転生の龍が如く 〜女神の守護者~   作:kantarosu

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~前回のあらすじ~
東京港炎上事変から翌日、桐生と蛇蝋金獅子連合は料亭”あずま”まで、転龍会の誘導で連れて来られた。
あずまに通された三者は炎山の紹介の元、ある人物に逢わされる。

その人物こそ、転龍会の会長夫人”ハルカ”と呼ばれる人物であった。彼女が言う”落としどころ”とは。




第66話 決めようぜ、”落としどころ”後編

 同日某時刻…都内料亭”あずま”~落としどころ会場~

 

 数十分前、料亭に通された桐生、蝋、タイラントの三者の前に現れた栗色の髪を持ち、人を惹きつける様な雰囲気を持つ少女であった。150㎝台の身長しかない彼女は自身より二倍以上デカい転生者達を前にしても、一切萎縮していなかった。

 

 蝋「よもや…四大勢力の会長夫人が姿を現すとは、思ってもみなかったがね」

 

 T-103「そうですな…普通は有り得ん話ですぞ」

 蝋やT-103の立場が言うのは可笑しいが言ってることは分かる事であった。見たところ、直接戦えるタイプではない彼女が敵対している勢力のトップに立つ連中にその姿を現す事自体あってはならない事だ。

 

 そこへ炎山が二者へ忠告を告げた。

 

 炎山「お前等の言う通りだ…だから、妙な気を起こすなよ。此処はあくまで”落としどころ”を決める場所なんだからな…。」

 そう言うと、炎山は右手から炎を警告メッセージの様に発火した。なにより、この料亭”あずま”の上空には”落火星”が滞空しており、上空からの爆撃が可能なのだ。

 

 桐生「…そうだ、サッサと”落としどころ”を話して貰おうじゃねェか。」 

 啓もまた、ハルカが話すという”落としどころ”が何なのか?…早く知りたい気持ちがあった。

 

ハルカ「いいわ…取り合えず、席に座るわ。」

 そういい、彼女は用意された席に着席した。それに続いて、炎山もまた席に座った。

 

 

 冊冊冊冊冊冊

 

 落としどころ会場の席順は、ハルカと炎山が並んで座っており、目の前に”桐生 啓”、”蝋 家龍”、”T-103”という五者会談で進めており、それ以外の者は此処に入室は許可されていない。つまり、この場にいる五者のみが”落としどころ”を決めれる。

 

「私が言いたい”落としどころ”と言うのは真にμ’sを手に入れるのは相応しいのは誰かという事。ドン!!

 それがハルカの第一声であった…。 

 

「昨日の東京港に於ける戦いで、私達転龍会が”μ’s争奪戦”を制した。貴方達はそれなりの犠牲や時間等も労したにも関わらず、収穫は0…これが蛇蝋金獅子連合のリザルトって事ね。桐生にしても、μ’sを護り切れなかった。」

 

「中々、悔しいこと言ってくれますな…事実だけに苛立ちますな。」

 

「…我々はお前達転龍会にしてやられたという訳がね。しかし、なればこそ…不思議がね。」 

 用意された蝋性酒をゴクリと飲んだ蝋はこう言った。

 

 

()μ()()s()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…確かにそうですな、我々から逃げる力がないという訳ではありますまい。」

 μ’sを手に入れるのが目的とする蛇蝋金獅子連合からすれば、既に目的を遂げたと云える転龍会がこの世界に居る理由は無い。

 

「成程な、先ずはその疑問について明らかにしろと?」

 と、炎山は口に出した。

 

「そりゃそうがね。なにせ、我々はお前達に缶詰め状態にされて、この場に来るまで何も情報を与えられていないがね。そのせいで疑問の方が明らかに多い。」 

 昨日の戦いの後、蛇蝋金獅子連合は炎山の”落火星”に睨みを効かされ、強制的に缶詰め状態にされた。 

 

