SHINSEI踏み台転生者   作:K/K

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その四

 後にゾーマ本人も知る、通称『闇の書』事件。その中でゾーマ・ヒーストはひたすら己を貫き通していた。

 ある時は体内にあるリンカーコアを抜き出されそうになり――

 

「捕まえた!」

(え……これって女の人の手? 女性の手が俺を貫いている……! このシチュエーション興奮できない訳がない!)

「リンカーコア! 蒐――! えっ! 抜けない!」

「そうせっかちになるな……もう少し長居していけ」

 

 ――その手を掴んで少しでも長くその感覚を堪能したり。

 

 ある時は犬耳を生やした筋骨隆々の男性の正拳をもろに顔面へと喰らい――

 

『男女平等バンザァァァァァイ!』

 

 ――そのままビルの中に突っ込んだあげく崩落に巻き込まれてもすぐに戦線へと戻りおかわりを要求したり。

 

「今のは何だ? 俺が本当の拳ってやつを教えてやろうか、犬っころ」

「しぶといな……ならその身が動かなくなるまで何発も打ち込むのみ!」

 

 謎の仮面をかぶった二人組に縛られたり――

 

「退場してもらおうか、イレギュラー」

「ククク、これぐらいの拘束で俺が止まるとでも?」

「強がりを……」

(あとバインド三回程追加でお願いしまーす)

 

 それ以外にも新型デバイスの実験相手になる様に仕向けたり、アルカンシェルという兵器の話を耳にして生唾を飲み込んだり、などなど心身共に充実な日々を送っていたが、それもいよいよ終わりを見せてきた。

 ゾーマ自身、何か知らない内に闇の書という物が完成して、その完成した闇の書が八神はやてという少女を取り込んで冷たい雰囲気を持つ大人の女性へとクラスチェンジを行っていた。

 当然、その姿を見て黙っているゾーマではなく、接近を試みると近くでフェイトが黒い球体の中に閉じこまれて消失、続いてその球体に閉じこまれる前に自ら飛び込んでいくのであった。

 彼が何故飛び込んでいくのか、そこに未知の興奮を感じたからしかない。

 

『行ってきまーーーーーーす!』

 

 闇の書内のとある場所。

 そこでフェイトは理想であり、とても穏やかな夢を見ていたがそれでも現実を進むことを決意し、夢の中の姉と別れ今もなお戦い続ける友達の下を目指し、暗闇を突き進む。

 そして、その道中フェイトは見つけてしまった。暗い闇の中で一人蹲り、何も無い上を見上げて何かを呟いているゾーマの姿を。

 

「ゾーマさん! あなたも取り込まれていたんですか!」

「……お前か」

 

 話し掛けられフェイトに視線を向けるゾーマ。フェイトはその表情を見て絶句した。いつもの浮かべている人を小馬鹿にした様な笑いは何処にも無く老人の様に枯れ切り、他人を威圧する気配も無く、ただ疲れ切った気だけを纏っていた。

 

「早くここから出ないと!」

「……俺は……まだいい」

「まだ、いいって……」

「なあ? 何で人は人を傷付け、争い、憎み合うんだろうな……そんなことをしても空しいだけなのに……」

「……それは分かりません。……でも、その答えを探す方法なら知っています。それは少なくともここに居続けることではない」

 

 フェイトの言葉を聞き終わった後、ゾーマは鼻でそれを笑うと再び何もない空間を見上げ始める。

 

「子供の考えだな」

 

 そう言った途端、乾いた音が空間内に響き渡る。それはフェイトがゾーマの頬を平手打ちした音であった。

 

「貴方が……! 貴方がここでどんな夢を見ていたかは知らない! そこにどんな幸福があったかは知らない! でも、それは夢に過ぎないんだ! 私は、私たちは現実で生きなければならないんだ!」

 

 フェイトの本気の怒声をゾーマは叩かれた頬を押さえて見ていたが、やがて疲れた表情を潜め、代わりに小さな笑みを浮かべた。

 

「そうか、そうだったな……」

 

 フェイトの平手打ちで何を思い出したのか、そして、フェイトが来る前までゾーマ自身に何があったのか。

 時間は少し遡る。

 

『ニルヴァアアアアアアアアナアアアアアアアアア!』

 

 歓喜の雄叫びを上げてゾーマは闇の書の中で目覚める。彼が夢の中で二回目の人生の終焉を迎えたところであった。

 

「ああー、良かったぁ。最後の点火は最高だったなー」

 

 闇の書の中に取り込まれたゾーマは、そこで見る夢の中で一回目の人生を終了させると同時に覚醒をした。そして、闇の書が自らの望む夢を見させてくれるということを知り、二度目の就寝を行い、そして起きる。

 自分の中にある願望をまるで実体験の様に経験出来る闇の書内、それはやろうとしてもやれなかった彼の願いを叶える文字通り夢の空間であった。

 

「じゃあ、三回目ー」

 

 そう言ってシンは寝そべると数秒で寝息を立て始め、更に数分後。

 

『シャ、シャングリラアアアアアアアアアアアアア!』

 

