桜舞う星   作:サマエル

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運命の出会い

「………いでよ………死天王」

 

暗がりの中に声が飛んだ。

すると、暗がりの中から四つの影が現れた。

ある者は魔法陣から、ある者は地面から、各々の力を見せんとばかりの方法で、声の下に集まった。

 

「また、わらわが一番乗りかえ?」

 

江戸時代の女性の服装でカンに障る笑い声を上げる、死天王の紅一点、紅のミロク。

 

「お生憎様、僕の方が早かったよ」

 

色の爪をちらつかせる蒼き刹那。

 

「ハッハッハ………!また俺が最後か!」

 

刹那の弟にして、怪力の持ち主の白銀の羅刹。

 

「少し静まれ。天海様の御前だぞ」

 

そして、上野公園で花組と戦った黒い叉丹。

彼らこそ、この帝都の平和を脅かす花組の敵、黒之巣会死天王であり、彼らの前の王座に座る声の主こそ、黒之巣会首領、天海なのである。

 

「よく集まった。死天王よ」

 

四人の部下を見渡す天海。

 

「して天海様。我等に何用でございますか?」

 

「決まっておろう、前回の負け戦じゃ」

 

刹那が尋ねると、天海は俄かに眉をひそめた。

 

「申し訳ありません、天海様」

 

「だが、奴らは侮れません」

 

「黙れ、叉丹、羅刹!」

 

謝罪と弁明を述べる二人を一喝すると、天海は続けた。

 

「我等は常に無敵。一刻も早く六亡星降魔陣を完成させ、偉大な徳川幕府を再建させねばならぬのだ」

 

「「はっ!」」

 

四人が同時に臣下の礼をとるなか、叉丹がニヤリと一瞬笑った事に気づいた者は、誰もいなかった。

 

「(ふっ………、死に損ないの老いぼれめ………。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

大神が花組の新隊長となって早1ヶ月。

すっかりモギリとして定着した大神は、今日も慣れた手つきで仕事をこなしていた。

そこへ、アイリスがやって来た。

 

「お兄ちゃん、お仕事お疲れ様」

 

「やあ、アイリス。来てくれたのか」

 

「うん。だってアイリスは、お兄ちゃんの恋人だもん」

 

9歳にしてはかなりませた発言だが、悪気はないので大神も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「あ、そうそう!さっきマリアから聞いたんだけど、今日紅蘭が来るんだって」

 

「紅蘭?一体どんな人なんだい?」

 

初めて聞く名前に疑問符を浮かべる大神。

 

「紅蘭はねぇ、ちょっと前に花やしきに行った、花組の隊員なんだよ!アイリスとっても楽しみなんだ~」

 

「へぇ~………、アイリスは紅蘭と仲がいいんだね」

 

「うん!だって紅蘭、いつもドッカーンってやるんだもん」

 

「ドッカーン?なんだか面白そうな人だね」

 

「うん!お兄ちゃんもきっと紅蘭を好きになるよ!」

 

余程紅蘭に会うのが楽しみなのか、アイリスはいつも以上ににこやかだ。

それにつられて、大神にも笑顔がこぼれる。

 

「それじゃあお兄ちゃん、紅蘭が来たら教えてね」

 

そう言うと、アイリスはスキップしながらロビーを後にした。

 

「あんなにはしゃいで、余程会いたいんだな………」

 

そう呟いて、大神は仕事の準備を急いだ。

その時、突然玄関から凄まじい爆発音が轟いた。

 

「な、なんだ!?」

 

アイリスの言葉を借りるならドッカーンという爆発音に、大神は慌てて外に飛び出した。

 

 

 

 

 

「これは………、自動車事故か?」

 

見ると、一台の蒸気バイクが大破して煙を上げている。

すると、大神の足元で声がした。

 

「ゲホッゲホッ………、すんまへん。大帝国劇場って、ここでおますよな?」

 

「だ、大丈夫ですか?大帝国劇場はここですが………」

 

恐らくはバイクの運転手だろう。

足元にいたのは紫色の髪を三つ編みにした、眼鏡とそばかすが特徴的な女性だった。

 

「ウチ、今日からここの配属になった李紅蘭いいます。よろしゅう」

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「………支配人」

 

「おう、入れ」

 

そう言われ、秀介は支配人室の扉を開けた。

 

「あん時ゃご苦労だったな。さすがはあいつの弟だ」

 

相変わらずの飲兵衛口調だが、やはり視線はしっかり秀介に向いている。

 

