの高笑いの後にこの事を教えてやろうと思ったが、思わぬ邪魔が入ってしまって伝えられなかった。それにより無意味な敗北を与えないでやろうと思ったのだが……ふっ、運命の神様は残こ――

 

「ふっふーん、てーとくおっそーいっ!」

「いっ!?」

 

 ば、馬鹿な! この俺をあっさりと抜いた!? なんて小憎たらしい笑顔で抜いてくれるんだアイツは!

 

「は、はははっ! やるじゃないかぁ島風ぇ! しかし、まだまだフルスロットルではないぞ俺は!」

「もっちろん、私だってまだまだスピード出せますよー」

 

 ま、マジか……! い、いや、ハッタリだ、ハッタリだぞコレは。余裕な顔をしているがそれはフェイク。実はもう限界なのを悟らせないようにしているだけだ。別に俺がそういう状況と言う訳では、決して無い!

 

「ふ、ふふふ……面白いハッタリだな。じゃあウソかマコトか、コイツで測らせてもらおう……」

「えー、何か使う気ですかー? でも、何使ったって島風には勝てませんけどねー」

 

 まるでメガネっ子系スランプ娘がかっ飛ばすようなペースで走っているくせに、余裕綽々そうな島風。しかし、今からその顔は驚きへと変わる……! そう、今まで誰にも見せずに隠していた、秘伝の奥義でな!

 

「なら見せてやるぞ……コレが、提督に伝わる秘伝の技――――てぇ督拳だぁぁっ!」

「おうっ!?」

 

 俺は身体から青いオーラを発生させる。実際に発生しているかはわからないが、そんな気分になった俺は島風を抜かした。今の俺はまさに青い流星!

 更にこのスピードは四倍まで加速可能……な気がしている……! 例え島風がどれだけ余力を残していようが、絶対に負けは無いぞぉ!

 

「えへへー、てーとくやるじゃないですかー! でも、島風も全然行けるもん!」

「ぬおっ!?」

 

 ま、また抜かされた! まだ早くなるのか島風めっ!

 

「て……てぇ督拳! 2倍!」

 

 再び島風を抜かす俺。くっ、2倍ともなると負担が高まる……!

 

「わっ! まだ早くなるんだ! てーとくって、案外凄いんですね!」

「は、はははぁっ! 俺はフラッシュマッハ提督だからな! いい加減諦めても――」

 

 

「じゃあ、もっともっと速くなっても、いいよね?」

「……へ?」

 

 

 島風は呟くように言った。今までの無邪気な声とも違う、楽しそうな声とも違う。言うなれば、ようやく張り合える相手が見つかったという、嬉しそうな声を島風は出した。

 

 嫌な予感がした。――いいや、予感すら遅かった。

 

 予感した時にはもう、島風は俺の遙か先を走っていた。なんてやつ、速すぎにも程ってものがあるんじゃないか!?

 そしててぇ督拳2倍まで使っているのにどんどん離されて行く。……だ、駄目だ。流石のライジングハイスピード提督な俺でもアレには追いつけない。ふ、くくく、いいさ、今回は負けを認め――

 

「あれ、やっぱりてーとくは私より遅いんですねー」

 

 ……ぬ?

 

「やっぱり、私には誰も追いつけないよねー、やっぱりてーとくですもんねー」

 

 ……やっぱり、てーとく?

 

「じゃあ、てーとくはゆっくり来てくださいねー。私は先にごーるしまーす」

 

 ……島風、やっぱりてーとくとはどういう事かね? そしてその、もう興味ないみたいな声の出し方は何かな? このゴッドバースト提督を、軽んじているのか?

 

「……は、ははは、言ってくれる、じゃあないか……!」

 

 諦めて止めようとした足を、止めることを辞めた。

 確かに俺は負けを認めようとした。だがだ。

 

「てぇ督拳、3倍」

 

 だが、認める前に失望されるのはムカつく。宿題やろうとした時に、親に早く宿題やれとか言われた時なみの腹立たしさといえよう。

 

「てぇ督拳、4倍」

 

 故にだ、俺はここでタダで負ける訳には行かん。だからその、なんかもうどうでもよさそうな顔を――

 

「てぇ督拳――――――」

 

 

 驚愕と憧れと提督かっこよすぎみたいな表情に変えさせてやらああっ!!

