高町なのはとクロノ・ハラオウンは荒い息を吐き、疲労の色を顔に浮かべながら目の前の存在を睨みつけていた。
「ふん、所詮は管理局の人間か……欺瞞と偽善に満ちたお前らにはふさわしい負け犬の目付きだな」
二人の前に立ちはだかるのは角度によっては男性とも女性とも思える中性的な顔をした青年であった。腰まである灰色の髪を風に揺らし、金と銀の左右違う色をした瞳で二人を冷たく見下している。
その手にはなのはたちが回収する筈であったジュエルシードが収められており、もう片方の手には死神を彷彿とさせる大鎌が握られていた。
「どうして……どうして、いつも邪魔をするんですか! ゾーマさん!」
ジュエルシードを回収する度に現れてはなのはたちの妨害を行う謎の青年、ゾーマ・ヒースト。
「キミのやっていることは犯罪なんだ! それが如何に危険な物か分かっている筈だ!」
クロノの咎める声もゾーマはその言葉を聞いて顔を伏せ、肩を細かく震わせる。それはクロノの言葉を嘲笑っている様であった。
「何が、おかしい!」
「くくく、可笑しいさ、その青臭い正義染みた言葉がな!」
怒りを蔑む笑いで返すゾーマ。その態度に普段温厚ななのはも怒りを帯びた声を出してしまう。
「笑わないでください! 貴方は……貴方は酷い人です!」
ピクリとゾーマの頬が引き攣る。幼い少女の怒りの言葉がゾーマという青年の心の琴線に触れたかのようであった。
「手加減をしたらすぐこうだ――相手を殺す覚悟も無い子供が。子供は大人しく家のベッドで寝ているんだな」
大鎌を振りかざし、なのはたち目掛けて大きく振るう。すると、半月状の魔力の刃が発生し、なのはたちを切り刻もうと音を置き去りにして迫る。すでに魔力も体力も限界寸前の二人に避ける術も防御する術も無く、なのはは目の前の脅威に思わず目を塞いでしまった。
だが、いくら時が過ぎても魔力の刃が当たることはなく、なのはは閉じていた目を開く。そこには共に戦ってきた頼もしい仲間の後ろ姿があった。
「守くん!」
初めて魔法少女になったときからいつも側に居て自分を助けてくれた同じクラスメイトの御里 守がなのはたちに迫る凶刃を魔力の壁で防いでいた。平凡的な容姿で特に秀でていた所の無い守であったが、日々の努力を欠かすことなく研鑽し実力を高めていく努力の人、これ以上ない援軍であった。
「大丈夫かい! なのはちゃん! クロノくん! リンディさんから連絡があったから慌てて来た甲斐があったよ」
「ありがとう! 守くん!」
「ありがとう、守。助かったよ」
礼の言葉を言う二人に笑みを浮かべる守であったが、ゾーマへと向き直るとその笑みは消え極寒の視線でゾーマを睨みつける。
「またあんたか」
「それはこっちの台詞だ。フン、管理局の犬になったか……悲しいな、戦いの場で子供を戦わせる様な組織の一員となるなどとな」
「うるさい! 僕は僕の意志で管理局に協力をするんだ! お前のような得体の知れない奴に文句を言われる筋合いは無い!」
言い切る守にゾーマは肩を震わせて笑う。
「ククク、得体のしれない奴か……どうした? もっと他に言うことはないのか?」
余裕に満ちた態度で挑発するゾーマ。その態度に守は怒り、立て続けに罵る言葉を吐く。だが、それでもゾーマの余裕は崩れない。むしろ拙い罵倒を楽しんでいる様子であった。
「何だ? もう終わりか……つまらんな」
「何を……!」
一旦息を整える守にゾーマはつまらなそうに溜息を吐く。再度、ゾーマに対し文句を言い始める守。今度はなのはとクロノも参加しゾーマの行動を咎め始める。
三人からの怒りの言葉を聞いてもゾーマの態度は崩れない。何故なら彼は内心でこう思っていたからだ。
『もっと……もっとだ……! もっと俺をなじれ! 罵れ! 蔑め!』
そう彼は真性の被虐嗜好者であり、そして転生者であった。
◇
彼という存在が生まれ落ちたのは不運にも車の事故であった。そして突如として謎の空間にて目が覚め、そこから謎の声によって誤って自分が死んでしまったことを告げられる。
