艦隊これくしょん~艦これ~ -遥か彼方への航路-   作:桐谷立夏

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一出撃目~鎮守府の日常~

 深海凄艦(しんかいせいかん)、そんな人類の敵と呼べるものが現れたのはいつ頃だろうか。

 突如現れたその敵は無差別に船舶、航空機を攻撃し海路空路を閉鎖し忽ち人類の交通手段を絶ったのだ。

 しかしその深海凄艦が現れた同時期に第二次世界大戦の軍艦の記憶を持ち、その深海凄艦を倒す力を持った『艦娘(かんむす)』が現れ、人類は彼女らと共闘することによって敵への対抗手段を得た。

 そして、神奈川県にある横須賀鎮守府にその艦娘を指揮する一人の提督が居た。

 

「はわわ、司令官さん居眠りはいけないのです!!」

「うおっ」

 時間は1200、横須賀鎮守府の提督である三枝(さえぐさ)立夏(りっか)は午前の事務作業と演習も終わらせ、桜も満開で春の陽気に当てられ執務室で転寝をしていると、それを咎める声がして起きる。

 目を開けると、茶色の髪を後ろで結い上げている特型駆逐艦の艦娘である電が居た。

「電(いなずま)か、仕事は終わらせたぞ?」

「そうなのですか? ごめんなさい……」

「や、怒ってるわけじゃないからな?」

 強く言ったつもりはなかったが、電はしゅんとしていまいどうしたもんかとオロオロしていると執務室の扉が開かれる。

 緑を基調とした和服の少女、正規空母の蒼龍(そうりゅう)だ。

「提督~? 電ちゃんの事いじめたの?」

「おい蒼龍、そんなように見えるのか」

「冗談ですよ、それより遠征していた子たちが帰ってきたそうです」

 遠征の成果が記してある報告書を貰うと、ここでひとつの疑問が浮かんできた。

「なんで蒼龍がこれ持ってきたの?」

「午前の近海の哨戒出撃の際に深海凄艦と会敵、少し被弾したので今は入渠中です。忘れてたんですか?」

 蒼龍は提督の秘書の役目をする秘書艦ではないのだが、その彼女がどうして報告書を持ってきたのかと思ったが、そういえば午前中の哨戒で遭遇戦になり軽く被弾したと言っていたのを思い出した。

「そういえばそうだったな……寝ぼけてたみたいだ。電も起こしてくれてありがとうな」

「はいなのです!!」

 入渠から出てきたら労ってやろうと、電の頭をくしゃっと撫でて蒼龍から貰った報告書を目に通す。

 資材の回収は燃料、弾薬、その二つとは少し数の少ない鋼材とボーキサイトだ。十五時間も遠征に行ってみんな疲れているだろう。

 蒼龍に遠征に出たメンバーに休むように伝え、電を連れて執務室を出る。

 ちょうど昼時で空腹にもなっていたので食堂に向かう。

「今日はなにを食べるのです?」

「ん~、間宮(まみや)さんのお勧めにしてみるかなあ」

 間宮とは補給艦という特殊な艦種で彼女のアイスを食べると艦娘たちは戦意高揚するのだ。

 どういう作り方をしているのかとこの前聞いてみたら。

「秘密です」

 とにこやかに言われて聞き出せなかった。

 鎮守府本館を出てすぐ傍にある食事処『間宮』の暖簾を潜ると中には多くの艦娘たちが昼食をとっていた。

「提督さん、電ちゃんお昼ご飯っぽい?」

「おお夕立(ゆうだち)遠征お疲れ様。そうだよ」

「夕立ちゃん、お疲れ様なのです」

 語尾のぽい、が特徴的な駆逐艦の夕立が寄ってくる。

 この鎮守府の中でも特に練度の高く、第二改装を終えてマフラーを巻き両側の髪がぴょんと跳ねてなんとも犬っぽさがあるが、戦闘にもなれば駆逐艦をも越える火力で敵を屠っていく。

 が、この鎮守府内ではそんなところを想像できないほどゆったりとした性格をしていた。

「夕立姉さん、そのまま話してると司令官がご飯食べれないですよ?」

 そこに夕立の妹である桜色の髪をした春雨(はるさめ)がやってくる。姉と違って少し物静かな性格をしているが、奥に座っている春雨のもう二人の姉である村雨(むらさめ)と白露(しらつゆ)たちとは非常に仲がいい。

