桜舞う星   作:サマエル

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決戦!愛のために

「………これが六破星降魔陣か。凄まじい威力だな」

 

高台から壊滅した帝都を見下ろし、叉丹が呟いた。

 

「さて、帝国華撃団。どう出るかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「………あやめさん。さくらさんの容態は?」

 

医務室から出て来たあやめに、秀介は逸る気持ちを抑えて尋ねた。

その隣には、大神の姿もある。

あやめは一瞬躊躇ったが、事実を口にした。

 

「………芳しくない状態よ。一緒に来てちょうだい」

 

あやめに連れられて二人が向かったのは、医務室の奥にある医療ポッドだった。

集中治療が必要な時に使用する紅蘭の発明品で、大神も以前、築地で刹那にやられた時に世話になった。

さくらは、その中の一つに眠るようにして横たわっていた。

 

「さくらさん………」

 

呼び掛けても返事は返って来ない。

死んだような無表情のままだ。

 

「目を開けて下さい、さくらさん。まだ………、貴女の答えを聞いていません」

 

胸に込み上げる熱いものを堪えて、秀介が声をかける。

その様子にいたたまれなくなり、大神はあやめに尋ねた。

 

「あやめさん、さくらくんは一体………?」

 

「恐らく、六破星降魔陣のショックで『トランス状態』になったと考えるべきね」

 

「『トランス状態』とは?」

 

「霊力などの強い人間が、他の力に過敏に反応する、一種の催眠状態の事よ」

 

トランス状態。

それはあやめの言う通り、霊力の強いものが別の強い力に反応する現象を指す。

そのショックの度合いはその人物の霊力の高さに比例して強くなり、場合によってはショック死する場合もある。

さくらは特に、その身に北辰流の破邪の力を持つため、霊力の度合いがかなり高い。

そして、ショックの引き金が六破星降魔陣と仮定すれば、納得がいく。

 

「………目覚める見込みは………、あるんですか?」

 

秀介が尋ねた。

あやめは少しの間黙っていたが、やがて話し始めた。

 

「こればかりは、私にも何とも言えないわ。さくらは精神が不安定になってる。彼女自身でなければ、目覚める事はないわ」

 

「そ、そんな………!」

 

驚きの声を上げる大神と対照的に、秀介は何も言わなかった。

ただ、ガラス越しにさくらを見つめ続けていた。

その様子を見て、あやめは大神に目配せした。

 

「………大神君」

 

「はい、失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

「大神はん、さくらはんはどうやった?」

 

「少尉、さくらさんは大丈夫ですの?」

 

「お兄ちゃん………」

 

医務室から出て来た大神に、隊員達が殺到した。

あれだけさくらが苦しむ姿を目の当たりにしたのだから、当然である。

 

「大丈夫だ。今治療を受けているが頭を打った程度で、酷い怪我じゃない」

 

大神は、敢えて嘘をついた。

仲間思いの花組の事だ。本当の事を話せば、一も二もなく医務室に飛び込むだろう。

今は、秀介をさくらと二人きりにしてあげたかった。

 

「そっか、それなら安心だな」

 

「ほんまやで。倒れた時はウチも肝を冷やしてもうたけど………」

 

「さあ、作戦司令室に集まりましょう。今後の対策を立てないと」

 

マリアの言葉に全員が同意し、作戦司令室に向かう。

 

「秀介………さくらくん………」

 

扉の前でそう呟くと、大神は隊員達の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

「大神はん、どないしたん?」

 

作戦司令室に向かおうとした大神の前に、紅蘭が戻って来た。

 

「や、やあ紅蘭。先に行ったんじゃなかったのかい?」

 

無理に笑顔を作って見せる大神。

しかし、紅蘭はそれにため息を返した。

 

「………アカン。大神はん、元気ないんがバルバレやん」

 

「え………?それじゃあ………」

 

「気づいとるに決まってるやん。秀介はんを一人にさせたかったんやろ?」

 

図星を言い当てられ、大神は肩を竦めた。

何の事はない。

紅蘭は分かっていてわざと乗ったのだ。

 

「大丈夫や。ウチ、さくらはんと秀介はんを信じとるさかい。大神はんも、二人を信じたって。な?」

 

「紅蘭………ありがとう」

 

元気づけてくれる紅蘭に、大神は礼を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

医務室に一人残った秀介は、瞬きもせずにさくらを見つめていた。

数ヶ月前に上野で出会ってから、抱き続けた思い。

それが、ようやく実を結んだと思ったのは、つい数分前の事だ。

 

「さくらさん………」

 

もう一度呼び掛ける。

やはり、返事はない。

 

「僕は………」

 

秀介の目が、ブレスレットに移った。

 

「僕は………」

 

 

 

 

 

「ヒャハハハハハハハハ!我は黒之巣会首領、天海!この汚れきった帝都を浄化し、偉大な徳川幕府を再興する者なり!」

 

帝都の夜空に、天海の笑い声がこだました。

 

「帝都の哀れな市民諸君に継ぐ。お前達の猶予は一時間だ。それまでに日本政府は幕府に全ての権限と保有金百億、そして陸軍中将の命を差し出せ!」

 

陸軍中将。

それは、帝国華撃団総司令、米田一基に他ならなかった。

 

「約束が守られぬ時は、帝都に地獄が訪れる。覚えておくがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

「………俺の命が欲しいだと?面白い!天海、差し違えてやるぜ!」

 

政府から報告された天海の要求を聞くや、米田は立ち上がった。

その剣幕は、本当に天海の下へ乗り込んでしまいかねない程、激しいものだった。

 

「長官!」

 

慌ててマリアが止めようとするが、米田は聞かなかった。

 

「どけ!せっかく奴が死に場所をくれたんだ!行かなきゃ軍人の恥ってもんだ!」

 

しかし、そこに頑として止める者がいた。

大神である。

 

「いいえ、どきません!米田司令ではなく、俺達が行きます!それに、俺達は死に場所を求めるんじゃない………!」

 

「な、何!?」

 

「天海を倒し、未来を掴むために、俺達は戦うんです!」

 

その言葉に、米田は氷水を浴びたように、自身の頭が冷めるのを感じた。

 

「そうか………そうだったな」

 

米田が落ち着いてくれたところで、すみれが口を開いた。

 

「警察や軍隊は、市民の避難を完了させましたの?」

 

黒之巣会の魔装機兵に立ち向かうには、霊力が必須条件となる。

従って普通の警察や軍隊では、脇侍には対抗出来ないのだ。

最も、それで対抗できれば帝国華撃団など設立するはずもないが。

 

「ええ、先程報告と一緒に完了の旨が伝えられたわ」

 

「じゃあ、一般人を巻き込まずに済むな」

 

あやめの答えに、カンナが拳を握った。

一般人の避難が完了していれば、戦闘になった際に一般人を巻き込む危険が無くなり、結果戦いやすくなるのだ。

しかし、今度ばかりはそうも言ってられなかった。

それを述べたのは紅蘭だった。

 

「せやけど、流石に今回はキツイで。敵さんは合計七ヶ所から同時に現れとるし、一カ所だけで千体を超えとるんや」

 

「………つまり、七千体以上が相手という事ね?」

 

「クソッ、とても全部を相手にしてらんねぇな!」

 

敵が七千に対し、こちらは八名。

戦わずとも勝負は目に見えている。

それに万に一つ勝機が見えたとしても、また先程のような魔術を使われれば一巻の終わりだ。

 

「ねぇお兄ちゃん。あと一時間したら、みんな死んじゃうの?」

 

不安げな様子で、アイリスが大神に尋ねた。

見ると、周りの隊員達もどこと無く不安の色を見せ始めている。

大神は、みんなを元気づけるように言った。

 

「みんな、落ち着くんだ。確かに俺達は、今までで最大のピンチを迎えている。だが思い出すんだ、これまでを。時には失敗して大騒ぎする事もあったけど、必ず俺達は勝ってきた。諦めさえしなければ、道は開けるはずだ」

 

その言葉に、隊員達の中に眠る闘志が再びくすぶり始めた。

 

