「航空戦艦は瑞雲、航空戦艦は瑞雲、航空戦艦は瑞雲…………」
航空戦艦達との楽しい瑞雲が終了した次の日の朝、俺は工廠へ来ていた。理由は一つ、瑞雲だ。水上爆撃機にして至高の艦載機、瑞雲だ。
ははは、瑞雲こそ至高。もっと瑞雲だ、瑞雲を作らなければ。伊勢も日向も瑞雲が足りないとごねていたし、扶桑も山城も瑞雲があると助かる的なことを言っていた。そう、航空機は瑞雲のみが至高。艦爆も艦戦も艦攻なんてものは全て解体だー、解体任務で全て解体だー。
「あっ、提督、おはようございます。珍しいですね、いつもは工廠には吹雪さんが来るのに――って何をしてるんですか提督っ!? 流星とか彗星とかをどうする気ですか!?」
「おお、赤城か。今後は瑞雲の時代だ、今流れは瑞雲に来ているんだよ。今度からお前達の艦載機は全部瑞雲にしようと思う。瑞雲作成内容をネットで調べてる最中だから、少し待っていてくれ。流星なんて知らない子はポイしようポイ」
「いや確かに流星とか知りませんでしたけど駄目です! 私達正規空母は瑞雲つけれませんから! 本当につけられませんから!」
「はっはっは、大丈夫だ瑞雲に全てをゆだねよ」
ああ瑞雲、至高の瑞雲よ。俺は瑞雲に全てをゆだねますぜー。
「くっ……提督! 目を覚ましてくださいっ! 赤城パンチっ!」
「赤城パンチッ!? ごはっ!」
何故か技名っぽいものを叫びながら放たれた赤城の右ストレートが俺の左頬を捉えた。流石艦娘、滅茶苦茶痛い!
「あっ、す、すみません提督。大丈夫ですか?」
「あ、ああ、主砲とはまた違う痛みだったがなんとか大丈夫だ、ありがとう」
おかげで正気を取り戻した。危ない、ぶつくさ言われながらも何とか瑞鶴に作ってもらった流星やら彗星を解体するところだった。ほとんど艦載機を開発しないせいで九十九式艦爆や九十七式艦攻が主体な俺達だというのに誤って解体するところだった。
「いえ、いつもの提督に戻ってくれたようで何より――でもないかもですね」
「それはどういう意味だ赤城」
「い、いえ! 特に深く考えないでください提督!」
笑顔でごまかす赤城。まあ、そこまで言うなら深く考えないでおこう。
「そんなことよりも、以前あれだけお伝えしたのに解体しようとするだなんて、提督はまだ正規空母の良さを感じ取ってくれなかったようですね」
「ぬぐっ」
半眼でこっちを睨む赤城。ああ、思い出したくもない悪夢の3日間の3日目。赤城、加賀、瑞鶴、翔鶴、蒼龍の五人による正規空母の空飛ぶ遠足大会。零式艦戦に引っかかって一緒に飛ばされた時には死を覚悟した。飛龍はまだこちらに着任していないが、今回に限りはまだ着任してなくて良かったと思わざる得ない。
「いや、十分にわかっているさ! ちょっと瑞雲の魔力に取り付かれていただけで、艦載機の重要性はしっかりとあの時学んだ! 一瞬で覚えたぞ! 俺はエリートジーニアス提督だからな! ははは!」
「そうですか? それならいいんですけど……」
赤城の表情がいつもの温厚そうな目に戻る。ほっ。
「ところで提督、なぜ瑞雲に興味を? 伊勢さんやら日向さんは結構瑞雲を好んでるのは知ってますけど、提督まで瑞雲が好きだとは思いませんでした」
「ああ、その伊勢日向たちから瑞雲魂を過剰に感じ取りすぎた結果と言うかなんというかだな……」
あいつらが瑞雲瑞雲言うから、なんか瑞雲が非常に有能なものに思えてきて作ろうとしてたんだよな確か。恐るべしだ、瑞雲。
「ですが、確かに瑞雲も良い艦載機ですね。水上機母艦の千歳さんや千代田さんがお使いすれば、潜水艦相手にも戦うことができますし」
「……え、そうなの?」
「提督……」
ああ、赤城が少し呆れた顔をしている! お、俺のスーパーデラックス提督っぷりが赤城の印象から薄れてしまう!
