桜舞う星   作:サマエル

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光武の願い

「お~いみんな、お疲れ様~………って、あれ?」

 

今日の公演が終了し、袖にやって来た大神。

しかし、既に花組の姿はなく、紅蘭が返事を返した。

 

「あ、大神はん。みんなは楽屋におるで」

 

「そうか…、じゃあすれ違ったな。………紅蘭は行かないのかい?」

 

みんなが楽屋に集まる中、紅蘭だけが舞台に残るのも変な話だ。

すると紅蘭は手元の工具を見せて言った。

 

「ウチはこれから壊れたセットの修理や。すみれはん、また無茶やってセット壊したやろ?」

 

その言葉に、大神は思わず苦笑いを浮かべた。

すみれはトップスターの自負のためか客に煽られてのアドリブが多く、そのために舞台のセットがしょっちゅう壊れているのだ。

まあ、今までで一番の被害は愛ゆえにの時のさくらなのだが。

 

「で、でもお客さんは喜んでくれたから………」

 

「そうやな、お客さんが喜んでくれるなら、しゃあないわな」

 

お客さんが喜んでくれる事が、舞台をやる人間にとって一番。

すみれのやり方は、間違いでは決してない。

幸い紅蘭も分かってくれたらしく、大神の言葉を肯定した。

 

「それじゃあ俺、みんなの所に行って来るよ」

 

そう言って、大神は舞台を後にする。

紅蘭は笑顔で見送ったが、大神の姿が見えなくなると、ため息をついた。

 

「しゃあない訳ないやろ………。この子らの事、何やと思うとるんや………」

 

紅蘭は工具を手に、舞台へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「やっと来てくれましたね、隊長」

 

楽屋に来た大神を、秀介が出迎えた。

既に楽屋には、紅蘭を除く花組メンバーが集まっている。

 

「今、明日の西遊記の千秋楽について会議をしていたんです」

 

「千秋楽の?」

 

「はい、殺陣を盛り上げるか、ストーリーをより高いものにするかで別れてまして………」

 

舞台の最後の公演を、千秋楽という。

見納めにと客が詰め込む訳なので、こちらとしては一番の稼ぎ時だ。

しかし、千秋楽には一度見た客が再び見に来るケースが少なくない。

そのため、何度も足を運んでくれた客への感謝として、千秋楽の舞台は最高の仕上がりを見せるのが、舞台を作る側の礼儀というものだ。

当然その舞台の見所を中心にグレードアップすれば良いのだが、この西遊記の千秋楽は見所が二つ存在する。

一つが全編通しての殺陣。

悪者オーラ満点の妖貴婦人を正義のヒーロー孫悟空がやっつけるシーンは、間違いなく見所と言えるだろう。

これは妖貴婦人を演じるすみれの考えであった。

 

「西遊記のハイライトは、何と言ってもこの立ち回りですわ。演じていて、客の注目がわかりますもの」

 

一方、西遊記におけるもう一つの見所。

それは、深いテーマを持ったストーリーである。

話の流れは、三蔵法師と旅をする孫悟空が、瀦八戒や挫五浄と共にとある町を苦しめる妖怪の首領、妖貴婦人を倒すという、いわゆる勧善懲悪なのだが、これに変化を加えて深い内容にしようというのだ。

これは、今回裏方として舞台を見る立場だったマリアの考えだった。

 

「殺陣のみでは、子供達は喜びますがストーリーが希薄になります。寧ろ高年齢層をターゲットに、練ったストーリーを見せるべきかと」

 

妖貴婦人は一見町から食べ物を奪う悪者だが、その背景には沢山の子分を空腹から救いたいという思いがあったという裏設定がある。

その事から、ただ妖貴婦人を倒せばいいのかという自問を、客にして貰おうというのだ。

結局協議の結果、殺陣中心派がすみれ、カンナ、アイリス。

ストーリー中心派がマリア、さくら、秀介となった。

大神は最後まで迷っていたが、結局は客は殺陣を期待するからという事で、殺陣中心に決定した。

 

「お~っほっほっほ!明日の千秋楽が楽しみですわね!」

 

自分の思った通りの結果に満足のすみれ。

そこへ、セットの修理を終えた紅蘭がやって来た。

 

「お疲れさん。千秋楽の方針は決まったかいな?」

 

「紅蘭、いい所に来ましたわ!」

 

紅蘭の姿を見るや、すみれが真っ先に飛んで来た。

 

「紅蘭、実は明日の千秋楽の事でお願いがありますの」

 

「お願い?まあウチに出来る事やったらええけど………」

 

「実は千秋楽は殺陣中心にグレードアップする事に決まりましたの。そこで、千秋楽用のセットを準備してほしいのですわ」

 

あれだけセットを壊してよく言うと思いつつ、大神は黙って話を聞いた。

 

「でも、そのセット千秋楽しか使わんのやろ?」

 

「いいではありませんの、一回だろうと。ほら、少尉も頼んで下さいまし」

 

「いいっ………!?」

 

余程セットの追加がほしいのか、すみれは近くの大神に同意を求めた。

大神は躊躇ったが、双方の気持ちを考えて遠慮がちに言った。

 

「…紅蘭、嫌ならいいんだ。でも、舞台を良くしたいすみれくんの気持ちは、分かってほしい………」

 

すると紅蘭は、ため息混じりに了承した。

 

「………ええよ。みんなで決めたんやろ?」

 

「さすがは紅蘭!話が早いですわ。では、千秋楽のセットお願いいたしますわね」

 

「うん。それじゃ、ウチ光武の整備があるから」

 

上機嫌のすみれにそう答えると、紅蘭は楽屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「………大神さん」

 

会議が解散になった後、さくらが大神を呼び止めた。

 

「さっきの紅蘭、なんだか元気がないと思いませんか?」

 

「さくらくんもそう思うか。俺もずっと気になっていた」

 