「兄さんに比べればまだまだです。ところで、お話というのは?」

 

「ああ、お前もわかってる事だが、あの怪物についてだ」

 

話が本題に入るや、米田は司令の顔に戻った。

 

「奴がお前のいう宇宙からの侵略者なら、次も新たな怪物を呼び出す可能性は高い」

 

「はい………」

 

「そこで、お前にも新たに新兵器を用意し、花組とともに戦線に立ってもらいたい」

 

「了解しました。しかし、」

 

承諾した上で、秀介は疑問を述べた。

 

「戦闘中に変身して、気付かれないでしょうか?」

 

戦闘では常に隊員全員が繋がった状態、則ちチームワークを維持する事が、戦闘において勝利を掴む秘訣である。

しかし秀介が光の巨人、ウルトラマンジャックである事は誰にも知られてはならない。

米田の言う通り、この帝都はあくまで人間が守るべきものであって、必要以上に秀介が介入する訳には行かないからだ。

もちろん、それは花組にも同じ事が言えた。

 

「大丈夫だ。詳しい事はまだ言えねぇんだが、そいつは俺に任せてくれ」

 

「………わかりました」

 

いずれにせよ、通常の戦いに御剣 秀介として花組に貢献できるのは嬉しい限り。

秀介は米田に一任する事を決めた。

その時、支配人室の扉が再びノックされた。

 

「米田支配人。大神ですが、よろしいですか?」

 

「おう、入れ」

 

「失礼します。新隊員の紅蘭を連れて来ました」

 

扉を開けると、大神と紅蘭が入ってきた。

 

「米田はん、久しぶりやな~。相変わらず飲んどるみたいやけど」

 

「ははは、まあな。お前こそ、花やしきには未練があったろう」

 

「構わんて。ウチは機械がいじれればそれでええんや」

 

さすが顔見知りだけあって、会話が弾む二人。

そこへ、紅蘭とは初対面の秀介が大神に紹介を求めた。

 

「隊長、こちらの方は?」

 

「今日から花組に加わる新隊員の李紅蘭だよ。紅蘭、隊員仲間の御剣 秀介だ」

 

「新入りさんかいな?ウチ李紅蘭いいます。よろしゅうな」

 

「御剣 秀介と申します。以後お見知り置きを」

 

軽く挨拶を済ませると、米田が口を開いた。

 

「知ってるか大神?紅蘭は華撃団の中でも機械に詳しくてな。光武を設計にも携わったんだぜ?」

 

「光武の設計!?凄いんだな紅蘭は」

 

「そんな事あらへんて。大神はんこそ、前の初戦は大勝利やったらしいしな」

 

素直に驚く大神に謙遜する紅蘭。

すると、大神も謙遜で返した。

 

「そんな事ないよ。花組のみんながいてくれたから、俺達は勝てたんだ」

 

「ええ事言うなあ大神はん。それでこそ花組の隊長や」

 

「確かに、僕もそう思います」

 

軍人というのは、何かについて手柄を自分のものにしたがる。

なぜなら、手柄の数はそのまま自分の評価に繋がるからだ。故に中間職の軍人になると、部下の手柄も独り占めする人間は腐るほどいる。

しかし、大神にはそれが全く感じられない。

帝都の平和を第一に考え、隊員一人一人を大切にする人間味に溢れた人物だ。

本当の意味で彼は軍人なのだと、秀介は思った。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

その日の夜、秀介は大道具部屋で明日の公演の準備をしていた。

舞台袖に置くパネルや噴水のセットの清掃だけなので、たいして時間はかからないのだが、真面目な秀介はついでに部屋全体を綺麗にしようと考えたのである。

 

「こんな所でしょうか………」

 

見違えるほど綺麗になった部屋に頷き、道具を片付け始める秀介。

そこへ、さくらがやって来た。

 

「あ、秀介さん………」

 

「さくらさんじゃないですか。どうしたんです?こんな時間に」

 

思いがけずさくらと二人きりになれたからか、普段より少し上機嫌になる秀介。

一方、さくらはいつもより表情に元気がなかった。

 

「今日のあたし達の舞台、見て頂けました?」

 

「ええ、もちろん。紅蘭さんは初舞台だったんですよね」

 

あの後、紅蘭は米田に頼んでこの日から舞台に立たせて貰う事になった。

当然ワンシーン限りの脇役だが、あのコミカルさが客に強いインパクトを与え、主役のさくらが霞むほどであった。

ちなみにその時、秀介はさくらしか見ていなかったのは余談だが。

いずれにせよ、今日の舞台で李紅蘭という花形スターが誕生したのは事実だ。

 