「まぁ…隣にいる”桐生青年”は既に何か知っていると思われますがな。」

 

「…。」

 T-103の発言に啓は敢えて、口を開かなった。昨日の炎山との”見極め”から生じた衝撃音や炸裂音は連合の方にも届いたようである。

 

「そうね、先ずは貴方達の疑問を消し去りましょう。そもそも、さっき言った”落としどころ”を決めること自体に疑問を持っているみたいだから。」

 ハルカはそう言うと、炎山にスクリーンを促した。そこには、天井から吊るされたスクリーンに映像が投影される。

 

 その映像には衝撃的な映像が映し出されていた。桐生、蝋、T-103はこの映像を観たことでハルカが言わんとしたことが次第に分かってきた。

 

 

 

 冊冊冊冊冊冊

 

 

 ~???”戦場”~

 

 其処は外界と隔絶された場所であり、植物もなく言うなれば、岩と地面しか殆ど起伏が無かった。そんな殺風景な場所におびただしい程の肉食獣と鳥獣類があるものに向かって、攻撃を繰り出していた。その攻撃とは…。

 

 ”カッ…!!”

 それは肉食獣と鳥獣類の口から放たれた光線群であった。殺風景な荒野で、凄まじい光の収束は余りにも燦燦と光っていた。そして、目標らに向かって着弾と同時に凄まじい爆発が轟く。

 

 圧倒的な破壊の嵐…とても生きた心地がしないがそんな爆発の中を耐え抜き、三者の男達が上空へ飛んだッ…!!

 

?「雷同、ユーマッ!! しかけたれやッッッ!!」 

 一人の野太い巨漢の声と同時に、二人の男も仕掛けたッ。三者の男は己が秘めたる能力を人体の外へ出力する。声を出した巨漢は燃え滾る熱きマグマ、全身を包み込む冷気のオーラ、空気中を刺激する電撃の音…。それらは悪魔の実最強種”ロギア”の能力であった。

 

三人の男は△の形になると、地上の敵を一掃すべく能力を行使する。体内から捻りだされたロギアエネルギーは三人の手から一気に放出された!!

 

「トライアド・ハームズッ!!」ドン!!

 三者の手から放出されるのはマグマ、雷、冷気の三者の異なるエネルギーはそれぞれが独立して放たれてる訳ではなく、敵を一掃する意思を統一する様に絡み合い、極太のエネルギー流へと変貌し、マグマと雷、冷気が合わさった未知のエネルギー流として、いや、正しく”ハームズ(災害)”地上の敵を飲み込む様に流れ込んだ。

 

 その災害のエネルギー流は凄まじかった。本流が敵を飲み込む前に、雷と冷気が混じり合った副流が敵を凍らせ、痺れさせた。身体は動かず、神経もズタズタに痺れる。というか、これで充分死ぬ。それを許さないかの如く、本流…つまりマグマ流が地上の肉食獣、鳥獣達を飲み込んだ。

 

「ギャアア…!!」

 声が出せるだけの個体もいたが、大抵は冷気と痺れによって声帯が殺され、声にならない程の冷気、痺れ、熱気の三竦みのエネルギー流に殺されていった。一度に生物が死に至る三つの攻撃を受けるのである。考えただけでも恐ろしい…。

 

 三者の攻撃は正しく…”災害”でしかなかった。しかし、そんな彼等を倒すべく、恐るべしスピードで三者を捉えた者たちがいた。

 

?「今度はこちらの番だ、三闘将ッ…!!」

 勇ましく、三人の災害へ敵意を向けたのは、非常に大きな虎…それも、先程彼等に滅ぼされた肉食獣よりも極めて大きい金色に輝く虎であった。そして、同じくして先程の鳥獣類よりも大きい金色に輝く朱雀の姿があった。

 

 そんな黄虎と朱雀の間を移動する人がいた。いや、正確に言えば、大日如来の化身にして、”最強の明王”と伝えられる”不動明王”の姿があった。三人の災害に立ち向かうのは黄金の虎と朱雀に最強の明王が迎え撃つ。