彼は激昂し、誰も居ない空間に向かって叫んだ。
「何故俺をもっと苦しませて死なせなかったんだ!」
彼は激しく後悔していた。電源を落とされたかの様に意識を断たれて死んだ自分の最後を。
彼には彼なりの理想の死に方があった、確かに車も含まれていたが女王様も縄も蝋燭も木馬も注射器も犬もガソリンも氷も針もチェーンソーもそしてその他諸々が無い死など認められない。
そのことについて延々と話続けると終いには空間の中から嘔吐するような声が聞こえ、擦れた声で今の世界には蘇らせることは出来ないが別の世界に蘇らせることが出来ると言われ、あっさりと承諾。
どんな容姿がいいかと聞かれると彼は、出来るだけ羞恥心を感じる様な容姿がいいと言った。
そして、転生した彼が始めて自分の姿を見たとき、あまりに思春期真っ盛りの空想の様な容姿に途方も無い羞恥心を覚えると同時に凄まじい興奮を覚えた。その興奮はかつて全裸で夜の街を疾走したときの興奮を上回っていた。
新たな人生を謳歌していく彼は日々、好奇な目線を向けられることに心地よさを感じながら成長していく。
ある日、彼は偶然宝石の様なものを拾いそれがデバイスという物であることを知り、魔法の存在を知る。そしてそれには未知の興奮が眠っているかもしれないと思い、夜な夜な魔法を練習しては物に魔力弾をぶつけたり自分にぶつけたり、バインドという拘束魔法で物を縛ったり、自分を縛ったりしていた。
そんな充実な毎日を送っていた彼はある日出会ってしまった。魔法少女と魔法少年という未知の興奮に。
初めはちょっかいを掛ける程度であったが、そのちょっかいのときに向けられた幼い少年と少女の怒りと敵対心に満ちた目にハートを射抜かれるが如く興奮、幼い子供に睨まれて興奮している自分に更に興奮といった感じで無限に続く快楽を感じ、その日からゾーマ・ヒーストと名乗り、彼女たちに付き纏うようになった。
会う度にわざと怒りを買う様な言葉を吐いては睨まれて興奮し、戦闘の度に手加減して上手く自分を傷付ける様に誘導し、体に魔力弾が掠っていく度に――
『ありがとうございます! 本当にありがとうございます!』
――という言葉を飲み込みながら戦う。
今夜の戦闘も三人の少年少女と戦闘という名のプレイを行う。最初は二人であったが途中から三人になりよりスリリングかつエキサイティングな戦い〈プレイ〉が行え、満ち足りた気分へとなっていく。
「ここまでか……」
三人に限界が見え始めたので、これ以上無理をさせるのは酷と思い自分から戦闘を切り上げる。
「まだだ……まだ……!」
「威勢だけは買ってやる。だが、それ以上は俺もお前も得るものは無い」
悔しげに睨む守。どうもごちそうさまですと内心で礼を言うゾーマ。
「じゃあな」
またよろしくお願いしまーす、と心の中で言いながらゾーマは去って行くのであった。
火照った体を夜風に晒しながら、手に持ったジュエルシードを見てどうしようかと考える。目的は戦闘〈プレイ〉であって、これに特に用は無い。正直、興味の欠片も無い
適当に間隔と理由を付けて返そうかと考えているとき、鋭い声がゾーマの背後から聞こえてきた。
「その手に持って入るもの、こちらに渡して貰う」
その声にゾーマは背後の人物に見えない様に歓喜の表情を浮かべ、振り向くと同時にそれを潜ませる。
「ふふ、今夜は馬鹿が多いな」
「――無駄話をするつもりは無い。断るなら力尽くで奪う」
最近その存在を知った黒衣と金髪の少女。その鋭い眼差しに彼のとある部分も鋭くなる。
「それならば言わせて貰おう。『断る』」
「――覚悟!」
(ヒャッホー! おかわり!)
心中で狂喜乱舞しながらゾーマはデバイスを構える。
今夜の彼の戦闘〈プレイ〉はまだ終わりを見せない。
一人ぐらいこんなオリ主がいてもいいんじゃないかなーと思って書いたものです。
真面目な文章を書いていた反動で生まれた作品でもあります。