すみれとのやり取りの以前に袖幕で見た時から、どこと無く紅蘭の様子がいつもと違った。

今日の紅蘭は、笑顔に明らかに陰りがあった。

 

「もしかしたら、何かに悩んでいるのかも………。その時は大神さん」

 

「分かってる。支えてあげるんだよね」

 

「はい、お願いします。紅蘭はあたしにも悩みを言わない人だから………」

 

紅蘭は明るい反面、悩みを誰かに打ち明けようとしない人物だった。

ムードメーカーである以上、暗い雰囲気を花組の中に持ち込みたくないのだろう。

 

「それじゃあ大神さん、紅蘭の事お願いしますね」

 

そう言って、さくらは部屋に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

大神は簡単に帝劇内の見回りを済ませ、地下の格納庫に向かった。

中では大神達と共に戦う戦友、光武が横一列に並んでいる。

紅蘭は、そこにいた。

 

「ああ大神はん、どないしたん?」

 

大神の姿に、紅蘭は意外そうな顔で言った。

確かに、出撃でもないのに格納庫に人が来るのは珍しい。

他に用事があって来るような場所ではないし、整備は専門のプロに任せている。

大神も紅蘭に用事があったのであって、光武に用事があった訳ではなかった。

 

「紅蘭の様子が気になってね。さっき、元気がなかっただろう?」

 

「そうか、おおきにな大神はん。………せやけど、ウチの事は放っとってくれて構わんのやで?」

 

申し訳なさそうに背中を向けると、紅蘭は続けた。

 

「それに、この子らはウチがきちんと整備してやらんと。この子らにはウチが必要なんや」

 

「本当に、光武が好きなんだね。………でも、無理は良くないぞ?」

 

「………ウチの事は心配しても、この子らの心配はせんのやね」

 

「どういう意味だ?俺は紅蘭を心配して言っているんだぞ」

 

紅蘭にしては珍しく棘のある言葉に、大神は眉をひそめた。

すると、紅蘭は更に大神を睨みつけて来た。

 

「ほな、機械には代わりがあるんや。壊れても直せばええって言うんや!」

 

「紅蘭………」

 

大神は困惑した。

ここまで他人に攻撃的な紅蘭を見るのは初めてだったからだ。

 

「みんなで決めたか知らんけど、一回しか使われへんやなんて可哀相過ぎるやないか………」

 

その言葉に、大神は直感した。

紅蘭は楽屋でこそ言わなかったが、本当はすみれの考えに反対していたのだ。

しかしその時、格納庫内に警報が鳴り響いた。

 

「くっ、敵襲か!?」

 

ある意味最悪のタイミングだった。

 

「紅蘭、作戦司令室に急ぐぞ!」

 

「せ、せやけど光武の微調整がまだ………」

 

「今は動けばいい!事態は一刻を争うんだ!」

 

紅蘭の言葉を遮るように、大神が言った。

こんな夜間の襲撃では、住民の避難が完了していないはず。

すぐにでも出撃して、被害を抑えなければならなかった。

 

「………了解や」

 

その事に気を取られてか、大神は紅蘭の心情に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

既に作戦司令室には、大神と紅蘭を除くメンバー全員が集まっていた。

 

「大神一郎、李紅蘭、ただいま到着しました」

 

「よし、状況を」

 

米田の指示で、あやめが状況の説明をはじめた。

 

「襲撃地点は上野公園。夜間という事もあって、避難が完全ではないわ」

 

「急いで向かわないと、被害が拡大しますね!」

 

さくらの言葉が、今回の事態の緊急性を明確に表していた。

しかし、今正に出撃の命令が出されようという時に、待ったの声が上がった。

紅蘭である。

 

「そんなん言うても、まだ光武の整備は終わってへんのやで?」

 

「いいではありませんの。壊れても修理すれば良いだけの事ですわ」

 

「それ、どういう意味や………!」

 

あしらうようなすみれの言葉に、珍しく紅蘭が噛み付いた。

 

「ど、どうなさいましたの紅蘭!?」

 

「光武かてウチらの大事な仲間や。そんな冷たい事言わんといて!」

 

いつもと迫力の違う紅蘭に驚くすみれに、紅蘭は毅然と言い放った。

しかし、いつまでも悶着して出撃が遅れる訳にはいかない。

大神は一瞬考え、そして決断した。

 

「帝国華撃団花組、出撃! いいかみんな、光武の微調整が終わってない以上無理は出来ない。大事に扱うんだ!」

 

「大神はん………おおきにな」

 

残念ながら微調整が終わるまで待ってはいられない。

光武が壊れないように気をつけて扱う。

これが紅蘭に対して大神が出来る最善の処置だった。

 

 

 

 

 

 

「このままでは被害が広がる一方だわ………」

 

あちこちで火の手が上がる上野公園を見て、マリアが呟いた。

近くの屋台は破壊され、脇侍の機関銃による銃撃で負傷した人もいる。

早期の脇侍全滅が望まれた。

そんな中、紅蘭だけは不安げな表情で立っていた。

 

「(機械が、悪者やないのに………。)」

 

すると、紅蘭の様子に気づき、さくらが声をかけた。

 

「紅蘭、どうしたの?」

 

「いや………、何でもない………」

 

「………よし、魔装機兵を撃破して、被害を食い止めるぞ!」

 

紅蘭の様子は気になったが、これ以上上野を荒らされる訳にはいかない。

紅蘭の様子が戦いに影響ないと判断し、大神は命令を出した。

 

 

 

 

 

 

光武の微調整がないにも関わらず、花組は圧倒的な攻撃力で脇侍を撃破した。

しかし、紅蘭だけは戦ってこそいるものの、大神はどこか躊躇いがあるように見えた。

最も、今は脇侍を全滅させる事が重要なので、気にはしなかったが。

 

「ふう……やっと片付きましたわね」

 