「そうね、じゃあ提督さんご飯は夕立たちの席に着てね~」

「お、おう」

 夕立たちの座ってるところ四人席なんだよなあ、と思いつつ電と共にカウンターへ向かうとそこにタイミングよく二人の少女と鉢合わせる。

「あら提督、お勤めご苦労様です」

「指令~!!」

「うおあっ!?」

 突然片方の少女が抱きついてきた。

 ラベンダー色の短い髪をした軽巡洋艦の酒匂(さかわ)だ。その横で少し頭を抱えているのはその姉である矢矧(やはぎ)である。

 この酒匂、やたらと立夏を慕っていて会うたびにスキンシップが激しかったりする。その理由も理解はしているが年頃の女の子としてはこういうのはどうなのだろうか、と男的には思わずにいられない。

 矢矧は冷静沈着な性格で、この鎮守府でも第三水雷戦隊の旗艦を勤めるまでになっている。

「はわわ、司令官さん大丈夫なのです?」

「大丈夫だ……酒匂遠征帰りで疲れてないのか?」

「指令に会えて吹き飛んだよ~!!」

「酒匂、少しは落ち着きなさい。提督ごめんなさいね、妹が迷惑掛けて」

「いや、構わないよ。早く阿賀野(あがの)や能代(のしろ)にも会わせてやりたいからな」

 この酒匂、第二次大戦期には長女の阿賀野、次女の能代、そしてここに居る矢矧とは一度も出撃することなく終戦を向かえ、その悲しい記憶を持っているらしい。

 だから彼女の司令官としてはなんとしても四姉妹一緒に居させてあげたい、そしてこの好意も受け止め続けてあげたいと思っていた。

「阿賀野姉たちの情報はなにか?」

「いやまだ。呉、舞鶴、佐世保、大湊の鎮守府にも連絡は取ってるけど未だない。悪いな」

「いいえ、提督にはお世話になってますから。酒匂、提督にぶら下がってないでご飯食べましょ」

「は~い、それじゃ司令また後でね~!!」

 矢矧がウェイター顔負けのように二つお盆を持って席に向かい、酒匂もそれに着いていった。

「酒匂さんは司令官が大好きなのです」

「それはいいけど、どうにもこうにも俺に好意的な艦娘が多すぎやしないか」

 今頃入渠中である立夏の秘書艦も相当、というか隠す気はないくらい好意をぶつけてくる。

 もちろんそれは嬉しいのだが、どうにもこういう事には疎くどう対応していいかわからない。それも一人ならまだしも数人がストレートに来るものだから余計困ったりしていた。

 その彼女たちを止めてくれる姉や妹も居るので多少は楽だが。

「さ~て、間宮さん。今日のお勧めなにかな?」

「あら提督、今日はカツどんかしら」

「じゃあそれお願い」

「電はカレーをお願いするのです」

「は~い、少し待っててくださいね」

 間宮にオーダーを済ませると空いている席に電と座る。

 と、ここでまた疑問が浮かぶ。

「なあ電、雷(いかずち)はどうした?」

「雷ちゃんは浦風(うらかぜ)ちゃんと川内(せんだい)さんと瑞(ずい)鳳(ほう)さんと間宮さんのお手伝いしてるのです」

 いつも一緒に居る電の姉妹である雷はどうしたのかと気になっていたが、なるほど今日は間宮の手伝いをしていたのか。

 他に料理の得意な駆逐艦の浦風、軽巡洋艦の川内、軽空母の瑞鳳が手伝っているとなれば今日の昼食は期待できるものだろう。

 食堂を見渡すと白露たちが楽しそうに食事する姿と矢矧が酒匂の口をハンカチで拭っている姿が見える。今日の鎮守府は平和だなぁ、としみじみ思えた。

 しかしこの時間帯で戦艦や空母、重巡の艦娘たちの姿が見えないことに気がついた。

 何時もなら既に食事中の筈だが、とそこに外から話し声が聞こえてくる。

「ちょっと、どうして単独で動いたのよ。あそこはみんなで連携したほうが効率よかったじゃない」