「そうやな。ウチらが諦めたら、希望の灯は消えてしまうんや」

 

「だよな。今回だって大丈夫さ」

 

「これだから単細胞は困りますわ。いくら花組でも七千の数を相手にできますか」

 

いつものように突っ掛かるすみれだが、今回はすみれに一理あった。

 

「残念だけどすみれの言う通りよ。今回ばかりは敵の数が多すぎるわ」

 

あやめの言葉に、大神は目を閉じて考えた。

確かに正面から戦いを挑むのは無謀だ。

しかし一時間すれば、どのみちやられてしまう。

そこまで考えた時、大神は閃いた。

 

「そうだ、敵の本拠を突くんだ。ザコには構わず、天海を一気に仕留めるんだ!」

 

それは、言わば逆転の発想だった。

どんなに戦力の差があっても、敵の指揮官を倒せば命令する者がいなくなる。

かつて織田信長が、桶狭間の戦いで今川義元を倒した戦法を、応用したのである。

 

「この六破星降魔陣も、天海の力で出現したものだ。ならば天海を倒せば………!」

 

「成る程、魔法陣は消滅しますね」

 

「急所を狙って一撃か。空手と同じ戦法だな!」

 

「よっしゃ!早速蒸気演算機で、天海の居所を探して見ようやないか」

 

作戦の方針が決まり、隊員達は早速行動を開始した。

その様子を見て、米田は呟いた。

 

「何だか俺達の出る幕はねぇな、あやめくん」

 

「そうですね………」

 

 

 

 

 

 

「すみれくん、この辺りだな?」

 

「この妖気の高まり………、間違いありませんわ!」

 

すみれの言葉に、花組の緊張感が俄かに高まった。

帝都、品川。

あの後、蒸気演算機に一際強い妖気の反応があったここに、花組は天海がいると断定したのだ。

しかし、強い妖気があるだけで天海がそこにいるという保障はない。

時間がない以上、ある程度のキメ打ちは覚悟しなければならなかった。

 

「………やはり来たか、帝国華撃団」

 

「お前は!?」

 

不意に上から聞こえて来た声に、大神が反応した。

そこにいたのは、黒之巣会死天王最後の一人、黒い叉丹だった。

 

「あれは、叉丹!」

 

「………ちゅう事は、やっぱりこの近くに天海がおんねんな」

 

紅蘭がそう言うと、叉丹は余裕の表情で言った。

 

「やはり天海様の首を狙ったか。少しは出来るようだな」

 

「馬鹿にしやがって………!てめぇこそ自分の心配したらどうなんだ!?」

 

「上野で私にコテンパンにされた事を、懲りていらっしゃらないようね」

 

「叉丹!天海は何処にいる!?答えろ!!」

 

双剣を突き付け、大神が吠えた。

すると、叉丹はニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「フフフ………、貴様らこそ、それで勝ったつもりか?」

 

その言葉に大神は怪訝な表情を見せる。

刹那、マリアが叫んだ。

 

「隊長!後ろを!」

 

「何っ?………こ、これはっ!?」

 

背後を向いた大神は絶句した。

そこには、何百という数の脇侍の軍勢が花組の退路を埋め尽くさんばかりに押し寄せていたのだ。

 

「まんまと罠にかかったな。帝国華撃団!」

 

「しまった………!!」

 

先程の叉丹の発言から、自分達が高い妖気を持つ天海を狙った事も叉丹の計算の内だったと分かる。

叉丹は更に大神の裏をかき、周到な罠を仕掛けたのだ。

 

「みんな死んじゃうよ~!」

 

「こうなったらヤケクソや!!」

 

「やれる所までやってやるぜ!!」

 

退路を塞がれ、逃げ場がない。

追い詰められた危機感から焦る隊員達に、大神は冷静に説得した。

 

「みんな、命を無駄にするな!こんな数とまともに戦っても勝ち目はない」

 

「しかし退路がない以上、このままでは全滅ですわ!?」

 

すみれの言う通り、自分達は袋小路を背に大群と向かい合っている状況だ。

このままではジワジワと追い詰められるのは確実だった。

 

 

 

 

 

しかし、ここで思わぬ助っ人が現れた。

 

 

 

「そうはさせません!!」

 

 

その鋭い声とともに霊力弾が雨霰となって降り注ぎ、脇侍の大群を瞬く間に殲滅させた。

それは、赤と銀で塗装された希望の流れ星だった。

しかし、大神達が驚いたのはそれだけではなかった。

 

「………あたしの大切な仲間を傷つける奴は、決して許さない!」

 

流星の横に立つ桜色の光武から、凜とした声が発せられた。

同時にハッチが開かれ、声の主が姿を見せる。

 

「遅ればせながら、真宮寺さくら、参上!」

 

「同じく、御剣 秀介、見参!」

 

「遅いのよ、あなたたちは………!」

 

ようやく復活したさくらに、すみれが笑いかける。

すると、さくらも一瞬笑顔を見せて大神に告げた。

 

「大神さん、天海の本拠地が分かりました!ここは退いて下さい!」

 

「本当か、二人とも!?」

 

信じられないとも取れる表情で大神が驚く。

すると、秀介がそれを保障するように言った。

 

「詳しい話は後ほど。今は僕達を信じてついて来て下さい!」

 

その言葉に、大神は決断した。

 

「よし………。みんな、あの二人に続け!」

 

「「了解!!」」

 

大神を先頭に、花組は一斉に走り出した。

どういういきさつかは知らないが、天海がいないならここには用はない。

流星の攻撃で弱った脇侍達を蹴散らしながら、花組は結界線を突破した。

 

「天海か華撃団か………。どちらが勝つも良し………」

 

背後の叉丹がそう呟くのにも気付かずに………。

 

 

 

 

 

 

 

「………間に合って良かったですね、秀介さん」

 

一足先に翔鯨丸に乗り込んださくらが、隣の秀介に話し掛けた。

二人きりという事もあってか、やや恥ずかしそうに頬を染めている。

 

「はい、一時はどうなる事かと思いましたが………」

 

答えつつ秀介は、そっとさくらの手を取り、両手で包み込んだ。

その顔は、やはり赤い。

 

「さくらさん………、貴女が無事で………」

 

「秀介さん………」

 

赤い顔のまま、互いに見つめ合う二人。

すると、外から騒がしい声が聞こえて来た。

 

「………せっかく二人きりだったのに」

 

「仕方ありませんよ。今は、平和を取り戻しましょう」

 

「そうですね………」

 

名残惜しい気持ちを我慢して、秀介はさくらの手を離した。

と同時に、大神達がコックピットに入って来た。

 

「二人とも、さっきはありがとう」

 

「さくらはん、やっぱ大丈夫やったんやな」

 

「ごめんなさい、心配をおかけしました」

 

律儀に謝罪を口にするさくら。

すると、カンナが笑って返した。

 

「いいって事よ!あたいらの事、助けてくれたしな」

 

あやめと米田が到着したのは、その時だった。

 

「みんな、揃ったようね」

 

所定の椅子に腰掛ける面々を見渡し、あやめが言った。

 

「ところでさくらくん、何故天海の場所が?」

 

それは、至極当然の疑問だった。

蒸気演算機でも正確な居場所を特定出来なかったのに、何故さくらには分かったのか。

それは、さくらが持つ力が関係していた。

 

「………実は、夢を見たんです」

 

 

 

 

 

 

「ここは………?」

 

さくらは、不思議な空間を漂っていた。

温度も、色も、重力もない空間………。

宙に浮いた感覚で、さくらはぼんやりと前を見ていた。

そこに、何かの気配を感じたからだ。

そして、その気配の正体が、さくらの前に姿を見せた。

 

「え………?貴方は………」

 

さくらは、その人物に驚きを隠せなかった。

なぜならその人物は、今まで何度も自分達を助けてくれた救世主だったからである。

 

「ウルトラマン………ジャック………」

 

その名を口にすると、ジャックは徐に頷いた。

 

「さくらさん………。貴女にとって、帝都は何です?」

 

「え………?」

 

