「……夜、か」
俺は執務室で座りながら、夜景を眺めていた。空に瞬く星たちが、今日食事処の間宮で使ったお金に見えるのは何故だろうか。
赤城は大飯食らいとは聞いていた。実際食べているところを見たことないかったが、まあ所詮は一人の艦娘だし驚く程でも無いだろとか、たかをくくっていた。
しかし、現実は予想を大きく凌駕する。あいつはめっちゃ食った。
俺も負けじと、めっちゃ食った。何故か。赤城は正規空母として有名で歴戦の猛者だ。しかし、俺はエリート級より上のフラグシップ級をも超えた超エリート級の提督、歴戦の猛者とはいえ負ける訳には行かなかった。提督の意地と威光の為に。
それでも、俺は負けてしまった。「ごちそう様でした、提督」という赤城の顔がそりゃもう嬉しそうだったから良かったが、俺の財布は大破した。俺の胃袋も中破した。ついでにプライドも小破。
そして現在時刻フタマルマルマル。ようやく腹の調子もよくなってきたし、○○の良いところスペシャルは未公開シーンも写し終わったかのように全て終った。明日からはゆっくりと仕事をしよう。
そこでノックの音がしたので俺は入ってよいと返事する。入って来たのは吹雪だった。
「司令官、お疲れ様です!」
「おお、吹雪か。お疲れ、今日もいろいろとありがとなー、俺の編成した最強軽空母部隊は何か言ってたかー」
「はい、えーっと――祥鳳さんから伝言で、今日も提督のおかげで頑張れましたー! と言ってましたよ」
「ははは、いやー、祥鳳は俺の偉大さがわかってるよい軽空母だな。今度瑞雲をあげねば」
「司令官、祥鳳さん達は瑞雲装備できませんよ?」
「はっ!」
い、いかん、まだ瑞雲の魔力が抜け切ってなかった。明日までにはこの魔力が抜けていることを祈ろう。
「いや、馬鹿だな吹雪は。ジョークだジョーク、これが外国で伝わるアメリカンジョークって奴だよ」
「そうなんですか? まだまだ外国の文化はわからないですね……」
むむむ、と真剣に考えるような顔をする吹雪。適当にいったのにそんな真面目に考えないでくれ、俺でも罪悪感湧くぞ。
「ここ最近、司令官も大変でしたし、明日はゆっくりお休みしてください。私が明日は頑張りますから!」
「そうか? だが拒否する。俺は無尽蔵エネルギー系司令官、たかだか連日出撃に付き合わされた程度で参るほどやわな身体はしていない。見くびらないでもらうぜ吹雪」
「そ、そうですか? 気のせいか小刻みに身体が震えてる気がしますけど」
「なあに武者震いって奴だ。俺の予想では、深海棲艦が近いうちに大規模なことをやらかすだろうからな……」
「深海棲艦が……」
吹雪はごくりと息を飲むぐらい真剣な顔で呟いた。深海棲艦、俺達人類の脅威。なんかもうヤバい連中だ。
それに対抗するために現れたっぽいのが吹雪を含む艦娘たち。なんか知らんが出てきたのが艦娘だ。クソジジイ共がごちゃごちゃ言っていたが俺はそれしかおぼえていない。ちなみに俺はそれを知るまでボロボロになるのが趣味のエロい子達だと思っていた。そんなことは吹雪達には絶対言えないが。
ちなみに今のことは適当なことを言っただけで身体が筋肉痛でギシギシしているのが事実である。
「これまで以上に気を引き締めないといけませんね、司令官」
「そうだな……まあ安心しろ、あくまで予想だ。今までどおりで構わない、いつ来るかわからないものに気を張り詰めてもらっていざという時に倒れてしまえば元も子も無いからな」
「司令官……はい、わかりました!」
「うむ――――――って冗談だよ! 少しは疑えよ! 俺の方がもう申し訳ないって!」
「あ、えっ? じ、冗談なんですか?」
「そうだ、身体の震えは別に武者震いじゃなくただのき――」
「き?」
「――気を溜めてただけだ。エネルギーをな」
「なんですかそれ!?」
「それはアレだ、国家機密だから言えないな」
あ、危ない、筋肉痛だなんて情けない理由を言いそうになってしまった。俺はスーパーエリート提督、なんか一般的なしょぼい理由を言う訳にはいかないのだ。
「だから本当に気を張るなって、ただでさえお前には俺の分まで仕事させてるし、倒れられたら俺も皆も困っちまう。むしろ明日はお前が休んでおけって」
「でも……」
「何より摩耶や睦月や大井に撃たれる。次の日に俺が生ゴミとして回収されてしまうほどの肉片となってしまうぐらいに撃たれるんだ。それでもいいと言うのであれば――」
「そうですね、その方が――」
「なにぃっ!? ま、マジか!?」
「って、冗談ですよ冗談。さっきのお返しです、司令官」
えへへ、と舌を出して愛嬌のある顔をする吹雪。流石は俺の秘書官、言ってくれるぜ。本気でヒヤッとしたぞ。
「でも本当に大丈夫です、司令官の仕事と言ってもほとんど負担してませんし。司令官と話して肩の力も抜けました! それでは吹雪、そろそろ遠征任務から帰投する川内さんたちを迎えに行ってきます!」
笑顔のまま敬礼をして、吹雪は川内たちを迎えに行った。全く、バカがつくほど真面目な奴だよ吹雪の奴は。
そういえば、川内たちは遠征に送ってたんだったんだな。――――ん? 川内だと!