「びっくりしました。紅蘭って、初めて舞台に立つのに全然緊張してなくて………。あたしなんか、主役になっただけで震えが止まらなかったのに………」

 

それは、劣等感だった。

さくらが不安に思えてならなかった事を、紅蘭は塵にも感じておらず、さくらが一ヶ月かかったスターへの階段を、紅蘭はたった一回の、それも初舞台の公演で登ってしまったのだ。

 

「それで……?」

 

「時々、迷う時があるんです。明らかに紅蘭の方があたしより上手なのに、あたしが主役をやってていいのかなって………」

 

「気にする事ではありませんよ」

 

「………え?」

 

あまりにあっさりと言う秀介に驚いたのか、さくらは目を丸くした。

 

「何もかも同じ人間というのは存在しません。早く才能を開花させる人もいれば、反対に時間のかかる人もいます」

 

「………」

 

「でも、結局誰も自分の演技しかできないんです。紅蘭さんは笑わせる演技がピカイチなように、さくらさんも感動させる演技は誰にも負けないと、僕は思うんですが………」

 

「秀介さん………、ありがとうございます。あたし、そう言って貰えたの初めて………」

 

余程秀介の言葉が嬉しかったのか、さくらは頬に手を当てて恥じらいを見せた。

 

「あ、い、いや、まあ………はい………」

 

それを見た秀介も、顔を真っ赤にして目を逸らす。

すると、さくらが何か閃いたように言った。

 

「あ、そうだ。秀介さん今から時間ありますか?」

 

「え!? ………ええ、暇ですが………何か?」

 

目的が分からず尋ねると、さくらは秀介の手をとって言った。

 

「だったら、あたしのお芝居の練習に付き合って下さい!」

 

「へっ!? 僕がですか?」

 

突然のさくらからの申し出に、秀介は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「いや、でも………僕は芝居は素人ですし………」

 

「そんな事ないですよ。前に大神さんに付き合ってもらった時も、ためになりましたし」

 

刹那、秀介の眉がピクッと上がった。

 

「(なんですと? 隊長を部屋に入れた?)」

 

油断した、と秀介は思った。

まさかこんな早くから部屋に入れる程の仲になっていたとは………。

 

「………あ、あの、秀介さん?」

 

突然俯いて拳を震わせ始めた秀介に驚いて手を離すさくら。

すると、今度は秀介の方からさくらの手を握ってきた。

 

 

 

「さくらさんっ!!」

 

 

 

「は、はい!?」

 

凄まじい気迫の秀介に気圧されつつ返事するさくら。

 

「その話、喜んで引き受けます! 是非、お手伝いさせて下さい!!」

 

そう言ってさらに力を込めてさくらの手を握る秀介。

さくらは首を縦に振る事しか出来なかった。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「………それじゃあ、始めますね」

 

念願叶ってさくらの部屋に来た秀介は、さくらに来月公演予定の『シンデレラ』の台本を渡された。

花組の芝居のスタンスは、芝居を途切れさせない事にある。

公演と公演の間に期間が空くと、ライバルの活動写真に客を奪われる可能性があるからだ。

しかし、役者も人間である以上稽古は必要不可欠であるため、一つの舞台を演じる傍ら、次の舞台に備えなくてはならないのだ。

そのため、花組の役者は基本的に二人一組で主役を担当し、個人の演技力に合わせて調整するようにしている。

そうする事で、少しでも役者の負担を減らそうというのだ。

さくらは現在公演中の『愛ゆえに』ではヒロインのクレモンティーヌを、さらに次回公演予定の『シンデレラ』でも主役を勤める事になっている。

同じく主役を勤めるマリアと比べても、演じる時間や台詞の数は群を抜いて多い。

そのため、今の内から立ち稽古を始めないと、間に合わないのだ。

 

「今日は………、第三場面の魔法使いがシンデレラに魔法をかける所です」

 

「は、はあ………」

 

必死に台本を見て該当部分を探す秀介。

一方のさくらはもう台詞を暗記しているのか、台本を置いてスタンバイしている。

 

「それじゃあ秀介さん、行きますよ?」

 

「は、はい………!」

 

「よーい………、スタート!」

 

 

 

「ああ………、お姉様もお母様も酷いわ。私も舞踏会に行きたいのに………クスン………。」

 

「おお、可哀相なシンデレラ………。私が貴女を助けてあげましょう。」

 

「まあ、貴方は一体………?」

 

