どこぞのアホ提督と艦娘たち   作:バード鳥鳥

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提督と時雨

「雨、か。今日の雨はどうにも荒れ狂っているね…………流石に今日の出撃は中止とも吹雪から聞いた。――なのに、どうして提督は外に出る気満々なのかな?」

 

 鎮守府入り口付近に立っていた、白露型駆逐艦2番艦の時雨に俺は止められた。どうやら外の雨を見ていたらしい。

 全く、相変わらず小さいのに妙に落ち着きはらっているな。今日の俺はなんか身体中からアドレナリンが迸って身体を動かさないとウズウズすると言うのに。

 

「決まっているだろう……俺が最強の提督だからだ」

「全くわからないよ提督」

「そりゃお前はまだまだ小さいからな、わからないだろう。仕方ないさ、お前もいずれわかる日が来る」

「いや、わかる日は来ないと思うよ。そんなことより、こんな日なんだから提督は休みなよ。昨日なんて川内や天龍と夜戦に行って大変だったって聞いてるよ?」

 

 その通りである。無謀にも三人で夜戦にぶっ通しで行った末に、そりゃもう暴れまくった。最終的には鎮守府付近の海岸までは戻ることが出来たが、そこで気が抜けて力尽きて三人して倒れた。それを長良が見つけてくれた。現在も天龍と川内は入渠中だ。

 ちなみにそんな俺達を見た満潮が一言。「アホね……」と言っていたことは忘れない。

 

「まあそうだな、だが俺は不死身王提督。あの程度では音を上げやしないさ」

「いや上げなよ。あまり無理してばかりいると身体壊すよ?」

「ふふふ、お前は何もわかっていないな。俺の凄さをまだまだ知らない、なにせ俺は並の提督とは違うからな」

「……ほんと、仕方ないなぁ提督は……」

 

 はあ、と溜め息を吐く時雨。なんか時雨に溜め息を吐かれると俺がアホな気がしてしまうのだが。

 

「ほら、こんな雨なんだから早くゆっくりと休もう。僕が面倒見てあげるから」

 

 俺の背中を押して入り口から俺を遠ざける時雨。くっ、小さくても艦娘、なんて力だ!

 

「こ、こら! 何故俺を部屋に戻そうとする時雨! 俺は今からやらなきゃいけないことがある!」

「やりたいことって、なんだい?」

 

 呆れ気味な表情で聞いてくる時雨。何故だろうか、付き合う期間が長ければ長いほどこういう表情をする艦娘が多くなっている気がするのは。

 

「そりゃ勿論、この荒れ狂う天候との戦いだ……!」

 

 外を見るだけでわかる、強風によって荒れ狂う雨。こんな日に出撃なんてすれば危険極まりないだろう。故に吹雪にも今日は出撃は中止するよう、皆に伝えてもらった。

 だが、俺は違う。何が違うか、他の提督とだ。

 

 こんな雨の日に外に出る提督がいるか? それも天気と戦う為に外に出る提督が他にいるか、いいや、いない。

 だから俺は外に出て、ミステリアスバスター提督として更に名を響かせる必要があるのだ。

 

「わかったよ、じゃあ中に入って一緒にココアでも飲もう。そうすると落ち着くよ」

「話聞いてたかお前っ!?」

「聞いてたけど、それは雨が止んでからだよ提督。提督は昨日の夜戦で疲れてるんだよ、だから正気に戻ってから改めて行動しよう提督」

 

 正気じゃないと言いたいか時雨。だが残念ながら、俺は至って正常だ。

 

「いいや、俺は正気だ。かなり正気だぞ時雨」

「じゃあ提督、2足す2はなんだい?」

 

 2足す2? なんて簡単な問題だ。こんなもので正気を測ろうとするとは、時雨も可愛い奴よ。あっさりと答えを言って時雨の心配をふっ飛ばしてやろう。

 

「簡単じゃないか、答えは――――敷波の2周年記念ダブルピース」

「正常じゃないね、さあ休もう」

「いやいや待て! 冗談だ冗談!」

 

 再び背中を押され始めてしまう。このままでは俺は意志の弱いイージーモード提督として噂されてしまう! それだけは避けねば!

 俺は身体を翻し、時雨と相対する。

 

「わかった、お前の覚悟はよくわかったぞ時雨。俺をそこまで外に出したくない理由はさっぱり不明だが、その強い意志はわかった」

「理由は危ない以外にないよ。今日くらいはのんびりしよう、提督」

「ふっ、俺は既に危険と言う二文字を凌駕している。故に危険は俺より格下、故に危険はないだ」

「提督、ちょっと意地になってないかい?」

「いいや、なっていない。だから、心配せずに――この俺の凄さを見ているんだ!」

「あっ!」

 

 俺は時雨を出し抜き、駆け抜けて外へ出た。ふははははっ! 悪いな時雨、俺は誰にも止められない! 止めることなどできないっ!

 荒れ狂う風と雨。それらは俺を打ちつけてくる。だが、それすら心地よい!

 

「ははははっ! 雨いいなぁ! 気持ちいいぃぃぃぃっ!」

「て、提督! 本当に危ないよ!」

「なあに言ってるんだ! 白露型の名が泣くぞ時雨ぇ! もっと雨と風を楽しめ楽しめぇ! はっはっはぁ!」

 

 あー、服が邪魔だ! 今の俺には服すら拘束具! 今の俺は、全てを凌駕した提督! アルティメットファイナル提督と言っても過言ではない! 頭がクラクラして来ている気がするが、全然気のせいだろう!

