どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と大井

「昨日、俺は子日祭りに参加するよう榛名に命じた。だが、よく考えたらあの時は榛名の色んなところを触るチャンスでもあった。なのに何故、俺は子日祭りに参加するよう命じてしまったのか……どう思う、大井」

「あの、提督? なんでそんなことを私に聞くんですか?」

 

 昼休み。俺は食堂で一人で飯を食っていた球磨型、大井の真向かいに座り聞いてみた。恐らく、同じ球磨型の北上を待っていたから一人でいたのだろう。

 

「俺の予知レベルの勘が冴え渡ってな、お前は俺と通ずるところがあると思ったからだ」

「すっごく不快なんですが、提督みたいなのと一緒と言うのは」

 

 露骨に嫌悪する大井。みたいなのとはなんだ、みたいなのとは。このエリートフラッシュ提督に向かって。

 

「そうか。だが、もし北上が何でもしますと言って来たらお前は何を思う?」

「き、北上さんが何でも……!? それはもう、北上さんと買い物いったり遊園地いったり、お互いの艤装を洗いっこしたり、一緒に入渠したり――って、何言わせるんですか提督、撃ちますよ?」

「くっくっく、いいのかな? 今ここで俺に撃つともれなく食堂が壊れるぞ? しばらく利用できなくなったら、北上は困るんだろうなぁ……!」

「うっ、マヌケでヘタレでアホでスケベでバカでクソな提督なくせに卑劣な……」

「くっくっく……だからって精神的な雷撃は止めろ」

 

 そこまで言うのはお前ぐらいだぞ。摩耶や曙ですらクソ提督止まりだというのに。

 

「で、どう思うか教えてもらおう。やはりまさぐるべきだっただろうか」

「とりあえず、もうアホはそのうち改善できればでいいですけど、その変態脳を早急になんとかすべきですね。吹雪さんや古鷹さん、榛名さんは甘いから強く言わないですけど」

「いや、普通だろ。何せ俺はウルトラスペシャル提督、モテるのは当然。エロスを求めるのも当然」

「おめでたいですね、後で頭に魚雷撃っておきます?」

「お前ことあるごとに撃ちたがりすぎだろ! もう少し北上に向ける優しさを俺にも向けようとは思わないか!」

 

 大井も北上同様、重雷装巡洋艦。その魚雷火力は特筆すべきもの。提督たちの間でもヤベェとか言われてるレベルの力を持つのだ。そんな魚雷を食らえば、俺とて頭がザクロになりかねん。

 

「そんなの一かけらもありません。北上さんに向ける気持ちを提督なんかに使ったら、気持ちが腐ってしまいます」

「腐るってなんだ」

 

 気持ちは早めに食べなきゃいけない食料か何かか。

 

「そんなことより、少しはしっかりしないと愛想つかされますよ? 最近入ってきた野分さんなんて吹雪さんを提督だと勘違いしてましたし」

「マジか!? それはまずい、俺の威光が薄れる……!」

「元々なかったと思いますけど?」

「それはお前が見る目がないだけだぞ大井。北上ばかり追ってるからわからんだけだ」

「そう言われると強く言えないけど……提督のくせに癪な言い方――いえ、提督が言うならそれでいいです」

 

 ふう、と溜め息をついて諦めたような顔をする大井。なんだその回答、投げやりか。

 

「しかし大井、意外とお前純な考えするんだな。もっと邪な考えを打ち明けると思ってたぞ」

 

 あまり顔には出さなかったが、さっきの回答は驚いたものだ。

 

「だから提督と一緒にしないでって言ったじゃないですか。提督みたいに不埒じゃありませんよ、私」

「そうだったか……てっきり北上のパンツを頭に被るとか北上のおっぱいを死ぬまで揉むとかそういうことを言うかと誤解していた」

「一体どういうイメージ持ってたから私をそんなド変態娘と思ったんですかクソ提督」

「待て! 撃つな、撃つなよ……! こっちは建物を人質に取っているんだぞ!」

 

 だからこっちに主砲を向けるな。魚雷じゃなくても十分痛いんだからな……!

