桜舞う星   作:サマエル

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桜舞う星・前編

「見たか人間共、聖魔城の真の力に震えるがいい」

 

燃え盛る帝都を目に、叉丹が満足げに言った。

復活の衝撃だけで帝都全体を炎に包む絶大なる力。

古来より伝えられた殺戮の要塞に相応しい力が、聖魔城にはあった。

 

「うふふ………。霊子砲が一度裁きを下したその時、我等が野望は果たされる………」

 

叉丹の隣に立つ殺女が笑う。

その視線の先に、時計の針を十二支に変えたようなレリーフがあった。

霊子砲の発射に必要な負のエネルギー。

それが集まり始めた事を示すように、子の文字が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀座………、上野………、浅草………、何処もかしこも酷い状況だ」

 

モニターに写った映像を見て、米田は力無く呟いた。

帝都は何処も炎に包まれ、かつての六破星降魔陣をも超える被害を受けていた。

正に地獄。この世の終わりが来たような、そんな気さえした。

 

「あたし達が守って来た帝都が………」

 

歯を食いしばり悔しさを耐えるさくら。

すると、秀介が元気づけるように言った。

 

「まだ僕らがいます。何か手段はないでしょうか………」

 

「手段言うても、相手はでっかい城なんやで?考え方次第でどうこうなるとは思えんわ」

 

これ程の巨大な敵を相手にした事がないだけに、紅蘭がやや後ろ向きに答える。

すると、今度はカンナが口を開いた。

 

「考えが駄目なら、思い切って真正面から挑むのはどうだ?」

 

「何をおっしゃるの!八人で城一つをまともにおとせると思って?」

 

すかさず反対するすみれ。

しかし、大神は落ち着いた様子で言った。

 

「確かに、一つの手段だ。リスクは高いが、何もしないよりずっといい」

 

「まあな。他に方法があるなら、あたいはそれでもいいさ」

 

カンナの提案は、通常思い付かないもので、意表をつく事は出来るが、それ以上にリスクが高い。

霊子砲以外にも、聖魔城にはどんな仕掛けがあるか分からないのだ。

無策のまま挑むのは、無謀以外の何者でもない。

 

「マリア、君はどう思う?」

 

「作戦ですか………。ハッキリ言うと、ほぼありませんね」

 

流石に今回の敵は訳が違うだけに、マリアも考え込む。

 

「強いて言うなら、やはり内部に入る事でしょうか。拠点は硬ければ硬い程、内部は脆いと聞きますから」

 

「なるほど………」

 

どうやって内部に入り込むかは別として、確かにリスクは少ない。

ただ、聖魔城がその方程式に当て嵌まる保障はないが。

すると、ここで米田が重い口を開いた。

 

「………方法なら、一つだけある」

 

「本当ですか司令!?」

 

その一言に、大神は一も二もなく飛び付いた。

何しろいい案が全く思いつかないのだ。

かつて陸軍きっての戦略家とも謳われた米田の事、きっとこの状況を覆す名案を持つに違いない。

大神を始め、花組の誰もが期待の目で米田を見る。

米田は一呼吸おいて話し始めた。

 

「聖魔城が復活したとはいえ、まだ霊子砲はエネルギーを十分に蓄えてはいない」

 

「では、我々は………?」

 

「何とかして聖魔城内部に突入し、まだエネルギーを蓄えていない霊子砲を破壊するんだ!」

 

「なるほど。先手必勝という訳ですね」

 

まだ聖魔城は復活したばかりで、エネルギーは不十分。

その隙を突けば、勝機は残されている。

しかし、これは作戦とは言い難い、極めて危険なミッションだった。

 

「だが………、聖魔城は降魔の本拠地だ。どれ程の数の降魔がいるか、見当もつかん! 聖魔城を包む負の力を吸収した降魔の力は、これまでの比ではないのだぞ!?」

 

かつて降魔と実際に戦った経験から、米田は警告した。

降魔は負の感情から生まれる闇を糧としている。

聖魔城はかつて多くの返り血を浴び、その闇に溢れている。

更に帝都の人々の悲しみや怒りと言った負の感情が加わり、それを助長している。

それにより、ただでさえ恐ろしい降魔が、更に恐ろしい力を手にするのだ。

 

「聖魔城に乗り込めたとしても、霊子砲を破壊する事はおろか、お前達の命の保障も出来ん!?」

 

それは、正に命懸けの作戦だった。

だが、それすらも、花組を止める理由にはならなかった。

 

「………司令、俺達は行きます」

 

「大神!」

 

躊躇いを見せる米田に、大神は尚も言った。

 

「俺達が行かなければ、帝都に住む多くの人々が悲しみに包まれる事になる。その脅威から帝都を守るのが、俺達帝国華撃団花組です!」

 

すると、大神の言葉に隊員達が続いた。

 

「大神さんの言う通りです! 黙って見てるなんて出来ません!」

 

「可能性はあるんだ。行かなきゃ花組の名折れだぜ?」

 

「ここ一番の大勝負、この私が逃げる訳にも参りませんわ!」

 

「おじちゃん、今回もきっと大丈夫だよ」

 

「そやそや、大船に乗ったつもりで任せとき!」

 

「司令、私達はいつも命懸けでした」

 

「必ず生きて帰って来ます! 僕達を信じて下さい!」

 

「お前達………」

 

米田は、驚きの表情で隊員達を見た。

負けるかもしれない。

もしかしたら死ぬかもしれない。

その恐怖が、自分を見つめる十六の瞳からは塵程にも感じられなかったのだ。

まだ降魔の真の恐ろしさを知らないからか?