「あの場面なら私だけでなんとかなりました、その間に貴女と彼女で他を抑えたほうが効率的です」

「まあまあ、二人とも落ち着いてください」

 なにやら喧嘩のような会話が聞こえてきて立夏は思わず頭を抱える。

 またあの二人は喧嘩しているのかと思うと胃がキリキリしてきた。

「あら、提督。ちょうどお昼ですか」

「提督さん、お疲れ様」

「お疲れ様です提督」

「おう、加賀(かが)と瑞(ずい)鶴(かく)はもう少し仲良くしろよ。天城(あまぎ)も困ってるだろ」

 この鎮守府の主力の一角である第一航空戦隊の正規空母の加賀、瑞鶴、天城が入ってくる。

 精鋭なのはいいのだがこの加賀と瑞鶴、非常に仲が悪く扱いに困っていた。

 しかしその仲の悪さを改善したいと思いそこに最近配属された天城を入れて仲介役に据えたのだ。が状況は中々改善されていないらしい。

「それはこの子が私の言うことを聞いてくれないので」

「ちょっと、それはあんたが一人でなんでもやろうとするからでしょ」

「ずっとこんななんです」

 天城が苦笑する。

 前世――第二次世界大戦時に一航戦に所属していた加賀と五航戦に所属していた瑞鶴とでは練度に大きな差があったらしく、加賀は今でもそのことを口にして言うことが多い。

 曰く、

「五航戦の子と一緒にしないで」

 と加賀が言うものだからそれに瑞鶴が反応して口論になり、この鎮守府の中で問題になっていることの一つだったりする。

 と、加賀たちが口論しながらもカウンターに向かっていき、天城が一礼してそれを追いかけていく。

 喧嘩するほど仲がいいというし、実は仲がいいんじゃないだろうか。

「空母のお姉さんたちは仲がいいのです」

「そう見えるよな~、というか空母メンバーは演習してたのか」

 先ほどの会話を聞いた限りだと一航戦と二航戦で模擬戦である演習をしていたのだろう。しかし瑞鳳は料理の手伝いをしていて、蒼龍は遠征に出ていた艦隊の報告を纏めていたとなると、二航戦は少し分が悪かった筈。

 二航戦は正規空母の飛(ひ)龍(りゅう)と蒼龍を筆頭に軽空母の龍(りゅう)鳳(ほう)、瑞鳳で構成されているため、蒼龍と瑞鳳抜きだと艦載機数に差が出てしまう。更に数で練度も補っているため三対二だと多分だが二航戦は負けてしまう可能性が高い。

 だが数が不利な状態で演習は加賀がしない筈だし、残りの一人はどうしたのだろうか。

「あら提督、お疲れ様です」

「飛龍さん、扶桑(ふそう)さん、龍鳳さんお疲れ様なのです」

 そこにちょうど演習を終えたであろう二航戦の面々がやってきた。

 橙色の着物を着た飛龍と白を基調とした巫女服のようなものを着た戦艦の扶桑、そして赤い生地に桜の刺繍が施された着物を纏った龍鳳だ。

「お疲れ様、演習どうだったんだ?」

「瑞鳳が抜けると正規空母三人には厳しいですね、まだまだ私たちも訓練が足りてないです」

「そうねぇ、私がもう少し動ければよかったのだけれど……」

「扶桑さんも頑張ってましたよ、加賀さんに砲撃当ててたじゃないですか」

 なるほど、最後の一人は多少ながら水上爆撃機を搭載している航空戦艦の扶桑だったようだ。砲戦もこなし空母ほどではないにせよ、爆撃もこなせる瑞雲を積んでいる扶桑なら演習のメンバーに入る。

「扶桑も龍鳳もお疲れ様」

「ありがとうございます……今日は何かいいことありそうかも」

「提督もお疲れ様です」

 飛龍たちも加賀たちと一緒に何を食べるかの談議に混ざっていく。

 気がつくと加賀と瑞鶴の喧嘩もなくなっていて、厨房に居る間宮たちと話をしていた。

「ふむ、今日も平和だわ」

「なのです!!」

 

