天海を倒し、事実上黒之巣会を全滅させて早三ヶ月。
帝都はようやく、本来の日常と活気を取り戻しつつあった。
それからはパッタリと事件も起こらなくなり、月日は流れて正月を迎えていた。
「「明けましておめでとうございます」」
帝劇でも、全員で楽屋に集まって新年を無事に越せた事を祝っていた。
築地市場の魚介類で活け造った鉢盛や、所蔵の屠蘇が振る舞われ、元旦を賑やかに彩る。
「秀介さん、明けましておめでとうございます」
「さくらさん、新年おめでとうございます」
「昨年は色々とお世話になりました。今年もよろしくお願いしますね」
「は………はい、こちらこそ」
お屠蘇を飲んだためか頬の赤いさくらに、秀介は思わず赤い顔で返事を返した。
三か月前の一件以来、帝劇でも半ば公認状態であった二人は明確に距離を縮め、晴れて恋人関係を自称できるようになった。
もっとも舞台女優という都合から、まだ公に出すにはタイミングを図る必要があるのだが。
「あらさくらさん、珍しく礼儀にかなった挨拶です事ね。感心ですわ」
「ありがとうございます。今年こそ、すみれさんのようなレディになれるよう、頑張ります」
「あ~ら、お~っほっほっほ!貴女随分センスが、およろしくなったわ」
いつもと違って礼儀正しいさくらに、すみれは上機嫌で笑った。
その様子は、昔二人がケンカする仲とは微塵にも思わせないものだった。
「ところで少尉、私の姿如何かしら?地味かも知れませんが」
そうは言うものの、そう思うのはおそらくすみれだけだろうと大神は思った。
普段の紫をベースに、頭に巨大なリボンをつけて、前に赤い帯を巻いている姿は、ドがつく派手さである。
これが地味ならすみれにとっての派手とは何なのか、皆目見当がつかない。
「はいはい、よう似合うてはるで」
大神が答える前に、隣の紅蘭が口をはさんだ。
大神と話していた所を邪魔されたからか、若干言葉には刺がある。
「まあ、褒め言葉にしては刺がありますわね」
「まあまあ、すみれくんも地味な事は全然ないよ」
大神は何とかその場を抑えるようにフォローした。
さすがに正月でまでケンカは勘弁してほしい。
すると、そこにアイリスがやって来た。
「お兄ちゃん、明けましておめでとう」
「やあアイリス。おめでとう」
アイリスはまだ子供なので、まだみんなとお屠蘇は飲めないが、代わりに料理をわんさか貰っていた。
だがその内二つ目の数の子はすみれの皿に盛られていた記憶があるが、とりあえず黙っておこう。
「アイリス、今年は11になるよ。もう少ししたら結婚できるよね?」
突拍子もない一言に大神はお屠蘇を吹き出しそうになった。
「ウッ………!ア、アイリス………まだもう少しとは言えないよ」
「そお?」
日本の法律上、女性の結婚は満16歳から。
従ってアイリスが結婚可能なのは、今年から数えて5年になる。
アイリスには悪いが、5年はもう少しとは言えない。
「アイリス、慌てんでもええって。大人なんてすぐ先やさかい」
いい具合に紅蘭がサポートを入れてくれたおかげで、大神はようやく解放された。
すると、今度はカンナが話し掛けて来た。
「隊長、新年もよろしくな」
「カンナ、こちらこそよろしく」
「へへ、隊長らしくなったな。きっと今年はいい年になるね」
嬉しそうに呟くカンナ。
すると、あやめが口を開いた。
「カンナの言う通り、隊長の貫禄がついてきたわ。大神君、今年も花組をよろしくね」
「は、はい………!」
あやめの言葉に、思わず上擦った声で答える大神。
すると、紅蘭が眼鏡を光らせてツッコんだ。
「大神はん、アンタ正月からデレデレやんか!」
楽屋は、異口同音の笑い声に包まれた。
「失礼します」
楽屋で新年の挨拶を済ませた後、大神は支配人室へ顔を出した。
自室でお屠蘇の酔いを覚ましている時に、米田から来るように言われたからである。
「支配人、話とは?」
「おう大神、まずは一杯どうだ?」
「………申し訳ありませんが、遠慮します」
せっかく酔いを覚ましたのに、またここで飲んでは本末転倒である。
目上の人からの勧めを断るのは礼儀に反するが、花組の隊長である自分まで平和ボケする訳には行かなかった。
すると、米田の口から意外な言葉が出た。
「………そうだ。それでいい」
「え?」
「治にいて乱を忘れず。平和な時だからこそ、安心しない。それでこそ花組の隊長だ」
その言葉に、大神は米田の誘いが自分を試してのものだったと理解した。
米田もまた、大神が断る事を見越して言ったのだ。
「とは言え、年に一度の正月だからな。今日は仕事はない。自由に正月を満喫してくれ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
「あ、大神はん。もう米田はんとの話は済んだんかいな?」
支配人室を出ると、そこには紅蘭の姿があった。
「ああ、今終わったけど………。どうかしたのかい?」
大神が尋ねると、紅蘭は表情を真剣なものに変えた。
「実は、大神はんに話しておきたい事があるんや」
「俺に?」
「そうや。あれから3ヶ月かけて光武を修理したんやけど、どうも前回の戦いのダメージが強くてな。今までみたいに戦うのは厳しいんや」
3ヶ月前の、今でも記憶に新しい黒之巣会との最終決戦。
