桜舞う星   作:サマエル

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光よ、神となれ

その日の夜、正月にも関わらず出された号外新聞には、暗い内容の記事が大きく書かれていた。

 

 

 

 

 

 

『帝都、震撼す!』

大正十三年正月。謎の怪物が明治神宮を襲撃。

観光客で賑わう名所は、一瞬にして悲鳴に包まれた。

帝国華撃団が出撃し、これを撃破するが、光武が大破し痛み分けの模様。

ウルトラマンも、ペンギンに似た怪獣の前に敗北。

帝都が新たなる脅威に曝された事に、危機感の声が上がっている。

 

 

 

 

 

 

 

「………やれやれ、随分な事書いてくれるぜ。なあ大神」

 

そこまで読み上げ、米田は新聞を放り出した。

 

「いいか大神。帝都は今、黒之巣会に続く新たな脅威に曝されている」

 

「はい。次に相対する時までに、何らかの対策が必須ですね」

 

「そうだ。怪獣は秀介に任せるとしても、降魔は我々で何とかしなくてはならない」

 

大神の答えに、米田は重々しく頷く。

今回の敗北は花組のみならず、帝都そのものにも多大な影響を及ぼした。

降魔の襲撃が、いつまた来るかわからない。

そのためにほとんどの市民が家に閉じこもってしまい、帝都の経済状況まで圧迫を始めていたのだ。

これも叉丹やバルタン星人の狙った事かはわからないが、確実に帝都は魔の手中に陥りつつあった。

 

「大神。降魔との戦いに向けた対策はお前に委ねる。次こそは、絶対に負けられん。いいな!」

 

「はい!失礼いたします!」

 

一礼して支配人室を後にする大神。

その様子を見て、米田は小さく笑った。

 

「大神の奴も、随分やる気に満ちてやがるな。少しはへこんだかと思ったが………」

 

「気持ちが強いんじゃありませんか?秀介と一緒に戦いたい気持ちが。」

 

「なるほど。………秀介が間に合えばいいんだがな」

 

そうは言うが、実際米田はそうならないと踏んでいた。

バルタン星人の悪知恵は以前から承知の上だが、同様に降魔を呼び出し操る叉丹も、それなりに頭脳派のようだ。

秀介が戻るまでに一戦交える可能性は、大いにあった。

 

「先の黒之巣会との戦い、詰めが甘すぎましたね」

 

「葵叉丹………。もしかすると、黒之巣会より厄介な奴かも知れねぇな」

 

 

 

 

 

 

 

大神は米田との話を終えて、自室に戻って今後について思案していた。

どんな方法かは分からないが、封印されていたはずの降魔は叉丹によって復活した。

そして、自分達はその降魔相手に手も足もでなかった。

次の戦いに向けて、これからどうするか………。

普段戦闘くらいでしかあまり使わない頭を回転させる大神だが、中々いい考えは受かんで来ない。

その時、誰かが大神の部屋の扉をノックした。

 

「はい、今開けます。………あれ、紅蘭じゃないか」

 

「大神はん。夜分遅くにすんまへん。ちょっとええかいな?」

 

大神の部屋の前には、紅蘭の姿があった。

その表情が真剣なものである事から、恋人としてではなく隊員として来た事が分かる。

 

「………分かった。中に入って」

 

大神も隊長の顔になり、紅蘭を部屋に入れる。

その一部始終を見ている影に気づかずに。

 

「紅蘭………。少尉と何のお話をなさるつもり?」

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話というのは………」

 

部屋に入り、二人は早速本題に入った。

 

「実はな大神はん。光武の事やけど、やっぱり修理はまず不可能や」

 

「やはり、そうか………」

 

紅蘭の報告に、大神の表情は俄かに暗くなった。

天海との戦いの傷も癒えぬ内に、更にあれだけのダメージを受けたのだ。

壊れてしまっても仕方がなかった。

 

「それにな、仮に修理出来たとしても、光武では降魔に対抗出来んと思うねん」

 

「確かに………。別に機体を準備出来ないだろうか?」

 

光武で駄目なら、更に強力な霊子甲冑を用意して立ち向かうのが常套手段である。

しかし大神の考えに、紅蘭は首を振った。

 

「そりゃ無理やで。ただでさえ帝国華撃団は金喰い虫なんや。今帝都の経済はガタガタやし、資金調達は至難の技やで」

 

帝国華撃団は、霊力を元に戦う秘密部隊。

相手が人間でない以上、通常の装備では戦えない。

事実光武の装甲も、シリネウス鋼という特殊素材を使用している。

霊力を増強させるこの素材は大変希少で、新たに入手したり、現状を維持するだけで莫大な費用がかかっているのだ。

花組がそんな状況の中で今までやって来られたのは、すみれの出身である神崎重工を始め、日本の誇る大企業の数々の投資によるものだった。

 

「そうか………」

 

紅蘭の話を聞く限り、光武の修理はおろか、代理の機体も準備出来そうにない。

最悪生身で戦う可能性すら出て来た事に、大神は頭痛がした。

その時、大神は誰かの気配を感じ叫んだ。

 

「………!誰だっ!」

 