突然のジャックの問いに驚いたさくらだが、やがてハッキリと答えた。

 

「帝都は………、あたしの大切な街です。命を懸けても守りたい………、そんな街です」

 

「………ならば、迷う事はありません。貴女の想いを力に変え、この美しき都を守って下さい」

 

「え………?」

 

戸惑うさくらに、ジャックは告げた。

 

 

 

 

 

「敵は、魔を封じた門の上にいます」

 

 

 

 

 

「さ、さくら!今何て言った!?」

 

さくらの言葉に、米田が顔色を変えた。

 

「は、はい。敵は魔を封じた門の上にいると………」

 

「司令、何かご存知なんですか?」

 

大神が尋ねると、米田は重々しく頷いた。

 

「いよいよ話さにゃならんようだな、あやめくん」

 

「ええ。………大神君、八年前に降魔戦争があった事は知っているかしら?」

 

あやめの問いに、大神はかつて士官学校時代に読んだ文献の一部を思い出した。

降魔戦争………。

帝都を襲った怪物と影で戦った者達の歴史だ。

 

「はい。前に古い文献で見た事があります。帝都に溢れ出た降魔と、特殊部隊『帝国陸軍・対降魔部隊』の戦争と聞いています」

 

「ああ。今思い出すと、懐かしい思い出だぜ」

 

そう言って米田は一瞬、遠い過去を思い出すような表情を見せた。

 

「それが、さくらの夢と関係があるんですか?」

 

マリアが尋ねると、米田は頷いた。

 

「もちろんだ。魔を封じた門………。そいつぁ俺達の手で降魔を封じた場所を意味するからな」

 

その言葉に、花組の全員が驚愕の表情を見せた。

天海の居場所が分かる事もそうだが、米田は更に驚くべき事を口にしていた。

 

「あれは今から八年前だ。度重なる降魔の存在を知った俺は、当時陸軍大佐だった親友の真宮寺一馬とともに対降魔部隊を結成し、同士を募った………」

 

帝国陸軍・対降魔部隊………。

それは、目の前にいる米田だった。

 

「そして、3名の仲間を加えた。光武の設計者でもある『山崎信ノ介』と、陸軍一の切れ者だった『一ノ瀬 豊』、そしてここにいる『藤枝あやめ』くん………。俺達は己の剣と身体のみで降魔と戦い、太古の呪法を以ってある場所に封じ込めた。………取り返しのつかない多くの犠牲を払ってな。」

 

何か悲しい思い出があるのか、最後を語る米田の表情には哀愁があった。

 

「大神君、何か聞きたい事があるみたいね?」

 

「はい。真宮寺一馬さんってもしかして………」

 

「そう、さくらのお父上よ」

 

「それだけじゃねぇ。一ノ瀬 豊も名字が違うが、秀介の実兄だ」

 

二人の言葉に、花組はまたも驚きに包まれた。

対降魔部隊の全員が、花組に深い関わりを持っていたのだから、当然である。

 

「では、太古の呪法とは?」

 

「ああ。一馬の持つ北辰一刀流の破邪の血が持つ力の事だ。一馬はその破邪の力によって、降魔を封印したんだ。………命を引き換えにしてな」

 

その言葉に、大神は米田の表情が暗い理由を悟った。

 

「きっと真宮寺大佐の破邪の力が、夢という形でさくらに天海の居場所を伝えたのね」

 

あやめの言葉に、全員が納得した。

一馬の持っていた破邪の力がその血に流れるものならば、当然さくらもその力を受け継いでいるはずだからだ。

 

「そしてその呪法が成功したのも、当時陸軍一の切れ者だった一ノ瀬大尉による、綿密な作戦があったからよ」

 

かつて帝都を脅かす降魔という存在に、命懸けで立ち向かった真宮寺大佐と一ノ瀬大尉。

そしてまたさくらと秀介も、帝都のために命懸けで戦おうとしている。

何とも不思議な運命の巡り会わせだと、大神は思った。

 

「では司令、魔を封じた門とは………?」

 

「間違いない。俺達対降魔部隊が最後に戦った………、日本橋だ!」

 

忘れもしない、降魔戦争の終結地点。

間違いはなかった。

 

「今度こそ間違いなさそうだな!」

 

「いよいよ最後の決戦ですわね………!」

 

「この戦いが終われば、平和になるんだね?」

 

「一発派手にかましたろうやないか!」

 

「この戦いに、帝都の未来がかかっている………!」

 

「隊長、今こそ僕らの正義を示す時です」

 

「大神さん、出撃命令を!」

 

各々の決意を口に立ち上がる隊員達。

大神もまた立ち上がると、力強く頷いた。

 

「よし、帝国華撃団花組、出撃!目標地点、日本橋!………いいかみんな、これが最後の戦いだ。しかし命を捨ててはいけない。みんなでまたここに帰って来るんだ!」

 

「「了解!!」」

 

「待っていろ、黒之巣会!待っていろ、天海!俺達は一歩たりとも退かない。悪を蹴散らし、正義を示す!それが帝国華撃団だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都の中央に位置する日本橋。

かつて徳川幕府時代に作られたこの地に、徳川を敬愛する天海がアジトを構える事は、よくよく考えれば考えられる話だった。

普段は多くの人が行き交うこの橋も、今は代わりに脇侍達が我が物顔で練り歩いていた。

そこに、翔鯨丸のライトを浴びて華麗に現れる八機の姿があった。

悪を蹴散らし、正義を示す、その名………。

 

 

「帝国華撃団、参上!!」

 

 

「やはり黒之巣会の本拠地はここか。敵の数が多い………!」

 

周囲を見渡し、大神が言った。

前後左右の何処を向いても脇侍が無数に控えているこの状況。

突入した際になだれ込まれては、挟み撃ちにされる危険性があった。

大神は冷静に状況を確認し、最善の指示を下した。

 

「よし、部隊を二つに分ける。紅蘭、カンナ、さくらくんの三人は俺と内部に突入し、残る四人はここで敵を食い止めてくれ!」

 

「「了解!」」

 

確かな返事を聞き、大神は指名した三人ともに日本橋地下へ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

日本橋に残ったマリア、アイリス、すみれ、秀介の四人は、無数の脇侍を相手に激戦を繰り広げた。

何しろ帝都中の脇侍達が一斉に集まり始めたのだ。乱戦にならないはずがない。

マリアの指示の下、四人は突入地点から動かずに脇侍の軍勢と向かい合った。

こうする事で背中を気にする心配が無くなり、前方の敵にだけ集中できるのだ。

 

「秀介、今よ!」

 

「合点です!」

 

マリアの指示を受けた秀介が、手当たり次第に霊力弾を打ち込んだ。

歩行者天国のように犇めいていた脇侍達は避ける間もなく、次々に破壊されていく。

しかし、マリアの狙いはそれだけではなかった。

 

「そこっ!」

 

今の霊力弾の掃射を受けて脆くなった柱の根本に、マリアは弾丸を打ち込んだ。

すると、その衝撃で柱が倒れ、数体の脇侍を下敷きにした。

それだけではない。

今の倒れた柱が、脇侍の勢いを抑えるバリケードの役割を果たしたのだ。

 

「マリア凄~い!これなら簡単に戦えるね」

 

「ふふっ、ロシアの市街戦で覚えたテクニックが、役に立ったわ」

 

尊敬の眼差しを向けるアイリスに、クールにキメるマリア。

すると、すみれと秀介がジト目でマリアを見た。

 

「でも、この倒れた柱は誰が修理致しますの?」

 

「確かに………、簡単には直せそうにありませんね………」

 

「………い、いいじゃない!これで戦いやすくなったんだから!」

 

汗をかきながら弁明するマリア。

その様子に、すみれと秀介は思わず吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

秀介達が日本橋の入り口で戦っている頃、大神以下花組本隊は、道中の脇侍工場を全滅させて、アジトの中枢に乗り込んでいた。

 

「間違いない………。この近くだ」

 

大神でも分かる程の激しい妖気が、四人を緊張感に包む。

その時、奥の祭壇からしわがれた声が聞こえて来た。

 