気付いた時には遅かった。俺が窓を見たと同時にガラス張りの窓から豪快にガラスを割って一人の艦娘――つうか、川内型軽巡洋艦、川内が入ってきた。どこのアクション映画の登場方法だ!
「提督、川内率いる水雷戦隊が帰投したよ。――だから夜戦しよっ!」
「どうしてそうなる!?」
帰投した瞬間夜戦ってお前疲れてないのか。いや、それよりもなんで窓を割って入ってくる。ていうかここ2階なんだが。その前にお前まだ補給して無いだろ。ああもうツッコミ所しかないんだが!?
「だってさ提督。私はこの一週間、ずっと夜戦出来なくて悲しかったんだよ。ご飯も喉に通らないし、夜戦出来ないし、他の子も夜戦しないし、ていうか夜戦。だから夜戦しよう提督!」
「少しは説得する努力しないかお前!?」
「いや、だってもうほらっ! 夜戦は待ってくれないし、言葉より夜戦だよ夜戦!」
「ここに入って1分も経ってないのに夜戦と言う言葉連呼しすぎだろお前」
この俺ですら頭を抱えてしまう。そうだった、俺は一週間前から遠征に行かせていたんだ。通りで妙に最近の夜は静かだと思っていた……夜の物足りなさと心の安らぎはそれが原因だったんだな。まあ、そんなん川内が遠征に行った最初の1日、2日程度しか味わえなかったが。
「まあ待て川内、俺も夜戦をさせてやりたいが――」
「えっ、早速夜戦行くの!? 流石は夜戦バカ!」
ウインクして右手を突き出しサムズアップする川内。最後まで話聞けよ! というかお前が俺にそれ言うか!
「別に俺は夜戦を好んだ覚えはないぞ!」
「またまた~、私が入りたての頃は他の提督との演習組んで夜戦ばっかりしてたくせに」
「あ、あれは……お前達軽巡洋艦や駆逐艦の夜戦能力を試していただけだ」
俺は目を逸らしながら言う。
言えない、あの時は軽巡と駆逐艦メンバーしかいなくて火力が低かったから夜戦に入って、他の提督に高火力を見せ付けて蹴散らしたかったなんて言えない。実戦で初めて夜戦したとき、魚雷に引っかかって俺も魚雷と一緒に飛んでいき、深海棲艦もろとも消し飛ばされそうになったから夜戦ばかりするのは懲りたとは絶対に言えない。
「さあ、あの時の夜戦魂を思い出して夜戦しようよ夜戦! 夜戦はいいよー、暗いし、楽しいし、夜戦だし」
「最後のは理由にすらなってないぞ」
「もう夜戦こそが理由ってこと!」
コイツ、夜戦しか頭に無さ過ぎるだろ。
だが仕方ない、こういうじゃじゃ馬の艦娘を従えるのも俺と言うエリートブリーダー提督しか出来ないことだ。
「いいか川内、夜戦の時代は」
「始まってるってことだよね? 夜戦の時代キタコレって奴でしょ?」
「違う、そういう台詞は漣だけでいい。そうじゃなくてだな」
「ああ、わかった! 提督、夜戦が怖くなったんでしょ?」
ピクリと、俺の耳が疼いた。怖がって、いるだと?
「俺が、このハイパーナイトメア提督な俺が怖がっているって言うのか川内!」
「だって、夜戦いかないってことはそういうことでしょ? まさか提督が夜戦苦手になったなんてね、エリートなんとか提督って言葉は伊達だったんだねー。提督の夜戦バカっぷりには期待してたんだけどなー」
ふう、と肩をすくめつつ溜め息をついて落胆する川内。お、俺の提督っぷりが伊達だと!? この夜戦バカめ、俺を侮りすぎだ。ここまで舐められては俺の威光が下がる! 何より、俺に怖いものがあると思われることが心外オブ心外!