扉を開けて見るが、廊下には誰もいない。

見間違いだろうか。

そう思っていると、紅蘭が尋ねた。

 

「ど、どないしたん大神はん?」

 

「いや………、何でもないよ。誰か盗み聞きしてたかと思ったが、気のせいだろう」

 

もしかしたら、前回の戦いで少し神経質になっていたのかもしれない。

とりあえず、大神はそう結論づける事にした。

今はそれよりも、降魔との戦いについて考えなければならない。

 

「大神はん、これからどうするつもりなん?」

 

ふと、紅蘭が尋ねた。

 

「そうだな………、光武について米田司令に相談してみるよ」

 

こればかりは自分一人で解決できる問題ではない。

大神は、見回りを兼ねてほかの人達と話してみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「………ジャック、調子はどうだ?」

 

「兄さん。はい、おかげさまですっかり良くなりました」

 

ゾフィーの声に、ジャックは元気な顔を見せた。

一時は命の危険も危ぶまれたが、M78星の医療機関で治療を受け、ジャックは無事に一命を取り留めていたのだ。

復活した弟の様子に満足そうに微笑みながら、ゾフィーは口を開いた。

 

「ジャック、これからお前に渡したいものがある。ついて来てくれるか?」

 

「はい」

 

ゾフィーはジャックを連れ、M78星の中心に位置するプラズマスパークに案内した。

プラズマスパークは、M78星全体にプラズマエネルギーを供給する、言わば心臓部だ。

ここからプラズマが全体に放出され、様々な用途に使用されている。

 

「ここには、私がかつて降魔戦争に使用した、ウルトラの宝具が安置されている」

 

「宝具………?」

 

初めて耳にする宝具の存在に、ジャックは怪訝な表情を浮かべた。

M78には、幾つかの宝具と呼ばれるものが存在した。

ライフル程の大きさを持つ『ウルトラ・キー』、

ウルトラタワーの最上階に備えつけられている『ウルトラ・ベル』がそうだ。

どちらもその強大な破壊力から、余程の事態でなければ使用出来ない。

恐らくゾフィーの言う宝具も、その内の一つだろう。

そんな事を考えるジャックの前で、ゾフィーはプラズマスパークに右手を翳した。

すると、プラズマスパークが発光し、中から手の平サイズの十字架が現れた。

その中央には、赤い色の宝珠が輝いている。

 

「兄さん、それは………」

 

「『プラズマオーブ』………。強大な闇に立ち向かう者へ託される、言わば『受け継がれる光』だ」

 

「受け継がれる………光………」

 

ジャックは、神秘的な輝きを放つ宝珠に目を奪われた。

古代より受け継がれて来た光………。

その宝珠の輝きは、今まで闇と戦って来た者達の魂の輝きを代弁するかのようだった。

 

「ジャック………。お前が、光を継ぐんだ」

 

「………僕が………!」

 

ここに来た時から薄々予期していた事ではあったが、ジャックの表情は驚きと緊張に変わる。

 

「何故、僕なのですか?」

 

ジャックは、率直な疑問を口にした。

光栄ある宝具の力を受け継ぐ事に異論はない。寧ろ、その事を喜んで受けるつもりだ。

しかし、ジャックはまともに星を任されて一年にもならない新米。そのような者に受け継ぐ資格が、果たしてあるのだろうか。

 

「安心しろ、ジャック。お前はオーブを受け継ぐ資格を十二分に備えている。そもそも私は、最初からお前にオーブを継がせるつもりでいた」

 

「………何故です?」

 

「ジャック。お前のブレスレットをオーブに翳してみろ」

 

ゾフィーに言われるまま、ジャックはオーブにブレスレットを翳す。

すると、二つは互いに共鳴しあい、光り始めた。

 

「これは………!?」

 

「元々この二つは一つになる事で真の力を得る。スパークソードだけが、ブレスレットの力ではない」

 

そう言って、ゾフィーはプラズマオーブをジャックのブレスレットに触れさせた。

すると、まばゆい閃光が放たれ、オーブはブレスレットと文字通り一つになった。

 

「これは………?力が漲って来る………!」

 

オーブを身につけたためだろうか、ジャックは身体中のエネルギーが熱くたぎって来るのを感じた。

ブレスレットの真の力が、ジャックに更なる力を与えたのだ。

 

「オーブが真に認めた者でなければ、力は与えられない。ジャック、オーブは継承者にお前を選んだ」

 

「はい」

 

「オーブの力は、大切なものを守り抜くためにある。その事を忘れるな」

 

ゾフィーの言葉に、ジャックは改めてオーブを見た。

その赤い輝きは、まるで帝都を守りたいと願う自身の意志を示すかの如く、燃える闘志にも似た深紅に見えた。

 

 

 

 

 

 

あの手痛い敗北から二日が経ち、花組は作戦司令室に顔を揃えていた。

 

「………全員、揃ったみたいだな」

 

六人の隊員を見渡し、大神は本題に入った。

 

「今回集まってもらったのは他でもない………」

 

「復活した降魔の対策、ですね?」

 

さくらの言葉に、大神が頷く。

 

「そうだ。降魔達を相手に、俺達は歯が立たなかった。加えて、光武の破損状況は極めて悪く、修理は不可能となった」

 