いや、そうではない。

彼らは信じているのだ。この状況にあって尚、自分達の正義を。

 

「………」

 

その様子に米田は目を閉じ、かつての戦友を思い出した。

 

「(豊………、お前の言葉は本当だったな………。)」

 

そして、米田は言った。

 

「分かった、もう止めん。その手で勝利を………、生きて未来を掴み取って来い!」

 

「了解!帝国華撃団花組、出撃!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この雲の向こうに………今までにない強大な敵がいる………」

 

翔鯨丸の窓から見える目標地点を、大神は神妙な面持ちで見つめた。

あの奥に叉丹がいる。

そして、あやめがいる。

米田の前ではああ言ったが、果たして自分は本当に霊子砲を止め、帝都を救えるのか………。

叉丹を倒せるのか………。

みんなを守れるのか………。

そして何より、あやめと戦えるのか………。

 

「よ、大神はん!何たそがれてんねん?」

 

恋人の声がしたのは、その時だった。

 

「紅蘭か………。どうしたんだい、こんな所に」

 

「うん………ウチもちょっと、空でも見てみよかな………と思うてな」

 

「紅蘭………」

 

それが口実である事は、一目瞭然だった。

空を見ると言っておきながら、紅蘭は大神の顔から視線を離さない。

おそらく、自分を励ましに来てくれたのだろう。

 

「あ、せやせや!大神はん、これ覚えてる?」

 

そう言って、紅蘭はポケットから何かを取り出した。

 

「それは………、紅蘭の懐中時計………」

 

それは、紅蘭が大切にしている、父の形見の懐中時計だった。

 

「ウチな、元気がない時はいつもこの時計を見てるんや。もう動かへんけど、励ましてくれるみたいでな………」

 

そう言って、懐中時計を開いて見る。

すると、いきなり紅蘭の顔が驚きに変わった。

 

「え!? 時計が………動いてる!」

 

「えっ!? 本当かい?」

 

「大神はんも聞いてみて! 時計が動いてるんや!」

 

そう言って、紅蘭は大神の耳元に時計を近づけた。

確かに、秒針のカチカチと動く音がリズミカルに聞こえてくる。

 

「ああ、本当だ。でも、どうして………?」

 

既に時を刻む事を止めてしまったはずの時計。

それが、何故今になって動き出したのか、大神は疑問を持った。

すると、紅蘭が懐かしむように答えた。

 

「もしかして、父様が会いに来てくれたんかもしれんわ」

 

確かに、と大神は思った。

おそらくは父の死と時を同じくして時を止めた時計。

それが動く事は、紅蘭に父が蘇ったような思いを抱かせたのだろう。

 

「父様………ウチ、元気にやってるで。いろんな事があったけど、ウチ、幸せやで。せやから………心配せんといてな」

 

紅蘭が、時計にそっと語りかけた。

 

「紅蘭………」

 

「ほら! 大神はんも、ウチの父様に挨拶したって!」

 

その様子に微笑む大神に、紅蘭が言った。

大神は一瞬何を言うか考え、口にした。

 

「お父さん。紅蘭は、俺が幸せにします。だから………、安心して下さい」

 

すると、紅蘭は顔を真っ赤にして言った。

 

「あははは………! 大神はん、真顔で何言うてんねん!」

 

「え? い、いや………挨拶って言うから………」

 

「ホンマにおもろいお人や。大神はんと一緒におったら、退屈せんでええわ」

 

ひとしきり笑い、紅蘭は言った。

「そや! ウチとコンビ組まへん? きっと上手くいくで?」

 

「おいおい、これでも真剣だったんだぞ?」

 

紅蘭の提案に苦笑いを浮かべる大神。

すると、紅蘭は頬を赤らめて答えた。

 

「お笑いコンビとは言うてへん。ウチな、大神はんとずっとコンビでいたいんや………」

 

「紅蘭、それって………」

 

真っ赤な顔で大神が尋ねる。

紅蘭は、それに答える代わりに、再び時計に語りかけた。

 

「父様………、大神はんってこんなお人やけど、ウチ………ついて行こう思うねん。せやから………、ずっと見守っててな」

 

そう言い終わった時、秒針の音がピタリと止まった。

 

「父様、おおきにな」

 

「今までのウチは、いろんな人に助けてもらうばかりやった」

 

懐中時計をしまい、ふと紅蘭が言った。

 

「みんなには迷惑ばかりかけてるけど、笑って許してくれるし………、米田はんやあやめはんには、いろんな勉強させてもろた。そして父様はウチの命まで助けてくれた。せやけど………」

 

そこまで言って、紅蘭は大神に寄り掛かった。

 

「一番感謝したいのは、大神はん………。あんたやねんで?」

 

「紅蘭………」

 

紅蘭の細い体を、大神は優しく包む。

 

「大神はんに会うてなかったら、ウチ………こんなに素直になれへんかった。大神はんがおるから、今のウチがあるんや………」

 

「紅蘭………」

 

「もうみんな、艦橋に集まっとるやろうけど………」

 

名残惜しそうに、紅蘭が囁いた。

 

「大神はん、もうちょっとだけ、このままでいさせて………」

 

「ああ。………少しだけな」

 

そう言って、二人は互いの背中に手を回し、優しく抱きしめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さくらさん、こちらでしたか」

 

翔鯨丸の格納庫にて、さくらの姿を見つけた秀介が声をかけた。

 

「あ、秀介さん………」

 

秀介に会えて嬉しいのか、さくらは秀介の所へ歩み寄る。

 

「どうしてここに?」

 

「もうすぐ艦橋に集まる時間ですから、呼びに来たんです。さくらさんこそ、何故こちらに?」

 

秀介が聞き返すと、さくらは神武の方を向いて答えた。

 

「………祈ってたんです。みんなが生きて帰れるように守ってと………」

 

「さくらさん………」

 

先程の決意と一転して弱気な表情のさくらに、秀介は心が痛んだ。

自分は大切な人を守れていない。

心配という事は、それだけ怖いという事。

秀介は、さくらの心に巣くう恐怖を払拭出来ない事に、無念さを感じていた。

 

「心配はありません。昨夜も言ったはずですよ?この命がある限り、貴方を一人にはしません」

 

「秀介さん………」

 

秀介はさくらを後ろから優しく抱き寄せ、耳元で囁いた。

さくらも、秀介に身を任せてもたれかかる。

 

「秀介さんは、怖くないんですか………?」

 

ふと、さくらが尋ねた。

恐らくは当然と答えるであろう秀介の返事。

それは、意外なものだった。

 

「………怖いですよ」

 

「えっ?」

 

驚くさくらを抱きしめる腕の力が、僅かに強くなった。

意外だった。

まさか秀介の口から、そんな言葉を聞くとは思わなかった。

 

「これから僕達は、今までにない強敵に戦いを挑むんです。怖くない訳がありません」

 