 

「痺れを切らしたな、行くぞッ!! 滅ぼしたれやッ!!」

 岩礁の号令に、ユーマと雷同は共に従い…一気に三人の災害対三体のゾオンはぶつかった…。

 

 映像は此処で途絶えた。

 

 

 

 冊冊冊冊冊冊

 

 戻って…料亭”あずま”

 

「姐さん…どうやら、ナノマシンの映像はここで終わりみたいです。()()()()()()()()W()e()b()()()。」

 と、炎山は最後に冗談交じりでハルカへ告げた。

 

「どう?…続きはwebみたいですけど、入会でもして下さる?」

 少し茶目っ気に伝えるハルカであるが、映像を観た三人の転生者は声を詰まっていた。特に転龍会対神龍会の戦争を聞いている啓は兎も角として、タイラントと蝋は映像を観てようやく納得していた。

 

「入会だと、とぼけてくれるな…あんなエネルギーを見れば、ようやっと理由が分かったがねよ。」

 

「”転龍会対神龍会”の戦争が理由ですとは…。」

 蝋やタイラントは実力があるから分かった。あれ程の技を仕掛けてくるような戦争があったのでは帰れるに帰れないと…。

 

(…災害そのものだな、あの力は。)

 啓もまた、転龍会の力に汗水を垂らしていた。啓も強さがあるだけに、彼等との戦いに圧倒された。そして、彼等三人の災害へ立ち向かった黄金の虎、朱雀、不動明王であることを知った。どうやら、彼等が隆が言っていた神龍会のメンバーの様だ。

 

 スクリーンをしまった炎山が話を続ける。

「まぁ、それぞれ感想はあると思うがよ…兎も角、俺達転龍会が帰れん理由は奴等神龍会と戦争状態にあるわけでな。あんな殺気めいた戦場にうら若き乙女を差し出す訳にはいかねェのさ。」

 

「…そう、生きた彼女達を送らないといけないからね。死なす訳にはいかないのよ。」

 転龍会、蛇蝋金獅子連合がμ’sを手に入れるの苦労するのは、あくまで生きているのが大前提なのだ。故にあんな危険地帯に送るこむ訳にはいかない。

 

「…だからって、人を攫うのに命賭けてるテメェら転龍会がそれで納得する筈が無いだろ。」ドン!!

 腕を組んだまま、啓が声を上げた。

 

「今の映像からも分かるぜ…敵である俺達を此処へ呼んだのは。」

 

 

「戦力として、加える為だろう?」ドン!!

 

 

 その言葉に、蛇蝋金獅子連合の二者は驚いた。次いで、タイラントが啓へ問いかける。

 

「その言葉通りなら…昨日、既に君は勧誘を受けていたのかね?」

 

「そうだ…其処にいる炎使いと人妻にな。」

 

 啓の予想もつかぬ言葉に、炎山は頭を掻いた。

 

「オイオイ、進行役の言葉だぜ、ソレ。」

 どうも、炎山はそれを言うつもりだったようだが、打ち合わせたでもないし、啓の発言を止めれる事は出来なかった。それに対して、蝋も追及する。 

 

「…俺達や桐生をこんな料亭に連れてきたから胡散臭いと思ったが、成程そんな考えを持っていたがねか。」

 啓の発言を受けて、此処に連れて来た真意が明らかになってきた故の言葉であった。

 

 炎山はそんな蝋を不満と捉えた。

「不満そうだな、”蝋 家龍”。」

 

「当たり前だがね…俺が今回のμ’sを手に入れる為に、どれ程の軍力と金を掛けたことかッ!!」 

 蝋にしてみれば、四大勢力で言えば、敵対同士であった天夜叉一家の澤井との同盟、それに失敗した時に免じて、金獅子のサービスを利用。更には武装や爆弾に加えて、自らも戦線に出てきたのだ。故にその憤りには力が入っている。 