「じ、冗談だ。それぐらい俺だって知っている、だが流石は赤城、歴戦の猛者なだけあるな。うんうん」
「はい、今回はそういうことにしておきます」
ぬあっ、信用しちゃいない!
「ところで赤城、お前こそなんでこんな朝から工廠に?」
「えっ? あっ、え、えーっと、そうですね…………」
何故か顔を逸らす赤城。なんだ、何故なんだ?
疑問を持っていると、俺の肩を掴んで赤城が近づいてきた。
「そ、それは勿論、怪しい方がいないか朝からの調査ですよ提督! 工廠にはボーキサイトも保存されていますからね! 大切なボーキサイト、盗られてしまえば私達正規空母も満足に力を発揮できなくなりますから!」
「お、おう、そうだな。なんか妙に迫力あるな赤城」
「え、ええっ! ボーキサイトをつまみ食いする輩がいればこの赤城、一航戦の名にかけて犯人を捕らえてみせましょう!」
俺から手を放し、右手でグッと意気込む赤城。
流石はボーキサイト大好きっこの赤城だ。まるでどっかの名探偵のような台詞を気合十分な感じで言い放つとは。なんか赤城の額から汗が出てるのは赤城が気合を入れすぎているせいか。
よだれが出ているような気がするのは、気のせいであろうか。まあ気のせいだろう。
「まあ赤城がそこまで言うのであれば俺はおまえに任せるさ、一航戦の名、期待してるぞ」
艦娘を信頼する歴戦の提督のような台詞を俺は吐いた。かっこいい、コレは実にかっこいいぞ俺。
だが、何故かそれを聞いて目線を斜め下に逸らしてしまう赤城。やばい、これはまさか赤城が俺に惚れたか? 惚れてしまったのか!
「…………提督」
「ん? なんだ赤城」
平静を装う俺。好きです、もう大好きすぎて一航戦です! とか言っちゃう気なのか、赤城!
「すみません、つまみ食いしに来たのは私本人です」
「そうか、お前の愛、しっかりと受け取っ――って、おい! 自白早っ!」
名探偵的台詞言ったくせに犯人で速攻自白か! 今の俺のカッコいい台詞返せ! ついでにワクワクしてた俺の気持ちも返せ!
「まさか提督が私をそこまで信頼してくれるとは思わなかったのでつい……本当に申し訳ございません、如何なる処罰も受けます」
頭を下げる赤城。それと同時に、ぐぅ~~~~っ、と腹の音を鳴らす赤城。台無し感がすごいぞ。
だが、如何なる処罰も受けると言っているし、ここは、身体中をまさぐらせてもらうとしようか!
――っと、思ったが止めた。まさぐってる途中で腹の音が鳴りまくったら、なんか雰囲気的にも嬉しくない。
「全く、しょうがないな。まあ、未遂で済んだことだし……その腹の音に免じて許してやるし、更にはこの俺がじきじきに飯でもおごってやるという、まさに提督なことをしてやろう!」
「ほ、本当ですか提督っ!」
「ああ、俺はマネーキング提督。それぐらい容易いもんだ、その代わりこんな真似はしないようにな」
「は、はいっ……」
「今度からはやるなら他の提督のところからしっかり盗ってくるんだぞ」
「いえ、それはまたそれで駄目ですよね!?」
やっぱ駄目か。ボーキサイト足りない事件によって俺が高額で他の提督にボーキサイトを貸し与える作戦を考えたというのに。
「嘘だ嘘だ。さあ、間宮行ってなんか食うとするか!」
「はい! そうしましょう!」
両手を合わせて嬉しそうにする赤城。いつもしっかり者だが、食べ物に関しては赤城も弱いらしい。全く、食い意地張った一航戦さんだよ。
やれやれと呆れるフリをするというかっこよさげなことをしながら、俺は食事処の間宮へと赤城を連れて向かった。