「秀介さん………」

 

「さくらさん………。僕は今まで、自分をみんなを守る守護神と思っていました。勇者として、時には神として、この星を守る………。それがウルトラマンの使命だと、そう思っていました」

 

さくらを抱きしめたまま、秀介は胸に詰まった何かを吐き出すように言った。

 

「でも、気づいたんです………。僕がみんなを守るんじゃなく、互いに愛し、守り合う………。それが、僕の本当の使命なんだと………」

 

そこまで口にした時、さくらが秀介の手を、自分の胸に押し当てた。

 

「ほら、秀介さん………。あたしの胸の鼓動が高鳴っているの、分かりますか?」

 

「あ、はい………分かります………」

 

突然のさくらの行動に驚きつつも、秀介が返事を返す。

 

「あたし、秀介さんの側にいると、いつも鼓動が早くなるんです。そして思うんです。あぁ、あたしは秀介さんが大好きなんだって………」

 

「さくらさん………」

 

改めて好きと言われ、秀介は思わず赤面する。

さくらもまた、頬を赤くして続けた。

 

「秀介さん、あたし達、きっと大丈夫ですよね?」

 

「きっとじゃありません。絶対です」

 

「それなら………」

 

さくらは体を回し、秀介と向き合った。

 

「秀介さん、あたしに………もう一度勇気を下さい」

 

「勇気を………?」

 

「はい。貴方を一生………愛し続けられる勇気を………」

 

そう言って目を閉じるさくら。

その表情には、僅かに緊張が伺える。

聡明な秀介は、それだけで全てを理解した。

 

「さくらさん………、愛してます」

 

耳元でそう囁いた後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの唇が優しく重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔鯨丸、警戒空域に突入! 右舷前方に聖魔城確認!高度、二○○○を維持!」

 

翔鯨丸の舵を操作しながら、カンナが言った。

それに頷き、大神は口を開いた。

 

「みんな、いよいよ突入だ! 恐らく葵叉丹は、最後にして最強の敵だろう。だが、俺達は絶対に勝ち、帝都を守る! そして必ず、ここに帰って来るんだ!!」

 

改めて使命を述べる大神。

 

「「了解!」」

 

「よし、進路を聖魔城に取れ!」

 

「了解! 面舵、一杯!」

 

カンナが舵を大きく右に動かした。

翔鯨丸は大きく旋回し、聖魔城に突き進む。

 

「何としても城壁を破壊する! 主砲準備急げ! 第一斉射、砲撃用意!」

 

翔鯨丸の主砲が、聖魔城の城壁に向けられた。

弾を装填し、後は発射するだけだ。

 

「主砲準備完了!」

 

マリアの言葉に、大神はすぐさま指示を出した。

 

「よし! 目標、聖魔城城門! 撃てぇーーーーー!!」

 

翔鯨丸の主砲が火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

……………だが、

 

「うっそぉ………」

 

アイリスが驚きの声を上げる。

確かに砲撃は城門を直撃したはずである。

しかし、城門は破壊するどころか、傷一つつかなかったのである。

 

「諦めるな! 続けて撃ち込むまでだ! 主砲準備急げ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ………翔鯨丸の火力程度では、城門すら破壊は不可能よ」

 

外の様子を眺め、殺女はニヤリと笑った。

その時、レリーフの寅の文字が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの後、花組に思いも寄らぬ救いの手が差し延べられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「豊………。私はね………、少女達を戦場に送り、自分はこの椅子に座っていただけのダメ軍人だ………」

 

支配人室の椅子で、米田は机の上の写真立てを見ながら、もはや最後の戦友である豊に語りかけた。

写真立てには、大神を中心に帝国華撃団全員の写真が飾られている。

もう半年近く前、黒之巣会を殲滅した時のものだ。

あの時さえ、自分は何も出来ず、花組の生還を願う事しか出来ず、歯痒い思いをした。

なのにまた、自分はこうして椅子の上で、動いていない。

彼らは今、命懸けで帝都の未来を賭けた戦いを挑んでいるというのに。

 

「だが、あの娘達を誰より愛し、尊いと思っていた。豊、お前がかつてそうだったように。あやめくん、君の事も実の娘のように思っていた………」

 

写真立てに写る、かつての戦友。

しかしその戦友は今、帝都を破滅へ導く脅威となり、帝都に牙を剥いていた。

 

「あやめくん、だからこそ………、断じて! この帝都を、世界を、魔の手に委ねる訳には行かん!!」

 

その時だ。

 

「緊急警報、緊急警報! 帝都全域に避難勧告が出されました。市民は至急、避難して下さい!」

 

椿のアナウンスと共に、帝都の地面が大きく二つに割れた。

その中から、翔鯨丸とは比較にならない巨大な戦艦が姿を現した。

空中戦艦ミカサ。

黒之巣会との戦いの後、米田が考案した帝都防衛の切り札だ。

 

「市民の避難、完了しました」

 

由里の報告と同時に、米田が椅子毎ミカサのコックピットに現れる。

 

「最終安全装置、解除! 発進準備、完了!」

 

かすみの言葉に、米田はモニターの先に見える殺戮の要塞を睨んだ。

 

「よし、全蒸気核機関始動! 聖魔城に進路を取れ! 空中戦艦ミカサ、発進!!」

 

その言葉と共に、ミカサは唸りを上げて帝都の空に浮かび上がった。

周囲の車を吹き飛ばし、一直線に聖魔城を目指し飛行する。

 

「対装甲弾、装填!」

 

「目標、聖魔城城門!」

 

「照準固定! 発射準備完了!」

 

ミカサを操作しながら、風組の三人が言葉を交わす。

そして、米田が叫んだ。

 

「発射!!」

 

先程とは比較にならない一撃が、城門を襲った。

直撃ヶ所から四方八方に爆発が広がり、一瞬にして大和の大地を守る城門は木っ端みじんに吹き飛んでしまった。

 

「すごい………。何て威力や!」

 

「見て! 聖魔城の城門が跡形もないわ!」

 

「米田司令!!」

 

これには流石の花組も、驚かざるを得なかった。

 

「お前達に言い忘れとった事がある………」

 

驚きを隠せない花組に、米田からの通信が入った。

 