 

「な、なんで脱いでるんだい提督!」

「はははっ! 脱がなきゃ意味は無いだろう! はっはっはぁ!」

 

 投げ捨てた服が風に飛ばされていく。パンツ一丁になったがむしろそれにより俺は更に高みへ行っている! なんだ! 周りの景色が歪んできたぞ! なんだ、これは新たな次元に到達する前兆か! 世界が俺に近づき始めたかぁ!

 そしてパンツを脱げば、もう、俺を誰も止めることなどできやしないのだーっ! 

 

「て、提督! 後ろ、後ろっ!」

「なんだなんだ! 俺の後ろに立つなよ時雨ぇ! ヒットマンになっちまうぞー!」

「そ、そうじゃないんだ! 後ろだって!」

 

 何を必死に叫んでるんだ時雨は、せっかく楽しいパーティをしているのに。後ろがなんだと言うんだ。

 言われたままに後ろを振り向くと――そこで、

 

 

 電撃のような、出会いをした。

 

 

 まるで魚雷のようで魚のような形をした黒い生物。ライトのような明るい目。ああ、俺はこいつを見たことあるぞ。確か、深海棲艦の駆逐級だ。まるでこの風に飛ばされてしまったかのように俺へ突撃してくる。愛いやつめ、ついに深海棲艦までに俺の魅力に気付いたか。

 いいだろう、さあ俺にぶつかってこ――って、あれ、このままだと本当に衝突――。

 

 ゴォォォォォッンッ……!

 

 ――除夜の鐘のような響く大きな音が鳴ったと思った瞬間。俺の意識は途切れた。

 

***

 

「四十一度ね」

 

 ……どこだここ。

 

 俺はゆっくりと辺りを見回す。どうやら治療室らしい、そして俺はいつの間にか寝ていたようだ。い、一体何があったんだ。今の四十一度って単語は、角度か。

 

「あ、ようやく起きたんだね提督」

 

 左を見ると、そこには時雨と陸奥がいた。時雨は何やらリンゴを剥いていたようだ。俺はゆっくりと上半身を起こす。

 

「……何してるんだお前ら」

「それはこっちの台詞よ、提督。今日みたいな天候の荒れてる日にパンツ一つで何をしてたの? 時雨が引っ張ってきた時にはびっくりしたわよ」 

 

 パンツ一丁で……? ううん、なんかそういや脱いだような脱いだような脱いでないような。しかしなんだこのしんどさは、動く気になれんぞ。

 

「あんまり動いたら駄目だよ提督。四十一度も熱があったんだ、ちゃんと安静にした方がいいよ」

「四十一度……? ははは、まさか冗談言うなって時雨」

「本当よ。ほら」

 

 陸奥は温度計を見せてくる。そこには四十一度と三と書かれていた。なんてこった。

 

「全く、元々熱があったのに余計悪化させるようなことをして。お姉さん、怒っちゃうわよ?」

「そ、それは勘弁してくれ陸奥」

 

 子日祭りの時の説教の再来だなんて、ただでさえだるいのに気分が滅入ってしまう。

 ――そっか、そういや俺は熱があったんだよな。夜戦から戻ってきた時から熱があったが、なんかテンション上がってきて外に出ようと思っていたんだった。……我ながら少しアホだったとしか言いようが無いな。――いや、けどやっぱり普通の提督とは違うという点では正しかったか? ……駄目だ、頭が朦朧としている。

 

「ちょうど今日は休みなんだし、ぐっすりと休んでもらうよ提督。ほら、りんごもあげるから」

 

 いつの間にか時雨が皿の上に一口サイズにカットしたリンゴをのせていた。そしてそのカットしたリンゴを時雨は俺の口に運ぼうとする。

 

「いや、それぐらい自分で食えるって時雨」

「駄目だよ、ほら、口開けてよ提督」

「いや、それはお前、その…………エリート提督な俺には相応しくない食べ方だから――」

「そんなことないよ。言ったじゃないか、今日は僕が面倒を見るって。ほら、あーん」

「う、うぐぐー」

 

 力を振り絞りなんとか顔を遠ざけようとする。いかん、力が入らん。

 

「あらあら、提督は熱出してた方が大人しいし、しおらしくていいかもしれないわね」

「陸奥、お前なっ――――むぐっ」

 

 叫ぼうとしたら、時雨が差し出したりんごが口に入る。………………美味い。

 

「美味しいかい、提督」

「…………ああ、まあ。美味い、な。」

「うん、ならよかったよ」

 

 顔をそむけて言った俺に対して、時雨はそう言って優しげな笑顔を浮かべた。――俺は情けない提督だぜ、プライドよりも笑顔を見れたことで気持ちが納得してしまってるんだからな。

 

「…………時雨、回復したら覚えていろよ」

「うん、早く治していつもみたいに楽しくやろう、提督」

 

 しぼり出した強がった言葉もその落ち着いた声によってあっさりと避けられてしまった。……悔しいことに、今の俺じゃ言い負かせられる気がしないな。

 とはいえ、悪い気分では、ないけどな。

 

「……言ってくれるな全く。――ありがとな、時雨」

 

 ニコニコとしている陸奥をチラリと見て、少し気恥ずかしさを感じつつも俺は少し口元をにやけさせながら、時雨からりんごを取って食べた。しゃくっ。

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