帝都の未来をかけたあの戦いで、光武は活動限界ギリギリの状態で戦っていた。
これまでの戦闘に伴う負担も相まって、不調を起こすのも仕方のない話ではあった。
「あの戦いだけは負けられへんかったさかい、仕方ないねんけどな。大神はんには本当の事伝えよう思うて」
帝都のため仕方ないとは言え、やはり機械の傷付く姿を見るのが辛いのか、紅蘭の表情はやや暗かった。
いたたまれなくなった大神は、紅蘭を何とか元気づけようとした。
「紅蘭………、何か俺に出来る事はないかな?」
「え………?」
「その………せっかくの正月だし、紅蘭は笑顔が似合うから………」
それは、乙女心にうぶな大神の精一杯のアプローチだった。
おそらく紅蘭が元気になってくれるだろうと思う事を口にすると、紅蘭は一瞬驚いたような表情を浮かべ、珍しく頬を赤らめた。
「そ、それなら………、ウチの事、初詣に連れてって?」
「ああ、いいよ。今から行こうか」
大神は即答した。
初詣にしろ何にしろ、紅蘭が笑顔になってくれればそれでいいのだ。
すると、知らないとは言えデートの誘いを承諾した大神に、紅蘭は満面の笑みを見せた。
「よっしゃ!ほな、みんなに見つからんごと、そ~っと出よ!」
大神と紅蘭が初詣に出かけてすぐ、秀介は支配人室に呼ばれた。
「おう秀介。初めての正月はどんな気分だ?」
「はい………。とても賑やかで楽しいんですが、酒というのがどうにも………」
米田の問いに、秀介は躊躇いがちに答えた。
本場築地直送とあって、鉢盛は絶品だった。
が、その前に元旦のあいさつで一気飲みした屠蘇が想像を絶する味だった。
地球では所謂「酒」を祝い事に嗜むと聞いてはいたが、のどが焼かれるような、頭がしびれるような未知の感覚に、秀介は戸惑いを隠せなかった。
すると、米田はツボにはまったのか膝を叩いて大笑いした。
「ハッハッハ!そうか、やっぱりアイツと一緒か」
「では、兄さんも?」
「ああそうだ。豊の奴も陸軍大尉のくせにからっきし飲めなくてな。大分苦労してたんだぜ?」
知らない兄の一面に、秀介は思わず吹き出した。
まさか冗談も言わないような兄に、そんな面白いエピソードがあるとは思わなかったからである。
「それで秀介。話ってのは、その豊の事なんだ」
「兄の?」
「そうだ。単刀直入に言う」
「秀介、お前にM78星から帰還命令が出された」
「…………え?」
米田の口から出た言葉が信じられず、秀介は一瞬固まった。
「今朝年賀状と一緒に届いた奴だ。嘘だと思うなら読んでみろ」
そう言って米田から渡された一枚のハガキ。
秀介は、その頭の文面を声に出して読んだ。
「………光の国への、帰還命令………」
ジャック。地球の呼び名では、御剣 秀介。
お前の地球での活躍は耳にしている。
私も兄として、鼻が高いぞ。
しかし、今回の戦いを聞く限り、お前は今これ以上戦うべきではない。
バルタン星人は、私でも完全に倒せなかった強者だ。
今のお前の敵う相手ではない。
それに、先の戦いでエネルギーをほぼ使い切っている事も知っている。
おそらくもう変身も危うい状態に追い込まれているはずだ。
悪い事は言わない。M78へ戻れ。
今のその身体で無理に戦えば、命を失うのは確実だ。
ゾフィー
「………失礼します」
そう言って支配人室を出る秀介。
米田は、やれやれとため息をついた。
「俺だって行かせたくねぇよ。せっかく平和になってって時にな………」
秀介は、おぼつかない足取りで部屋の前に来た。
思わず握りつぶしたハガキをもう一度読み返すが、やはり内容は同じものだった。
「こんな時に………帰るだなんて………」
光の国への帰還命令。
秀介にとって、それは事実上死刑宣告のようなものだった。
確かにゾフィーの言う事は的を射ている。
前回の戦いでエネルギーは底をつき、変身はまず不可能だ。
しかし、今自分がいなくなってしまえば、誰がバルタン星人から帝都を、引いては地球を守ると言うのか。
「………秀介さん」
「は、はい!?」
突然の声に振り向くと、そこにはさくらがいつもと変わらない優しげな笑顔で秀介に笑いかけていた。
どうやら無意識のうちに、彼女の部屋の前に来ていたようだ。
「どうしたんですか? 鉢盛ならもう片付けちゃいましたよ?」
「……さくらさん………」
まだ酔いが醒めてないのだろうか。
屈託ないまぶしい笑顔が、頬を紅に染めて艶やかさを帯びている。
この笑顔と、やっと心の通い合った人と離れ離れになる。
これまで体験したことのない別離を前に、心が痛んだ。
「……どうかしたんですか?」
「え!? い、いや……あの……」
無意識に見つめていたさくらに言葉を返しかけ、思わず言葉に詰まる。
言わなければ。
もう自分がここにいられないと。
貴女の側にはいられないと告げなければ。
「さ、さくらさん……あの……」
「はい?」
「……、……出かけ、ませんか……。出来れば、その……ふ、二人……で……」
だが、口から出てきたのは、心の叫びではなかった。
彼女の笑顔を、微笑みを壊したくなくて、出まかせを述べてしまった。
そんな情けない醜態を晒す自身を秀介はただ呪う。
「ホントですか!? じゃあ、明治神宮まで初詣に行きませんか?」