「つまり、相当不利な状況という訳ですね」

 

「いや、それだけじゃねぇ。今のあたいらには何かが足りねぇんだ」

 

「あたしもそう思います。勝ちたいっていう気合いが足りないと思います」

 

カンナの言葉にさくらが同意する。

大神も、同じ考えだった。

 

「そうだ。秀介が戻る三週間後までに、俺達も出来る事をするんだ」

 

「つまり、特訓ですね?」

 

「ああ。奴らに立ち向かうには、花組全体の再訓練が必要だと思う」

 

マリアの言葉に頷き、大神は続けた。

しかし、訓練という形で今後の方針が固まろうとした時、反論の声が上がった。

すみれである。

 

「一概にそうは言えませんわ。翔鯨丸の攻撃は効いたではありませんの。強力な霊子甲冑を準備出来れば、無理に特訓する必要などありませんわ」

 

「アイリスも、しごかれるのはちょっと嫌だな………」

 

やはり特訓と聞いて厳しいイメージを持ったのか、アイリスも遠慮がちに意見を述べる。

更に、意外な所からも反対の声が上がった。

 

「大神はん、実はウチもすみれはんの意見に賛成なんや」

 

「えっ!?紅蘭もなのか!?」

 

特訓などとは無縁だったすみれやアイリスは分かるが、紅蘭は予想していなかったため流石に驚く大神。

すると、紅蘭はすまなそうに両手を合わせた。

 

「堪忍して大神はん。そりゃウチかて特訓は大賛成なんやけど、流石に生身はキツイやろ?せやから、ウチはこの三週間を霊子甲冑の開発に当てたいんや」

 

確かに、紅蘭の意見も最もだった。

現在光武は使用不可能。もし次の戦いまでに霊子甲冑を用意出来なければ、それこそ生身で戦う事になる。

いくら特訓で鍛えたとしても、肉体一つで勝てる見込みは、まずなかった。

 

「だけどよ、最後はやっぱり己の力こそが勝負を分けると思わねぇか?」

 

「あ~ら、それでは山奥で修業するなりジャングルの王様になるなりなさいな」

 

「何だとぉ~!?」

 

いつもの調子で睨み合うすみれとカンナ。

それを見兼ねて、大神は言った。

 

「………よし、判断は各自に任せる」

 

「大神さん、いいんですか?」

 

この状況では、反対した三人は明らかに特訓はやらないだろう。

しかし、大神は敢えて特訓を命令にはしなかった。

 

「紅蘭の考えは最もだし、すみれくんやアイリスも自分がすべき最善の行動を知っているはずだ」

 

「流石は少尉。カンナさんと違って話が分かりますわ」

 

「すんまへん大神はん。きっと霊子甲冑を完成させるさかい」

 

「それでは解散だ。三週間後に会おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、花組の特訓が始まった。

 

 

 

 

 

「エンフィールド………。私の腕のサビを落とすには、どうすればいいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ!出力は理論値をマーク。後は………、パルス合成や!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やって見せる!あたいなら出来るはずだ。必ず親父を越えて見せる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、待っていて下さい。このオーブに誓って、強くなって帰って来ます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀介さん………。あたし、強くなります。貴方と互いに背中を守り合っていくために………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「降魔!叉丹!バルタン!俺達は負けない!帝都は、俺達が守るんだっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある者は技術を、ある者は心を極めるべく、帝都を守るという志とともに行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇすみれ!こ~んなに買っちゃったね!」

 

「お~っほっほっほ!それでは帝劇に戻って、戦利品の品評会と行きますわよ!」

 

「わ~い楽しみ~!帰ったらアイリスお昼寝するんだ~!」

 

 

 

………一部を除いてだが。

 

 

 

 

 

 

 

それから三週間の時が流れた。

 

「久しぶりに帝都に戻って来たな」

 

三週間振りの帝都に足をつき、大神は懐かしむように呟いた。

隊員達の特訓の様子を頭に思い浮かべながら、大神自身もまた、二刀流の技を鍛えていたのだ。

その技、昨夜に至っては滝の水を一刀のもとに両断して見せた程である。

今度こそ降魔に打ち勝ち、帝都を守ってみせる。

大神の瞳は、確固たる自信で漲っていた。

 

「隊長、お久しぶりです」

 

「秀介!秀介じゃないか!」

 

帝劇に向かう道中、大神は秀介と再会した。

思いがけない所での再会に、思わず心が躍る。

 

「お話は伺っています。次の戦いに向けて準備を進めていると」

 

「ああ。秀介も、具合は良くなったかい?」

 

明治神宮で倒れた時は瀕死だっただけに、心配する大神。

すると、秀介はその心配を振り払うように言った。

 

「ご安心下さい。先の傷は回復しました。次もまた共に戦わせていただきます。それに………」

 

そこまで口にして、秀介は左手首のブレスレットを見せた。

そこには、以前はなかった赤い色の宝珠が輝いている。

 

「僕もまた、更なる力と共に帰って来たんです」

 

「そうか………。ありがとう秀介。心強いよ」

 