「帰ったら、大宴会だ! 早く戻って来いよ!!」

 

「了解!」

 

それは、生きて帰って来いという、米田の願いだった。

それを察した大神は、すぐさま指示を出した。

 

「カンナ、翔鯨丸を城門跡に着陸させろ! そこから内部へ突入するぞ!」

 

「了解!」

 

時は一刻を争う。

城門の無くなった聖魔城を翔鯨丸は最高速度で突き進んだ。

 

「頼んだぞ………お前達………」

 

米田の呟きを背に受けて。

その時、由里が何かに気づき叫んだ。

 

「聖魔城より降魔、急速接近。その数………、およそ二千!」

 

やはり本拠地を攻撃したためだろう。

これまでとは圧倒的な数の降魔の軍勢が、ミカサ目掛けて飛来して来た。

 

「迎撃用意! 全砲門開け! 花組が霊子砲にたどり着くまで、降魔をこちらに引き付けろ!」

 

怯む事なく指示を出す米田。

ミカサの三つの主砲が開き、降魔の軍勢に狙いを定める。

二千という数が、果たして全兵力なのか、雀の涙なのかは分からない。

しかし、これで花組が戦いやすくなった事は明らかな事実だった。

 

「断じて霊子砲は撃たせん! 化け物共、人間をなめるなよ!」

 

その気迫は、かつての降魔戦争と何ら変わらない、力強いものだった。

やがて、その気迫を形にしたように主砲が降魔目掛けて砲弾を浴びせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………流石はミカサといった所かしら?」

 

吹き飛んだ城門に迫り来る翔鯨丸を眺め、殺女は叉丹の下へ戻った。

 

「米田がいよいよ、奥の手を出して来ました」

 

霊子砲の前に立つ叉丹に、現在の状況を報告する殺女。

しかし、叉丹は顔色一つ変えずに言った。

 

「フッ、所詮は悪あがきに過ぎまい」

 

「では、こちらも………」

 

すると、二人の目の前に巨大な魔法陣が出現し、中から三つの黒い影が現れた。

萩、紅葉、牡丹をそれぞれあしらったローブに身を包む、奴らが現れたのだ。

 

「ほう、お前の魔法陣も大したものだな」

 

叉丹が意外そうな表情で言うと、真後ろから返事が帰ってきた。

 

「既に城門跡も準備が完了した。後は、奴らを待つのみ」

 

漆黒に溶ける姿で答えた時、レリーフの辰の文字が光った。

それに満足げに笑うと、殺女は目の前の影に言った。

 

「さあ、存分に歓迎しておやりなさい。『黄昏の三騎士』………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「猪!!」

 

「鹿!!」

 

「蝶!!」

 

「黄昏の三騎士、参上!」

 

「アハハハハ、あいつらのこれ、一度やって見たかったのよね」

 

「グヒヒヒヒ、そのあいつらが来やがったぜ?」

 

「ケケケケケ、ここで皆殺しにされるとも知らずに、馬鹿な奴らだ!」

 

いつものコミカルな調子で遊んでいる三人だが、その不動を包む妖気は以前の比ではない。

見ると、聖魔城前には、十数体の降魔達が、侵入者を迎え撃たんと待ち構えている。

 

「精々こいつらと遊んでる事ね」

 

言うや、三騎士は転移魔術でその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよだ………、俺達はこの聖魔城に潜入し、霊子砲を破壊する」

 

自動着陸体勢に入った翔鯨丸の甲板で、神武に乗った大神が言った。

帝都の命運を賭けた戦いが、今正に始まろうとしていた。

 

「そして、叉丹を倒し、あやめさんを救い出す! いいな、みんな!」

 

大神が振り向くと、七人の仲間達が応えた。

 

「これからが本番だな。へっ! 武者震いがして来たぜ!」

 

豪快にして一直線。花組最強の拳を持つカンナ。

 

「神崎すみれ、一世一代の大舞台! とくと御覧あれ!!」

 

誰もが認めるトップスターにして薙刀の達人、すみれ。

 

「神武の調子もバッチリや! よっしゃ! 気合い入れて行くで!!」

 

十三の大砲で敵を粉砕する花組ギャグメーカー、紅蘭。

 

「冷静な思考と熱い意思。私を敵にまわした事を、地獄で後悔させてあげるわ!」

 

百発百中の腕で敵を冷静に狙い撃つマリア。

 

「アイリス、頑張る! えいえい、おーっ!」

 

老若男女を魅了する、帝劇の妖精、アイリス。

 

「帝都の未来は、あたし達が守ります!」

 

その身に流れる破邪の血で魔を滅ぼす、さくら。

 

「全ては愛するこの星のため………。ウルトラの名のもとに、正義を示す!」

 

輝くオーブに導かれし光と愛の守護神、秀介。

 

「これが最後の戦いだ。みんな、覚悟はいいな?帝国華撃団花組、出撃せよ!!」

 

「了解!!」

 

 

 

 

 

決戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、あの扉から内部に侵入しよう」

 

大神は、真上に見える扉に刀を向けた。

しかし、簡単には行かなかった。

その扉を守るように、降魔達が待ち構えていたからである。

侵入者に対し並々ならぬ殺気を剥き出しにする降魔。

その様子に、大神は米田の警告が決して嘘ではないと悟った。

だが、こんな所でいつまでも足止めを食う訳にはいかない。

 

「時間がない。強行突破する!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

聖魔城前に待ち伏せていた降魔達との前哨戦。

聖魔城に溢れる負の力で強化された降魔は、花組にとって予想以上の脅威となった。

 

「時間がない。一気にケリをつける!」

 

言うや、大神は二刀を手に降魔のど真ん中に飛び込んだ。

そして………、

 

「狼虎滅却………、鎧袖一触!!」

 

大神の二刀から、黄色い稲妻が四方八方にほとばしる。

稲妻は一瞬にして降魔を包み、全滅させた。

霊子砲にたどり着く前から霊力を使うのは避けたかったが、時間がない以上そうも言っていられない。

幸い大神の活躍で、花組はさしたるダメージもなく、扉の前にたどり着いた。

 

「あれは………!」

 

ふと視界を過ぎった影を見て、大神は空に目を向けた。

そこには、無数の降魔が自分達の頭上を飛び去っていく姿がある。

 