「ほほほおぉぉぉ……!? 言ったじゃないかぁ、川内。言っておくが俺はナイトカイザー提督とも言われたことがあるほど夜戦は最強なんだ、決して苦手でも怖くもないんだが!? むしろお前の夜戦バカっぷりを超えて夜戦王なんだがな!?」
「へー、じゃあ見せてもらうよ、私の夜戦についてこられるかどうかねっ!」
「しゃあっ! 見せてやるぞ川内、俺の夜戦魂をな……!」
俺と川内は目線を合わせてバチバチと視線をぶつけ合う。負けられん、赤城に続いて川内にすら負ける。それは俺と言う無敵最強提督の名を傷つける行為に他ならん!
「おーい、水雷戦隊旗艦、天龍戻ったぜー」
そうやって視線をぶつけ合っていると、軽巡洋艦の天龍が入ってきた。どうやら川内とは別の遠征に行っていたようだ。よし、ちょうどいい。
「天龍、お前も遠征に行ってたみたいだがちょうどいい、夜戦行くぞ」
「はあ? 何言ってんだ提督、オレは今戻ってきたばかりだぞ?」
「夜戦は待たないよ、天龍!」
「うるさい夜戦バカ。ともかくオレは休む、夜戦したきゃ勝手に――」
「ほお、なら最強の名は俺に譲った、ということでいいんだな天龍」
天龍の耳がピクリと動いた。
そして、俺の方を睨みつけるように見た。
「おいおい提督、どういう言い草だぁそれ。オレは世界水準軽く超えてるし、一番強いってのも知っててそう言ってんのか?」
「ああ、いつも死ぬまで戦わせろとか威勢のいいお前は所詮夕方までだけだったと、それを実感しただけだ。正直、今俺とお前の実力の差はアリとカマキリぐらいに遠ざかった。怖さなども微塵も感じん」
「な、っにっ……!」
「――残念だ天龍、夜戦で俺と競い合ってくれると思ったからお前を呼んだのに、丸くなったお前を見てしまうとは。――悪かったな天龍、お前はゆっくりと入渠していてくれ。俺は最強への道へ更に近づいて来る」
天龍、最初にコイツと会ったときには底知れぬ恐怖を感じていた。何せ、「フフフ、怖いか?」と真顔で言うのだ、俺は戦慄していた。コイツの戦闘能力は戦艦をも凌駕するのではないか、大和級すら汗一つ流さず撃沈してしまうのではないかと思った。
だが、まさか実際は牙の抜けた狼だったとは。俺の目には、狂いしかなかったらしい。まあ、天龍が悪いわけではない、俺が勝手にそう思っていたのが悪かっただけだ。
「――さあ行くぞ川内、真の夜戦ってのを見せてやるぜ」
「いーよいーよ! なんでもいいからとにかく夜戦!」
……お前はもう少し雰囲気を読むとかしろよ川内。
窓の方へと歩いていこうとした、その時だった。
「待てよ、提督」
「……なんだ、天龍」
「……言ったはずだぜ、オレは一番強いってな。――それは提督、お前でも例外じゃねぇ」
「…………ほう、ならどうする?」
「決まってる」
天龍は腰につけた艤装の剣、名付けて艤装剣を2、3回転手で回した後に俺に向けていった。
「夜戦で、提督も川内にもオレの強さってのを教えてやるぜ。死ぬまで、な」
鋭い笑みを浮かべ、ギラリと見せる歯を見て俺は冷や汗を流した。そうだ、これが俺の戦慄した天龍。天龍型1番艦の天龍だ……!
「……いい目だ、その野生の獣のような目、そいつに俺は畏怖を――」
「もう、かっこつけなくていいから早く夜戦行こうよ夜戦ー!」
「「かっこつけてねぇよ!」」
俺と天龍は声を合わせていった。お前はもう少しこのピリピリとした空気を読み取れ!
だがしかし、川内の言うことも確かではある。このまま時間が過ぎれば夜戦する時間が少なくなるのも事実……!
「ええいもうなんでもいい! 行くぞお前ら! 夜戦の始まりだぁぁぁっ!」
「っしゃあ! この天龍様の力ぁ! 見せてやんぜ!」
「よーしっ! 夜戦だ夜戦ーっ! 今日は朝まで夜戦だー!」
「あっ、天龍さんに川内さん、もう司令官のところに――ってなんで窓から飛び出してるんですかー!?」
執務室に戻ってきた吹雪の叫びを聞きながら、俺達は窓から飛び降りて夜戦へと行った。最強を決める、夜戦へと……!
――その翌日の朝、海岸沿いで俺と川内と天龍がぶっ倒れていたところを長良に見つけてもらい、事なきを得た。