熱い握手を交わす二人。

すると、そこへ別の声がかかった。

 

「隊長、お久しぶりです」

 

それは、マリアだった。

 

「久しぶりだな、マリア。特訓の成果はあったかい?」

 

「はい。きっと御期待に沿えると思います」

 

この三週間、マリアは自身の銃の腕を高めるべく、特訓に励んでいた。

元から高い命中率を誇る腕前は、百発百中の域に達している。

すると、マリアは大神の隣に立つ秀介に気づいた。

 

「秀介じゃない!無事だったのね!」

 

「はい。その節は心配をおかけしました」

 

「いいのよ、そうやって元気な顔を見せてくれれば」

 

優しく笑うマリア。

大神が来る以前の彼女からは考えられない表情だ。

その様子に微笑み、大神は言った。

 

「さあ、帝劇に戻ろう。みんな待っているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、マリア、それに秀介!久しぶりじゃねぇか!たくましくなったな、おい!」

 

帝劇に着いた三人を、玄関にいたカンナが出迎えた。

 

「久しぶりだな、カンナ。」

 

「貴女も大分勇ましくなったわよ?」

 

「カンナさんは、どんな特訓をされてたんですか?」

 

秀介が尋ねると、カンナは拳を握って答えた。

 

「あたいは山篭りさ。体重を落として拳を鍛えて。念願の熊殺しを達成したからな」

 

「く、熊!?」

 

カンナの言葉に、大神は仰天した。

流石に熊を倒すとは、想像もしなかったからである。

 

「格闘家の夢を実現したのね」

 

「へへ、まあな。でも親父に比べりゃまだまださ。親父は虎殺しを成し遂げてるからな」

 

「虎………ですか………」

 

改めて桐島流の凄さに驚く三人。

すると、不意に秀介が尋ねた。

 

「ところで………、さくらさんは、もう戻られたんですか?」

 

「さくら?ああ、さっきあたいと一緒に………」

 

そこまで言いかけた時、奥の方から話題の人物が走って来た。

 

 

「秀介さ~ん!!」

 

 

「さ、さくらさん!?」

 

奥から走って現れるや、さくらは待ち侘びたように秀介の胸に飛び込んだ。

流石の秀介も、これには驚きを隠せない。

 

「秀介さん………。あたし、信じてました………。またあたしの事、こうして抱きしめてくれるって………」

 

「さ、さ、さ、さくらさん!? あの………み、みんな見てますから………!!」

 

恥ずかしがりながらも、両腕はちゃっかりさくらの背中に回している。

相変わらずの二人に大神達は思わず笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介達と別れた後、大神はいつものモギリ服に着替え、久しぶりの帝劇内を歩く事にした。

すると、最初に足を運んだサロンにすみれの姿を見つけた。

 

「やあ、すみれくん。久しぶりだね」

 

「あら少尉、三週間振りです事。随分逞しくなりましたのね」

 

「まあね。………すみれくんは、三週間何をしていたんだい?」

 

大神は、なるべくやんわりと本題に入った。

玄関でカンナからは、すみれは三週間何もしていないと聞いている。

だが、すみれは彼女なりにやるべき事を把握していたはずだ。

そう考えた大神は、すみれ自身に直接聞いてみる事にしたのだ。

 

「お~っほっほっほ!もちろんお買い物ですわ。高級な着物やアクセサリー………、数え切れない程集まりましてよ」

 

得意げに語るすみれ。

しかし、大神の表情はその一言で険しいものに変わった。

 

「どういう事だ?君の三週間は、一体何だったんだ?」

 

「無論、美を磨く事ですわ。少しは綺麗になったと思いません事?」

 

 

「いい加減にしろっ!!」

 

 

すみれの答えに、遂に大神は爆発した。

普段隊員に見せない怒りの形相でテーブルを叩き、すみれを睨みつける。

その弾みでカップがひっくり返った。

 

「何が美を磨くだ!そんな事で帝都を守れると思っているのか!?」

 

「………どういう意味ですの?」

 

ティータイムを邪魔されたからか、すみれも大神を睨み返すが、今の大神には関係なかった。

 

「さくらくんも、マリアも、カンナも、秀介も、みんな厳しい特訓で自分を鍛えて来たというのに、君は一体何をやって来たんだ!!」

 

「私は私のやれる事をやっただけですわ!」

 

「特訓より買い物が大事だというのか?ふざけるな!!」

 

「ならばあの時に特訓を命令するべきだったのではなくて?私は私の判断で行動したまでですわ!」

 

そう言い返し、すみれはサロンを足早に去る。

一方大神は怒りの煮え切らない様子で、すみれの背中を睨んだ。

 

「………見損なったぞ、すみれくん………!」

 

吐き捨てるように言った時、大神に別の声がかかった。

 

「待って、大神さん………!」

 

「由里くん………?」

 

そこにいたのは、椿やかすみと同じ風組の由里の姿があった。

 

「お願い、大神さん。すみれさんを責めないで。」

 

「………どういう事なんだい?」

 

由里の様子から何か訳ありと判断した大神は、普段の冷静さを取り戻して尋ねた。

 