「まさか、ミカサが………」

 

あの降魔達が、揃ってミカサを狙ったとしたら、それこそ膨大な数の敵を相手にしている事になる。

 

「隊長、今はミカサの心配をしている暇はありません」

 

隣に立つマリアが言った。

今更自分達が助けに戻る事は出来ない。

出来る事はただ一つ。

一刻も早く霊子砲を破壊する事だけだ。

 

「隊長、扉のスイッチが見つかりました」

 

秀介が流光を降りて、ハンドル状のスイッチを回す。

すると、扉が音をたてて開いた。

中へ突き進む神武達。

その時、秀介が何かに気づいて叫んだ。

 

「隊長、後ろを!」

 

「何っ!?」

 

見ると、後方に三つの影が現れた。

その姿に、花組の誰もが目を疑う。

何故なら、それは自分達の手で葬ったはずの奴らだったからだ。

 

 

 

「猪!」

 

「鹿!」

 

「蝶!」

 

「「「今こそ蘇り!我等、黄昏の三騎士!!」」」

 

かつて花組に戦いを挑み、散っていった三騎士。

それが今、地獄の底からはい上がってきたのだ。

 

「また会ったな………」

 

「叉丹様に逆らう愚か者共め!」

 

「以前のようにはいかないわよ?」

 

以前と何ら変わらぬ口調で立つ三人。

しかし、明らかに以前とは違った。

 

「な、何やこいつら!?」

 

「気をつけて! この前とは殺気が違うわ!」

 

三騎士もまた降魔。

そのカテゴリーにある以上、彼らもまた聖魔城の力で凄まじいまでの力を得たのだろう。

しかしその時、秀介が叫んだ。

 

「残念ですが、遊んでる暇はないんです!」

 

そして、何と秀介はスパークソードを召喚し、扉を開くためのスイッチを叩き切ってしまった。

その反動で、扉は秀介を残したまま閉じた。

 

「秀介さん!?」

 

思わずさくらが叫ぶ。

すると、扉越しに秀介の声が聞こえて来た。

 

「僕が奴らを食い止めます。先に進んで下さい」

 

「何を言うんだ! いくら秀介でも一人では無茶だ!」

 

ウルトラマンの力を以ってしても、これ程までに妖気の高まった三騎士を一度に相手出来る訳がない。

しかし、秀介は言い放った。

 

「これ以上時間を食う訳には参りません。すぐに片付けて合流します」

 

「し、しかし………!」

 

尚もぐずる大神。

すると、秀介は普段なら絶対口にしない大声を上げた。

 

「早く行って下さい!! 僕の戦いを無駄にするつもりですか!?」

 

「………行きましょう、大神さん」

 

ポツリと、さくらが言った。

 

「信じましょう、秀介さんを。あたし達には、やらなければならない事があるはずです」

 

「さくらくん………、分かった。秀介、ここは頼んだぞ!」

 

「了解!」

 

「時間がないので………、3分で終わらせて貰いますよ………!」

 

スパークソードを突き付け、秀介は今までにない殺気を見せた。

しかし、三騎士には虚仮威しにしかならなかった。

 

「あら、アタシ達も馬鹿じゃないわよ?」

 

「どういう事です?」

 

蝶の言葉の意味が分からず、秀介は眉をひそめる。

すると、今度は鹿が笑った。

 

「ふん、お前には俺達より相応しい相手がいるだろう」

 

「何………?」

 

「グヒヒヒヒ、分からねぇなら教えてやるぜ!」

 

猪がそう言った時だった。

三騎士の後ろに巨大な魔法陣が描かれ、何かが姿を見せたのだ。

 

「なっ………!? こ、これは………!!」

 

驚きのあまり、秀介は声を失った。

そこには、かつて三騎士と共に秀介を苦しめた三体の怪獣が顔を揃えていたからだ。

 

「ポキャーッ!!」

 

腹の口であらゆるものを吸い込む宇宙大怪獣ベムスター。

 

「グオオオオ………!!」

 

凍てつく冷気で万物を凍らせる、氷超獣アイスロン。

 

「ガーッ!!」

 

尻尾の高圧電流で相手を苦しめる、月光怪獣エレキング。

 

「ケケケケケ、さしものウルトラマンも、我等のしもべ三匹が相手では、万に一つも勝ち目はあるまい」

 

「この子達が遊んでくれるわ。やっておしまい!」

 

言うや、三騎士は転移魔術で消え、三大怪獣は一斉に秀介を睨みつけた。

 

「やれやれ………、これじゃ本当に無謀ですね」

 

秀介は一瞬、自嘲した。

三騎士を目にして薄々は感づいていたが、まさか揃って現れるとは………。

しかし、退く事はしない。

奴らを今止められるのは、自分しかいないのだ。

秀介は左手首のブレスレットを顔ぬ横に持って来ると、右手を大きく外側から回し、オーブに翳した。

そして、右手を右下に切り下ろし、オーブを発光させる。

 

「さくらさん………。どうか僕を、見守って下さい………」

 

小声で恋人に囁くと、秀介はブレスレットを天に突き出し、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーーーーーック!!」

 

 

 

 

刹那、オーブの光が秀介を包み………、

 

 

 

 

 

「シュワッ!!」

 

大いなる光の守護神、ウルトラマンジャックが、聖魔城に降臨した。

 

「ヘッ!」

 

三大怪獣を前に構えるジャック。

そこに、怪獣達は一斉に襲い掛かって来た。

 

「シュワッ!」

 

最初の狙いをベムスターに定め、勢いのついたショルダータックルをキメる。

 

「ビキュッ!?」

 

倒れた所にすかさず馬乗りになるジャック。

しかし、それは横から現れたアイスロンによって阻止されてしまった。

 

「ァアッ!?」

 

突然脇腹を蹴り込まれ、横に転がるジャック。

そこに、エレキングが追い撃ちをかけて来た。

 

「ガーッ!」

 

口から発射された怪光線を、すんでの所で避けるジャック。

それぞれの力も絶大な上に、いずれもコンビネーションが上手い。

起き上がりながら、ジャックは作戦を練った。

 

「(一筋縄で倒せる相手ではない………。さて、どう攻めるか………。)」

 