 昼食を食べ終え、電を間宮の手伝いを終えた雷に任せて立夏は食事処『間宮』を出る。

 これからの出撃のことや他の鎮守府との連携をどうして行くべきかの会議が開かれるため、会議室のある鎮守府の二階に向かっていた。

 メンバーは第一水雷戦隊、一水戦から三水戦の旗艦、第一戦隊及び第二戦隊旗艦、一航戦と二航戦の旗艦だ。

 扉をノックしてからドアノブを捻り会議室へ入ると。

「てっ、いっ、とっく~~~~!!」

「ぐむっ」

 思いっきり抱きつかれた。

 ぴょんとした癖っ毛に長い栗色の髪、そして扶桑のような巫女服に似たものを着ている秘書艦の戦艦、金剛(こんごう)だ。

 酒匂同様に好意をストレートに向けてくるが、彼女と初めて会ったときに一目惚れされそれ以来の長い付き合いになる。

 なにせこの鎮守府に配属になって右も左もわからない頃に金剛も着任し、彼女なりに提督初心者の立夏に戦術など色々教えてくれたりして凄く助かった。そこから更に金剛に気に入られ、立夏も信頼をしているので秘書艦として共に鎮守府運営を手伝ってくれていた。

「お姉さま、会議の前ですし落ち着いてください」

「そうでした、ソーリーネ提督」

 後ろから金剛と同じ服装をしたその妹である榛名(はるな)が姉を窘(たしな)める。

「お前も酒匂ももう少し俺との接し方考えろよ、女の子なんだし」

「なに言ってるデース!! 私が提督を思う気持ちは止められないんデース!! しかし酒匂もやりますネ、私が入渠中に提督に近寄るなんて」

「お、お姉さま……」

「金剛さん、そろそろ会議を始めても……?」

 妹でも止められないようでどうしたもんかと思考に耽っていると、この鎮守府最大戦力である艦娘が立夏と金剛の間に割ってはいる。

 名を大和(やまと)、旧日本海軍最強と謳われた戦艦で、その名に恥じぬ大和撫子を体現したような容姿と性格をしていた。

「Oh……OKです大和……」

「ありがとう榛名、大和。にしても流石の金剛でも大和の威圧には耐えられないか」

「はい、榛名は大丈夫です。お姉さま入渠中寂しがってましたから」

「金剛さんも被弾して入渠したのを提督に心配掛けないよう明るくしてるんだと思いますよ。提督は心配性ですから」

 そうだった、昼寝する前に金剛が被弾して入渠したのを心配しててそのまま寝てしまったのを思い出す。

 立夏は誰かが被弾して入渠する度に心配して出てくると、入渠した艦娘たちと雑談やお茶などをしているのだ。

 艦娘である以上、深海凄艦との戦いで傷つかない保証もなく、ましてや沈む可能性だってある。そんな彼女たちになにかしてやれないかと考えその回答が、入渠する度にお茶などをするという行動で金剛の入渠時間もちょうど会議が始まる前に終わるのを考え、会議が終わったらなにかしらしてやろうとは思っていたが金剛から来るという想定を完全に失念していた。

「そうだな、それじゃ会議が終わったらみんなで花見でもでもしようか。ちょうど満開だ」

「そうですね、ではなるべく早く終わらせましょう」

「はいっ」

 二人とも花見が楽しみなのか少し張り切って席に戻る。

 立夏も指定の席へ座ると横でアホ毛をしょんぼりとさせた金剛が元気なく立っていた。

「大和も怒ってるんじゃないんだしそうしょぼくれるな、後で花見でもしよう」

「っ……はい、ありがとうございマス」

「それじゃみんな揃ってるし会議を始めようか」

 小さく言うと、金剛も少し元気になったようで垂れていた毛がぴょんと跳ね上がる。この子は本当にわかりやすいなぁと思いながら会議を始めた。

 秘書艦の金剛を筆頭に総旗艦大和、一航戦の加賀、二航戦の飛龍、第一戦隊からは旗艦の金剛の代わりに榛名、第二戦隊も旗艦大和の代理で扶桑、一水戦の由良(ゆら)、二水戦の神通(じんつう)、三水戦の矢矧が丸テーブルを囲んでいる。

「さて、議題の一つは現在攻略中の一つ、北方の深海凄艦泊地だ。北方凄姫までに辿り着く間に居る護衛艦隊も硬い、なにより新型艦載機が厄介すぎる。攻略に関してみんなの意見が欲しい」