最後の脇侍に薙刀を突き立て、すみれが言った。

暗くて視界が悪いため、周囲の状況がわかりにくいが、大体終わったと見ていいだろう。

 

「ふわぁ~………。アイリス……、もう寝る……。お休みなさ~い」

 

「ア、アイリス!?」

 

「仕方ないですよ、12時回ってますし………」

 

「ハハハ、それじゃあ戻ろうか」

 

既にまどろんでいるアイリスに微笑みつつそう言った時、大神は紅蘭の姿がない事に気づいた。

 

「あれ、紅蘭………?」

 

見ると、紅蘭は倒れた脇侍の側でじっと脇侍を見つめていた。

 

「何してんだ紅蘭? 脇侍の残骸なんて何もねぇだろ」

 

カンナの言葉に、紅蘭は答えなかった。

その時、紅蘭の前の脇侍の目が光り、起き上がった。

 

「紅蘭、危ない!」

 

動こうとしない紅蘭を見た大神は、咄嗟に脇侍の攻撃から紅蘭を庇った。

刹那、大神の光武から火花が飛び散る。

急に出力を上げ、脇侍の攻撃を受けたために、蒸気エンジンが不具合を起こしたのだ。

 

「お、大神はん!」

 

紅蘭が現実に戻ったのは、マリアが脇侍を射撃した時だった。

 

「隊長、トドメを!」

 

視界の悪いこの状況での遠距離攻撃は当てにくい。

そう判断したマリアは、トドメを大神に任せた。

大神もそれを理解し、光武を起こして二刀を構える。

その時、紅蘭が叫んだ。

 

「アカンで大神はん! 今光武に無理をさせたら、壊れてまう!」

 

「何っ………!」

 

その言葉に大神は一瞬躊躇い、二刀を下ろした。

 

「………分かった」

 

「そうや。あの脇侍はもう………」

 

紅蘭がいい終わらぬ内に、脇侍は倒れて今度こそ動かなくなった。

先程のマリアの狙撃で、活動限界が来たのだ。

 

「大神さん、大丈夫でしたか?」

 

花組の面々が大神の側に寄る。

火花こそ散っているが、幸い歩行にまで支障はないようだ。

 

「しかし紅蘭さん、何故隊長にやめてと?」

 

秀介が怪訝な表情で尋ねると、紅蘭はばつが悪そうに答えた。

 

「そ、それは……あれ以上無理したら光武が壊れたから………」

 

「何をおっしゃるの。マリアさんが助けなければ、少尉が危なかったのですわよ?」

 

大神が危険に晒されたためか、非難じみた口調ですみれが言った。

 

「紅蘭、黒之巣会が敵である以上、倒すのは当然でしょう?」

 

マリアの言葉に、紅蘭は答えなかった。

 

「(そうや………みんなにとって、脇侍を倒すんは当たり前なんや………。)」

 

ただ、悔しそうに歯噛みして、倒れた脇侍にこう言った。

 

「ゴメンやで………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………紅蘭が出て来ない?」

 

戦闘を終え、格納庫に戻った大神は、さくらの言葉に驚きを見せた。

 

「そうなんです。光武の中から出て来なくて………」

 

見ると、ほかの隊員達が紅蘭の光武の前に集まって、何やら騒いでいた。

 

「ほらほら紅蘭、肉まんだぞ~、美味いぞ~、出てこいよ~」

 

「………」

 

「紅蘭が肉まんごときで出て来る訳ないでしょう?カンナさんじゃあるまいし」

 

「何だとぉ~?じゃあお前ならどうするんだよ!」

 

「ほほほ、簡単ですわ」

 

そう言って、すみれは懐から真新しい工具を取り出した。

 

「ほら紅蘭、貴女の欲しがってた本場アメリカ製の工具ですわよ?」

 

「アイリスもお人形持って来たんだよ~。とっても可愛いよ~!」

 

「………で、みんなで説得しているらしいんですけど………」

 

さくらの言葉に、大神は呆れた表情を浮かべて三人を咎めた。

 

「みんな説得ならもう少し真面目にやれ!これじゃただのお祭り騒ぎじゃないか!」

 

「隊長の言う通りよ。こんな事で紅蘭が出て来ると思ってるの?」

 

「そんなものに釣られる位なら、閉じこもったりしませんよ!」

 

マリアや秀介も厳しい口調で注意する。

すると、すみれが秀介に反論した。

 

「何をおっしゃる秀介さん!お祭り好きの紅蘭の事、こうすれば出て来るはず………。名付けて、『天岩戸作戦』ですわ!」

 

「何言ってるの! そんなの上手くいく訳ないでしょう!」

 

すみれの意見をバッサリ切り捨て、マリアは紅蘭に説得を試みた。

 

「紅蘭もいい加減になさい。今回のミスは、貴女の責任じゃないのよ?」

 

自分の失敗で大神を危険に晒した責任感から、みんなに会わせる顔がない。

そう考えたマリアだったが、紅蘭が閉じこもったのはそんな理由ではなかった。

 

「………もうええやろ………。放っといてんか………」

 

光武の中から聞こえて来たのは、実に無気力な返事だった。

 

「みんなはこの子らの事……、光武の事、分かりとないんやろ?」

 

「紅蘭、出て来ないならハッチをこじ開けるわよ?」

 

痺れを切らしたマリアがそう言うと、紅蘭は一転して怒鳴り返した。

 

「そんな考えやから、千秋楽でしか使わんセットを作れなんて言えるんや! 機械が壊れても直せばいいやなんて言えるんや!!」

 

「………ま、まさかあの時の………」

 

「すみれはんだけやない! みんな同じ事言うた! 大っ嫌いや!!」

 

いつもの明るい紅蘭はそこにはいなかった。

恐らく今まで我慢していたものが爆発したのだろう。

紅蘭の怒りは、尋常ではなかった。

 