以前の戦闘での特徴を思い出し、三体を比較する。

ベムスターは腹の口こそ脅威だが、それを封じれば勝てる。

アイスロンは言う間でもなく熱が弱点。しかし、体は鉄壁ほどに固い。

エレキングは電流と怪光線が武器だが、防御は弱い。

 

「(それなら………!)」

 

作戦を構築し、ジャックは動いた。

 

「シュワッ!」

 

「グオオオオ!」

 

近づいて来たジャックに最初に反応したアイスロンが、口から冷気を吐き出す。

 

「ヘッ!」

 

ジャックは素早くウルトラディフェンダーで、冷気をせき止める。

そして、ディフェンダーをベムスターの方に向けた。

刹那、ベムスターにアイスロンの冷気が発射された。

ウルトラディフェンダーは攻撃を跳ね返す力がある。

ジャックはこれを利用して、アイスロンの冷気をベムスターにぶつけたのである。

そしてジャックの狙い通り、ベムスターの腹の口は、アイスロンの冷気でカチコチに凍っていた。

 

「………キュ?」

 

腹を突いて首を傾げるベムスター。

その隙を見逃すジャックではなかった。

 

「シュワッ!!」

 

すぐさまディフェンダーをしまって十字を組み、ベムスターにスペシウム光線を撃ち込む。

 

「ビキュッ!?」

 

凍った腹では吸収出来ず、ベムスターは腹部に風穴を開けられ、大爆発した。

 

「ヘッ!」

 

更にジャックは、続けざまにエレキングに飛び蹴りを食らわした。

その勢いで、エレキングは派手に転がる。

 

「ガーッ!」

 

怒りを露に立ち上がったエレキングが、口から怪光線を放った。

更にジャックの後ろに回り込んだアイスロンも、冷気を吐き出す。

しかし、これこそジャックの狙いだった。

 

「ヘアァッ!!」

 

ジャックが真っすぐ真上に飛んだ。

そして、アイスロンは怪光線を、エレキングは冷気をそれぞれ顔面に喰らった。

 

「グオオオオ!?」

 

「ガーッ!?」

 

思いがけないダメージに、二匹の怪獣が怯む。

そこに、ジャックがここぞとばかりに攻撃を仕掛けた。

 

「シュワッ!」

 

空中からエレキングに再び蹴り込んで倒すと、アイスロンを抱えてジャンプし、真下にたたき付けた。

ウルトラ投げ………エネルギー節約のためにジャックが考えた体術だ。

地面に頭から墜落したアイスロンは、地面をのたうちまわっている。

そこに、空中からジャックのスペシウム光線が浴びせられた。

 

「シュワッ!!」

 

それを避ける間もなく、アイスロンは大爆発した。

 

「ヘッ!」

 

休む間もなく、ジャックは最後のエレキングを見た。

向こうも既に起き上がってこちらを見ており、三度怪光線を放って来た。

 

「ヘッ!」

 

素早く空中一回転でそれを避け、ジャックはエレキングの顔面に蹴り込む。

 

「ガーッ!」

 

仰向けにひっくり返るエレキング。

ジャックはすかさずエレキングを高々と持ち上げ、真上に投げ、更にジャック自身も飛び上がった。

スライスハンド………敵を投げ上げ、手刀で追撃するジャックオリジナルの体術だ。

 

「ヘアァッ!!」

 

裂帛の気合いと共に、ジャックの手刀が唸った。

刹那、エレキングの首が胴体から切り離された。

轟音と共に、その首と体が地面にたたき付けられる。

僅かな沈黙。

それは、ジャックの勝利を意味していた。

 

「………終わった………ようですね………」

 

しかし安心はしていられない。

三大怪獣達を倒したとはいえ、肝心の三騎士を取り逃してしまったのだ。

花組が攻撃を受けている可能性は、充分にあった。

 

「早く合流しないと………!」

 

しかし、ジャックのその願いは叶わなかった。

なぜなら、その背中にあの声が聞こえて来たからである。

 

 

 

 

 

 

 

「フォッフォッフォッ………!!」

 

「!?」

 

ハッとした様子で振り向き、ジャックは戦慄した。

両腕のハサミ、奇怪な笑い、蝉のような顔………。

叉丹と並んで帝都を襲う宇宙の侵略者が、そこにいた。

 

「流石は奴の弟。この程度の輩は、そのオーブに頼らずとも倒せるか」

 

「バルタン星人………!!」

 

「フォッフォッフォッ………。お前もそうか。奴と同じ顔だ。」

 

「兄さんと………!?」

 

「そうだ! 我が計画を潰した、あの男の顔だ!」

 

怪訝そうな表情を浮かべるジャックに、バルタン星人は憎々しげに語りはじめた。

八年前、則ち降魔戦争。

バルタン星人は、侵略地として目をつけていた地球を我が物にすべく、あらゆる手段で地球を襲った。

怪獣をけしかけ、人を襲い、様々な方法で侵略を行った。

歴史には残らない小さな戦争のいくつかも、バルタン星人がけしかけたものだ。

人間達が争い、醜く死んでいく中、バルタン星人は帝都に眠る魔の存在、降魔に目をつけた。

悲劇は悲しみを呼び、悲しみは新たな悲しみを呼ぶ。

その悲しみを糧とする降魔を使えば、地球の生命を根絶やしに出来る。

しかし、それを阻む者がいた。

M78からやって来た光の巨人、ウルトラマンゾフィーである。

ゾフィーの活躍で、バルタン星人の計画は潰された。

降魔は日本橋に封印され、バルタン星人自身もゾフィーの前に敗れた。

 

「だが、私にも再びチャンスが訪れた。奴が地球を離れると同時にあの男、叉丹が現れたのだ。天海を餌に降魔を復活させ、この帝都を潰すとな!」

 

バルタン星人にとって、それは願ってもないチャンスだった。

叉丹を利用し、いずれは人間に代わって自分達バルタン星人がこの地球を貰い受ける。

そう企んでいたのだ。

 

「だが、ウルトラマンジャック! そこに貴様が現れた。私が掴みかけた野望を、貴様はまたしても打ち砕いたのだ! 何故私の邪魔をする!?」

 

「兄が、愛した星だからです………!」

 