「ほら、霊子甲冑の開発が経済の圧迫で難しいって紅蘭言ってたでしょう?すみれさん、そのために実家に投資のお願いをしに行ったの。」

 

「何だって?本当なのか?」

 

「それだけじゃないわ。四六時中社交界のパーティーに出席して、大企業の重役達に投資を約束してもらったの。おかげですみれさん、ろくに眠れてないのよ」

 

「そうだったのか………、すみれくんが………」

 

大神は熱くなった頭が一気に冷めていくのが分かった。

やはりすみれはすみれなりに、三週間努力をしていたのだ。

 

「ありがとう由里くん。それじゃあ!」

 

そう言って、大神はすみれの部屋に急いだ。

 

「………本当に、世話が焼けるんだから」

 

素直じゃないすみれか、または気づかない大神に対してか、由里はやれやれと肩を竦めてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まなかった、すみれくん!」

 

部屋に入るや否や、大神はすみれに深々と頭を下げた。

 

「ど、どう致しましたの少尉?」

 

先程の一喝から一変した態度に驚いて、目を丸くするすみれ。

大神はそのままの状態で言った。

 

「由里くんに聞いたんだ。花やしきの生産ラインが動くように、投資の約束を取り付けてくれたそうじゃないか」

 

「………」

 

「よく考えもせずに怒鳴ったりして済まなかった」

 

「………少尉、顔をお上げになって」

 

普段と違い、柔らかな口調ですみれが言った。

 

「すみれくん………」

 

「殿方が簡単に頭を下げてはいけませんわ。それに誰の噂か知りませんが、私は三週間遊んでいただけですのよ」

 

あくまで何もしていなかったというすみれだが、大神は笑顔を見せた。

すみれもまた、笑顔を返す。

 

「少尉、私は気になさらずアイリスや紅蘭にも顔を見せてあげて下さいまし。みんな少尉の帰りを、ずっと待っていたのですから………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大神は、霊子甲冑の開発をしていたという紅蘭の部屋の前に来ていた。

アイリスはちょうど眠っており、起こすのが忍びなかったのだ。

 

「大神君、分かる?今のアイリスには、睡眠がとても重要なの。心と身体の成長のために」

 

アイリスの部屋にいたあやめの言葉が、頭に蘇る。

 

「(心と身体の成長か………。確かに今のアイリスには、何よりも重要なのかもしれないな。)」

 

そんな事を考えながら、大神は紅蘭の部屋の扉をノックした。

 

「紅蘭、いるかい?大神だけど………」

 

すると、バタバタという騒がしい音と共に勢い良く扉が開かれた。

 

「大神はん、久しぶりやないか!」

 

「こ、紅蘭………?」

 

「何突っ立ってんねん!さ、早う中入ってや!」

 

余程大神が来た事が嬉しかったのか、紅蘭は大神を部屋に引っ張り込んだ。

 

「いや~、大神はんが帰って来るまでウチ、ホンマ冷や冷やしとったで」

 

大神を部屋に迎えて、紅蘭が言った。

 

「どうしてだい?」

 

「だって大神はん達のおらん間、帝都はがら空きやったやろ?降魔が現れでもしたら、ひとたまりもなかったで」

 

霊子甲冑はおろか、花組の半数がいない状況で降魔が攻撃してくれば、確かに防ぎようがない。

この特訓の期間の間に降魔が現れなかった事は、幸運というべきだろう。

 

「済まない。紅蘭には心配をかけてしまったな」

 

「別にええって。こうして無事に帰って来てくれたんやし」

 

そう言って笑う紅蘭を見て、大神は本題に入った。

 

「ところで紅蘭、霊子甲冑の件なんだけど………」

 

「ああ、その事なら大丈夫や。次の戦いには間に合わすさかい」

 

「そうか、なら安心だな」

 

紅蘭の答えに安心した大神。

すると、紅蘭が不意に口を開いた。

 

「それにな大神はん………。ウチ………大神はんのおらん間、結構寂しかったんやで?」

 

「え………?」

 

見ると、紅蘭は顔を赤くして目線を下に向けていた。

その様子に、大神の顔も赤くなる。

 

「紅蘭………。済まない、寂しい思いをさせて………」

 

「何も大神はんが謝る事あらへん。こうして会えたんやから、それで十分や」

 

「紅蘭………。でも、今は………」

 

一瞬大神は紅蘭を抱きしめそうになったが、やめた。

今自分達は降魔との戦いに備えているのだ。

せめて次の一戦に勝つまでは、その志を無くす訳にはいかなかった。

紅蘭も、その事は十分承知していた。

 

「ウチこそ、すんまへんな………。降魔との戦いに集中せなアカン時に………」

 

「いや………。そ、そういえば、そこにあるのは、何かの設計図かい?」

 

大神は話題を変えようと、紅蘭の机の上にある設計図を指差した。

無数の文字とラフなスケッチで真っ黒だが、左上の部分の比較的大きな文字はかろうじて『紅豚号』と読める。

 

「ああ、それな。帝都が平和になったら作ろう思うとった飛行機や」

 

「飛行機?」

 

「そうや………。ウチ、夢がありますねん」

 

 

 

 

 

 

 