「初詣?正月の行事ですか?」
「はい。一年の初めに、神社で神様にお参りをして、今年一年の祈願をお祈りするんです」
「お参りですか……、いいですね」
今まで経験したことのない行事にピンと来ないまま、さくらの提案を承諾する秀介。
すると、彼の胸中など知る由もないさくらは嬉しそうに笑った。
「じゃあ決まりですね! う~んとおめかししなくっちゃ! 十分くらいで支度済ませちゃいますから、待っててくださいね」
「あ、はい……」
子供みたいにはしゃぐさくらを扉の奥に見送り、秀介は作り笑いの仮面をかぶったまま、力なく俯いた。
「(……すみません、兄さん。僕は……)」
握った両の拳は、震えていた。
さくらが部屋から出て来たのは、それから30分後の事だった。
「お待たせしました、秀介さん」
「いえ、そんな………」
そう言いかけ、秀介は声を失った。
そこには、桜色の服と白いショールを身に纏ったさくらが、普段とは何処か違う雰囲気で秀介の前に佇んでいた。
「………素敵です………」
気がつけば、自然にそんな事を口にしていた。
「そうですか? この晴れ着………初めて着るんです」
「いえ、晴れ着じゃなくて………貴女が………」
「!! ………秀介さん………」
自分への褒め言葉に、さくらは素直に頬を赤らめた。
どうやら、外の冷たい空気を心配する必要はなさそうだ。
明治神宮は帝都で一番有名な神社だけあって、沢山の人で賑わっていた。
秀介とさくらは境内でお参りを済ませた後、さくらの提案でおみくじを引く事にした。
「おみくじって、何ですか?」
「箱の中に入ってるくじを一つだけ取るんです。それに、取った人の運勢が書いてあるんです」
丁寧に説明しながら、おみくじを一枚引くさくら。
秀介も、見よう見真似でおみくじを取った。
「あれ?何も書いてないですよ?」
さくらの説明によると、おみくじには吉なり凶なりの文字があるはずだ。
しかし、どういう訳か秀介の引いたおみくじは真っ白で、何も書かれていなかったのだ。
見ると、さくらのおみくじも同様に真っ白だった。
「大丈夫ですよ。ほら、あれを見て下さい」
そう言って、さくらがおみくじの隣の立て札を指差した。
立て札には、こう書かれていた。
「………水につけると、文字が出て来ます………」
どうやら水につけると、内容が分かるらしい。
二人は近くの池に足を運び、おみくじを池に浸して見た。
すると、立て札の通り真っ白だったおみくじに透明な線が浮かび上がり、文字を形作った。
「………残念、末吉でした。秀介さんはどうでしたか?」
「僕は………大吉、みたいです」
とりあえず、一番上にある大きな文字を読んでみる秀介。
すると、さくらが少し驚いた様子で言った。
「凄いじゃないですか!大吉だったら今年一年、きっといい事がありますよ」
「………いい事………」
本当にそうだろうか。
秀介は口にこそ出さなかったが、おみくじの結果を素直に受け入れられないでいた。
自分は間もなく地球を離れる。
当然、さくらとは会えない。
彼女がいなければ、自分にとっての幸せなどありえない。
秀介には、それが不安で仕方なかった。
その頃、一足先に明治神宮に来ていた大神は、近くの出初式を見ていた。
初詣の醍醐味と言えば、しし舞や餅搗き、おみくじに加えて出初式は欠かせない。
一歩間違えば大怪我は必至の高さの梯子の頂上で華麗に技をキメる姿は、さながら日本のサーカスである。
しかし、その隣に紅蘭の姿はない。
それもそのはず。
紅蘭は今、大神の遥か上で、華麗に技をキメていたからだ。
「どうや大神はん!これが中国四千年、ウチ流の出初式や!」
職人顔負けの動きで道いく人達を驚かせる紅蘭。
打ち上げの時の皿回しといい、超人芸を次々と披露する紅蘭に、大神も喝采を送った。
「いよっ、世界一!!」
「大神はん………世界一やなんて、嬉しい事言うてくれるやん」
世界一か、それとも大神が褒めてくれたのが嬉しかったか、紅蘭はキメの姿勢のまま、両手に頬を当てた。
「よっしゃ!こうなったらもっと凄い技ガンガン見せたるで!」
そう言って次の技に入ろうと構えた時、視界の隅に見覚えのある影が写った。
「ありゃ?あれは秀介はんにさくらはん………?」
その時、大神は紅蘭の身体が前に傾いている事に気づいた。
「マズイ………! 紅蘭、危ないぞっ!!」
慌てて叫ぶ大神。
しかし、紅蘭がそれに気づいた時は遅かった。
「へ? ………わっ! わっ! お、大神はん!! 助けてぇ~!!」
バランスを崩して慌てる紅蘭。
梯子の高さは80メートルはある。
落ちれば大怪我では済まない。
周囲の歓声が、一転して悲鳴に変わった。
「紅蘭頑張れ! 今助けに行くぞっ!!」
大神は自分でも信じられないスピードで梯子を昇った。
その速さ、某肉体自慢番組SAS●KEの最終ステージで梯子を10秒足らずで突破できるスピードである。
もし大神がその番組に出演すれば、完全制覇は確実だっただろう。
何はともあれ、大神は驚異的スピードで梯子を昇り、無事に紅蘭を救出した。
途端に周りから、先程とは比べものにならない大歓声が上がる。
「紅蘭………大丈夫だったかい?」
「大神はん………恥ずかしいわ………。みんな見てるやん。」