「名乗る程ではない魔法使いです。さあ、貴方の願いを言ってご覧なさい。」

 

「はい、ドレスを着て馬車に乗って、舞踏会に行きたいんです。」

 

「わかりました。では………、アブダラカブダラ……………以下省略。」

 

「わあ、凄い!ドレスと馬車だ。」

 

「シンデレラ、この魔法は12時までしかもたないからね。それまでに帰るんですよ。」

 

「はい!ありがとう魔法使いさん!」

 

 

「凄いじゃないですか秀介さん! 本当に初めてなんですか?」

 

「いや……、何だか気持ちが出ちゃって……」

 

恥ずかしそうに頭を掻く秀介。

実際に芝居の立ち稽古をしたのは初めてなのだが、シンデレラを(と言うよりさくらを)助けたいという気持ちが伝わっており、充分客に見せられるレベルだった。

秀介としては、さくらに褒めて貰えた事が一番嬉しいのだが。

 

「秀介さん。よかったら、これからもあたしの稽古に付き合ってくれませんか?」

 

「はい、僕でよければ喜んで」

 

秀介は、心の中でガッツポーズをキメていた。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

翌日、仕事を一通り終えた大神は、秀介と揃って「愛ゆえに」の舞台を見るために舞台袖に来ていた。

 

「これは……、ちょうど盛り上がりのシーンだな」

 

「あ、秀介。お兄ちゃんも」

 

二人に気づいたアイリスが小声で反応した。

袖には出番を終えた紅蘭とすみれの姿もある。

 

「二人とも、ええ所に来たな。いよいよ山場やで」

 

 

「オンドレ様、どうか私と一緒にお逃げ下さい!」

 

「………使命も部下も捨てて貴女と逃げ出す私など、最早私ではない。クレモンティーヌ、貴女はそんな私を愛せるのか?」

 

「オンドレ様!」

 

 

「………全く、田舎臭いったらありゃしない。よくあんな演技で泣けますわね」

 

すみれが呆れた表情でため息をつく。

すると、二人のシーンに若干涙ぐんでいたアイリスが言い返した。

 

「すみれ、うるさい」

 

「それにしてもさくらはん、何や輝いてるな~。マリアはんもはまりすぎや。女の子が失神するで」

 

「フフッ………」

 

紅蘭の一言に、秀介は一人笑みを浮かべた。

 

しかし、この後舞台は予想だにしない事態に見舞われる事になる。

 

「オンドレ様!!」

 

そう叫んでマリアの下へ駆けるさくら。

しかし、あまりに役になりすぎたためか、足を滑らせて倒れそうになる。

 

「あらっ!?……っと……っと……!」

 

さくらはそのままマリアを通過。

終いにはすみれ達のいる舞台袖の掴んで倒れてしまった。

因みに帝劇の舞台は袖がセットと同じレールから下がっており、ストッパーの役目をしている。

つまり………、

 

「うわぁっ、セットが!」

 

大神は思わず叫んだが、それすら掻き消す轟音が舞台を襲った。

天井からはスポットライトが雨霰のように降り注ぎ、セットは噴水から何から全部大破し、後ろの背景幕すら破れる始末。

最早芝居どころではなかった。

 

「あちゃー、えらいこっちゃ………」

 

変わり果てた舞台に唖然とする紅蘭。

すると、すみれが憤怒の形相で立ち上がった。

 

「もう堪忍袋の緒が切れましたわ!ちょっとさくらさん!!」

 

「あ、すみれ~駄目だよ~!」

 

アイリスの静止も聞かず、すみれは舞台に上がってさくらを怒鳴りつけた。

 

「舞台をこんなに壊してどうするおつもり!?冗談じゃありませんわ!」

 

「………すみません」

 

「貴女って人は本当にトロ臭い、どん臭い、おまけに田舎臭い………!臭い臭いの三拍子ですわ!」

 

半ばキレているためか、大袈裟に鼻を摘んで見せるすみれ。

すると、さくらもカチンときたらしく、すみれを睨み返した。

 

「NGの回数はすみれさんに負けますけどね」

 

「まあ、さくらさん!セットを壊してその態度、許しません事よ!」

 

「二人とも本番中よ!やめなさい!」

 

必死に二人を説得するマリアだが、状況が状況だけに効果がない。

 

「アカンで大神はん。二人を止めんと………」

 

「お兄ちゃん、何とかして~!」

 

袖であたふたする二人。

そんな中、袖で一人どす黒い殺気を放つ者がいた。

そう、秀介である。

 