 現在、この横須賀鎮守府の方向性は大湊警備府と連携してAL方面の泊地攻略と、同じく呉鎮守府と連携して中部海域と南方海域の攻略だ。

 大本営としても深海凄艦の防衛ラインを押し退け、こちらの制海権を広げたい考えのようで他の鎮守府と連携をして攻略に移るようにと通達があった。

 南西方面、西方海域は呉、佐世保の両鎮守府が対応に当たっており、舞鶴鎮守府は遊撃として応援要請があれば他方へ出撃するようになっている。

「練度の高い水上打撃部隊にてまずは敵護衛艦隊の撃滅、その後に空母機動部隊にて敵凄姫撃破というのはどうでしょう」

 加賀がすぐに攻略案を出す。

 案自体は悪くない、攻略をするなら最適解に最も近いだろう。

 他に案はないかと周りを見渡すと、長い白髪にリボンを巻いた第一水雷戦隊旗艦の軽巡である由良が手を上げた。

「水雷戦隊にて夜間に敵護衛艦隊を撃破後、日の出と共に空母擁する艦隊で攻略、というのはどうでしょう?」

「私もその意見に賛成です」

 二水戦の神通も由良の作戦に賛成する。

 確かに夜の闇の中、足の速い水雷戦隊で先に護衛艦隊を奇襲する作戦も悪くない。

「由良の案もいいな、奇襲後に向こう側の補給が来る前に叩く。参考になる、他はないか?」

「大和はこの二つの案でいいと思います」

「私もそれでいいと思いマス」

 大和と金剛も二つの案が賛成のようで、他の艦娘からも反対もなく一つ目の議題はすぐに終える・

「よし、AL方面は大湊にこの作戦を提案してみる。さて次はうちが率先して動いている中部と南方海域だけど、本当にどうしようか」

 立夏が苦笑する。

 本題であるこの二つの海域、敵の戦力が多く強化もされているエリート級やフラッグシップ級の目撃が多数報告されていた。

 出撃する度に誰かしら途中で大破してしまうので何度も撤退を余儀なくされている。特に南方は敵主力級である鬼や姫といった強力な深海凄艦が多く、攻略の難点になっていた。

「主力を投入するしかないと思いマース、戦艦や空母をセンターとした艦隊はどうデス?」

「そうだなぁ。ただ金剛、問題はサーモン海域なんだ」

 金剛の言い分は最もだが、一番の問題となっている海域がある。

 なにせ昼は警戒が強く、警戒の緩い夜間に出撃して日が出るころに敵主力を叩かないといけないサーモン海域が一番の難点だ。偵察ではフラッグシップ級ばかりの魔窟になっているそうで、呉の提督とは作戦会議する度にため息しか聞こえないものとなっていた。

「まあしばらくはサーモン海域の前に珊瑚諸島沖に展開してる敵機動部隊の攻略だけどな、そっちは数日以内に攻略を開始するのと、大本営から近々大きな作戦が通達されるらしい。みんな気を引き締めて行こう」

 全員が同時にはい、と答え今日の会議はお開きとなった。

 すると、終わると同時に全員が立夏の前にやって来る。

「提督~、花見するんですよね?」

「あら、花見なんていいですね。気分が高揚します」

「いい提案ね、駆逐の子達や酒匂にも伝えないと」

「そうですね」

「あれ、俺みんなに言ったか?」

 会議が始まる前に大和と榛名に、あとは金剛しか聞こえないよう言ったつもりだが、と大和を見ると謝るように頭を下げた。

 ―――お前か大和……。

 確かにみんなとは言ったが鎮守府全員とは思いもしなかった。

「みんなでパーティーもいいですネ、中庭に桜もありマスし」

「あら、今日はいいことだらけね。みんなに伝えてこないと……」

「扶桑に矢矧、少し待っ……」

 静止する前に二人は会議室を出て行ってしまう。

 よく見ると由良と神通も居ない、どうしてこうなった。花見をするのはいいが食材的にも大丈夫だろうか、主に大型の艦娘的な意味で。

 とそのまま金剛に手を引かれぞろぞろと会議室を出て行く。

「お、おいまず間宮さんに料理頼まないと」

「もう手配済みです」

「大和、お前最初からそのつもりだったろ」

「先週提督が花見したいなぁ、なんて言ってたものですから」

 にっこりと笑って言葉を返す大和。

 確かそんなようなこと言ったような言わなかったような気がしなくも無い。というか、よくよく考えると今日の昼食の手伝いをしていたのは浦風と瑞鳳、川内とご飯を作るのが上手いあの三人が手伝っていたなら昼の時点でこの流れは確定してたのだろう。