 

()()()()()()()()()()()()()()μ()()s()()()()()()()()()()

 と、炎山に軽い口調で返した。というよりも、”お前なんぞの愚痴を聞きたくない”という感じに制止してみせたといえる。

 

「…ヌゥ、クソガキッ!!」

 声を荒げ、激昂する蝋。料理を食べらせて貰ったと言え、彼からしてみれば余計なお世話でしかない。

 

「まぁ待ちなさい…百年単位で生きてきた”災厄の転生者”ともあろうものが、昂ぶり過ぎよ。」ドン!!

 ハルカが昂っている蝋へ待ったを掛けた。蝋と違い、彼女は本当に落ち着いた態度を表していた。

 

「昂るなら、全ての成し遂げた後よ…貴方達にしても、()()()()()()()μ()()s()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「仮に、蛇蝋金獅子連合がμ’sを手に入れたとしても、最強の救世の転生者が集まる神龍会と相手になるのかしら?」

 

「…!!」

 その言葉に、蝋やタイラントに反応を示した。やはり、彼等も考える事はそこになる…。”災厄の転生者”といえる蝋にしても、集団で固まってきている神龍会と戦うのはかなり骨が折れる。

 

「フッ…確かにそれを言うならば、そちらとしても…事を荒立てたくないのでは?」

 タイラントが乗っかる様に付け加えた。

 

「なにか言いたげだな…タイラント。」

 炎山がタイラントへ言い渡した。

 

 そして、タイラントは自分に渡されたグラス(ウィルス割、アルコール度三桁位)を一気に飲み干して、こう言った。

 

「フフッ…貴方達転龍会が言った”落としどころ”の意味は、我々蛇蝋金獅子連合、転龍会、転生の龍が妥協し納得するに至る事なのですから。」

 

「まず、転龍会の今の目的としては、μ’sを獲得していますが、最強の救世者達である”神龍会”と既に戦争状態に陥っております。だから、戦力増強を考えないといけない。」

 

「次に我々連合は、μ’sを獲得し、この世界から脱出する事。確かに神龍会に目を付けられていますが、転龍会と戦争しているので、こちらへ警戒は薄まる。」

 

「そして、桐生青年は勿論μ’sを取り返す事と我々や転龍会を殲滅する事でしょうな…。」

 と、タイラントはそう纏めた。

 

 ここで、彼等三大勢力の立場を”神龍会”という接点でそれぞれ結び付ければ、桐生啓はこれまでの功績から実質神龍会側、転龍会は神龍会と戦争中、しかし、蛇蝋金獅子連合は神龍会にしてみれば無視できない勢力だが、蛇蝋は敵対関係であった澤井と盃を交わし、組織を裏切っている為に、勢力で言えば転龍会よりも劣る。故にやや警戒が薄まっているので、逃げ切れる機会があるのだ。

 

 しかし、啓がここで反論を口にした。

「いや…神龍会から逃げ切れ前に、上の火の玉が滞空している以上、逃げ切れる以前の問題だろ。」

 …確かに神龍会の警戒は薄まる可能性があるにしても、まず”転生の龍”、”転龍会”が文字通り眼前に待ち構えている以上、逃げ切れるというのは難しい。

 

「…じゃあ、結局振り出しにですな。やれる事がないですぞ。」

 と、タイラントが着席したと同時に、今度は蝋が口を開いた。その顔は意地の悪い表情を魅せていた。

 

「ドルハッハッハッ…タイラントよ。そう、悲観するのは早いがね。」

 ニヤリと、蝋は笑みを零した。

 

「!!…なにか解ったのですかな、その物言いは。」

 

「おうともがねよ…炎山にハルカ、お前達は()()()()()()()()()()”落としどころ”を用意しているがねな…?」ドン!!