「あの高飛車女………、叩っ斬る!!」

 

「いいっ!?」

 

怒りの余りブレスレットからスパークソードを召喚する秀介。

スパークソードを初めて見る大神は、仰天しつつを秀介を止めようと試みた。

 

「待て秀介、落ち着くんだ!」

 

「離して下さい隊長!さくらさんを侮辱する奴は僕が許しません!」

 

「今は本番中だぞ!!君が行けばますます騒ぎが大きくなる。」

 

「くっ………!」

 

何とか秀介を羽交い締めにする大神。

しかしその時、舞台の天井から何かが軋む音が聞こえた。

 

「………?………、大神はん!照明のバーが崩れかかっとる!このままやとライトが全部落っこちるで!!」

 

「何っ!」

 

紅蘭に言われて天井を見ると、さっきの衝撃で傾いた照明のバーが折れかかっていた。

舞台の三人は気づいていない。

大神は大声で叫んだ。

 

「みんな逃げろ!舞台が崩れるぞっ!!」

 

「お、大神さん!」

 

大神の声に気づいた三人が上を見る。

と同時に照明のバーが音を立てて折れた。

 

「きゃああああああっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁ…………!!」

 

「あれええええええっ!?」

 

「ぬおおおぉぉ………!!」

 

役者達の悲鳴とともに、舞台は完全に崩壊した。

 

「舞台が………、何て事なの………。」

 

マリアはただ、そう呟くしかなかった。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

「………にしても、隊長も随分無茶な要求を呑みましたね」

 

「仕方ないさ。仲間の失敗は俺の失敗でもある」

 

秀介の言葉ににこやかに返す大神。

あの後、セットの壊した責任で責められたさくらを不憫に思った大神は、代わりにセットの修理をすると言い出したのだ。

しかし、帝劇のセットは専門のプロが作ったもので、本物に瓜二つの完成度でなければならない。

さらにセットだけでなく、照明や舞台の床も修理しなくてはならないのだ。

舞台については素人同然の大神に一人で出来るはずもないのだが、それでも彼は引き受けてしまった。

お人よしなのか、どこまでも隊長の義務に忠実なのか………。

秀介には、イマイチそれがわからなかった。

 

「それに秀介、君こそ何で俺を手伝ってくれるんだ?」

 

「え?」

 

急に聞き返され、秀介は思わずバーをどかす手を止めた。

 

「俺は隊長の義務としてやっているが、秀介は何でわざわざ俺を手伝ってくれるんだ?」

 

「………」

 

秀介は押し黙った。そして、しばらく黙ったのち、こう言った。

 

「仲間を助けるのに、理由がいるんですか?」

 

「秀介………」

 

大神は意外そうな目で秀介を見た。

しかし、秀介はそれ以上口にする事なく作業を再開した。

大神は何やら秀介の言葉に感動したようだが、実際の理由はそれだけではない。

大神がさくらを庇った時に、さくらがまたしても顔を真っ赤にしていたからである。

つまり、かなりカッコイイ事を言ったように見えて、実際は単なる対抗意識だったりする。

すると、そこへ話題の人物が現れた。

 

「大神さん………」

 

「やあ、さくらくん。まだ休んでなかったのかい?」

 

大神が尋ねると、さくらは暗い表情で答えた。

 

「………ごめんなさい。あたしのせいで二人には迷惑をかけて………」

 

「大丈夫さ。心配ないよ」

 

「それに、自分を責める事はありません」

 

落ち込んだ様子のさくらを気遣かって、笑顔を見せる二人。

さくらは、そのおかげか少し笑顔になった。

 

「あの、あたしにもお手伝いさせて下さい。壊しちゃったの、あたしだし………」

 

「そうだな、じゃあお願いするよ」

 

もしかしたら修理を手伝う事で、さくらの心も軽くなるかもしれない。

そう思った大神は、さくらの申し出を受ける事にした。

その時、舞台にアナウンスが流れた。

 

「御剣 秀介さん、支配人室までお越し下さい」

 

 

 

 

 

 

 

「よう秀介、悪いな仕事中によ」

 

支配人室に入った秀介をいつもの様子で迎える米田。

しかし、秀介はその隣に立つ女性に目がいった。

歳はさくら達より一世代程上だろうか。

赤みがかった長い茶髪を後ろで綺麗にまとめ、さくらとはまた違って大人の魅力を持った女性だった。

 

「紹介するぜ。帝国陸軍中尉にして帝国華撃団副司令、藤枝あやめくんだ」

 