 

「あー、提督じゃん、大井っちとなんか楽しそうにやってるね~」

 

 思わず両手で身構えていると、北上が来た。

 

「北上さんっ!」

 

 大井はそりゃもう凄い嬉しそうな声をあげる。俺の時と違いすぎだろ。

 

「ごめんね待たせて~。でも意外だな~、大井っちと提督って仲良しなんだね~」

「まあな、大井のアタックは毎度強烈で俺も困っているもんさ」

「ち、違うわ北上さん! このクソバカアホエロザコ提督が私を馬鹿にしてきたから追い払おうとしてただけだから!」

 

 また言葉の雷撃を放つ大井。俺の心が中破しかねない。むしろ大破と言っておこうか。

 

「駄目だよ提督ー、大井っちいじめちゃー」

「主砲向けられてるのにこれがイジメに見えるのかお前は」

 

 むしろ俺は生死を弄ばれている状態と言っても過言じゃないというのに。

 

「でもなんで提督ここにいるの?」

「いや、飯を食いに来たんだから食堂にいたっておかしな話じゃないだろ」

「北上さんとの食事を邪魔するのはおかしな話ですけどね」

「いや、それもおかしくな――いや、おかしいかもな、そうかもな、ははは」

 

 そろそろ撃つ。そんな気持ちが見え隠れするような顔をした大井を見て俺は言い直した。そろそろ食堂バリアなんて意味が無くなってきそうである。

 

「いやいや、そういうんじゃなくてさ~、さっき山城が探してたよ~」

「山城が? なんで?」

「なんでも、航空戦艦としての実力がうんたらー、今日が約束の日とかなんとか」

「……そうか」

 

 それを聞いた俺はすぐさま立ち上がり、食堂の窓へ向かう。

 

「あれ、何してんの提督」

「いや、俺はちょっと用事を思い出してな。山城にあったら俺は遠い旅に出たと言ってくれ、さらばっ!」

「え、ええっ!?」

 

 北上が驚きの声をあげた瞬間、俺は窓から脱走した。

 そうだった、今日は航空戦艦組の良いところツアーを予定していたんだった。あの時の悪夢の三日間の時に、山城にも約束していたのを忘れていた! 今日約束していたのを完全に忘れてた!

 

 だが悪いな山城、今日も不幸と思って諦め――

 

「もらったっ!」

「ぐほぉあっ!?」

 

 背中に主砲がぁっ! い、今の掛け声は、大井か!

 

 後ろを振り向くと、大井が俺が出た窓の前で誰かにスマホで連絡を取っている。イムヤだけじゃなく、大井まで持っていたのか!

 逃げたいが主砲を食らってダメージが抜けない。数々の艦娘たちから主砲を受けて慣れている俺でも回復には若干のロスタイムがある。ま、まずい……! せめて会話内容でも聞いてみなければ……! 嫌な予感がする……!

 

「あ、山城さんですか~。北上さんから提督を探してるって聞いたのでお電話したのですが~」

 

 ぬあああああっ! は、謀ったな大井! なぜ北上一筋のお前が山城の連絡先を知っている!

 や、やばい! このままではあの悪夢が再来する!

 

「き、北上! 大井を阻止するんだ! 早く!」

「わあ~、大井っちスマホ似合うね~、いいな~」

 

 だ、駄目だ。アイツもアイツで大井大好き娘だった! スマホに似合うも何もあるかぁ! 通話しながらその発言に喜んでいる大井は微笑ましいがやめろ! 今すぐにやめるんだ!

 

 だが、俺の願望虚しく大井は話し終わる。俺の身体はまだ、動いてくれない。

 

「という訳で、来てくれるみたいですよ提督」

 

 ニコッと微笑みかける大井。その笑顔は、なんとも憎らしく見える。

 

「お、おのれ~、大井~! 北上~! ゆ、許さぬ、この恨み、必ずや晴らしてみせようぞぉぉぉ~!」

「え、あたしも?」

「大丈夫よ北上さん、あんな悪の親玉みたいな捨て台詞吐くのには手を出させないから安心して」

「えへへっ、大井っち、ありがと。でも、大井っちのことだってあたしが守ってみせるよ」

「北上さん……!」

 

 何和やかムードさせてんだお前らぁぁぁ! 俺はあれか、何かの悪役か何かか! 俺は提督だぞ!

 

「あっ、提督!」

 

 ぬあっ! 山城の声!?

 ようやく起き上がれる程にダメージを回復させた俺は起き上がって声の主を見る。まさしく山城。いつも不幸と言ってるのが嘘のように気合入っている。

 

「約束を忘れてこんなところで昼寝して……! 扶桑姉さまが待ってるので早く行きますよ! せっかく姉さまと沢山出撃できる日なんですから!」

「な、なあ、それはまた次回の機会とかにしないか? 今日はなんか、こう、ねえ。瑞雲的に良くない気がするしな」

「駄目ですっ! 扶桑姉さまが出撃を楽しみしているのに今から取り止めなんてしたら泣いてしまいます! ほら、いきますよ提督!」

「うああああっ! 襟首を掴むな! 頼む、勘弁してくれええええっ!!」

 

 こうして、俺は昼飯を食うことなく終日まで航空戦艦組の良いところを骨の髄まで味わった。

 考えなしに了承する口は災いの元、それを思い知った今日この頃であった。

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