 

「あら、その根拠は?」

 ハルカは蝋の憶測を促した。

 

「いいがね…そもそもこの世界でのμ’sの奪い合いは大前提として、μ()()s()()()()()()()()()()()ではないがね。それはこの世界がそもそも戦闘と無縁の”スクールアイドルの世界”。故に抵抗が皆無といってもいい。」

 

「そうなると、各勢力は奪取に力を入れるよりも…それぞれの敵対勢力の本隊との攻め合いになる。現に俺の蛇蝋の大本である”砂山興行”は”攻め合い”に力を入れていた。だからこそ、俺は澤井と盃を合わせられ、金獅子のサービスを利用できたがね。」

 

「そして、奪取には斥候…本隊の実力より劣る転生者でも充分。それが此処にいる炎山に馬羅垣、麦野の成り立ての転生者。」

 

「つまり、俺達を圧倒的出来る強さを持ってはいないがね。上に滞空している炎が良い証拠。」

 

「…もし、ここで戦いになったとしても、深手は負う事は有り得る。μ’sを奪えたとしても、生き残らないといけんがね。」

 

「極めつけは…今の映像での神龍会との戦争。あれとやり合うのは骨が折れるがね。」

 

「…だからこそ、お前達は俺達をもてなして、”落としどころ”を言い渡す事がμ’sを手に入れた上で俺達を戦力として加えるのが狙いなんがねな?」

 と、蝋の言葉にハルカが反応する。

 

 

「まぁ、概ねそんなところね…。()()()()()()()()()()()()()()()。」

 ハルカは応じつつ、説明をする。そして口を開けた

 

「私はこの”落としどころ”を決めて、このラブライブ世界での戦いを終わらせたいと考えているわ。」ドン!?

 

「「「!!!???」」」

 

「その落としどころこそが、矢澤家グランプリ…略称で”YKGP”を優勝する事でμ’sは誰の手の中に相応しいかを決めるのよ。」ドン!!

 と、ハルカは言い切った。

 

 そう、彼女が三人の転生者に伝えたかったのは、まさしくこれだったのだ。

 

 

 冊冊冊冊冊冊 

 

 同日某時刻、落としどころ会場改めて~YKGP参加者会場~

 

 ”YKGP”…矢澤家グランプリというを略称された催しに三人の転生者はある一つの答えに辿り着く。

 

 開口一番…桐生啓が答えた。

「俺やコイツ等を此処へ呼んだのは、今言ったYKGPに参加させる為だな…!!」ドン!!

  

「そのトーリ…俺達の狙いはYKGPを開催する事が目的だ。」ドン!!

 

「だから、わざわざこの料亭を用意して、お前等を呼んだのさ…Y()K()G()P()()()()()()()()()()

 

「…!!」

 

 東京港での乱戦をその場で制し、μ’sを確保した事を声高らかに宣言。そして、東京港で桐生、蛇蝋金獅子連合を缶詰めにして動けない様にしつつ、料亭で会食の準備をしていた。全ては今言ったYKGPの為に。

 

 その瞬間…啓はある閃きが起こる。あの音ノ木坂白いドーム事件で金剛山が矢澤家を誘拐したと言ったから、啓は東京港へ向かい、金剛山と攻め合った。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思えた。誘拐したという事はその時点で、μ’sを差し出せという筈だ。だが、金剛山はそんな事を言わず、只港に来いといった。

 

 そうなると…金剛山らteam”iflit”にμ’s誘拐を指示したのは総長の”炎山 倉之助”だとすれば、辻褄があっている。炎山は誘拐した最初からμ’sを奪うのではなく…μ’sを賭けて闘おうと考えているなら、昨日の炎山の啓に対して発破を掛けたのだ。

 

 つまり、最初から炎山は画策していたのだ。現に炎山の思惑通り動いている。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、そのトーリだ桐生。一昨日時点でそうなる様に俺は決めていた。」

 

「一昨日の時点で、お前が澤井をのしている間…馬羅垣とダンはタイラント率いる金獅子会、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」 

 

「三日間だと…!? じゃあ、あの時蝋やテメェが急に現れたのはそういう理由か…!」

 

 そう、啓が澤井と戦っていた日から金剛山と蝋との乱戦まで、炎山は蝋と戦いを三日間続けていたのだ。故に啓は驚いた。

 

(あいつの強さは…三日間”災厄の転生者”と戦えるほどの体力を持っていやがるのか…!?) 