「貴方が御剣 秀介くんね?はじめまして、藤枝あやめです」

 

「あ、はじめまして。御剣 秀介です」

 

あやめに一瞬目を奪われていたため、秀介はやや慌てて返事を返す。

すると、米田が意地悪に笑った。

 

「何だ秀介、あやめくんに惚れちまったか?さくらがヤキモチ焼くぜ?」

 

「なっ、そんなんじゃないですよ!」

 

慌てて弁明する秀介。

すると、あやめは上品な仕草で笑って言った。

 

「そうやって真面目な所、あの人にそっくりなのね」

 

「あの人………?ゾフィー兄さんの事ですか?」

 

驚いた表情で秀介が尋ねると、あやめは当然のように返した。

 

「もちろん、知ってるわ。彼は私達の戦友だったもの」

 

その表情には、どこか懐かしむように見える。

あやめもまた、米田と同様にゾフィーの仲間だったのだ。

 

「ところで長官?新隊長の大神少尉にも会っておきたいんですが。」

 

「隊長なら、舞台の修理をしています。呼んで来ましょうか?」

 

「それには及ばないわ。長官、行ってきますね」

 

そう言って、あやめは支配人室を後にした。

 

「………司令、あやめさんも兄さんと知り合いだったんですね」

 

「ああ、もう八年も前だがな………」

 

「………」

 

秀介が尋ねると、米田は悲しげに返した。

秀介は、まだ黙っている事しかできなかった。

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

翌日、花組の姿は舞台ではなく作戦司令室にあった。

上野公園に引き続き、黒之巣会が芝公園を襲撃したからである。

 

「芝公園言うたら、先週帝都タワーが建ったばっかやで」

 

「そんな大事な建物を壊される訳には行きませんね!」

 

紅蘭の言葉に意気込むさくら。

一方、秀介は対象的に疑問符を浮かべた。

 

「帝都タワーってなんですか?」

 

「帝都全体の電波を管理する、巨大なアンテナのような建物よ」

 

「もしタワーが破壊されたら、帝都全体の電波システムがマヒしてまうで」

 

「よし、帝国華撃団花組は直ちに現場に出動。帝都タワーを防衛しつつ、敵を全滅させる。いいな!」

 

米田が力強い言葉で花組を激励する。

それに答えるように、大神が出撃命令を出した。

 

「帝国華撃団花組、出撃!!目標地点、芝公園!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

「………で、僕らはまた留守番ですか?」

 

「アイリスつまんな~い!」

 

花組が飛行船、翔鯨丸で出撃する様子を窓から眺めつつ、秀介とアイリスは不満を口にした。

 

「いや~、お前の分まで轟雷号に入らなくてよ。まあ、勘弁な」

 

「前に何とかするとおっしゃったじゃないですか」

 

「仕方ねぇだろ!まさか先に向こうが仕掛けてくるとは思わなかったんだからよ!」

 

司令室での言い争いが続く中、アイリスはやれやれといった表情で呟いた。

 

「早く大人になりたいな………」

 

 

 

 

 

 

突如として襲撃された芝公園。

脇侍が縦横無尽に暴れ回り、あちこちから煙が上がっている。

その中央で一際強い妖気を漂わせる者がいた。

黒之巣会首領、天海である。

 

「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ………」

 

天海が何やら怪しげな呪文を唱えた。

すると、上空からドリル状の巨大な物体が現れ、芝公園の地中深くに沈んでいく。

それを満足そうに見届け、天海は叫んだ。

 

「魔都の門は見えたり!!」

 

「そこまでや!!」

 

刹那、上空から五つの光武が派手に現れた。

 

「帝国華撃団、参上!!」

 

「むう………!」

 

叉丹をして侮れないと言わせた帝国華撃団。

天海は自分の存在に気付かれる前に、転移魔術で帝都タワーの真上に移った。

 

「帝国華撃団………、うぬらの戦い振りを見せて貰おう。」

 

 

 

 

「少尉、敵はやはり帝都タワーを狙っているようです」

 

開口一番、マリアが言った。

 

「帝都タワーを守る………、重大な任務だな」

 

改めて今回の戦いの厳しさを痛感し、大神は脳内で素早く戦術を組み立てる。

刹那、紅蘭が何かに気づいて叫んだ。

 

「みんな、散るんやっ!!」

 

その声に反応して五人が一斉にその場を離れる。

その瞬間、大神達のいた場所に火球が炸裂した。

その火球の飛んできた方向を見ると、固定式の砲台が設置されていた。

 