「………よくぞ、ここまで来た。褒めてやろう」

 

「天海!!」

 

その正体を見据え、大神が叫んだ。

黒之巣会首領にして、帝都を脅かす全ての元凶。

 

「黒之巣会首領、天海!正義に代わり、貴様の命を貰い受ける!」

 

威厳すら漂う強烈な妖気に臆する事なく、大神は幾多の脇侍を切り伏せた二刀の切っ先を突き付けた。

しかし、天海は大神の声を嘲笑で返した。

 

「ふっ、貴様らごときに我は倒せん。 百年早いわ!」

 

そう叫んだ時、天海と花組の間を割って入るように魔法陣が出現し、中から一体の巨大魔装機兵が姿を現した。

全身が黄金に輝き、左右合わせて四本の手で印を組む姿は、観音を想起させる。

天海の操る魔装機兵。

その名を、『天照』と言う。

 

「ワシ自らが闇に葬ってくれるわ!来い、帝国華撃団!!」

 

「今度こそ天海を倒す………!みんな、行くぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

「………あらかた片付いたようね」

 

敵が来なくなった事を確認して、マリアが言った。

周りには足の踏み場もない程、夥しい数の脇侍の残骸が散らばっている。

これまでこの日本橋でどれだけ凄まじい戦いが繰り広げられていたか、容易に窺い知れた。

実に千体に及ぶ脇侍を相手にしたのだが、マリアの作戦が功を成し、幸いまだ大神達と合流して戦えるだけの霊力は温存できていた。

 

「………そろそろ、少尉達と合流すべきではなくて?」

 

すみれの言う通りだった。

天海の妖気の高さは黒之巣会死天王すら遠く及ばない。

実際たった四人で挑むのはギリギリとはいえ危険だった。

いつまた別の脇侍が来るか分からないが、可能なら直ちに大神達と合流し、フォローに回るべきだった。

しかし、別動隊は気付かなかった。

内部に向かう自分達の背中を、あの男に見られていた事に………。

 

「フフフ………。勝負の行方、じっくりと見物させて貰おう」

 

 

 

 

 

 

日本橋地下アジトでの天海との決戦。

天海の操る天照に、大神達は案の定苦戦を強いられていた。

四本の掌から放たれる波動は高い威力を誇り、霊力を集中して踏み止まるのがやっとだった。

しかし、自分達は何千もの脇侍の大群をわずか四人の別動隊に任せている。

この戦いに、必要以上の時間をかける事は出来なかった。

逆にそれが花組本隊に焦燥感を生み、冷静な判断力を低下させていた。

 

「ヒャハハハハ!この程度の力で我は倒れん!」

 

得意になって妖気の波動を次々と放つ天海。

花組は攻撃の手を止められ、防戦一方になってしまった。

 

「くそっ………。これじゃ手も足も出ねぇ………!」

 

カンナが悪態をつく中、大神は必死に状況を分析した。

 

「破邪剣聖………、桜花放心!!」

 

さくらの太刀から鎌鼬が発生し、天照に殺到する。

すると、天照は四本の掌を突き出して妖気の壁を作り、鎌鼬を掻き消してしまった。

 

「そ、そんな………桜花放心も効かないなんて………!」

 

奥義を無効化され、ショックを隠せないさくら。

一方、大神に何かを見つけたように小さく笑った。

 

「(そういう事か。ならば………。)」

 

これまで得た情報を基に、素早く敵の特徴と、それに伴う弱点、そしてその弱点を効果的に突く戦法を脳内で構築する大神。

そしてその戦法が決まった時、大神は指示を飛ばした。

 

「カンナ!さくらくん!俺の攻撃に合わせて左右から同時に攻撃してくれ!」

 

「は、はい!」

 

「おう!」

 

二人の返事を確認して、大神は自身も二刀を構えて正面から天照に突進した。

 

「馬鹿め、血迷ったか!」

 

何の策もなく正面から挑むのは自殺行為。

天海は大神の行動を嘲るように笑い、掌を向けた。

その時、左右から同時に二体の光武が踊り掛かった。

 

「おらああああっ!!」

 

「やあああああっ!!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

三方向からの同時攻撃。

しかし、天照はカンナとさくらの攻撃を掌一つで、大神の二刀を二つの掌で食い止めてしまった。

 

「くっ………!」

 

「そんな………!」

 

「何度やっても同じ事だ。貴様らごときに我は倒せん。」

 

勝ち誇った様子で笑う天海。

しかし、大神もまた天海に笑って見せた。

 

「それはどうかな?………紅蘭!!」

 

「よっしゃあ、任しとき!」

 

待ってましたと言わんばかりに、紅蘭が返した。

同時に、天海の顔から余裕が消える。

 

「ま、まさかこの為に………!」

 

「覚悟しいや天海! チビロボ軍団、発射!!」

 

大神の狙いはこれだった。

何故天照は四本の掌を持つのか。

それは、妖気を操る部位が掌だったからだ。

反対にそれ以外の部位から妖気を放出する様子がない。

つまり、四本の掌を封じれば、天照は攻撃手段を失ってしまうのだ。

大神のこの予想は見事的中し、今までかすり傷一つつかなかった天照の機体はチビロボ軍団の攻撃で所々から黒煙を上げていた。

 

「お、おのれ………、この我に傷をつけるとは………!」

 

憤怒の形相で大神を睨む天海。

しかし、花組の攻撃はこれだけに止まらなかった。

 

「オラオラ、何よそ見してんだジジィ!」

 

「なっ!?」

 

右側からの声に、天海は反応が一瞬遅れる。

カンナにはその一瞬で十分だった。

 

「喰らいやがれ! 一百林稗!!」

 

完全に隙をついた形で、カンナの一撃が炸裂した。

更にそこへさくらが続く。

 

「破邪剣聖………、桜花放心!!」

 

カンナの一百林稗から体勢を立て直す間も与えない連続攻撃。

これには流石の天照もたまらない。

 

「ぬうっ………!許さん、許さんぞっ!」

 

「それはこっちの台詞や!今まで脇侍達にぎょうさん悪い事させてからに!」

 

苦しむ天海に大砲をぶっ放し、紅蘭が言い返す。

そして、トドメとばかりに大神が飛び込んだ。

 

「狼虎滅却………、快刀乱麻!!」

 

緑色の稲妻が二刀からほとばしり、天照を包み込んだ。

 

「やったか!?」

 

今の一撃に確かな手応えを感じ、大神が叫ぶ。

 

 

 

 

 

しかし、天海は倒れなかった。

 

「何っ!?こ、これは………!」

 

突如として天照を中心に巨大な魔法陣が出現した。

そして、その中から現れた黒い無数の何かが天海の中に入っていく。

刹那、大神は絶句した。

 

「なっ………!!」

 

無理もない。

今の攻撃でかなり弱ったはずの天海の妖気が、先程以上に高まったのである。

その力は、正に化け物と呼ぶに相応しかった。

 

「す………素晴らしい………。力が………力が漲って来る!」

 

「う………嘘だろ、おい………」

 

「なんちゅうしぶとさや………!!」

 

驚きを通り越して戦慄すら覚える四人。

天海はその様子に満足そうな笑みを浮かべた。

 

「今度は我の番だ。行くぞ!ウオオオオ………!!」

 

合わせられた掌から先程以上の強烈な妖気が集まる。

あんな一撃をまともに喰らえば、ただでは済まない。

 

「くっ………、ここまでなのか………!?」

 

大神の脳裏に敗北の二文字が過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その暗い予想を吹き飛ばす高らかな笑い声が木霊した。

 

 

「お~っほっほっほ!!勝ち誇るには、少し早過ぎてよ?」

 

その声と同時に紫色の光武が現れ、天照に薙刀の一撃を加えつつ着地した。

 

「隊長、間に合ったようですね!」

 

「お兄ちゃん、怪我してない?」

 

「僕らが来たからには、もう安心です!!」

 

見ると、そこには入り口で戦っていた別動隊の姿があった。

 