バルタン星人に、ジャックはハッキリと告げた。

「僕はこの星で、数え切れない程の温もりに出会いました。そして思ったんです。この温もりが、いつまでも続く事を………」

 

そういうジャックの脳裏に、いくつもの思い出が蘇って来た。

 

自分を息子のように迎えてくれた米田。

 

影で自分達を見守ってくれたあやめ。

 

豪快な性格で周りを賑わせたカンナ。

 

無邪気な笑顔で笑いかけて来たアイリス。

 

時に厳しく、時に優しく、みんなを支えてくれたマリア。

 

機械との接し方を教えてくれた紅蘭。

 

常に先を読み、人知れず貢献してくれたすみれ。

 

人間味に溢れ、誰もが認める大神隊長。

 

そして………、この星で誰よりも最初に知り合い、誰よりも近くにいて、誰よりも愛したさくら。

 

「この星は美しい。誰もが誰かを愛し、守り合いながら生きている。これを壊してはいけない………!!」

 

そう言って、ジャックは構える。

 

「だから僕は戦うんです! この愛に満ちた美しい星を守るために!」

 

「黙れ! 綺麗事はたくさんだ!!」

 

バルタン星人が叫んだ。

その時、バルタン星人の前に青い球が現れた。

 

「フォッフォッフォッ! 見るがいい、ウルトラマンジャック! これが貴様を血祭りにあげる、究極兵器だ!!」

 

高らかに笑うバルタン星人。

すると、青い球が大きく膨らみ、爆発した。

 

「………こ、これは………!?」

 

ジャックは一瞬、体が金縛りにあったように強張った。

今の爆発で立ち込める砂煙。

その奥に、バルタン星人とは違う何かがいた。

これまで出会った全ての怪獣と掛け離れた、とてつもない力………。

それが、空気を伝わって感じられた。

合わせて聞こえてくるのは、奇怪な電子音。

その電子音で我に還り、ジャックが構える。

そして煙が晴れ、奇怪な電子音の正体が、遂にその姿を現した。

黒い体に雄牛のような角に、顔と胸にあるオレンジの発光体。

何よりとてつもなく大きな存在感を醸し出しながら直立する怪獣。

 

「見るがいい、ウルトラマンジャック!これこそ我が究極兵器! 宇宙恐竜ゼットンだ!!」

 

「………ゼットン………」

 

バルタン星人の叫びに呼応するように、ゼットンが声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙恐竜ゼットン。

その体内に一兆度のマグマを持ち、怪力と共に襲い来るこの怪獣に、ジャックは信じられない程の苦戦を強いられた。

いや、歯が立たないと言うべきだろう。

なぜならジャックの攻撃全てが、全く通用していないからだ。

 

「ヘアァッ!」

 

両腕を十字に組んで、スペシウム光線を撃ち込むジャック。

しかし、ゼットンはバリアどころか直立のまま、スペシウムを受けて平然と立っていた。

 

「それなら………!」

 

ジャックは続いてブレスレットを外し、ウルトラスパークを仕掛ける。

だがゼットンは、光の刃すら受け付けなかった。

 

「ヘッ!?」

 

空しく戻って来たブレスレットをはめなおすジャック。

すると、今度はゼットンが反撃を仕掛けてきた。

 

「………ゼットン………」

 

顔の発光体から火の玉が発射される。

素早く横に飛んで避けると、当たった地面が熱で溶解した。

 

「ヘッ!?」

 

凄まじい威力に仰天するジャック。

そこに、白色光弾が撃ち込まれた。

 

「ァアッ!?」

 

不意をついた攻撃に対応出来ず、吹き飛ぶジャック。

 

「フォッフォッフォッ………!! ウルトラマンジャック、二対一である事を忘れるな。」

 

「ヘッ………!」

 

見ると、両腕のハサミをこちらに向けたバルタン星人が笑っていた。

そのバルタン星人を守るように、ゼットンが立っている。

 

「シュワッ!!」

 

ジャックはゼットン目掛けて、勢い良く駆け出した。

 

「馬鹿め、血迷ったか!」

 

自殺行為とも言えるジャックの行為にバルタン星人が笑った。

しかし、ジャックは次の瞬間、大きく空へ飛び上がった。

 

「馬鹿め! 流星キックが何度も通用すると思うか!?」

 

既に流星キックの軌道を見切っていたバルタン星人が、真上に白色光弾を発射する。

しかし、ここでバルタン星人の顔が凍り付いた。

何とジャックは飛び上がったのち、大きく後ろに回転したのだ。

白色光弾は空しくジャックを通り過ぎる。

そこに、ジャックの流星キックが炸裂した。

 

「フォッ!?」

 

頭にキックを受けたバルタン星人は、そのまま後ろに倒れる。

ジャックは続いて、ゼットンにつかみ掛かった。

 

「シュワッ!」

 

しかし、ゼットンは凄まじい怪力で、ジャックを簡単に投げ飛ばした。

 

「ヘッ!」

 

前に投げ飛ばされたジャックはすぐさま立ち上がり、ゼットンの方を向く。

しかしその瞬間、ジャックはまたも仰天した。

何と、ゼットンの姿が見当たらないのだ。

確かにこちらにいたはずなのに。

そう思った刹那、ジャックはいきなり後ろから首を持ち上げられた。

 

「ヘッ!?」

 

それは何とゼットンだった。

一瞬の内にゼットンは、ジャックの背後に回り込んでいたのである。

 

「言ったはずだ。ゼットンは究極兵器とな」

 

ジャックの前に立ったバルタン星人が、勝ち誇ったように笑った。

 

「生態改造を加え、テレポートを使えるようにした。これで死角はない」

 

一兆度の火力、鉄壁のボディ、そしてテレポート………。

正に究極の二文字が相応しいゼットン。

ジャックは今度こそ、絶対絶命のピンチに陥っていた。

 

「ウルトラマンジャック! 今こそその醜い骸を曝すがいい!」

 

ゼットンに首を絞められて満足に動けないジャックに、バルタン星人は白色光弾の集中放火が浴びせられた。

 

「ヘッ………!!」

 

三大怪獣との戦いに続くダメージが蓄積し、遂にジャックのカラータイマーが赤く点滅をはじめた。

しかし首を絞められたこの状態では、反撃はおろか脱出すら出来ない。

もはやこれまでなのか………。

 