 もしかして完全に墓穴を掘ったのではなかろうか。

 完全に流れに身を任せ中庭に着くと既に花見、と言うより宴会の準備が進んでいた。

 艦娘たちの補助をする妖精たちがせっせと料理やテーブルの設置をしていて、それを駆逐艦の子たちが手伝っている。

「それワン・ツー!!」

「舞風(まいかぜ)、踊りながら運んだらいかんよ~。あ、提督さんに金剛姉さん。お疲れ様じゃ」

「浦風(うらかぜ)と舞風準備お疲れ様ネ」

「あっ、提督~。準備終わったら私と踊ろうよ~」

 陽炎型の艦娘である浦風と舞風姉妹が寄ってくる。

「舞風は元気だな」

「だってパーティーだしね~、ダンスもしていいんでしょ?」

「おう、準備も終わったら舞風のきれいなダンスみせてくれ」

「もう提督ったら~」

 少し頬を染めて舞風は食事所間宮の中へ入って行く。

 なにか気に障るようなことを言っただろうか。

「もう、提督さんはニブチンじゃなあ」

「なんだ浦風、なにかわかるのか?」

「わかるもなにも、金剛姉さんもわかるじゃろ?」

「提督は鈍感デスから仕方ないネ」

 頭の横に髪でリングを作った二人組みがはぁ、と深いため息をついた。

 二人の言っていることが理解できずに準備の様子を眺めていると、宿舎の方からおさげの金髪の少女と青みかかった長髪の少女が仲良く話がなら歩いてきた。

 昨年の秋頃に発動された作戦の一海域の攻略を任され、その攻略を終えたところでドイツから遠路はるばる来てくれた重巡のプリンツ・オイゲンと去年の春頃に出会った航巡の鈴谷だ。

「あ、提督じゃん。チーっす」

「アドミラルさ~ん、パーティーって聞きましたよ~」

「おうオイゲンに鈴谷、他の重巡と航巡たちは?」

「利根たちは間宮さんの手伝いしてるね」

 中々姿をみないと思ったら重巡たちも間宮の手伝いをしていたようだ。

 もしかしたら大和は会議が始まる前に電探で各方面に花見のことを打電していたのだろう。

 これは後で少しなにか言ってやろうかと考える。

「それにしても、ここに来てもう一年半か。早いなぁ」

「ワタシは来たばかりですけど、アドミラルさん来て長いんですね」

「そうだねぇ、でも私と会ったときはまだまだ指揮官としてもおどおどしてて大変だったけどねぇ」

「おいこら鈴谷余計なこと言うなよ」

 鈴谷がニヤニヤしながらつぶやく。

 一応オイゲンの前ではなるべくできる提督でいようと思っていたのだが、この一言に彼女は興味を示した。

「アドミラルさんがおろおろって想像できないなぁ」

「そりゃもうあの頃は金剛さんたちと一緒に試行錯誤してた時期だしねえ、まあそんな提督でも私たちのこと第一に考えてくれてたから私も気に入ってるんだけどさ~」

 鈴谷が立夏の腕を抱くようにしてしがみ付く。

 どうもここの艦娘は積極的な子が多くて困る。いや男としては嬉しい限りだがやはり謹みというか、もう少しスキンシップを抑えられないものだろうか。

「だぁ~もう年頃の女の子が簡単に男にくっつくな!!」

「鈴谷ばっかりずるいよ~、えいっ」

「おいこらオイゲンもくっつ――」

「鈴谷たちばっかりズルいデース!!」

 真後ろから二人のスキンシップに耐えかねたのか金剛が跳びついてくる。

 もう駄目だこの鎮守府と内心思わずにはいられなかった。

「お姉さま、手伝っていただけますか?」

「了解ネ榛名、それじゃあ提督また後でネー」

「私たちも手伝いますか」

「そうだね、アドミラルさんあとでね」

 金剛が榛名に呼ばれて手伝いに向かうと、鈴谷とオイゲンも一緒に会場設営の手伝いに行く。さすがに美少女三人に抱きつかれて心臓がバクバクとうるさいので立夏は一人港に向かった。