 三回目の起床。

 

「……最高だ……最高傑作だった……」

 

 老衰で動けなくなった自分を孫たちが囲み、ひたすらその人生を否定していくというラスト、自分で考えておいてあれであるが純粋に感動をした。だが、その出来の良さ故にある衝動がゾーマを支配する。

 

「……どうして人は人を赦すことが出来ないのだろう……」

 

 闇の書の中に賢者降臨す。

 賢者へと至ったゾーマはしばし、その衝動に身を任せ数々の言葉を口にする。愛のこと、戦争のこと、地球のこと、未来のこと。

 そんなことを考えているゾーマに誰かが声を掛ける。

 

「ゾーマさん! あなたも取り込まれたんですか!」

 

 見ればそこにいたのはフェイトであった。今更ながら一緒に取り込まれていたことを思い出す。

 フェイトが色々と話しかけて来るが、正直気怠かったのと早く四回戦に突入したかったので適当の言葉を返していく。すると突然、頬を叩かれた。

 

(ありがとうございます! ……何で殴ったの?)

 

 話を聞いていなかったゾーマにはこの流れが分からない。

 

「貴方が……! 貴方がここでどんな夢を見ていたかは知らない! そこにどんな幸福があったかは知らない! でも、それは夢に過ぎないんだ! 私は、私たちは現実で生きなければならないんだ!」

 

 そして、始まるフェイトの本気の説教。いい歳した大人が自分よりも幼い少女に本気で叱られる。

 

(これは……この感覚は……!)

 

 自らの内で湧き上がる衝動。それは、三回の生涯の夢の中で見たものとは質の異なる興奮と痛み。

 

(俺は……どうやら寝惚けていたらしいな……)

 

 あまりに良すぎる空間の中で自分が基本的なことを忘れていたことを思い出した。しかし、それもフェイトの平手打ちで目が覚める。

 

「そうか、そうだったな……」

 

 そう、何も難しくないとても簡単なこと。

 

『思い通りになる数百年の夢よりも現実の少女の平手の方が重い……! つまり、リアル最高ッォォォォォォォ!』

 

 真に目覚めたゾーマはフェイトに礼の言葉を送る。

 

「礼を言う……おかげで目が覚めた」

「礼なんていいです。……貴方には母のことで助けられましたから」

 

 何それ、とは流石に言えず取り敢えず分かったふりをする

 

「早くここから出ましょう、みんなが待っています」

「分かっている……ただ少し、少しだけ待ってくれ」

 

 何か名残惜しそうにするゾーマにフェイトは強制をしなかった。フェイトはそれを夢の中で見たことに区切りをつけていると思った。

 だが現実は違う。

 闇の書の中、幼い少女が見守る先、平手打ちを貰ったことで賢者絶賛継続中。

 

 

 ◇

 

 

 三人の魔法少女と二名の魔法少年の活躍により、暴走した『闇の書』のプログラムは完全に消去することが出来た。

 勝利の喜びを分かち合う皆。その中でなのはが最初にあることに気付く。

 

「あれ、ゾーマさんは?」

「そういえば……一体どこに」

 

 周囲を見回してもそこにゾーマの姿は無かった。暴走したプログラムとの戦いを陰から支えてくれた人物に一言礼を言いたかった。

 

「せっかく……せっかく友達になれたと思ったのに……」

「…あいつはそういう奴さ」

 

 守が口を開く。

 

「いつもこっちを小馬鹿にして、人の邪魔ばかりする。その癖、誰よりも真っ先に戦いの中に飛び込んで、誰よりも傷付いているいけ好かない奴……」

 

 そこで守は空を見上げた。

 

「きっと僕たちとあいつは友達にはなれないのかもしれない……でも、いつかは肩を並べて戦える、そう僕は思っている」

「うん、そうだね」

「私も、そう思いたい」

「でも、その人どこにいったんやろ」

「きっとまた会えるさ、戦いがまた起きれば必ず駆けつけてくる。不本意だけどその点だけは信用してる」

 

 それぞれが空に向かいこの場に居ないゾーマに礼を言う。

 姿を消したゾーマは今何処に居るのか。ゾーマはなのはたちがいた場所から十数キロ離れたビルの屋上で今までのことを振り返っていた。

 ハンマーで始まり、剣で続き、貫通されて、鉄拳を受け、夢プレイをした後に、締めの少女の説教と平手打ち。

 実に充実した戦い〈プレイ〉であった。

 だが、時折ゾーマは冷静になって思うことがある。いつまでこんなことを続けていくのか、自分の所業を客観的に見ても酷いの一言に尽きる。

 いつかは自らの業で自らの命を断つ日が来るかもしれない、そのアブノーマルさ故に孤独な最後を送るかもしれない、だがそれでもゾーマは胸を張って叫べる。

 

「そんな自分が大好きだああああああああああああああああああ!」

 

 ゾーマ・ヒースト、2✕才。彼の人生〈プレイ〉は未だ終わりを見せない。

 

 

 




これにて一応完結です。
StrikerS編はどうするか考え中です。
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