まだウチが小さい頃や。

その頃は飛行機が作られ始めてすぐやったさかい、みんな墜落ばっかりしよった。

せやけど、設計さえ完璧なら、きっと長距離を飛べる飛行機が出来るはずなんや。

 

そんな中、ある人が自前の飛行機で中国から東京目指して飛び立ったんや。

それまで目の前で墜落しよったけど、その飛行機だけは高く飛び立って見えんくなってもうた。

 

名前も知らへん。東京に着いたかもわからへん。

せやけど、もし自前の飛行機で同じごと飛んだら、あの人に追いつける………。

そんな気が、今もしてるんや。

 

 

 

 

「………完成させたいね」

 

「え………?」

 

突然の大神の言葉に、紅蘭は驚いて目を丸くした。

 

「飛行機だよ。紅蘭の夢なんだろう?だったら完成させよう。俺も応援するよ」

 

「大神はん………」

 

大神の言葉に、再び真っ赤になる紅蘭。

すると、大神が照れ臭そうに付け加えた。

 

「それと………、もし完成したら、俺も乗せてくれるかな………?」

 

「大神はん………。もちろんや!大神はんと二人で飛行機に乗れるやなんて、夢みたいや!」

 

そう嬉しそうにはしゃぐと、紅蘭は眼鏡に手をやって続けた。

 

「あと、大神はん………。さっきの話やけどな………」

 

「?」

 

「あの人………、大神はんにとても似とったで………」

 

「紅蘭………」

 

甘い沈黙が、一瞬部屋を支配する。

 

 

 

しかし、その沈黙は警報によって破られた。

 

「……!! 紅蘭、出撃だ!」

 

「了解や!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いよいよ、奴らが動き始めた」

 

厳しい表情で米田が言った。

全員の脳裏に明治神宮での敗北が過ぎる。

負ける訳にはいかない。

あんな悔しい思いは一度で十分だ。

隊員達の心の声を代弁するように、大神が口を開いた。

 

「みんな、今度は大丈夫だ。この三週間で培った力、見せてやろうじゃないか」

 

「でも、光武は壊れたままなんでしょ?どうやって戦うの?」

 

アイリスが不安な表情の理由を述べる。

確かにいくら特訓したとはいえ、降魔は生身で戦える相手ではない。

しかし、今度こそ隊員達の不安を打ち消す者がいた。

紅蘭である。

 

「みんな、心配はいらんで!光武に代わる霊子甲冑はある!!」

 

その言葉に、隊員達の表情は驚きに変わった。

 

「百聞は一見にしかず。格納庫に準備しとるさかい、ついて来てや!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ………これは!!」

 

格納庫に着くや、隊員達のみならず大神までもが驚いた。

かつて光武のいた場所に立つ別の霊子甲冑。

それは、強大な力による威圧感を以って花組を迎えた。

 

「見てみ………。これこそ降魔に対抗する為の霊子甲冑。その力は正に神。名付けて、『神武』や!!」

 

「神武………」

 

光武の三倍はある巨体。

更にそれぞれの戦闘スタイルに合わせた設計が成されている。

特訓を積んで力をつけた自分達が乗れば、鬼に金棒。

正しく神にも匹敵する力を出せるはずだ。

 

「更に、秀介はんの戦闘機も改良させたで。その名も『流光』や!」

 

「『流光』………!!」

 

格納庫の一番奥にある巨体な戦闘機。

従来の霊力弾の他、両翼の前に刃が取り付けられ、これで敵を斬る事が出来る。

 

「秀介はんは、ウチらにとっての光やからな。そんな名前にさせてもらったんや」

 

「こんな凄ぇモン隠しやがって………!!」

 

「さあ大神、出撃命令を出せ!」

 

米田の言葉に大神は頷き、命令を出した。

 

「帝国華撃団花組、出撃! 降魔を撃破するんだ!」

 

「ようやく腕を見せられるな………!!」

 

「神武も流光も、降魔には劣らへん!」

 

「もう、以前の私達ではないわ………!」

 

「この三週間の成果、披露する時ですわね!」

 

「アイリスだって頑張るもん!」

 

「帝国華撃団の真の力、思い知らせてやりましょう!!」

 

「帝都は、あたし達が守ります!!」

 

「待っていろ降魔ども! 以前の二の舞になるような帝国華撃団ではないぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝劇に程近い、銀座。

降魔が現れたのは、路面電車の走る繁華街だった。

 

「ギシャアッ!」

 

車を壊し、建物を燃やし、破壊の限りを尽くす降魔達。

その様子を、楽しそうに眺める者がいた。

萩の描かれたマントを羽織る上級降魔、猪である。

 

「グハハハハ! 焼けぇい! 焼き尽くせ! この世の全てを、灰にしてしまえ!!」

 

破壊と殺戮に無上の喜びを見せる猪。

 

 

しかし、その野望を阻む戦士達がいた。

 

 

 

 

「そこまでや!!」

 

 

 

 

悲鳴と爆発音に包まれた銀座に、凛とした声が響く。

それは、不死鳥の如く華麗に復活を遂げた、帝都の守護者達だった。

 

 

 

 

 

「帝国華撃団、参上!!」

 

 

 

 

 

 