「人間なんかより、機械の方がええ!! この子らはウチを必要としてくれる………必要としてくれるんや!!」

 

言葉の最後には、啜り泣く声が混じっていた。

大神も、マリアも、秀介も、誰も声をかけられなかった。

 

「………行きましょう。ここにいつまでもいても仕方ないわ」

 

マリアの言葉に、全員が頷いた。

こういう時は下手に口出しせずに、本人が落ち着くのを待つしかないからだ。

隊員達はみんな、それを理解していた。

 

「紅蘭………」

 

大神は一人、格納庫に残った。

そっとしておくべきとはいえ、ひとりきりにするのは心細いだろうと考えたからだ。

 

「俺達は今まで、機械を紅蘭ほど大切にしなかったと思う。でも紅蘭の言う機械の事を、知りたくない訳じゃないんだ」

 

「………」

 

「教えてくれないか?機械の事を………」

 

「………」

 

「俺は、いつまでも待ってるから………」

 

「………」

 

「紅蘭………」

 

大神は一つだけハッチの閉じた光武と向かい合って座り、紅蘭からの返事を待った。

しかし、返ってくるのは啜り泣く声だけだった。

大神には、それが実際に光武が泣いているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

一夜明け、未だ沈黙を保ったままの格納庫にあやめがやって来た。

 

「大神君、紅蘭の様子はどう?」

 

「はい、まだ何も………」

 

大神の報告に、あやめは残念そうな表情を見せたが、すぐにそれを打ち消した。

 

「それじゃあ大神君、これから支配人室に来て貰える?紅蘭の事で、見て貰いたいものがあるの」

 

「紅蘭の事で………?了解しました」

 

紅蘭を一人にするのは忍びないが、大神は上官であるあやめの指示を優先させ、格納庫を出た。

 

「光武………。ウチ、もう疲れた………」

 

自分以外誰もいなくなった格納庫内で、紅蘭は力無く呟いた。

 

「誰もお前らの事………、分かってくれんのやな………。誰も………」

 

 

 

 

 

「よし。あやめくん、始めてくれ」

 

大神が支配人室に到着すると、米田があやめに指示を出した。

 

「大神、お前にはこれから、欧州星組の映像を見てもらう」

 

「欧州星組?」

 

初めて聞く部隊の名前に、大神は疑問符を浮かべた。

 

「欧州星組は、いまから4年程前に結成された帝国華撃団の実験部隊だ」

 

米田が簡単に説明した所で、映写機の設置が完了した。

 

「支配人」

 

「………始めてくれ」

 

カーテンがかけられ、暗闇に包まれた支配人室。

映写機は、フィルムを再生させはじめた。

 

 

 

ヨーロッパのとある国。

欧州大戦の舞台となったそこに、五つの霊子甲冑が現れた。

名前はアイゼンクライト。

ドイツ語で、鉄のドレスという意味だ。

五つのアイゼンクライトを身に纏ったのは、全員アイリス程の年齢の少年少女達だった。

銃弾が飛び交い、あちこちが燃える町の中に五つのアイゼンクライトは飛び込んだ。

大砲の直撃をものともせず、戦車を軽く叩き潰すその様は、正しく機械同士の殺し合いだった。

 

 

 

「………これは以前、花やしきで紅蘭が見た映像だ。今思えば、悪い事をしちまった」

 

米田の表情には、後悔の色が濃く出ていた。

この欧州星組の映像は、光武を設計する参考資料ではあるが、同時に機械同士の殺し合いを指摘するものでもあった。

 

「大神君、これを見た時の紅蘭の気持ち………。分かるわよね?」

 

「はい………。今の俺以上に、辛かったと思います」

 

紅蘭は機械が人を喜ばせる事を夢見ている。

しかし、このアイゼンクライトが齎しているのは、夢ではなく殺戮だった。

機械が人を殺すために使われる………。

紅蘭にとってこれ程辛く、悲しい事はなかった。

 

「俺…、紅蘭ともう一度話し合って見ます」

 

そう言うと、大神は支配人室を後にし、格納庫へ急いだ。

 

「なるほど………。あいつを選んだ俺達の目は正しかったな、あやめくん」

 

「ええ、私達の出る幕はありませんね」

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは………!」

 

格納庫に来た大神は、驚きの声を上げた。

先程まであった紅蘭の緑色の光武が、忽然と姿を消していたのだ。

大神の脳裏を悪い予感が過ぎる。

 

「………あっちか!早まるな、紅蘭!!」

 

光武が歩行する時の金属音を追いかけ、大神は紅蘭機の前に立った。

 

「待ってくれ紅蘭!早まるんじゃない!」

 

大神が必死に叫ぶと、無気力な声が返ってきた。

 

「大神はん……、昨日はおおきにな。ウチ、大神はんが側におると安心したわ………」

 

「紅蘭!俺の話を聞いてくれ!」

 

「それでな、ウチ考えたんや………。ここにいてええんかなって………」

 

そうは言っているが、本心では離れたくない事が見え見えだった。

本当に出ていくつもりなら、大神を突き飛ばして行くはずだ。

しかし、紅蘭は大神の前で立ち止まっている。

本当は今の一言を、大神に否定してほしいのだ。

それは、大神もよく分かっていた。

 

「紅蘭、俺は帝都の平和を守ろうとするあまり、光武の真の意義に気づかなかった。機械が武器でなく、希望である事を理解していなかった」

 

「大神はん………」

 

「だから、教えてくれないか?光武の真の意味を………」

 

すると、大神のその言葉を待ちわびたように、光武のハッチが開かれた。

 

「大神はん………。すんまへん………ウチ………」

 

「紅蘭………」

 

両目一杯に涙を溜めた紅蘭に、大神は優しく笑いかける。

そして、紅蘭は大神の胸に飛び込んだ。

 

「わああああ………!!」

 

 

 

 