 蝋と炎の相性を考えたとしても、炎山曰く自分がまだ経験の浅い転生者であり、蝋が災厄の転生者と言われた強さを持っている以上、成程μ’s奪取任務の最高責任者となる訳だ。

 

「チッ…それで何故”矢澤家グランプリ”という適当な題目なんだがね。」

 

「矢澤家を引き換えに、μ’sを手に入れる事に繋がるからよ。」

 

「待て、矢澤家を引き合いに出す理由がないだろうがッ。」

 啓はハルカへ指摘を告げるが、ハルカはこう言い返す。

 

「それは企業秘密よ…()()()()()()()()()()

 

「なら、YKGPを開催するのは何故がね?」

 

「私は死者を出来るだけ減らしたいからよ。…例えば、昨日の東京港の戦いで私達転龍会、蛇蝋金獅子連合、国防勢力のそれぞれの実力はほぼ拮抗していたわ。」

 

「拮抗しているという事は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、勝ち取るまで戦いを続けて、引き際を知らない。それで相打ちの可能性も大いにあるし、μ’sも余波に巻き込まれて死んでしまうかもしれないわ。」

 

「そもそも、昨日の東京港はそれぞれの勢力が思惑で動いたこともあって、予想外の戦闘や爆破工作が起きた。そのせいで、死者や建物の崩壊に繋がったわ。」

 

「だから、”YKGP優勝”をそれぞれの勢力へ掲げさせる事は、余計な戦闘を起きない事に繋がるわ。」

 

 炎山が説明を終えたハルカに語り告げる。

「姐さん、後は手っ取り早くコイツ等の意志を聞きましょうよ。」

 

 

「そうね…じゃあ最後に参加確認の為に言わしてもらうわよ。」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「…!!!」」」

 

「…既に、私達転龍会は神龍会と戦争をしている以上、μ’sを最後に世界のcharacterを奪う事は終わりにするわ。そして、貴方達を叩きのめして、戦力にする。」

 

「姐さんの言う通りだ…この中でも一番勢いのあるのが俺達だ。そんな生意気な俺達を倒して、μ’sを奪いたいのはお前等だろ?」

 ハルカと炎山はふてぶてしく、生意気な態度を取った。

 

「それでも、参加したいなら…決められた奥の部屋に入りなさい。」

 

「参加確認という名の挑発ですかな? その口ぶりは?」

 タイラントはゆっくりと立ち上がった。

 

「上に火の玉を滞空している以上…強制参加でありませんかな?」

 と天井の見えない落火星を指差した。

 

「意気込みが大事なのよ…脅されて参加するか、臆せず参加するか。」

 

「貴方はどっちなのかしら?」

 

「勿論、私は後者ですぞ。」ドン!!

 タイラントはハッキリと宣言した。

 

「分かったわ、なら左の部屋に入りなさい。」

 すると、タイラントは入っていた。

 

 タイラントが襖をピシッと閉めたと同時に蝋が高笑いを始めた。

 

「ドルハッハッハ…いや~おかしいがね。」

 

「どうしたの? ”災厄の転生者”さん。」

 

 ハルカの上目遣いでいう言葉に蝋は噴き出しそうになる笑った。

「ドルハッハッ、そう皮肉めいて言うのは辞めて欲しいがねな。災厄だの言われても、貴様の様な小娘の思惑通りに進んでおるのだからな。」

 本来なら、蝋はこのままμ’sを奪い芸術品に仕立て上げていたからだ。だが、転龍会のせいでそのチャンスが失われた故の怒りなのだ。

 