「(さくらさん………。)」

 

ジャックが心の中で恋人の笑顔を想起した。

同時に、無念さが込み上げて来る。

しかし、ここで誰もが予想もしない援軍が、ジャックを助けに現れた。

 

「な、何だ!?」

 

突然後ろから何かの砲撃を受けたバルタン星人が、攻撃の手を止めて後ろを振り返った。

ジャックもゼットンの腕を外そうともがきながら目を開く。

そこには、一機の戦闘機の姿があった。

 

「………流光………!」

 

これまで自分と共に戦って来た相棒。

それが今、バルタン星人に攻撃しているのだ。

自動操縦にしているにも関わらず、ジャックには流光が意思を持ち、自分を助けようとしているように見えた。

 

「おのれ、小癪な!」

 

流光を撃ち落とそうと、白色光弾を連発するバルタン星人。

流光は巧みにそれをかわして、バルタン星人に霊力弾を撃ち込む。

しかし、何発目かの白色光弾が、流光の左翼を掠めた。

 

「流光!」

 

ジャックが叫んだ。

しかし、流光は煙を上げながら、尚も空を切る。

そして、流光は一直線にジャックに向かい、ゼットンの顔面に体当たりを食らわせた。

 

「ァアッ!!」

 

その爆発でゼットンの腕が外れ、ジャックはようやく脱出に成功した。

しかし………、

 

「(流光………。)」

 

それは、長い間共に戦った相棒を犠牲にしてのものだった。

 

「くそっ! 飛行機の分際で邪魔をしおって!」

 

背後からバルタン星人の罵倒が聞こえる。

その瞬間、ジャックの中で何かがキレた。

 

「さあゼットン! その死に損ないを片付けてしまえ!」

 

「………ゼットン………」

 

命令を受け、ゼットンがジャックの下に歩み寄る。

だが次の瞬間、信じられない事が起こった。

 

「シュワッ!!」

 

ジャックの怒りの拳が、ゼットンの顔面にたたき付けられた。

その勢い、先程まで動かなかったゼットンを吹き飛ばし、聖魔城の外壁にたたき付けた程である。

更にジャックは、倒れたゼットンに馬乗りになって激しい攻撃を浴びせる。

その殆どは、先程流光が体当たりを敢行し、ダメージを受けた顔面だった。

 

「ヘッ………!!」

 

激しい攻撃でグロッキーされたゼットンを高々と持ち上げ、地面にたたき付ける。

そして、ジャックは構えを解き、左手のオーブを顔の横に翳した。

 

「そ、それはプラズマオーブ! 何故貴様が!?」

 

かつてゾフィーが持っていたウルトラの秘宝に、バルタン星人が狼狽する。

ジャックは、ハッキリと叫んだ。

 

「明治神宮の戦いの後、兄さんから託された。バルタン星人!貴様の企みも終わりだ!」

 

「ほざけ! オーブを手にしたからと言っていい気になるな!」

 

バルタン星人の白色光弾と、ゼットンの火の玉が飛ぶ。

しかし、オーブの力を解放させたジャックには、塵程の威力しかなかった。

 

「ウルトラの正義………、その身に受けるがいい!!」

 

ジャックは右手を大きく外側から回し、オーブに触れさせる。

そして、その右手を右上に、左手を左下に下げた。

オーブから発する光がその軌道に沿って、光の筋が現れる。

スパークストリーム………スペシウムエネルギーとブレスレットエネルギーを併せて敵に撃ち込む、ジャック最強の必殺技だ。

 

「(すみません、さくらさん………。約束は………守れそうにありません。)」

 

愛を誓った乙女に心の中で詫び、ジャックはゼットンを一点に見据える。

そして、光輝く両腕を十字に組んだ。

 

 

 

「シュワアアァァッ!!」

 

 

 

スペシウムエネルギーで青く光る右腕と、ブレスレットエネルギーで金色に輝く左腕から、まばゆい光線が勢い良く発射された。

 

 

 

そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖魔城前は、凄まじい大爆発に包まれた。

ゼットンがいた地点から立ちのぼる黒煙。

それは、ゼットンがオーブを解放させたジャックの力によって、倒された事を意味していた。

 

「ば………馬鹿な………。ゼットンまでもが………」

 

ゼットンに全幅の信頼を持っていただけに目の前の事実が信じられず、バルタン星人が呆然となる。

それを見逃すジャックではなかった。

 

「ヘッ!」

 

再びブレスレットを外す。

すると、ブレスレットは投擲の槍に変化した。

ウルトラランス………ブレスレットを槍に変化させ、相手を串刺しにする必殺技だ。

 

「これで最後です!!」

 

ジャックが大きく足を踏み出し、全身全霊の力を込めて槍を放った。

槍は疾風の如く、寸分狂わずバルタン星人の胸を深々と刺し貫いた。

 

「ぐっ………!! 馬鹿な………、このバルタン星人が二度までも………」

 

涸れた声でそう言いながらヨロヨロと後ずさり、バルタン星人は東京湾の海へ真っ逆さまに沈んで行った。

その最期を見届けると、ジャックはゆっくりと片膝をついた。

 

「終わり………ですね………」

 

ゼットンを倒し、バルタン星人も海の底に沈んだ。

役目は済んだ。

三騎士が花組を襲撃する前に、自分も合流しなければならない。

 

「くっ………」

 

最も、それが出来るならの話だが。

スパークストリームはオーブと同時に自身のエネルギーを極限まで使用して放つ最終兵器。

ただでさえエネルギーを消費した状態で使えばどうなるか………。

答えは考える間でもなかった。

 

「僕も………終わりですね………、さくらさん………」

 

愛しい人の名を口にした時………、

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーブ………、………願わくば………もう一度………」

 

けたたましい音で点滅していたカラータイマーが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

沈黙した。




《次回予告》

戦いの中で、貴方はいつもあたし達を守ってくれた………。

今度はあたし達が応える番。

だから秀介さん!

もう一度………、あたし達を見守って下さい!

次回、サクラ大戦最終話!

《桜舞う星・後編》

大正桜にロマンの嵐!

最後まで戦え、ウルトラマンとして!!
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