「……へへ。思い切り泣いたら、なんかスッキリしたわ」

 

大神と並んで座ると、紅蘭はポツリポツリと話しはじめた。

 

「あんな、大神はん。ウチ、昔から友達おらんかってん。いっつも誰とも遊ばんと、一人で機械をいじくっとった」

 

そして、紅蘭はポケットから一つの懐中時計を取り出した。

 

「強いて友達と呼べるんは、父様の形見の懐中時計位やった………」

 

「形見の………?………差し支えなければ、聞かせてくれるかい?」

 

辛い記憶である事を察し、大神は遠慮がちに尋ねた。

すると、紅蘭は意外にも笑って話してくれた。

 

「父様が死ぬ前に、ウチにくれたんや。日本に行って、平和に暮らせ言うてな。ほいで父様の知り合いの、ドイツ人のパーシーはんっちゅう機械技師の人の所で世話になったんや」

 

懐中時計は既に壊れているのか、針が動いていない。

 

「夢みたいな毎日やった。………あんな事言われるまでは」

 

「あんな事………?」

 

「ウチはパーシーはんと、自動庭仕事ロボットを作ったんや。けど、それをパーシーはんのおばはんに見せたら、急に怯えて人殺しって叫んだんや」

 

その言葉に、大神は欧州大戦の映像を思い出した。

 

「それから、ウチ花やしきで見てしもうたんや。欧州大戦と星組を………」

 

「俺も見た。さっき米田司令が見せてくれた」

 

「確かにあれやったら、機械が人殺しに見えるかもしれへん。けど、違うんや!」

 

紅蘭は膝を抱える手に力を込めた。

 

「人が人を殺すんや! 機械を使うてる人間が、悪い事をしてるんや!」

 

紅蘭の言葉は正しかった。

機械はただ使う者に従うだけで、悪意をもって事に及んでいる訳ではないのだ。

それは、あの脇侍にも同じ事が言えた。

 

「………なあ大神はん。ええ機械って、どういう機械やと思う?」

 

「………人を幸せにする機械じゃないか?」

 

「そういう考え、ウチ大好きやねんけど………残念、ハズレや」

 

大神と話してる内に、紅蘭は少しずつではあるが、笑顔を取り戻しつつあった。

 

「ええ機械っちゅうんは、作られた目的をきちんと達成する機械なんや。『設計思想』っちゅうんやけどな、機械を作る時、作る人間は機械にこう動いてほしいと考えるもんなんよ」

 

紅蘭は光武を見上げて続けた。

 

「この光武を設計した山崎はんっちゅう人はな、設計図の裏にこう書いとった。この霊子甲冑が、人々の希望になりますようにって………」

 

「希望………」

 

「そうや。その願いは光武も同じやねん。人間と機械は、設計思想を通じて分かり合えるんや」

 

機械は単に使われるためではなく、人と分かり合うために存在する………。

紅蘭の考えは大神の中の機械に対する認識を、大きく変えた。

 

「それやのにみんな、壊れたら直せばええとか、一回使えればええとか、機械を本当に理解したら、そんなん言えんはずや」

 

「紅蘭、それを花組のみんな………いや、世界中の人達に伝えよう。みんなはまだ、機械との付き合い方を知らないだけなんだ」

 

大神がそう言った時、後ろから別の声が聞こえて来た。

 

「そうですわ。ちゃんと言って下されば、私達だってそれなりの努力をいたしますわ」

 

「す、すみれはん! それにみんなも………」

 

見ると、花組のメンバーが笑顔で佇んでいた。

みんな紅蘭が気になって、大神を追って来たのだ。

 

「紅蘭っていつも我慢して、本音を飲み込んでしまうでしょう?一言言って下されば、私達だってちゃんと機械を考えますわ」

 

「すみれはん…、ウチ謝らな………酷い事言うて」

 

「お互い様ですわ。これからは沢山話しましょう。機械の事も、私達の事も………」

 

「すみれはん………」

 

嬉しさのあまり目を潤ませる紅蘭。

すると、さくらと秀介がすみれに尋ねた。

 

「ねぇすみれさん、アレは渡さないんですか?」

 

「僕を一晩質問責めにしたんですからね」

 

「分かってますわよ。それで紅蘭、昨晩かけて、千秋楽のセットを考えましたの。西遊記だけでなく、ほかの舞台に応用出来るように」

 

そう言って、すみれは紅蘭にセットの設計図を見せた。

昨日の一件で責任を感じたすみれは、大道具に詳しい秀介の部屋に押しかけて、一晩中かけてセットの設計図を作ったのである。

これからの舞台にずっと役立ってほしいという、すみれの設計思想を持って。

 

「………凄いで、すみれはん! これなら外見の形を変えて、色んな舞台に応用出来る!」

 

「よっしゃあ! これで今日の芝居もすげぇ舞台になりそうだな!」

 

カンナがそう笑った時、格納庫内にけたたましい警報の音が鳴り響いた。

 

「緊急警報! 緊急警報! 黒之巣会が出現。帝国華撃団花組は、大至急作戦司令室に集合してください!」

 

大神はすぐさま指示を出した。

 

「みんな、行くぞっ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回は全員揃ってるな。みんな、いい顔だ」

 

集合した隊員達を見渡して、米田が言った。

 

「敵の出現地点は?」

 

「芝公園よ。今回は黒之巣会の首領、天海自らが指揮をとっているわ」

 

あやめの言葉に、紅蘭が反応した。

 

「天海………! 機械に悪い事をさせとる張本人やな!」

 

その目には、怒りの炎が燃えたぎっている。

機械を悪に利用する天海を、紅蘭が許すはずがなかった。

 

「ウチはこういう奴が一番許せへんのや! 大神はん、出撃命令を!」

 

「よし、帝国華撃団花組、出撃! 天海をぶっ飛ばすぞ!!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今や帝都の観光名所ともなった帝都タワーのある芝公園。