「あれは………、砲台か?」

 

初めて見る兵器に驚く大神。

すると、紅蘭がそれを破壊しつつ答えた。

 

「あれは『蒸気火栓』っちゅうドイツで開発された破壊兵器や。今みたいな火球で攻撃するんやけど、正面しか狙えんちゅう弱点のためにお蔵入りになったんや」

 

見れば、芝公園の至る所に蒸気火栓が設置されている。

しかし、帝都タワーを守るためには迅速に脇侍を全滅させなくてはならない。

大神は脳内の戦術を再構築し、命令を出した。

 

「よし、帝都タワー防衛のために魔装機兵を全滅させる。行くぞっ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

蒸気火栓と言う新しい兵器の出現によって危ぶまれた芝公園の戦いだが、大神の戦略の前には敵ではなかった。

遠距離攻撃に優れたマリアと紅蘭が砲台を狙い撃ち、さくらとすみれが大神とともに二人を援護する。

この作戦が功を成し、火栓は花組にさしたる打撃を与えられぬまま沈黙した。

こうなれば、大神達の障害は何もなかった。

 

「これで終わりか………」

 

最後の思われる脇侍を切り倒し、大神が呟く。

しかし、まだ終わりではなかった。

 

「いいえ少尉、あれを見て下さい!」

 

マリアが帝都タワーの真上を指差す。

そこには、如何にも悪者らしい威厳を妖気とともに漂わせる者が、大神達を見下ろしていた。

 

「そうか、こ奴らが叉丹の言う………」

 

天海が小声で呟くと、白い光武が刀を突き付けた。

 

「貴様、一体何者だ!?」

 

大神の鋭い声が飛ぶ。

しかし、天海は大神の問に嘲笑を以って返した。

 

「我は天海!この汚れきった帝都を破壊し、真の日本を蘇らせる者なり!」

 

刹那、天海の妖力が上昇する。

 

「何ですの、この妖気………!脇侍とは桁違いですわ!」

 

「みんな、気をつけろ。何を仕掛けてくるかわからないぞ?」

 

隊員達にそう言った時、大神は自身の後ろに凄まじい妖気を感じとった。

 

「何っ!?」

 

反射的に跳んで間合いを開くと、一体の大きな脇侍が刀を構えて立っていた。

漆黒の体から溢れる妖気は、脇侍とは明らかに違う。

 

「精々こやつと戯れているがよい」

 

そう言って、天海は転移魔術で消え失せてしまった。

 

「少尉、気をつけて下さい!今までの敵とは違います」

 

「わかった。みんな、充分注意して戦うんだ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

「長官、芝公園に出現した巨大魔装機兵の妖力が増大しています!」

 

「何!?」

 

椿の報告に、米田は驚きを見せた。

ただでさえ強い妖力がこれ以上高まっては手に負えない。

案の定、花組は今の時点で苦戦を強いられている。

米田は一瞬考えた後、決断した。

 

「秀介、お前の出番だ!」

 

「待ってました!」

 

言うや、秀介は作戦司令室を飛び出した。

 

 

 

 

 

「………皆さん、今助けに参ります!」

 

秀介は人気のない所に移動し、ブレスレットを高々と空に掲げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーーーック!!」

 

 

 

 

 

 

 

天海の生み出した巨大魔装機兵。

大神達は懸命に立ち向かうが、圧倒的な戦力差の前に苦戦を余儀なくされていた。

 

「アカンで大神はん、こいつ計算以上の動きをしよる!」

 

「こちらの攻撃も通じませんわ!?」

 

「くそっ………何と言う強さだ!」

 

その剛腕から繰り出される一撃は地を砕き、その漆黒の鎧は大神達の攻撃を一切受け付けない。

まさに手も足も出ないとは、この事だった。

 

「………大神さん、さっきから気になってたんですが………」

 

ふと、さくらが口を開いた。

 

「この脇侍………、さっきより大きくなってません?」

 

「何………?」

 

言われて見ると、確かにそうだ。

最初は大神達の光武より一回り大きい程度だったのに対し、今の脇侍は帝都タワーの半分に匹敵する高さになっている。

 

「一体………、どういう事なんだ?」

 

大神がそう呟いた時、突如脇侍が仰向けに倒れた。

いや、倒されたのだ。

大神達を庇うように現れた救世主………、

 

「あれは……、ウルトラマン!?」

 

ウルトラマンジャックによって。

 

「シュワッ!」

 