「みんな、無事だったのか!」

 

「当然ですわ。さあ少尉、参りますわよ!」

 

すみれの言葉に頷き、大神は改めて二刀を握る手に力を込めた。

 

「天海、これで戦力は互角だ!全員揃った花組の力、思い知れ!」

 

「ふん!愛だの、正義だの、そんな生温い感情にうつつをぬかす若造が我を倒せるものか!」

 

天海は直属の脇侍を召喚し、怒鳴り返した。

 

「千年早いわ!!」

 

「早いかどうか、その身で確かめてみろ!帝国華撃団花組、出撃!!天海を倒すんだ!!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

別動隊が合流し、元の戦力を取り戻した花組は、一転して攻勢に出た。

攻撃は最大の防御という訳ではないが、天海の妖気で苦しめられる前に配下の脇侍を全滅させようと、大神は判断したのである。

その指示で最初に飛び込んだのは、花組一の切り込み役であるカンナだった。

 

「オラオラ!次にやられてぇのはどいつだ!?」

 

手当たり次第に脇侍を薙ぎ倒すその姿は、先程までのダメージを微塵にも感じさせない。

底無しとも言える体力で、カンナは次の脇侍に殴り掛かった。

 

しかしそんな大胆な戦い方ができるのも、背中を守ってくれる存在があるからだった。

 

「ちょっとカンナさん!あまり無鉄砲に暴れないで下さいまし!」

 

カンナと背中合わせになるように、すみれが脇侍を突き倒しつつ言った。

 

「何だよ、これ位の動きについて来られねぇのか?だらしねぇな~!」

 

そう言いつつも攻撃の手を緩めないカンナ。

すると、すみれも負けじと言い返した。

 

「おっしゃいましたわね、カンナさん!この私の真の力、見せて差し上げますわ!」

 

言うや、すみれも脇侍達のど真ん中に飛び込んだ。

 

「神崎風塵流、胡蝶の舞!!」

 

薙刀から舞い上がった炎に巻かれ、周囲の脇侍達は瞬く間に灰と化す。

その様子に、すみれは満足そうに笑い声を上げた。

 

「お~っほっほっほ!カンナさん、精々足を引っ張らないで下さいましね」

 

「へっ、お前こそ勝つまでバテるんじゃねぇぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

脇侍相手に奮戦しているのは、すみれとカンナだけではなかった。

 

「秀介さん!」

 

「合点です!」

 

さくらの声に返事を返し、秀介は流星の操縦桿を握った。

と同時に、さくらが脇侍を次々と切り伏せて進んで行く。

その途中、何体かの脇侍はさくらを後ろから攻撃しようとした。

しかし、いずれの脇侍も攻撃を実行に移せなかった。

なぜなら、上空から脇侍を狙撃する戦闘機がいたからである。

 

「脇侍共!さくらさんには指一本触れさせません!!」

 

 

 

 

 

 

 

「わ~い、ここまでおいで~!」

 

テレポートを繰り返して脇侍を挑発するアイリス。

上下左右に絶え間無く移動する標的に、脇侍達はキョロキョロと辺りを見渡す。

それを、遠くから狙う影があった。

 

「鳴り響け、白夜の鐘………スネグーラチカ!」

 

マリアの放った凍てつく氷の一撃。

それは、一列に並んでいた脇侍達を一度に氷漬けにした。

 

「………見事な陽動だったわ、アイリス」

 

「エヘッ、マリアありがとう!」

 

マリアの褒め言葉に、いつの間にか隣にいたアイリスが素直に笑った。

アイリスが敵を一カ所に集め、マリアが一撃で仕留める。

始めからそういう手筈だったのだ。

 

「お兄ちゃん、大丈夫かな?」

 

心配そうに呟くアイリス。

それを見たマリアは元気付けるように言った。

 

「大丈夫よ。私達がこうして脇侍達を引き離せば、それだけ隊長も戦いやすくなるわ」

 

「………うん、そうだね。よ~し、アイリスもっと頑張る!」

 

そう言うと、アイリスは再びテレポートでその場から消えた。

 

「脇侍達は私達が食い止めます。隊長、それまで耐えて下さい………!」

 

一言祈るように言うと、マリアは次の標的に狙いを絞った。

 

 

 

 

 

 

 

「大神はん、今回ばかりは特別や!無理して光武壊しても構わんで!」

 

「………紅蘭、いいのか?」

 

いつもの紅蘭らしからぬ言葉に、大神が怪訝な表情を浮かべる。

しかし紅蘭は、大神の心配を吹き飛ばすように笑って答えた。

 

「大丈夫や。この子らの願いはウチらと帝都の平和を守る事………。それなら、この戦いで壊れてしもうても光武には本望なんや」

 

脇侍達を他の隊員に任せた大神は、紅蘭とともに天照と対峙していた。

激戦に継ぐ激戦で光武はかなり傷付いているが、まだ戦うだけの余力は残っている。

それにこの戦いには、帝都の未来が掛かっているのだ。

たとえ光武が犠牲になったとしても、負ける訳にはいかなかった。

 

「よし………、行くぞ紅蘭!」

 

「了解や!」

 

大神の声に確かな返事を返し、紅蘭が両腕の大砲を構える。

それに応えるべく大神もまた二刀を構え、目の前の金色の魔装機兵に挑み掛かった。

 

「こざかしい!たった二人で何ができる!」

 

天照の掌が二人に襲い掛かる。

しかし大神と紅蘭は寸前で左右に離れ、攻撃を避けた。

 

「大神はん!!」

 

「分かった!」

 

更に事前に打ち合わせたかの如く、同時に左右から攻撃を仕掛ける。

しかし敵もさるもので、四本の掌を器用に動かし、全ての攻撃を防いでしまった。

 

「若造!貴様は何故、我の邪魔をする?」

 

二刀を掴んだ状態のまま、天海が言った。

 

「お前達が帝都の平和を脅かすからだ!貴様こそ何故帝都を攻撃する!?」

 

「この日本は、徳川幕府時代こそ栄光の時代。西洋に汚された今の帝都を叩き潰し、かつての栄光を蘇らせる。我はその大儀の下で帝都を浄化するのだ。そんな事も分からぬとは、所詮は若造なのだ」

 

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

 

得意そうに喋る天海の主張を遮り、大神は吠えた

 

「時代は常に変わり行くもの………。その流れに逆らい過去の栄光に縋る貴様の何処に大儀がある!?寝言を言うな!!」

 

猛る狼にも似た怒りの叫び。

徳川を敬愛し、命よりも大儀を重んじるのは古い時代の話だ。

そんな時代遅れの正義など到底正義と呼べるはずはなかった。

その大神の叫びが徳川への侮辱と聞こえたか、天海は怒りを露にした。

 

「黙れ若造が!今に息の根を止めてくれるわ!」

 

 

 

 

「………そいつぁ、どうかな?」

 

「何っ!?」

 

天海は信じられないという表情で周囲を見渡した。

周りには自分を守る脇侍は一体もおらず、色違いの八つの機体が天照を取り囲んでいた。

部下を全滅させた花組の隊員達が、合流して来たのだ。

 

「部下の脇侍も全滅させた。残るは天海!貴様ただ一人だ!!」

 

「ぬかせ!この程度で我を追い詰めたと思うな!!」

 

そう叫び返した時、天照を包む妖気が俄かに強まった。

 

「何………!?まさか、まだ妖気を蓄えられるのか!?」

 

跳ね上がった霊力メーターに、大神は驚きの声を上げた。

今の状態ですら凄まじい強敵なのだ。

これ以上強くなったら手に負えなかった。

 

「ヒャハハハハ!!帝国華撃団、ここで果てるがいい!」

 

不気味な笑いとともに天照の妖気が更に高まる。

既に霊力メーターは針が振り切れ、測定不能だ。

 

「見せてくれよう、奈落の極み………! 六星剛撃陣!!」

 

天海の背後に後光が輝いた。

同時に頭上から妖気が槍となって降り注ぐ。

 

「まずい!みんな、散れっ!!」

 