紅蘭が顔を真っ赤にして訴えかけた。
現在紅蘭は梯子の頂上で大衆に見守られながら、大神にお姫様抱っこされている状況だ。
すると、大神はそれに気づいているのかいないのか、真顔で答えた。
「紅蘭………何かあったら、いつでも俺が助けに行くよ。」
「大神はん………反則やで、こないな時に………。」
ますます顔を赤くする紅蘭に、大神は優しく笑いかけた。
「秀介さん。この後は、何か予定はありますか?」
おみくじを木に結び、ふとさくらが尋ねた。
「いえ、特に予定はありませんが………」
「それじゃあもう少し、あたしと二人で過ごしませんか?」
「え………?」
突然のさくらからの申し出に、秀介は思わず目を見開いた。
そこには、真っ赤な頬に手を当ててこちらを見るさくらの姿があった。
「あたし………今日のこの日を、秀介さんとの思い出の記念日にしたいんです………」
「さくらさん………」
自分に寄り掛かるさくらを、秀介は両腕で包むように抱きしめた。
愛おしい………。
腕の中のさくらを見て、秀介は素直にそう思った。
失いたくない………。
離れたくない………。
声にならない心の叫びが、秀介の目から一粒の涙となって流れ落ちる。
「………秀介さん?どうかしたんですか?」
秀介の頬の雫を指で拭い、さくらが尋ねた。
「………幸せ過ぎて………」
「え?」
「今、この瞬間が………あまりに幸せ過ぎて………」
「秀介さん………」
無言のまま、互いに見つめ合う二人。
やがて、どちらからともなく距離が狭まっていく。
「さくらさん………」
「秀介さん………」
名前を囁き合い、吐息が頬をくすぐる。
その時だった。
「「どわあああぁぁぁ!!」」
「ええっ!?」
「な、何事ですか!?」
突然聞こえた叫び声に驚いて見ると、そこには花組の面々が茂みの中から横倒しになっていた。
如何にも尾けてましたと言わんばかりである。
「みんな、こんな所で何やってるんです!?」
いい雰囲気を邪魔されたさくらが般若のごとき形相で七人を睨みつける。
「い、いや、その………話せば長くなるんだが………」
「へへ、ばれちまったら仕方ねぇ。お前達二人を尾けてたのさ」
「おーっほっほっほ!二人だけで楽しもうなど、そうは問屋が下ろしませんわ!」
「わ~い、みんなで初詣だ~!」
「………二人とも、こうなったら諦めてちょうだい」
みんなが思い思いの言い訳を並べる中、マリアがきっぱりと言った。
「マリアさん………隊長……あなたたちまで………」
「済まん、二人とも。俺達もさっき捕まってしまって………」
「そうや!ウチらも二人で初詣楽しんどったら邪魔されたんや!」
余程悔しかったのか、若干涙目で紅蘭が言った。
どうやら二人で楽しむのはここまでのようだ。
「秀介さん………。この続きは………また今度、ですね」
「今度………ですか」
果たしてその時まで自分はここにいられるか………。
秀介は、不安とともに力なくため息をついた。
そして、秀介の不安は的中した。
「………この気配は!!」
それは、これから花組全員で初詣に行こうとした時だった。
急にマリアが何かを感じ、鋭い表情とともに立ち止まったのだ。
「どうした、マリア?」
突然のマリアの異変に、大神が尋ねる。
すると、続いて秀介が叫んだ。
「隊長! あの鳥居の上です!!」
「何っ!?」
秀介の声に、全員が鳥居の上を見上げた。
そこにいたのは………、
「………また会えたな、帝国華撃団の諸君」
鳥居の上に立って花組を見下ろしていた人物………。
それは、黒之巣会死天王最後の一人だった。
周りには新たに仲間を募ったのか、初めて見る三人の護衛をつけている。
「我が名は、葵叉丹」
「………黒じゃなかったんですか?」
「黒之巣会め、また現れたな!!」
どこか違う所を気にしている秀介をスルーして、大神の鋭い声が飛ぶ。
すると、叉丹は意外な言葉を返した。
「黒之巣会?………フッ、馬鹿馬鹿しい」
「何?」
「天海ごときではあの程度が限界さ。所詮は徳川に飼われていた坊主に過ぎん………」
それは、かつての残党が口にする言葉ではなかった。
本来残党というものは、倒れたかつての総大将の遺志を継ぎ、崇拝するものである。
しかし今の叉丹には、それが微塵にも感じられない。
それどころか、天海を完全に下に見ている。
つまり叉丹は黒之巣会の残党としてではなく、帝都に牙を剥く新たな脅威として現れたと考えるのが妥当だ。
「だが、この葵叉丹はそうはいかん。お前達の守った平和も、つかの間だと教えてやろう」
「そんな事、絶対させないわ!」
「脇侍もねぇくせに、偉そうな口叩くんじゃねぇ!」
負けじと言い返すさくらとカンナ。
しかし、叉丹は余裕の笑みを崩さなかった。
「果たしてその言葉、これを見た後からも叩けるかな?」
そう言って、叉丹は何やら呪文を唱え始めた。
「来たれ、封じ込められし魔の者よ。我、葵叉丹の命に従い、帝都を血の海に沈めろ。来たれ、降魔!!」
刹那、鳥居を中心に巨大な魔法陣が現れ、中から異業の怪物が現れた。
「ギシャアァァッ!」
「な、何やの、コイツら!?」
それは、脇侍とは比べものにならない殺気を放つ怪物だった。
蝙蝠を想起させる紫色の毒々しい体色の皮膚に翼。
更に鋭く尖った牙と爪。