ジャックは起き上がった脇侍にすかさず掴み掛かった。

脇侍を負けじとぶつかり合うが、大きさでジャックが勝っている分不利である。

 

「ヘッ!」

 

両手で高々と脇侍を持ち上げ、ジャックは勢い良くぶん投げた。

 

「シュワッ!!」

 

倒れた所にスペシウム光線を打ち込む。

しかし、次の瞬間信じられない事が起きた。

何と、脇侍はスペシウム光線を吸収して立ち上がったのだ。

それだけではない。

脇侍の体は、ジャックと変わらぬ大きさに肥大化したのである。

 

「ヘッ!?」

 

これにはジャックも驚きを隠せなかった。

その間にも、脇侍はジャックに襲い掛かる。

 

「ヘアッ!!」

 

再びぶつかり合う二人。

しかし今度は背丈も同じ分互角になる。

その時、大神がハッと気づいた。

 

「そうか………、奴は俺達の攻撃を吸収していたんだ!」

 

さっきジャックのスペシウム光線を吸収したのが何よりの証拠だ。

大神達の攻撃も吸収されていたとするならば、攻撃が通じない事も説明がつく。

 

「しかし、それではどう攻めれば良いのか……」

 

マリアがそう呟いた時、誰かから通信が入った。

 

「こちら翔鯨丸、敵の本体を特定しました。これより本体を直接砲撃します」

 

刹那、上空の翔鯨丸から主砲が発射され、さくらの光武の近くに着弾した。

立ちのぼる煙。

その奥に、ジャックと戦う黒い脇侍とは別の白い脇侍が姿を現した。

 

「あれが本体ね。大神隊長、ウルトラマンが黒い脇侍を食い止めている間に本体を撃破して!」

 

見ると、ジャックは黒い脇侍を羽交い締めにしている。

 

「少尉、向こうもこちらに気づいたようです」

 

マリアの言う通り、白い脇侍はこちらに構わず、一目散に帝都タワーに向かっていた。

 

「ここまで来て逃がすものか!全員、本体に総攻撃せよ!」

 

「「了解!」」

 

五機の光武は、一斉に本体に攻撃を仕掛けた。

 

「そこっ!」

 

マリアの光武が本体の足を打ち抜いた。

しかし、本体はそれにも構わず走り続ける。

 

「さくらさん!」

 

「分かってます!」

 

今度はさくらとすみれが同時に左右から切り込むが、ギリギリで避けられてしまった。

だが、本体の逃亡をこれ以上許さない者がいた。

紅蘭の光武である。

 

「逃がさへんで!チビロボ軍団、発進!」

 

頭と両腕の大砲から、コイルのようなロボットが次々に発射され、本体を取り囲む。

 

「今がチャンスや!大神はん、一発かましたれ!!」

 

「分かった!」

 

チビロボ軍団が本体を捕らえている間に、大神は二刀を交差させ、精神を集中した。

 

「狼虎滅却………、快刀乱麻!!」

 

振り下ろされた二刀から緑色の電撃がほとばしり、白い脇侍を一撃で黒焦げにしてしまった。

それと同時に黒い脇侍も全身から煙を出す。

 

「シュワッ!」

 

ジャックが再びスペシウム光線を撃つと、今度は吸収する事なく爆発した。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労様」

 

戦いを終えた大神達を待っていたのは、あやめだった。

先程の砲撃による援護は、彼女だったのである。

 

「あ、貴女は………」

 

「帝国華撃団副司令、藤枝あやめです。よろしくね、大神君」

 

正式な挨拶はまだだったのか、改めて自己紹介するあやめ。

すると、大神の顔が俄かに赤くなる。

「隊長には、瞬間の判断力が必要よ。これからもしっかりね、大神君」

 

「は、はい!頑張りまひゅ、が、がんば………!」

 

緊張したのか噛みまくりの大神に、隊員達は思わず吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………帝国華撃団、あくまでも我等の邪魔をするつもりか」

 

黒之巣会のアジトにて今の戦いを見ていた天海は、憤怒の形相で唸った。

 

「更にはあの巨人………。何人たりとも我が野望に仇なす輩は、闇に葬ってくれるわ!」

 

すると、それに答えるようにミロクが叫んだ。

 

「帝都殲滅!抹殺、帝国華撃団!」




《次回予告》

さよなら、私の青春…、

さよなら、私の恋…、

私の時間は、あの戦争で止まっている………。

次回、サクラ大戦!

《隊長として……》

大正桜にロマンの嵐!

貴方は、隊長失格です!
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