「来たな!叉丹様に盾突く愚か者達。今度こそ我等の前に果てるがいい!」

 

獲物を見つけたような視線を浴びせて言い放つと、猪は転移魔術でその場を離れた。

おそらく別の場所で自分達を監視しているのだろう。

降魔に破壊される自分達の姿を楽しむために。

 

「みんな行くぞっ!このパワーなら、降魔にだって負けない!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花組は、十字路の交差点を二手に別れて進撃した。

この先はどちらも一本道で、南西の十字路で合流する。

その道中の敵を倒し、効率良く降魔を撃破しようと、大神は考えたのだ。

 

「こっちだよ~!ここまでおいで~!」

 

テレポートを繰り返しながら、アイリスが降魔を挑発する。

しかし降魔の鈎爪が触れる寸前、アイリスは更にテレポートで建物の上に逃れた。

降魔達は目標を見失って辺りをキョロキョロしている。

それを、背後から狙う者がいた。

 

「撃てぇ~!!」

 

全部で13の紅蘭の大砲が、一斉に火を噴いた。

その威力、光武では傷をつける事すらできなかった降魔を、粉砕せしめた程である。

 

「へっへ~ん!どうや神武の威力は!逃げるなら、今の内やで!」

 

 

 

 

 

 

「いっちょやるか、マリア!」

 

「ええ。私の背中、預けるわ」

 

互いに背中合わせになるマリアとカンナ。

たちまちに降魔が周囲を取り囲むが、神武にはさしたる脅威ではなかった。

 

「せいやっ!!」

 

「そこっ!!」

 

正に神速。

降魔は攻撃を仕掛ける前に、二体の神武の速攻で骸と化していた。

 

「うおおっ、凄ぇパワーじゃねぇか!特訓した甲斐があったってモンだぜ!」

 

「何て凄い性能………!特訓がなければ使いこなせなかったわ」

 

 

 

 

 

 

「ギシャアッ!」

 

降魔の繰り出す鈎爪を、薙刀て難無く防ぐすみれ。

 

「出直してらっしゃい!」

 

そのまま押し返すと同時に、薙刀を深々と突き刺す。

その骸を奥に潜む降魔のもとへ放り投げると、隠れていた降魔達が音に反応して向かって来た。

 

「早くなさい!」

 

「分かってます!」

 

後退するすみれと入れ違いで入り、さくらが太刀を構えた。

 

「破邪剣征………百花繚乱!」

 

以前とは比べものにならない鋭さの鎌鼬が、降魔を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!!」

 

新たに取り付けられた飛行エンジンで宙を舞い、大神は狼のごとき唸り声と共に降魔に殺到した。

すれ違いざま、構えた二刀が降魔を深々と斬る。

そこへ、神武と対を成す流光が飛び込んだ。

 

「トドメです!!」

 

機体を90゜傾け、右側の翼で降魔を縦に斬る。

 

「この力………!勝てる!勝てるぞ!」

 

「光は………遂に神となりましたか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神武と流光の圧倒的な攻撃力の前に、降魔は以前の敗北が嘘のように簡単に全滅した。

最早残っているのは、猪と護衛の降魔数体のみである。

 

「追い詰めたぞ、猪!」

 

二刀を突き付け、大神が叫ぶ。

しかし、猪は余裕の表情を見せた。

 

「グハハハハ! そう来なくてはつまらん! この猪自らが、貴様らを地獄の炎で焼き尽くしてやる! 来い、火輪不動! ベムスター!!」

 

刹那、猪の前に魔法陣が出現し、中から巨大な魔装機兵が現れた。

猪の操る魔装機兵、『火輪不動』である。

更に、火輪不動の出現と時を同じくして、空から聞き覚えのある鳴き声が聞こえて来た。

 

「ビィーッ!!」

 

五角形に似た体形、腹の口、間違いなかった。

 

「来ましたね、ベムスター………!!」

 

秀介は流光を自動操縦に切り替えると、ブレスレットを露にした。

そして右手を外側から大きく回してオーブに翳し、右下へ切り下ろす。

すると、オーブがそれに伴い発光を始めた。

秀介は、オーブの輝くブレスレットを掲げ、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーーーック!!」

 

 

 

 

 

 

 

ベムスターの前に、光の巨人、ウルトラマンジャックが降臨した。

 

「シュワッ!!」

 

ジャックはベムスターの姿を認めるや、すかさず飛び掛かった。

ベムスターはそのスピードに対応できずに手痛いショルダータックルを受ける。

 

「ヘッ!」

 

ジャックは更に追い撃ちをかけようとする。

しかし、ベムスターは両翼を羽ばたかせて空に舞い上がった。

 

「シュワッ」

 

ジャックも空に飛び上がって追跡する。

 

「ポキャーッ!!」

 

ベムスターはジャックを叩き落とそうと角からビームを放つ。

それを見たジャックは左手のブレスレットを外した。

 

「ヘアァッ!」

 