「…そう、ならこのまま私の思惑通り動いて下さる?」

 

「良かろうがね…だが、今度は俺の思惑どおりに貴様を芸術品に仕立て上げてやるがねッ!!」

 

「なら、右に進んでね。」

 蝋は青筋を立てながらも、右の襖を開いていった…。

 

 残るは桐生のみ…。蝋にしてもタイラントにしても、μ’sを奪うを一心に動いているのだろう。故に襖を開いていった…。

 

(転龍会にしても、蛇蝋金獅子連合は敵だ。奴等にとっても今此処で叩き潰してもいい筈なのに、どうしてチャンスを与えたんだ?)

 そんな疑問の前に、ハルカが啓の目の前に立った。

 

「桐生…貴方の目的は私達を叩き潰す事でしょう? 蛇蝋や金獅子を含めてね。」 

 

「そうだ…だが、テメェ等は今すぐでも奴等を叩き潰せるのに何故しねェ…。」

 

「…敵はただ倒すだけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうか…敵から学ぶか…頭が痛くなるぜ。」

 啓はゆっくりと立ち上がり、炎山の元も近付いた。

 

「炎山、昨日…俺はテメェから張り合いがある相手と言われた。だがさっきの話で三日間災厄の転生者と戦いを続けていたんだろ。驚いたぜ、あの小競り合いの時点でテメェは疲れていたことになる。」

 それを聞いた炎山が桐生へ言い放つ。

 

「だから、お前はショックを受けてんのか? 桐生。」  

 

「ああ、そうだ。それによ…いつでも俺を倒せた筈だというのにテメェはあろうことか、俺を相手として認めμ’s奪回のチャンスを与えた。」

 そして、ハルカの方を向いた。

 

「お前もだ、ハルカ。転龍会の人間が町の人間を心配する様な言葉が出るのが、俺には分からねェ。そんな心遣いをする必要が無い立場の人間がだ。」

 

「だからよゥ…お前等の立ち位置は、いや転龍会は一体何がしたいんだ?」

 転生者からμ’sを護る立場の人間が桐生啓だ。しかし、先程のハルカの死者を減らしたいという言葉から出るのは明らかにその人を思っての発言だと啓は考えた。だからこそ、啓は確かめたいのだ。その真意を…。

 

「…そうね、一ついえる事は、私のエゴで関係ない人間が死ぬのは嫌なのよ。これは私の夫である転龍会会長とは関係ない私だけの意志。」

 

「つまり、お前は他人の命を弄ぶ気は無いのか。」

 

「そうよ。」

 と、ハルカは強く言った。言葉の真意はどうあれ、彼女は断言した以上、啓は襖の方へ向かった。

 

「お前が人の命を大切にするのならするで、俺もその方が都合が良い。だが、俺がテメェ等からμ’sを取り返すのは俺の意志だ。」

 啓は真ん中の襖を開け、参加会場を後にした…。

 

 

 

「姐さん…俺は近いうちにアイツとぶつかるでしょう。」

 

「ええ、貴方の願いは彼と全力で戦う事なんでしょう…それが貴方の意志。」

 

「はい…!!」

 と、炎山は立ち上がった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()

 炎山は颯爽とその場を後にした。

 

(転龍会、金獅子、蛇蝋、そして転生の龍…これで戦いは一先ずの区切りを迎える。)

 と、ハルカは外を眺めた。

 

 其処からは、池の水が見えており、水面には炎の球が揺らめいているのが見えていた。警戒を緩めず、気を引き締める様に…。

 

 ~次話へ続く~




落としどころとして、YKGPの開催が決まりました。イフリートは最初からYKGPを開催するべく、動いていたようです。

次回、第67話 ~第一回YKGPに参加するにあたって~次回も乞うご期待b 

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