そこに、脇侍達は再び現れた。

 

「脇侍ども! この汚れきった帝都を破壊するのだ! さあ、行けい!!」

 

天海の命令を受け、脇侍達はいつものように破壊活動を開始する。

しかし、それを許さない者達がいた。

 

「そこまでや!!」

 

力強い声と同時に、空から八つの機体が舞い降りた。

 

「帝国華撃団、参上!」

 

「来おったか! 帝国華撃団!」

 

薄ら笑いを浮かべる天海と、芝公園を荒らし回る脇侍の姿。

紅蘭はそれを見て、怒りを露にした。

 

「天海………許さへん! 機械達に、こんな悪い事させてからに!」

 

それは機械と分かり合った、機械を愛する者の怒りだった。

 

「みんなお願いや! この子らには、もう悪ささせとうないんや! ホンマは壊しとうないけど………、この子らを救うにはこれしかないから」

 

「分かっているさ。みんな行くぞっ!天海を倒すんだ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

脇侍の数は昨夜の上野公園の倍近くだったが、到底花組に及ぶものではなかった。

最初は数にものをいわせていた脇侍は瞬く間に数を減らし、10分もしない内に天海を守る数体を残して全滅していた。

 

「………なあ、大神はん」

 

その時、紅蘭が通信で大神に話しかけた。

 

「分かってるんや。脇侍達を救うには倒すしかないて………。頭では分かってるのに………」

 

脇侍は確かに帝都の平和を脅かす存在だ。

しかし、自分から黒之巣会に忠誠を誓っているのではない。

天海の命令で動いているのだ。

言うなれば、脇侍もまた黒之巣会の犠牲者だった。

 

「心が痛いんや。もう、でけへん………ウチには………」

 

紅蘭の胸に去来するであろう虚しさを感じ、誰もが紅蘭に言葉を返せない。

しかし一人、それを笑う者がいた。

黒之巣会首領、天海である。

 

「あの緑色の霊子甲冑を狙え! 動きを止めた今が好機じゃ!」

 

すると、命令を受けた脇侍達が四方から紅蘭に迫って来た。

 

「紅蘭、戦うんだ! そのままではやられてしまう!」

 

「ウチ………ウチ………」

 

大神が叫ぶが、紅蘭は完全に戦意を失っていた。

 

「同じ機械同士やのに、どうして壊し合わんとアカンのや! アンタら脇侍かて、壊されるために作られたんとちゃうんやろ!?」

 

聞こえるはずもない相手に、心の叫びをぶつける紅蘭。

希望のために生まれて来た機械が壊し合う事が、辛く悲しかった。

 

「もう………、嫌なんや……」

 

「紅蘭、戦うんだ!」

 

大神が叫ぶ間にも、脇侍は紅蘭に迫る。

そして、一体の脇侍が紅蘭目掛けて太刀を突き出した。

 

「紅蘭っ!!」

 

大神が叫んだ瞬間、突然紅蘭の光武が輝きを放った。

その光に驚き、脇侍達は攻撃をやめる。

 

「な、なんや………?光武、ウチに何か言いたいんか………?」

 

紅蘭も一瞬何があったか分からず呆然とする。

そんな紅蘭の心に、何かが語りかけて来た。

 

「光武………、ウチの事守ってくれるんか……?」

 

紅蘭が尋ねると、光はそれを肯定するように輝きを増した。

 

「紅蘭、大丈夫か!?」

 

「大神はん…、光武が……光武が話し掛けて来たんや。人の役に立ちたいて、設計者の気持ちに応えたいて言うて………。ウチを守りたいて、言うてくれたんや!」

 

紅蘭は瞳を輝かせて言った。

それは、機械と真に心を通わせた紅蘭だからこそ聞こえる光武の声だった。

 

「それが、光武の願いなんだよ。紅蘭も言ってたじゃないか。光武が人々の希望になるって………」

 

「そうやったな………! 機械達の願いを、ウチが叶えたらなアカンもんな!」

 

機械と人間は分かり合える。

それが紅蘭の願いであり、機械の願いであった。

 

「行くで、光武! ウチと一緒に、平和のために戦うんや!」

 

紅蘭と光武が一体化したかのように、光武の輝きが照射となって放たれた。

すると、信じられない事が起こった。

その照射を受けた脇侍達が攻撃をやめたのだ。

まるで、光武の声に同意するかのように。

これに一番驚いたのは、外ならぬ天海だった。

 

「馬鹿な! 脇侍が活動停止するとは………!」

 

照射で内部の蒸気演算機が破壊されたか、または別の理由か。

いくら命令しても、脇侍達が動く気配はなかった。

 

「役立たずめ………! 自爆しろ! 我に逆らう者は全て死ね!」

 

すると、紅蘭の周囲に立ち尽くしていた脇侍達が一斉に爆発した。

 

「天海………! 何ちゅう事するんや!」

 

信じられないという表情で紅蘭が叫ぶ。

すると、天海は当然の如く言った。

 

「クズは潰す。当然であろう。お前達もすぐに始末してやるわ!」

 

その言葉で、紅蘭の中の何かがキレた。

 

「お前はもう喋るな!! 天海! ウチは許さへんで!!」

 

「だったらどうする?我を殺すか?やれるものならやってみろ!!」

 

怒りに身を震わせる紅蘭に嘲笑を返すと、天海は目の前に巨大な魔法陣を出現させ、配下の魔装機兵を召喚した。

その姿に、大神は見覚えがあった。

 

「あれは………、刹那と羅刹!?」

 

自分達を大いに苦しめた死天王兄弟。

緑の蒼角と銀の銀角だった。

 

「この程度は序の口に過ぎん! いでよ、超力怪獣ゴルドラス!!」

 

すると、今度は蒼角と銀角の後ろに金色の皮膚と巨大な角を持つ大怪獣が現れた。

 