大神が素早く指示を出し、花組は八方に散って距離を取った。

それとほぼと同時に天照の周囲に金の槍が雨霰となって地面に突き刺さる。

もしダメージを負った今の状況でまともに喰らえば、間違いなく即死だっただろう。

天海の底無しの妖気に、大神は改めて戦慄を覚えた。

 

「ほう、避けたか………。だが次で終わりだ!」

 

そう叫び、天海は再び妖気を集中させる。

しかし、それを阻止せんと疾駆する者がいた。

秀介である。

 

「させませんっ!!」

 

霊力弾を連射し、天照の攻撃を妨害する。

それに続いたのは大神だった。

 

「今だ!狼虎滅却………、縦横無尽!!」

 

二刀から青い稲妻が放たれ、天照の前で合わさった二つの掌を直撃した。

先程の攻撃で天照が拝むように掌を合わせて妖気を集中させる所を見た大神は、そこを攻撃する事で六星剛撃陣を妨害できると考えたのだ。

そして大神の予想は的中し、掌を破壊された天照は全身が火花を散らし始めた。

 

「やったか!?」

 

 

 

 

しかし、天照は三度復活した。

 

「なっ………!?」

 

それは正に一瞬の出来事だった。

天照の後光が再び光ったかと思うと、後光から無数の金の槍が放たれたのだ。

花組は避ける間もなく、真後ろの壁に光武を串刺しにされてしまった。

これでは反撃はおろか、身動きすら取れない。

 

「無駄だ………!我は何度でも蘇る………!帝都は滅びる運命なのだ………!」

 

天海も多少は弱っているようだが、状況は圧倒的にこちらの方が不利だ。

 

 

最早これまでか………。

 

 

誰もがそう思ったその時、信じられない出来事が起きた。

 

「ぐあっ!!な、何事だ………!?」

 

どういう訳か、天海が突然苦しみ始めたのだ。

何が起こったのか分からず、唖然とする花組。

すると、天海の背後から別の男の声が聞こえて来た。

 

「………ご苦労だな、天海」

 

「蜩!!」

 

それは、背後から天海を刃で一突きにしている、漆黒の忍者だった。

 

「き、貴様………!」

 

「こうも上手く状況を作ってくれるとはな、感謝するぞ」

 

そう言って、蜩が刀を更に深く突き刺した。

 

「ば、馬鹿な………!この我が………!!」

 

自身の敗北を認められぬまま、天照は大爆発した。

 

「さて………」

 

黒煙が立ち上る中、蜩が徐に口を開いた。

 

「帝国華撃団の諸君、遥々ご苦労だったな」

 

「貴様………、何の真似だ!?」

 

訝しむように、大神が尋ねた。

蜩はミロクや叉丹とともに自分達を攻撃して来た、間違いなく自分達の敵である。

その蜩が、真っ当な理由で天海を始末するなど考えられない事だった。

 

「今に分かる………」

 

まだ自分達の知らない何かを知っているような口ぶりで、蜩が答えた。

事実、蜩は知っていた。

花組が考えもしなかったような事実を………。

 

「ククク………、そろそろ舞台のフィナーレと行こうか………」

 

そう言って、蜩は一枚の札を取り出し、地面に叩きつけた。

すると札から白い煙が立ち上り、蜩の姿を覆い隠した。

 

 

 

 

「フォッフォッフォッフォッフォッ………!!」

 

 

 

 

聞き覚えのある笑い声が、祭壇に響いた。

 

「こ、この笑い声は………!」

 

ある予想が脳裏を過ぎり、大神の表情が俄かに凍り付く。

そして、煙の向こうに見えた姿に、花組は驚愕した。

 

「あ、あれは………上野公園の………!!」

 

さくらの言葉が、全てを物語っていた。

煙の向こうに立っていたのは漆黒の忍ではなく、両腕のハサミと蝉のような顔が特徴的な怪物だった。

蜩の正体は、怪獣だったのだ。

 

「私はバルタン星の宇宙人だ。宇宙忍者と呼ぶ者もいるがな………」

 

「宇宙忍者だと!?」

 

予想もしなかった蜩の正体に、大神は驚きの声を上げた。

まさか宇宙人などとは思わなかったのだから、当然である。

しかし、花組はこれからバルタン星人によって、更に驚くべき事実を明かされる事になる。

 

「さて、もう一人サプライズを呼ぶとしよう」

 

そう言って、バルタン星人はハサミをこちらに向けた。

刹那、ハサミから白色の光弾が発射された。

 

「なっ………!」

 

着弾と同時に爆発する光弾。

花組はその着弾地点を目にして、一瞬時が止まった。

なぜなら………。

 

 

 

「秀介さん!!」

 

反射的にさくらが叫んだ。

白色光弾が着弾したのは、流星のコックピットだったのだ。

さくらの声に他の隊員達も我に変える。

 

「貴様、何と言う事を………!!」

 

「今に分かる………」

 

秀介が流星のコックピットから飛び出したのは、その時だった。

 

「くっ………!」

 

「秀介さん、無事だったんですね!」

 

戦闘服が所々焼け焦げているが、幸い命に別状はないようだ。

 

「さて、ここで素晴らしい特別ゲストを紹介しよう」

 

そう笑って、バルタン星人はハサミを高々と振り上げた。

すると、祭壇の真上の土が崩れ、上から巨大な影が降り立った。

金と赤のメタリックなボディに、鋭い眼光を放つ緑色の双眼。

何よりもその全身から放つ凄まじいまでの殺気。

これまでの怪獣と何かが違う………。

大神は直感でそう感じた。

 

「御剣 秀介………。この意味が分かるな?」

 

「………そういう事ですか………!」

 

意味深なバルタン星人の言葉に、悔しさを見せる秀介。

それが分からないのは、花組だった。

 

「どういう事だ?秀介」

 

大神の問いに、秀介は答えなかった。

 

 

 

いや、答える事が出来なかった。

何故なら………。

 

「帝国華撃団の諸君。これはショーなのだよ。君達の守護神を抹殺するね………」

 

「ウルトラマンを………!?」

 

マリアの言葉に、秀介が一瞬肩を震わせた。

その様子に、バルタン星人は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「そう。君達はそこで、光の巨人が無惨に殺される様をじっくりと見てもらう」

 

「ふざけるな!ウルトラマンもいないのに、一体何を………!!」

 

 

 

 

 

「いますよ、光の巨人は」

 

 

 

大神の言葉を遮るように、秀介が言った。

 

「何………?」

 

「秀介さん………?」

 

背後の花組全員が、一斉に秀介を見る。

その視線を背中に感じながら、秀介は静かに言った。

 

「いつかは来ると思っていたんですが………。まさか、こんなに早く来るなんて………思いもしませんでした」

 

「秀介………、貴方はまさか………。」

 

何かに気付き、マリアの表情が強張る。

 

「出来る事なら………、知られたくはなかった………。特にさくらさん、貴女にだけは………」

 

「え………?」

 

秀介は一言さくらにそう言うと、目の前に立つ宇宙忍者を鋭い視線で睨みつけた。

 

「一つ条件があります。………みんなには手出しをしない事」

 

「いいだろう」

 

その言葉に秀介は、静かにブレスレットに手を当てた。

 

「(あれは………間違いだったかも知れませんね………。)」

 

心の中で自嘲し、一瞬だけ笑う。

そして、決意の眼差しでブレスレットを高々と掲げ、凛とした声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーーック!!」

 

 

 

 

 

自分は今、幻を見ているのだろうか………。

目の前に広がる光景に、大神を始め花組全員が、そんな感覚に陥ってしまった。

ブレスレットからまばゆい光が放たれた次の瞬間、秀介が立っていたはずの場所に、一体の巨人が自分達を守るように立っていた。

赤と銀の身体で、これまで何度も自分達を窮地から救ってくれた光の巨人。

 

「ウルトラマン………ジャック………」

 

誰かの呟きが、全てを物語っていた。

帝国華撃団花組隊員にして、流星のパイロットである御剣 秀介。

彼は伝説の光の巨人、ウルトラマンジャックその人だったのだ。

 