 まだ四月になったばかりで少し潮風が肌寒いが、この潮の香りと波の音が聞いていて心地いい。

 こうして一日一回は海を眺めるのを日課にしているのだ。

 そこに胸ポケットに入れていたスマホが振動し、手に取ると電話が来ていた。

「はい、ご苦労様です木村大将」

『よう三枝、元気そうだな』

 木村昌也大将、呉鎮守府の司令官で立夏の恩師でもあり、第二次世界大戦でキスカ島撤退作戦を成功させた木村昌福中将の子孫でもある。

 その血を引いているからか、優れた指揮能力を持ち三十歳と若くして大将の階級になった。

「お蔭様で元気です、突然どうしました?」

『いやなに、最近連絡取ってなかったからな。教え子が元気にしてるか気になったのさ』

「相変わらずまめですね」

 昌也と会ったのは五年前で、彼の指揮する呉に研修へ行ったときに気に入られ、昌也直伝の指揮技術や作戦立案の仕方などを学んだ。

 呉で昌也と会わなければ横須賀鎮守府を任されることはなかっただろうと思うくらいで、昌也には感謝してもしきれない。

『それが俺の性格だからな、それより大本営から連絡が来たのは知ってるか?』

「いえ、さっきまで会議してて今はみんなで花見をしようって準備してる最中で外なので」

『そうか、少し教えておくが西と連絡取るためにうちと舞鶴と横須賀で西方海域方面の大規模攻略をする』

「うちと呉と舞鶴ですか、佐世保と大湊は?」

『こっちが出撃している間の本土近海の防衛だ。まあ俺たちも全艦隊出すわけじゃないし大事はとるけど、お前には連合艦隊を任せたいと思ってるからよろしく頼む』

「わかりました、執務室に戻ったら詳細を確認します」

 大本営は西方攻略に乗り出したようだ。

 それに日本鎮守府で最大戦力の横須賀に連合艦隊を任されるのは嬉しいが如何せん不安もある。訓練や資材の備蓄も怠らず、錬度も十分あるだろうけどやはり心配だけは消えない。

 もし誰かが沈むようなものなら立ち直れないだろう。

『不安もあるだろうけど心配するな、お前ならできる。自信を持て』

「……はい、ありがとうございます」

『まあそんなとこだ。今度会って酒でも飲もう』

「わかりました、では失礼します」

『おう、またな』

 電話が切れると再び胸ポケットに仕舞い海を眺める。

 また大きな作戦に不安だけが胸の中に渦巻く。

「提督、心配いらないデスよ」

 振り返ると立夏を見ながら優しく微笑む金剛が立っていて少し驚く。

 電話に集中していてまったく気がつかなかった。

「金剛、聞いてたのか」

「提督の姿が見えなかったので探してましタ、新しい作戦でもワタシたちはちゃんと帰ってきますヨ」

 立夏に近寄ってその手を握る。

 どうにも感情が表に出やすいらしく、金剛にも心配をかけてしまったようだ。

「ああ、みんながんばってくれてるもんな。俺が下向いてちゃいけないよな」

「そうデスよ~? 提督はいつも通りワタシたちを指揮して勝利に導いてくだサイ」

 ぎゅっと胸の前で金剛が立夏の手を握り締める。それだけで不安が和らいでいく気がして気持ちが楽になった。

「ああ、任せろ」

「それじゃ提督花見にゴーですネ!!」

「っておい走るな金剛!!」

 手を引かれて準備の終わった花見の会場へ向かう。

 会場では艦娘のみんなが立夏のことを待ちわびて入るのを見て、誰一人欠けさせず作戦を成功させようと胸に誓った。

 




始めまして、桐谷立夏と申します。

SSを書くのは久しぶりで至らない部分もあると思いますが、ご愛読いただけると嬉しいです。

ふと艦これのSSを書いてみようと思い、独自の考えも踏まえて書いているので、感想などやおかしいところなどがあれば指摘などしていただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。
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