「………なるほど、シルバゴンを改造した訳ですか!」

 

そう吐き捨てながら、秀介は流星を自動操縦に切り替え、ブレスレットを掲げ叫んだ。

 

 

 

「ジャーーーーーック!!」

 

 

 

「シュワッ!」

 

変身したジャックは、ゴルドラスと対峙するように降り立った。

 

「こやつらが相手になってくれるわ! 来い! 帝国華撃団! ウルトラマンジャック!!」

 

あくまで自分の手を汚さない考えなのか、天海は転移魔術で消え失せた。

 

「隊長!怪獣はウルトラマンに任せましょう」

 

「そうだな、敵は二体いる。こちらも二手に分かれて戦うぞ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

「へへっ! てめぇみたいな力自慢とは、一度派手にやり合って見たかったぜ!」

 

目の前の銀角に対峙し、カンナは拳を鳴らした。

すると、その隣にいるすみれがため息をついた。

 

「全くカンナさん、少しは緊張感を持っては如何?」

 

「何だと! お前には言われたくねぇよ!」

 

すみれに喰ってかかるカンナ。

その時、アイリスが叫んだ。

 

「カンナ、来たよ!」

 

見ると、銀角が無言のままカンナ機に襲い掛かって来た。

 

「おっと!」

 

凄まじい勢いの鉄球を左手の爪で防ぐ。

そして、そこを支点に体を時計回りに回転させた。

 

「喰らえ、一百林碑!!」

 

遠心力を加えた右手の一撃が、銀角の体をわずかに押し出す。

そこへ、すみれ機が颯爽と躍りかかった。

 

「神崎風塵流奥義、胡蝶の舞!!」

 

零距離からの火柱を受け、銀角は瞬く間に炎に包まれた。

 

「おーっほっほっほ! 私に掛かればこの位朝飯前ですわ!」

 

トドメが華麗に決まり、大見栄をきるすみれ。

すると、背後からカンナの野次が飛んだ。

 

「てめぇ………。せっかく繋いでやってそれかよ………」

 

見ると、カンナ機はあちらこちらが火にまかれて煤こけていた。

すみれの胡蝶の舞が、カンナ機を巻き込んでしまったからだ。

 

「あ~ら、カンナさんは元々黒いですから関係ありませんわ~!」

 

「カンナ、アイリスが治してあげるね。イリス・マリオネーーーット!」

 

「ちぇ、覚えてろよヘビ女………」

 

アイリスに治療してもらいながら、カンナはすみれへの仕返しを誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

カンナ、すみれ、アイリスの三人に銀角を任せた大神達は、帝都タワーの前で蒼角と戦っていた。

 

「何てスピード………! 以前の比ではないわ」

 

以前に増して素早い蒼角に、四人は苦戦を強いられていた。

 

「(このままではマズイ。考えるんだ大神一郎!)」

 

残像すら見える程の速さを目で追う事は不可能。

その時、大神はピンと閃いた。

 

「そうだ! これなら………!」

 

「お、大神さん!?」

 

さくらは思わず驚きの声を上げた。

何と大神は、蒼角が動き回るど真ん中に飛び込んだのである。

 

「何してんねん大神はん!」

 

「隊長、危険です!」

 

紅蘭やマリアが叫ぶより早く、蒼角が大神機に襲い掛かった。

だが、これこそ大神の狙っていた瞬間だった。

 

「狼虎滅却、国士無双!!」

 

二刀に黄色い稲妻を宿らせ、それを自分中心に四方八方に炸裂させた。

捕まらないなら近くにおびき寄せればいい。

大神の大胆かつ巧妙な作戦だった。

蒼角は思わぬカウンターで、一瞬動きが止まる。

 

「マリア、今だ!!」

 

大神が叫んだ。

マリアも大神の考えを察して必殺技を放った。

 

「スネグーラチカ!!」

 

凍てつく一撃が蒼角を地面にたたき付ける。

そこへ、さくらが追い討ちをかけた。

 

「破邪剣聖………、桜花放心!!」

 

太刀に沿った霊力の鎌鼬が蒼角を切り付ける。

そこへ、紅蘭がトドメを放った。

 

「チビロボ軍団、突進!!」

 

紅蘭機の大砲から沢山のチビロボが飛び出し、蒼角に飛び込んで大爆発させた。

 

 

 

 

 

 

 

「グアアアア!」

 

ゴルドラスが角を突き立て突進して来た。

 

「ヘッ!」

 

ジャックは角を掴んで押し止めようとするが、いかんせんゴルドラスは力が強く、ジャックはジリジリと追い詰められていた。

 

「シュワッ!」

 

何とか押し返してスペシウム光線を放つ。

しかし、ゴルドラスは角からバリアを出現させ、スペシウムをいなしてしまった。

 

「ヘッ!?」

 

驚くジャックに、ゴルドラスは今度は角から光線を浴びせてきた。

 

「ァアッ!」

 

光線をもろに受けて跳ね飛ばされるジャック。

そこへ、追い討ちとばかりにゴルドラスがのしかかって来た。

 

「グアアアア!」

 

「ヘッ………!」

 

必死に押し返そうとするジャックだが、6万トンの巨体はそう簡単に動かない。

 

「(何か…、何か弱点はないのか………!?)」

 

ゴルドラスを押し返しながら、ジャックは考えた。

シルバゴンの進化体ならば、弱点は共通のはず。

シルバゴンの弱点と言えば………。

 

「(………そうだ!)」

 

何かに閃いたジャックは、ゴルドラスの腹を蹴飛ばした。

 

「シュワッ!」

 

そしてゴルドラスが起き上がる前に、両手をカラータイマーに沿え、右手にスペシウムを集中した。

ウルトラスラッシュ………スペシウムを円形鋸にして相手を斬る切断技である。

 

「トァッ!」

 