「ククク………、さあ、血みどろのショーを始めるとしようか」

 

「僕は負けない………。みんなは、絶対に守る!」

 

ハサミを向けて不敵に笑うバルタン星人に、ジャックは毅然として言い放った。

その口調は、紛れもなく秀介のものだった。

 

「………何処かで聞いた台詞だな」

 

懐かしむような口ぶりで、バルタン星人は目を細めた。

が、次の瞬間には配下の怪獣に命令を下した。

 

「ならばウルトラマンジャック!貴様の意志を見せてみるがいい。行け、ジャックスキラー!!」

 

「ギィーッ!」

 

命令を受けたジャックスキラーがジャックに向かって前進して来る。

ジャックはその姿を見据えると、構えを取った。

 

「シュワッ!」

 

血みどろのショーが、今幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抹殺怪人ジャックスキラー。

バルタン星人がジャックを倒す為だけに作り出したこの怪獣の前に、ジャックはかつてない苦戦を強いられていた。

パンチやキック等の体術が効かないばかりか、それを上回るカウンターに、ジャックは追い詰められていた。

 

「ギィーッ!」

 

ジャックスキラーの腕の一撃が牙を剥いた。

ジャックはその一撃で、大きく後ろに飛ばされる。

 

「秀介さん!」

 

さくらが思わず叫んだ。

 

「ヘッ………!!」

 

その声に一瞬反応し、ジャックは起き上がった。

そして、ジャックスキラーに渾身の必殺技をぶつけた。

 

「ヘアァッ」

 

十字に組んだ腕からスペシウム光線が発射され、ジャックスキラーを一直線に狙い撃った。

 

 

 

 

……………だが………。

 

「え………!?」

 

「あ、有り得へん………!」

 

一瞬勝ったと思った花組は、目の前の光景に絶句した。

何と、これまで数多の怪獣を仕留めて来たスペシウム光線すら、ジャックスキラーにかすり傷一つつけられなかったのだ。

 

「それなら………!!」

 

ジャックは構えを解くと、直立姿勢でエネルギーを集中させた。

そして今度は腕をL字に組み、シネラマショットを打ち込んだ。

しかし、このジャックの切り札を以ってしても、ジャックスキラーに効果的なダメージを与える事は出来なかった。

 

「成る程………」

 

おそらくは自分の技を研究し、自分を倒す為に訓練されたのだろう。

しかし、ジャックは負ける訳にはいかなかった。

 

「ヘッ………!」

 

カラータイマーが赤く点滅を始める中、ジャックは再びシネラマショットを放った。

しかし、やはりジャックスキラーには通用しない。

 

「何度やっても同じ事だ」

 

バルタン星人の無機質な笑いが響いた。

己の部下がジャックをいたぶっている光景に、随分と満足げに聞こえる。

 

「まだ………終わってはいません!!」

 

ジャックは更にウルトラスラッシュを繰り出すが、結果は同じだ。

 

「フォッフォッフォッ………。いいのかな?そんなにエネルギーを使って………」

 

「くっ………!」

 

ジャックが苦悶の声を漏らす。

 

「(まさか………、あの事を知っているのか!?)」

 

そう悪い予感が頭を過ぎった時、ジャックスキラーが徐に腕を組んだ。

刹那、信じられない事が起こった。

ジャックスキラーは、十字に組んだ腕からジャックと同じスペシウム光線を、ジャック目掛けて撃ったのだ。

 

「ァアッ!?」

 

突然の攻撃に対応できず、ジャックは諸にスペシウム光線の直撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「秀介っ!!」

 

今度はカンナが叫んだ。

すると、その様子を楽しむようにバルタン星人が笑った。

 

「どうかな帝国華撃団の諸君。君達の大事な仲間が目の前でなぶり殺される様は。素晴らしいショーだろう」

 

「ふざけるな!!今すぐ攻撃を止めろ!」

 

もし動けたなら即座に切り掛かっただろう勢いで、大神が叫んだ。

自分達は何もできず、目の前で大切な仲間が苦しめられる………。

仲間想いの花組にとって、これ程残酷で陰惨なショーはなかった。

 

「ヘッ………!」

 

ジャックスキラーの腕が、ジャックの首筋を深々とえぐった。

人間と違い出血はないが、その一撃でジャックは崩れるように地面に倒れた。

 

「いや………いやあっ!やめてぇっ!!」

 

さくらの叫びを嘲笑うかのように、怪人はジャックの背中を踏み付けた。

 

「こんな事………、絶対に許しませんわ!」

 

「もうやめて!秀介が死んじゃうよ!!」

 

「畜生!見てる事しか出来ねぇのかよ!?」

 

憤りに身を震わせる者、悲しみを叫びに変える者。

目の前で繰り広げられるショーは、花組を負の感情で包み込むには十分だった。

 

「フォッフォッフォッ………!やはり奴の弟か。顔までそっくりだ」

 

バルタン星人が、ジャックの頭を掴んで持ち上げた。

ジャックスキラーが背中を踏み付けているため、無理な姿勢で頭だけが上がった状態になる。

 

「やめて!お願い!!やめてぇ!!」

 

両目から大粒の涙を流し、さくらが必死に叫んだ。

光武が動いたならば、今すぐにでも秀介を助けようとしただろう。

しかし、指一本動かないこの状態では、傷付き倒れる巨人に涙を流す事しか出来なかった。

 

「光の巨人も見苦しい。あの女に命を削らなければ、こうして醜態を曝す事もなかろうに」

 

「くっ………やはり、知っていたのか………!」

 

「え………?」

 

何の会話か分からず、さくらは一旦泣き止む。

すると、バルタン星人はニヤリと笑った。

 

「知らぬのか?良かろう、教えてやるぞ。この愚かな巨人の愚行を………」

 

 

 

 

 

 

それは、さくらがまだ医療ポッドで眠っていた頃に遡る。

秀介は、ブレスレットを掲げて変身すると、自分の身体を光の粒子に変え、さくらを包み込んだ。

ウルトラライフリカバー………ほかの生命に自身のエネルギーを与える事で治癒力を高める、奇跡とも言うべき技だ。

しかし、さくらの場合は簡単にはいかなかった。

さくらの身体にある破邪の力が、秀介を追い払おうと抵抗したからだ。

これにより、秀介は最早変身出来るかも分からない程にまで、エネルギーを失ってしまったのだ。

これも偏に、さくらを助けたいという秀介の想いだった。

その結果、破邪の力を活性化させてさくらに例の夢を見せたのだから、秀介の行動は、決して無駄でななかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな………秀介さん………」

 

さくらは表情を驚きに変えた。

まさか秀介が、自身を危険に曝してまで自分を助けようとしていたとは、思いもしなかったからだ。

 

「そうか………!ミロクに帝劇を奇襲させたのもお前だな!?」

 

「やっと気づいたか。その飛行機に転移魔術の札を貼らせてもらった」

 

おそらくは秀介が流星を自動操縦に切り替えた時だろう。

ジャックに変身すれば、流星の中は無人になる。

バルタン星人は、そこを巧妙に突いたのだ。

 

「さて、観客も十分楽しんでくれたようだ。………そろそろ、幕を降ろす事にしようか」

 

ジャックの頭から手を離すと同時に、ジャックスキラーがトドメを刺そうと腕を十字に組んだ。

 

「!!やめて!やめてぇ!秀介さん!!」

 

桜色の光武から、さくらの悲痛な叫び声が聞こえる。

 

「(………さくらさん………!)」

 

その声を耳にしたジャックは、脳内で涙を流すさくらを連想する。

そして、何かが音を立ててキレた。

 

 

 

 

「シュワッ!!」

 

正にジャックスキラーの腕からスペシウムが放たれようとした時だった。

力尽きているはずのジャックが、ジャックスキラーを跳ね飛ばして立ち上がったのだ。

 

「何っ!?」

 

その様子に、花組ならずバルタン星人も表情を一変させた。

既にカラータイマーの点滅も激しく、立つ事もままならないジャックが反撃を仕掛けるなど、理論上不可能だったからだ。

しかし、ジャックはそのままジャックスキラーに殴り掛かった。

 