魔法陣から次々と現れた怪物に、花組は取り囲まれてしまった。
「この殺気………ただものではなくてよ」
「くっ、こんな時光武があれば………」
少なくとも生身の状態で手向かえる相手ではない。
しかし大神が悔しげに呟いた時、空から助けが現れた。
「………何とか、間に合ったようね」
それは、帝国華撃団の有する空の輸送飛行船だった。
「翔鯨丸!」
上空に控える飛行船の姿に、花組は安堵の表情を見せる。
「よっしゃあ!メッタクソにしたるぜ!」
「よし、帝国華撃団花組、出撃!!敵はただの残党じゃない。みんな、気をつけて戦うんだ!」
「「了解!!」」
大神の指示の下、花組は素早く投下された光武に乗り込んだ。
記念すべき元旦の日に現れた叉丹と謎の怪物達。
そこに立ちはだかる、正義の使者がいた。
「帝国華撃団、参上!!」
かつて帝都を襲った黒之巣会に立ち向かい、これを討ち滅ぼした戦士達。
三ヶ月の時を経て、彼らは再び戦場に現れた。
「光武がある限り、俺達は戦える!叉丹、貴様の思い通りにはさせないぞ!!」
仲間の先頭に立ち、大神が叫ぶ。
しかし、叉丹はやはり余裕の笑みを崩さなかった。
「威勢だけは立派だな。せっかくだ、私の部下を紹介してやろう。黄昏の三騎士、猪鹿蝶だ」
すると、叉丹の前に立つ三人の護衛が前に出た。
「我が名は猪!生きていればまた会おう!」
「俺の名は鹿!貴様ら帝国華撃団の力、じっくり見せて貰うぞ!」
「アタシは蝶!死ぬ前にアタシに会えた事、幸運と思いなさい!」
黄昏の三騎士と呼ばれた三人は、それぞれ花組に名乗りを上げた後、転移魔術で消えてしまった。
「どういうつもりだ、叉丹!」
「貴様らごとき、私が手を出す間でもない。心配せずとも、こいつらが十分にもてなしてくれるだろう」
大神の声を軽くあしらうと、叉丹もまた消えてしまった。
それと同時に、降魔達が花組の前に現れた。
「この殺気………一瞬でも気を抜けばやられる!みんな、絶対に無理をするな!」
「「了解!」」
戦闘開始から1分とたたない内に、花組は今回の敵に絶対的な力の差を感じずにはいられなかった。
降魔。かつて帝都を苦しめ、さくらの父・一馬が命と引き換えに封じ込めた魔の存在。
その力は、黒之巣会など歯牙にもかけない程のものだった。
「何だコイツ………!?あたいより力があるじゃねぇか!」
その力は、カンナを軽々と投げ飛ばし、
「嘘………!刀でも斬れないなんて………!!」
その皮膚は、さくらの太刀をも跳ね返し、
「何て速さ………!追い付けないわ!」
そのスピードは、マリアでも狙えない。
今の自分達に勝ち目はない。
降魔の能力は全てにおいて花組を凌いでいた。
「………やむを得ないわね」
戦況を翔鯨丸から観察していたあやめは、モニターを前に呟いた。
これまで常に勝ち続けていた花組。
その彼らが、大神さえもが、降魔に全くと言っていい程に歯がたたないのだ。
とてもではないが、これ以上戦うのは無謀だった。
「大神君!翔鯨丸で直接降魔を砲撃するわ!全員を鳥居の手前に避難させて!」
「分かりました!みんな、鳥居の手前まで退却する。絶対に生きて辿り着け!」
「「了解!!」」
降魔の激しい攻撃に耐えながら、八つの機体は死に物狂いで鳥居に殺到した。
その表情には、強敵を前にしての恐怖がありありと窺い知れた。
「この私が退却など………アイツら、正しく化け物ですわ………!」
「刀で斬れない………。どう戦えばいいの?」
「何て奴らだ………。あたいでも喧嘩にすらならねぇ………」
「何なんやあの化けモン!光武でも勝ち目あらへん!」
「恐ろしい力………。これが、降魔なの………!?」
ボロボロになりながらも、無事に鳥居の手前に到着した。
「あやめさん!退却完了しました!」
「よくやったわ、大神君!照準セット!主砲、発射用意!!」
すかさずあやめは指示を飛ばした。
翔鯨丸の砲撃は、威力が高い反面周囲への被害も甚大で、戦闘支援の場合には一発しか撃てない。
特にこの場合、降魔を一匹でも撃ち漏らせば、花組の敗北は決定的だ。
この一発に全てが掛かっていた。
「撃てぇっ!」
翔鯨丸の主砲が火を噴いた。
その爆撃とも言える一撃は、その場にいる全ての降魔を巻き込んだ。
まだ死んではいないが、口から体液を吐いている辺りから、瀕死の状態と分かる。
「今がチャンスよ。一気に降魔を殲滅してちょうだい!」
防御力の弱った今なら、自分達の攻撃も通用するはず。
大神は二刀を構え直し、命令を出した。
「みんな、今がチャンスだ。一気に降魔を撃破するぞ!!」
「「了解!!」」
翔鯨丸の砲撃を浴び、降魔は苦しみのうめき声を上げている。
今なら勝てる!花組の誰もがそう思った。
だが、降魔の生命力は花組の常識を逸するものだった。
「行くぞ!!」
気合いとともに二刀を振り下ろす大神。
すると、降魔は瀕死の状態で尚大神の攻撃を受け止めてみせた。
「何っ!?」
「隊長、伏せて下さい!」
背後の声に気づいてしゃがみ込む大神。
すると、大神の真上を凍てつく一撃が飛び、降魔を直撃した。
「ギ……ギギ…………!」
断末魔の呻きとともに倒れ伏す降魔。
それを確認に、大神は背後の部下に礼を述べた。
「ありがとうマリア。助かったよ」