外回りの後突き出された右手の軌道に添ってスラッシュが出現し、ゴルドラスの角に殺到する。

シルバゴンの時と同様、角が弱点と判断したのである。

………だが。

 

「グアッ!」

 

何とゴルドラスは、再びバリアを張ってウルトラスラッシュを弾いたのである。

 

「ヘッ!?」

 

せっかくのチャンスを潰され、ジャックは焦った。

あの角を破壊しない限り、必殺技は届かない。

 

「(それなら………!)」

 

ジャックは一か八か、ゴルドラスに突進した。

 

「グアアアア!」

 

すかさず角から光線が発射される。

その瞬間、ジャックは空高く跳び上がった。

 

「グアッ!?」

 

突然消えたジャックに驚き左右をキョロキョロと見渡すゴルドラス。

ジャックはゴルドラスの頭上から、キックの体勢で急降下した。

流星キック………敵の真ん前でジャンプして意表を突き、真上からキックを叩き込む荒業だ。

 

「ヘアァッ!!」

 

落下のスピードを加えたキックはゴルドラスの角を直撃。

文字通り粉砕した。

 

「シュワッ!」

 

さらにトドメを刺すべく、ジャックはスペシウム光線を放った。

しかし、又してもスペシウムは通じなかった。

 

「ヘッ!?」

 

何とゴルドラスの強固な皮膚は、スペシウムを寄せ付けなかったのだ。

ゴルドラス自体は角を破壊された事で弱っているが、それはジャックも同じだった。

今のスペシウムで、カラータイマーが点滅を開始していたのだ。

 

「(………仕方ない。)」

 

ジャックは構えを解いて一度深呼吸すると、両腕を十字ではなくL字に組んだ。

シネラマショット………スペシウム以上の絶大な威力で敵を爆殺する、ジャック最強の光線技だ。

しかしエネルギー消費がスペシウムの比ではなく、ここぞという時にしか使えない大技だった。

 

「シュワァァッ!!」

 

気合いの声とともに金色の破壊光線が発射され、ゴルドラスをたちまち大爆発させた。

 

「シュワッ。」

 

それを確認すると、ジャックは空へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

「くっそ~、あのハゲ親父! 今度会ったらギタギタやで!」

 

「まあまあ、勝ったんだからいいじゃないか」

 

天海を取り逃がし、怒りの煮え切らない紅蘭を大神が宥める。

すると、徐にすみれが呟いた。

 

「機械も中々やりますのね。流石は私達の仲間です事」

 

「中々人の事を褒めないすみれさんが、機械を褒めるなんて……!」

 

「明日大地震でも来るんじゃないですか?」

 

「な、何をおっしゃるやら。機械なんて所詮、使われるためにあるのですわ!」

 

あからさまに驚くさくらと秀介に慌てて弁解するすみれ。

すると、カンナが先程の仕返しとばかりに噛み付いた。

 

「お前は人間も使いまくるだろ! ……まあ、人間と機械を平等に見てるって事だよな」

 

「それじゃあすみれの光武も、すみれの事高飛車って思ってるのかな?」

 

「アハハ、そんな事あらへん。きっとすみれはんの光武も、そんなすみれはんが好きなんやろ」

 

アイリスの疑問に、紅蘭が笑って応えた。

 

「まあ、我が儘が過ぎたら愛想尽かされるんは、機械も人間も一緒やけどな」

 

「も、もう………知りません! 好きに言えばいいですわ!」

 

好き勝手に言われ、すみれがそっぽを向く。

その様子に微笑みながら、マリアが言った。

 

「それじゃあ、いつものやりましょうか。紅蘭、お願いね」

 

「よっしゃ、任しとき!」

 

 

 

「勝利のポーズ………、決めっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あれがすみれくんの設計したセットかい?」

 

舞台袖で芝居を見守りつつ、大神が紅蘭に尋ねた。

 

「そうや。筋斗雲型ロボット、その名も『キントくん』や」

 

カンナの役である孫悟空の操る筋斗雲を摸した形の、役者を宙に浮かせるセット。

それがキントくんだった。

確かに宙に浮くシーンなら、外の飾りを変えるだけで沢山使える。

しかし、何やらキントくんからモクモクと煙が立ち始めた。

 

「あ、あれ………」

 

ちなみにアイリスはかつてこう言っていた。

 

「紅蘭、いつもドッカーンってやるんだもん。」

 

正に今がそれだった。

 

「あ~れ~!?」

 

「お、おわわわわわわっ!!」

 

これから活躍するはずのキントくんは、初舞台であっさり故障してしまった。

カンナとすみれは重なるように倒れている。

 

「こ、これは………アレや!設計思想っちゅう奴や!」

 

慌てて弁解を始める紅蘭だが、冷や汗をかいている辺りから、単なる故障なのは見え見えである。

 

「きっとすみれはんが、カンナはんに一泡吹かそう思うてたから、キントくんが気を効かして………」

 

「………紅蘭」

 

「アハハ…、こんなはずやなかったのに………。二人とも、無事か~!?」

 

大神に非難の目を向けられ、紅蘭は慌てて二人の救助に向かった。

 

「………でも、お客さんは喜んでくれたし、紅蘭の発明も、案外役に立っているのかもな」

 

大神がそう言った矢先、煙を上げていたキントくんが再び爆発した。

 

「トホホ………、人間と機械が分かり合える日って、まだまだ先なんかなぁ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここか、奴らの隠れ家は」

 

同時刻、蜩の姿は帝劇の地下格納庫にあった。

 

「帝国華撃団………、ウルトラマンジャック………、この次は覚悟しておくがいい!」




《次回予告》

秀介さん大変です。黒之巣会が帝都に魔術を!
このままじゃ、あたし達の帝都が………!

次回、サクラ大戦!
《帝都最期の日!?》

大正桜にロマンの嵐!

笑顔を……見せて下さい……
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