その瞬間、ブレスレットは盾に変化してビームを無効化させてしまった。

ウルトラディフェンダー………プラズマオーブの力で可能になった機能の一つで、ブレスレットを盾に変化させて敵の攻撃を防ぐ技だ。

ジャックはブレスレットを左手首にはめ直し、右手を突き出して金色の光弾を放った。

ウルトラショット………シネラマエネルギーを指差すから撃つ事で、少ないエネルギーでかつ早打ちが出来るよう改良したアレンジ技だ。

 

「ビキュッ!?」

 

思わぬ反撃を受けたベムスターは、そのまま失速して地面に墜落した。

ジャックも素早く急降下し、地面に着地した。

やがてフラフラと起き上がるベムスターの前に無傷の状態で構えるジャック。

まるで明治神宮の戦いが嘘のように、ジャックは優勢を保っていた。

 

「ヘッ………!」

 

ジャックはベムスターを一点に見据えると、構えを解き、左手首のブレスレットを翳した。

すると、オーブが輝きを放つ。

その神秘的な輝きに魅入られたか、ベムスターの動きが止まった。

ジャックはブレスレットを外し、右手に持って高々と上に掲げる。

すると、ブレスレットは形を変え、光に包まれた。

ウルトラスパーク………ブレスレットを光の刃に変え、敵を切り裂く必殺技だ。

 

 

「ヘアァッ!!」

 

 

裂帛の気合いと共に、ジャックの手から光の刃が放たれた。

ブレスレットはベムスターの両翼を切り裂き、最後に首を撥ねる。

そして、ブレスレットがジャックの手首に戻ると同時にベムスターの身体は爆発し、跡形もなく消え去った。

 

「………これが………ブレスレットの真の力………」

 

その想像を絶する威力に驚きながら、ジャックは空高く飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、花組と猪の戦いも決着がつこうとしていた。

 

「ウガッ!? ば、馬鹿な! 以前とまるで動きが違うではないか!」

 

追い詰められた猪が、狂ったように叫んだ。

以前の明治神宮の戦いで、花組は降魔に全く歯が立たなかった。

その降魔を従える自分が、万に一つも負ける訳がない。

上級降魔である自分が追い詰められる等、奴らに神が味方でもしない限り有り得ない。

そう考えていた猪には、この現状が信じられなかった。

しかし、現実に降魔は全滅し、自分の自慢の機体である火輪不動はそこら中から煙と火花を上げている。

神は、舞い降りたのだ。

 

「諦めろ猪!! 俺達がいる限り、帝都を貴様らの好きにはさせない!」

 

「おのれぇ………! 貴様だけでも灰にしてくれる!」

 

啖呵を切る大神に怒鳴り返し、猪は妖気を集中させた。

 

「降魔火輪の極意………萩烈砲陣!!」

 

火輪不動の両腕から超高温の火炎が大神目掛けてぶちまけられる。

しかし、その程度の技で神を倒せるはずもなかった。

 

「狼虎滅却………一刀両断!!」

 

二刀から深紅の稲妻がほとばしり、火輪不動の腹部に巨大な風穴を開けた。

 

「さ………、叉丹様………お許しを………グアアアア…………!!」

 

断末魔の叫びと共に、火輪不動は爆炎の中に消えた。

それは、帝国華撃団花組の完全復活を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵叉丹………。あたし達の帝都を襲う奴は、許さない………!!」

 

「やっぱり、黒じゃなかったんですね………」

 

いつになく厳しい表情で、さくらが呟く。

 

「とりあえず、降魔に勝つ事が出来たわね」

 

「果たして、そうかしら………」

 

あやめの言葉に、珍しくマリアが否定をほのめかす言葉を口にした。

何とか今回は勝つ事が出来た。

黄昏の三騎士と呼ばれる上級降魔を倒せただけでも、十分な勝利と言えるだろう。

しかし、これで終わりではない。

また次の降魔達が、その牙を剥く時をひたすらに待っているに違いなかった。

 

「………また、戦争が始まるの………?」

 

アイリスが、普段と違って暗く沈んだ声で言った。

長く辛い戦いを経てようやく勝ち取ったはずの平和。

それがあまりにも早くに消えた。

あのいつ死ぬかも分からないような戦いが、また始まると言うのだろうか。

幼いアイリスの胸中は、勝利の余韻が残る今でさえ、先の見えない不安が渦巻いていた。

 

「たとえ何が現れても、あたし達は戦わなくちゃいけないのよ………」

 

アイリスを諭すように、さくらが言った。

自分達は帝都を守る使命がある。

どんな敵が現れようと、一歩たりとも退く訳にはいかない。

それが帝国華撃団だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、新たに始まった戦いは幸か不幸か長くは続かなかった。

 

僅か一ヶ月の後、花組と降魔の戦いは想像を絶する形となって終結する事になる。

 

それを知る由もなく、花組はそれぞれの思いを胸に、沈み行く夕日を眺めていた。

 

この戦いの果てに、一体何が待つのだろうか。

 

その答えは、沈み行く夕日も、彼らに勝利をもたらした神すらも分からなかった。




《次回予告》

来たれ………、我が理想を叶える者よ。
その闇で光を覆い尽くし、帝都に破滅を齎すがいい………!!

次回、サクラ大戦。

《悪夢が覚める時》

大正桜にロマンの嵐!

叉丹様の、望まれるままに………。
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