「翔鯨丸の砲撃を受けて互角………。私達とは次元の違う相手ですね」
「ああ。翔鯨丸の砲撃で生きている事自体凄まじい生命力なのに………」
瀕死の状態に追い込んでいるにも関わらず、自分達とまだ互角に戦える力がある。
大神は改めて、降魔の力に戦慄を覚えた。
結局花組は、翔鯨丸の砲撃があった上でギリギリの状態で降魔の殲滅に成功した。
「何とか………、終わったみたいだな」
周囲の降魔が全て死んでいる事を確認して、大神が言った。
「光武も流星も無理させ過ぎたさかい、早う戻って修理したらな………」
ただでさえ前回のダメージも回復していない状態で、降魔は相手が悪すぎる。
既に動力部分をはじめ、せこらかしこに不具合が生じていた。
次に相対する時までに、光武を完全に修理しなくては………。
そう考えながら帝劇に戻ろうとした時、突然茂みの奥から別の降魔が出現した。
先程の翔鯨丸の砲撃から、一匹だけ逃れていたのだ。
「ギシャアッ!!」
羽根を広げて飛び上がる降魔。
大神は素早く指示を飛ばした。
「マズイ!紅蘭、マリア、秀介、撃ち落とすんだ!!」
この状態で空から奇襲を受けては手も足も出ない。
大神の指示を受け、三人は一斉に降魔を狙い撃った。
だが、降魔には弱った光武の攻撃など虚仮威しでしかなかった。
「ギシャアッ!!」
音速のスピードで飛来した降魔は、始めに流星を叩き落とした。
「なっ………!?」
右の翼を寸断され、流星が真下の二つの光武を巻き込んで地面に墜落した。
「秀介さんっ!!」
「さくらっ!危ない!」
思わず飛び出すさくらを止めようとするアイリス。
しかし、降魔は二人をそれぞれ片手で捕まえ、力任せに投げ飛ばした。
「きゃあああっ!!」
「さくらくんっ!くそっ、カンナ、すみれくん!」
「お任せを!!」
「やったるぜ!」
大神の指示で同時に攻撃を仕掛けるカンナとすみれ。
だが、降魔はそれより早く襲い掛かって来た。
「くっ………!!」
「すみれっ!」
最初に切り掛かったすみれを殴り飛ばし、降魔が空高く舞い上がる。
そこに、カンナが迎え撃った。
「おらあああっ!!」
脇侍であれば瞬殺だった一撃。
しかし降魔には、僅かに傷を負わせる事しかできなかった。
それどころか、カンナも降魔の鉤爪を深々と受け、動けなくなってしまった。
「ぐっ………た、隊長!今だ!!」
「分かった!カンナ、あとは任せろ!!」
カンナが繋いだこのチャンス、逃せば勝機はない。
光武の限界は大神も分かっている。
しかし、そのためにこの好機を逃す訳にはいかなかった。
「(紅蘭、済まない………!)」
心の中で一言恋人に詫び、大神はありったけの霊力を二刀に集中した。
「狼虎滅却………!!」
最後の狙いを大神に定めて迫り来る降魔。
大神は蒸気の出力を最大にして飛び上がり二刀を振るった。
「快刀乱麻!!」
カンナの攻撃で生まれた降魔の傷に沿って、緑色の稲妻が走った。
「ギ………ギギ………!」
どうやら今の攻撃が致命傷になったらしく、降魔はようやく動かなくなった。
「みんな………、大丈夫か?」
そう尋ねる大神だが、大丈夫でない事は明らかだった。
どの光武も傷だらけで、エンジンからは火花が散っている。
ここまで光武がダメージを受けたのは初めてだった。
「………みんな、脱出するんや」
紅蘭が涙をこらえるようにして言った。
その言葉が、全てを意味していた。
「光武は………、光武はもう………限界なんや」
「光武が………壊れてしまったな………」
動力部分が完全に破損し、鉄屑状態になってしまった光武を見て、大神が力無く言った。
今までともに戦って来た戦友。
その場の誰もが心を痛めずにはいられなかった。
「本当は限界もとうに超えとったんに………。よう頑張ったで、光武………」
「紅蘭………」
涙をこらえる紅蘭の肩に、優しく大神の手が置かれた。
だがこの後、花組を更なる悲劇が襲う事になる。
それは、花組が翔鯨丸に光武を回収してもらっていた時だった。
「………風?」
最後尾にいた秀介が、ふと空を見上げた。
先程からいやに強い風が吹き付けてくる。
それもこの辺りだけに。
その時、空から凄まじい速さで黒い影が飛び込んで来た。
「………!! あれは!」
その影の正体に、花組は表情を凍り付かせた。
なぜならそれは、ある意味降魔よりタチの悪いものだった。
五角形のような体で、顔のほかに腹にも口を持つ怪獣が、翔鯨丸の前に現れたからだ。
「ビィー!!」
鳥のような甲高い鳴き声を上げ、明治神宮の建物腹の口に吸い込み始める怪獣。
秀介は、反射的にブレスレットに目をやった。
だが、それを掲げる寸前、脳裏に兄の忠告が過ぎった。
………今のその身体で無理に戦えば、命を失うのは確実だ………
「(………兄さん、忠告は聞けません。僕は………。)」
一瞬躊躇う秀介。
だが次の瞬間、迷いを払うように心の中で叫んだ。
「(僕は………、ウルトラマンなんです!!)」
「………秀介っ! 待てっ!!」
気づいた米田の声を無視して、秀介はブレスレットを掲げ、叫んだ。
「ジャーーーーーーーック!!」
そして………、
「ヘアァッ!」
力を失ったはずの秀介を、ブレスレットは再び光の巨人へと変えた。
「ポキャーッ!!」