「ギィッ!?」

 

突然の反撃に対応できず、ジャックスキラーは真後ろの壁に勢い良くたたき付けられた。

更にジャックは先程までのダメージが嘘のように、ジャックスキラーに対して凄まじい猛攻を浴びた。

 

「馬鹿な!これ程までエネルギーが残っているはずは………!」

 

先程までの余裕を失い、うろたえるバルタン星人。

ジャックは怪人を抱え上げ、バルタン星人目掛けて投げつけた。

 

「ヘアァッ!!」

 

「フォッ!?」

 

部下の下敷きになるバルタン星人。

 

ジャックスキラーは表情こそ変わらないが、明らかに怒りを見せていた。

 

「ギィーッ!!」

 

仕返しとばかりに腕を十字に組み、スペシウム光線を発射する。

しかし、ジャックはその寸前に突進し、ジャンプで上に飛んでスペシウムを回避した。

 

「ギィ!?」

 

標的を見失い、狼狽するジャックスキラー。

ジャックはその真上から、渾身の流星キックを放った。

 

「シュワッ!」

 

流星キックはジャックスキラーの胸にある核を直撃した。

着地と同時に、ジャックスキラーの全身から火花が走る。

 

「あそこが弱点………ですね………!!」

 

既にスペシウムを撃つエネルギーは残っていない。精神力だけで戦っているのが現状だ。

だが、ようやく掴んだ勝機を逃す訳にはいかなかった。

 

「今こそ、神秘の力を………!ウルトラブレスレット!!」

 

そう叫んだ時だった。

ジャックの左腕から、光輝くスパークソードが出現したのだ。

 

「ギィー………!!」

 

執念深くスペシウムを撃とうとするジャックスキラーに再び突進し、そして………

 

 

「ヘアァッ!」

 

 

すれ違いざまにスパークソードが一閃した。

両者の動きが数秒間沈黙する。

その数秒の後、少し離れた地面に何かが突き刺さった。

 

 

 

それは、ジャックスキラーの左腕だった。

 

「ヘッ!」

 

背後のジャックスキラーを振り向くジャック。

そこには、片腕を失って瀕死状態の怪人が、緑色の目を光らせていた。

 

「今ですっ!!」

 

ジャックはスパークソードを維持したまま、腕を十字に組んだ。

刹那、ジャックの全身が光に包まれる。

 

「な………何だと!?」

 

驚愕に目を見張るバルタン星人。

スペシウム一発にシネラマを二発。

その状況で更にスペシウムなど、撃てる訳がない。

しかし次の瞬間、バルタン星人の理論は完全に覆された。

 

 

 

 

「シュワアァッ!!」

 

 

 

 

裂帛の気合いの声とともに、黄金色のスペシウムが一直線にジャックスキラーを狙い撃った。

 

「ギ、ギ、ギィーッ!!」

 

断末魔とも取れる叫び声を上げ、ジャックスキラーが光に包まれる。

そして、大地を揺るがす轟音とともに、ジャックスキラーは大爆発した。

 

「………ヘッ………!」

 

全ては愛のため。

大切なものを守るため………。

ウルトラマンジャックは、正しく愛のために戦い、勝利を勝ち取ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な………!こんな事が………八年前と同じではないか!」

 

目の前の出来事が信じられず、バルタン星人は冷静さを失った。

一寸の狂いなく仕組んだはずのウルトラマン抹殺のシナリオが、音を立てて崩れる。

 

「こうなれば………、大事な仲間とともに地の底に沈むがいい!」

 

そう叫び、バルタン星人はテレポートで戦線を離脱する。

それと同時に、光武を拘束していた金色の槍が消え、代わりに祭壇を振動が包んだ。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

「隊長!上です!」

 

ジャックの声に、大神は上を見た。

すると、天井の土がガラガラと崩れ始めたのだ。

 

「………しまった!総員退避!!」

 

大神は慌てて叫んだ。

元々この地下アジトは、天海の魔力によって引力を無視した構造になっている。

その根源である天海がいなくなった事で、アジトが引力に従がって、崩壊を始めたのだ。

 

「皆さん、僕を中心に集まって下さい」

 

「どういう事だ、秀介?」

 

「今からウルトラテレポーテーションで、地上にワープします。足で行くより確実です」

 

「せやかて、そんな状態でエネルギー残っとるん?」

 

紅蘭が、最もな意見を口にした。

あれだけジャックスキラーと死闘を繰り広げたばかりである。

本来ならテレポーテーションはおろか、満足に動く事も難しいはずである。

そんな状態でこれ以上技を使えるのかは、正直怪しい。

しかし、ジャックは断言した。

 

「皆さんの霊力を少し分けていただければ、大丈夫です」

 

「………時間がない。みんな、秀介の周りに集まるんだ」

 

秀介の言う通り、テレポーテーションを成功させれば、文字通り全員生還は確実だ。

ここは秀介と自分達の残りの霊力に賭けるべきだと、大神は判断した。

隊員達も同様に頷き、秀介を七機の光武が囲んだ。

 

「いっちょ頼むで、秀介はん」

 

「あたい達の霊力、お前に託すぜ!」

 

「失敗したら、承知致しません事よ」

 

「秀介、貴方を信じるわ」

 

「お願いね、秀介!」

 

「秀介さん………、あたし達を護って下さい………」

 

「俺達の霊力………、受け取ってくれ!!」

 

七色の光がジャックを包む。

そして光は次第に輝きを増し、八人を完全に覆った。

 

 

 

 

 

 

 

外は既に、眩しい朝日が昇っていた。

自分達の勝ち取った帝都の未来………。

それを象徴するかのように。

 

「………大神」

 

ふと、米田が大神に声をかけた。

 

「はい」

 

いつになく真面目な声色の米田に緊張しつつ、大神が相槌を打つ。

すると、米田は意外な事を口にした。

 

「お前、何で花組の隊長になれたと思う?」

 

「霊力があるから………ですか?」

 

至極当然な答えを返す大神。

確かに花組の隊長である以上、光武を動かせる事は最低条件だ。

しかし、米田の答えは別のものだった。

 

「それだけじゃねぇ。触媒なんだよ、お前は」

 

「触媒?」

 

「そうだ。花組は高い能力の反面、強い個性がぶつかる事も多い。その花組を一つにまとめ上げる。それが出来るのが大神、お前だった訳だ」

 

隊員達を単なる戦力としてしか見ないのではなく、一人一人を尊重し、真に一つにまとめ上げる。

つまり、仲間を愛するという事。

米田の見込んだ通り、大神はその器に十分相応しい人間だった。

思わず言葉を失う大神。

すると、そこに隊員達がやって来た。

 

「よう隊長!司令と二人で何話してたんだ?」

 

「しっかし今回は大変やったな~!秀介はんがボコられてる時は、もう駄目か思うたで」

 

「いいじゃない?こうしてみんな無事だったんだし」

 

「それに秀介さん………かっこよかったです」

 

「え………」

 

「うふふ、二人ともラブラブだね」

 

「全く、暑苦しい限りですわ」

 

「ハハハ、それじゃあいつもの奴、やろうか」

 

そう言って、いつものように集まる花組。

今回は風組の三人や、米田とあやめも一緒だ。

しかし、今回は予想外の事が起きた。

 

「じゃあ行くぞ?勝利のポーズ……「決めぇい!!」いいっ!?」

 

みんなでポーズを決めようとした時、米田がフライングで先にポーズをキメてしまったのだ。

 

「あ~ん、アイリスも言うの~!!」

 

「ま、たまにはな」

 

怒るアイリスに米田が悪びれずに返す。

花組は、その様子に声を上げて笑うのだった。

 

<続く>




《次回予告》

も~いくつ寝ると~お正月~♪

親しい方に、年賀状はきちんと出しましたか?

秀介さん、早速来てるみたいね?

次回、サクラ大戦!
「拝啓ウルトラマン様」

大正桜にロマンの嵐!

光の国への、帰還命令………?
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