 

 

「10倍だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「!?」

 

 俺は遙か先の距離を一瞬で0に縮め、次は俺が驚く島風を遙か先に追い抜いた。

 てぇ督拳10倍。それはその名の通りスピードを10倍にする超奥義。格闘ゲームで言うとゲージマックスで複雑なコマンドを入れなければ使えないレベルの大技だ。そんな気分で走る大技だ。

 

 そしてこの感覚は間違いなく、あのサッカーしてた時に感じていた風そのもの。勝った……コレで負けたら相手はまさに神風そのもの。いや、最近ウチに来た駆逐艦の神風は関係な――

 

「負けま、せんっ!」

「!?」

「島風は絶対に、負けないんだから!」

 

 なっ……このスーパーマッハ人提督な俺に追いついてくるだと!?

 今の俺に追いつける島風に俺は非常すぎるほどに焦った。だが、島風の表情は先ほどまでの余裕は無くなっていた。歯を食いしばりながらも、今俺と並んでいる。

 

 ……いいだろう、俺もこれ以上は流石に出せない。なら――残りは、気合と根性と気迫で勝つしか他無い!

 

「いいだろう……ここからが、本当の勝負だ島風ぇっ!」

「……おうっ!」

 

 ***

 

「ぜぇ……ぜぇ……つ、疲れ、た……」

「し、しまかぜも、つかれたー……」

 

 数十分後、ゴールとか忘れて泊地中を走った俺達は結局スタート地点についた瞬間に、二人で大の字で倒れていた。し、しんどい、もうずっと地面で寝ていたい……。

 

「こ、このマッハスペシャル提督相手に引き分けるとは、や、やるじゃないか島風……」

「て、てーとくもすごいよ。だって、初めて誰かと走って本気になったもん」

「ま、まあな、俺が提督と言われるが所以だよそれが」

「うん、てーとくは本当にすごいねー、えへへ」

 

 島風は満足げに、笑顔を浮かべる。

 

「ねー、てーとく」

「ん、なんだ?」

「また、次もいっしょにかけっこしようね」

 

 こっちを向いて、呼吸を整えつつも緩んだような笑顔で島風は言ってきた。

 

「おう、次は真・マッハスペシャル提督の速さを見せてやるぞ」

 

 だから、釣られるように笑ってそう返答した。すると、また一段階上の笑顔を島風は見せてくれた。

 

 …………今日の空は、すっげぇ青いなぁ。

 

 

 顔を上に向けたとき、何気なく、そんなことも思ったりした。

 

 ***

 

 次の日

 

「てーとくー! て、い、と、くー! 早くかけっこしましょうよー! かけっこー!」

「聞いたぜ司令官! 深雪様とも走りで勝負だ勝負ー!」

 

 ……執務室に、島風と深雪が勝負をせがみに来ていた。

 

「ど、どうしますか提督? もしよろしければ、榛名もご一緒にかけっこしますよ?」

「いや、そのよろしければはおかしいだろ……」

 

 俺は今回秘書官になっている榛名にそう返答する。

 全身筋肉痛となっている俺に対して、どうして島風はあんなに元気なんだ……! て言うかなんて深雪までプラスアルファされてるんだ……!

 

「えっ? で、では……榛名はかけっこしない方がいいと言うことですか?」

「いや、そうでもなくてな……」

 

 威厳を持ちながらも、このピンチにどうやって切り抜けるか……。なぜか今日は察しの悪い榛名を見ながら、俺は頭を悩ませた。

 

「……はっ! わかりました、榛名が走れないと提督は思っているのですね? そのお心遣い感謝いたします。……でも大丈夫です! 榛名は走れます! コレでも榛名は高速戦艦、金剛四姉妹の一人! お任せください!」

 

 

 ……本当に、頭を悩ませた。

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