怪獣がジャックの姿を認め、襲い掛かって来る。
ジャックは、正面から怪獣に掴み掛かった。
「ヘッ!」
互いに掴み合い、激しい衝撃波が生まれる。
その一瞬、怪獣の身体が宙に浮いたのを、ジャックは見逃さなかった。
「今です!」
すかさず怪獣の下半身に右手をやり、怪獣を高々と持ち上げる。
そして、勢い良く投げ飛ばした。
だが、怪獣は両腕を大きく動かして宙に舞い上がった。
「ヘッ!?」
驚くジャック。
すると、怪獣はそのままジャック目掛けて角の生えた頭からミサイルの如く突っ込んで来た。
「ァアッ!」
その勢いで跳ね飛ばされるジャック。
怪獣は、ジャックの背中を踏み付けて来た。
「秀介さん!」
ジャックのピンチに、さくらが叫んだ。
その横で、米田も苦虫をかみつぶすような表情を作る。
「あの馬鹿………」
「司令、何かご存知なんですか?」
いつもと様子の違う米田に、大神が尋ねた。
すると、米田は何も言わず、大神に一枚のハガキを手渡した。
一度握りつぶしたのか、紙はグシャグシャだが、辛うじて文面は読める。
「………こ、これは!!」
そのハガキを見るや、大神の表情は一変した。
もしこれ以上変身すれば、確実に死ぬ。
その忠告を破り、秀介は戦っているのだ。
恐らくは死ぬ事を覚悟で。
「じ、冗談じゃねぇよ………!秀介の奴………」
「秀介………死んじゃうの?」
その事実に、花組の誰もが震えた。
しかし、もう戦いは始まっている。
止める事など出来ない。
「………祈るしかないわ。秀介が生きて勝つ事を………」
マリアの言う通りだった。
光武は先程の降魔との戦いで大破して、使い物にならない。
それに使えたとしても、今の自分達では雀の涙程のダメージしか与えられないだろう。
「………秀介さん………」
震える両手を合わせ、さくらが祈るように恋人の名を呟いた。
「シュワッ!」
ジャックは怪獣の腹に足を食い込ませ、巴投げをかけた。
そのまま頭上を越えて倒れ伏す怪獣。
すかさず起き上がり、ジャックは両腕を十字に組んだ。
エネルギーを使い果たしたはずの体。
にも関わらず、ジャックの腕からスペシウムが放たれた。
一直線に殺到する光線に、誰もがジャックの勝利を確信する。
………だが。
「ポキャーッ!」
何と、怪獣はジャックのスペシウムをも、腹の口に吸い込んでしまったのだ。
それだけではない。吸い込んだスペシウムを、怪獣は頭の角から発射した。
「ァアッ!」
避ける間もなく吹き飛ぶジャック。
それと同時に、胸のカラータイマーが遂に点滅を始めた。
最早時間がない。
ジャックは一か八か、両腕をL字に組んだ。
「よせ秀介! 今シネラマなんか撃ったら、今度こそ死んじまうぞ!!」
何とか静止しようと米田が叫ぶ。
しかし、ジャックの腕からシネラマが撃たれる事はなかった。
なぜなら、その前にジャックの背後から声が聞こえたからである。
「久方振りだな、ウルトラマンジャック」
その声の正体に、花組のみならずジャックまでもが戦慄を覚えた。
そこにいたのは、兄も倒せなかった恐るべき宇宙忍者だったからだ。
「私とそのベムスターを相手に、その弱った身体でどこまで戦えるかな?」
言うや、バルタン星人はジャックに襲い掛かった。
「秀介さん!」
さくらの悲痛な叫びが木霊した。
その目の前では、ベムスターに羽交い締めにされたジャックが、バルタン星人のハサミで文字通り滅多打ちにされていた。
エネルギーが底をついたジャックは、反撃はおろか満足な抵抗もままならない。
その内に、カラータイマーの点滅が早いものへと変わっていく。
ゾフィーの忠告が、現実に変わろうとしていた。
「アカン………! このままやとホンマに秀介はん………!!」
「畜生!! 何とかならねぇのかよ!!」
三ヶ月前の悪夢の再来に、花組は無力感に苛まれる。
すると、彼らの耳にジャックの声が聞こえて来た。
「………光を………エネルギーを………下さい………」
途切れ途切れの弱り切った声。
それは、秀介が死に瀕している事を明確に示していた。
「………お願いです………。僕は………負ける訳には………いかない………!!」
「ほざけ死に損ない!!」
バルタン星人のハサミが首を捕まえ、ジャックは宙吊りになった。
最早抵抗する力もない。
それでも、勝機を掴もうともがく。
バルタン星人は、ジャックを勢い良く地面にたたき付けた。
「ヘッ………!」
フラフラの状態で、尚も立ち上がるジャック。
そして、両腕を再びL字に組んだ。
「ヘアアアァッ!」
ジャックは最後のエネルギーを振り絞り、一縷の望みをかけてシネラマショットをベムスター目掛けて撃ち込んだ。
だが、ベムスターはジャックの切り札すら、その腹に吸い込んでしまった。
「ポキャーッ!!」
そして、またしてもシネラマを角から発射した。
「ヘッ………!」
ビームは胸のカラータイマーを直撃した。
更に追い撃ちの如く、バルタン星人の白色光弾が同じ所に浴びせられた。
そして………
カラータイマーの点滅が止まった。
「………え………?」
さくらは、急に時間が止まったような感覚に陥った。
目の前に立つ巨人。
その胸でけたたましく鳴り響いていたはずのカラータイマーが沈黙している。
つまり………。
「秀介………さん………?」
そう呟いた時、ジャックの身体はゆっくりと仰向けに倒れた。
「嘘でしょ………秀介さん………」
その倒れた衝撃と轟音に、さくらはそれが現実と分かり、そして………。
「秀介さああああん!!」
慟哭に変わった。
………僕じゃ、駄目ですか?………
………貴女の笑顔があれば………それだけで、僕はいくらでも強くなれるんです。………
………貴女の事が………、好きなんです。………
………今、この瞬間が………あまりに幸せ過ぎて………。………
脳裏に浮かぶいくつもの言葉。
いくつもの思い出。
それが、目の前で音を立てて崩れていく。
「フォッフォッフォッ………!!見るがいい、光の巨人の最期だ!」
勝ち誇ったようにバルタン星人が笑い声を上げる。
その時だった。
「………果たしてそうかな?」
「何っ!?」
突然その場に響き渡る声。
その声を聞くや、バルタン星人の表情から余裕が消えた。
未知の何かに警戒するようなものではない。
明らかにその正体を知っていて、それが苦手だという時の表情だ。
更にバルタン星人だけでなく、米田やあやめもまた、その声に驚きを隠せずにいた。
「長官!こ、この声は………!」
「間違いない!アイツの声を間違えるものか!」
そして、倒れたジャックを守るように、一つの光が飛来し、米田の予想は現実になった。
米田とあやめ、そしてバルタン星人を除く全ての人々は、目の前に現れた声の正体に、驚きのあまり声がでなかった。
バルタン星人とタメを張る巨体。
赤と銀の体色。
そして何より、ジャックを鏡に写したように瓜二つの顔。
「………豊………。」
米田が懐かしむような表情で言った。
そこにいたのは、かつて対降魔部隊の一員として米田やあやめとともに戦った英雄にして、伝説の光の巨人。
一ノ瀬 豊………。
ウルトラマンゾフィーだった。
「ジャック……、目を開け」
ジャックよりやや低い声で、ゾフィーが言った。
すると、一度は輝きを失ったジャックの双眼に光が戻った。
「……兄……さん……」
「よく耐えた。ここは私に任せろ」
そして、ゾフィーは目の前に立つバルタン星人とベムスターに向き直った。
「八年振りか。バルタン星人、まさかまた地球侵略を企てるとはな」
「ウルトラマンゾフィー。貴様こそ、またしても私の邪魔をするつもりか」
僅かにバルタン星人の殺気が高まる。
が、すぐにそれを収めた。
「………まあいい。どうせ貴様も、ここには長く留まれまい。その後でゆっくり侵略を進めさせて貰う」
「………」
「どうせ帝国華撃団もウルトラマンジャックも無力。私の計画は止められまい」
余裕かはったりか。
いずれにせよゾフィーと戦う事は考えないらしく、バルタン星人はベムスターとともにテレポートで消え失せてしまった。
「果たして、そうかな?」
先程までバルタン星人のいた空間に向けてそう言うと、ゾフィーは大神達を見た。
「私の弟が大変世話になった。礼を言わせてほしい」
「お前も相変わらずだな豊。お前とそっくりなのは顔だけじゃなかったぜ?」
米田の言葉に僅かに微笑み、ゾフィーは改めて大神達に名乗った。
「私はウルトラマンゾフィー。この太陽系全体の防衛を指揮している」
「貴方が………一ノ瀬大尉なのですか?」
恐る恐る尋ねる大神に、ゾフィーは重々しく頷いた。
「如何にも、一ノ瀬 豊は私のもう一つの名前だ。大神少尉、貴方のご高名も、弟から聞かされている」
「いえ、そんな………。今だって貴方の助けがなければ、自分達はやられていました」
「………やはり、更なる力は必要と見える」
「え………?」
意味ありげな言葉に首を傾げる大神。
すると、ゾフィーはジャックに向かって言った。
「ジャック………、私の意図が分かるな?」
「はい………」
今の一言を察し、ジャックが頷く。
「一ノ瀬大尉、その………秀介は………?」
恐らくは花組全員の最も気にしている事を、大神が尋ねた。
秀介との別れを予期して暗い表情を見せる花組。
ゾフィーは、大神達を安心させるように言った。
「案ずる事はない。僅かな期間の間だけだ。その間に更なる力をジャックに与え、この星を任せようと思う」
「それでは………!」
「これが今生別れとなる事はない。それに………」
そこまで言いかけ、ゾフィーはふと、さくらに目を向けた。
「どうやら弟にも、この星に大切なものが出来たらしい」
「え………」
顔を真っ赤に染めるさくら。
その様子に微笑み、ゾフィーはジャックの真上に手をかざした。
すると、空から光の道が現れ、ジャックは光に運ばれて行った。
ウルトラトゥインクル………光の道を生み出し、傷ついた仲間を別の場所に移動させる技だ。
「帝国華撃団の皆さん。どうか弟は任せてほしい。我々は、いつでもあなたたちの味方だ」
そう言ってゾフィーもまた、光の道へ消えて行った。
「秀介………」
不意に、大神が呟いた。
「待っていてくれ。俺達も………、君とともに強くなって見せる」
その言葉に一斉に頷く隊員達。
つかの間の平和は、終わりを告げようとしていた。
<続く>
《次回予告》
大神君、諦めては駄目。
秀介とともに帝都を守るために、今は特訓あるのみよ。
次回、サクラ大戦!
「光よ、神となれ」
大正桜にロマンの嵐!
お前が、光を継ぐんだ。