よし!まだセーフ!
まだ男同士の友情物語でイケるッ……!
お風呂上がり。
滴り落ちる水滴と汗をバスタオルで優しく拭き取る。
タオルでごしごしと拭いちゃうと肌に良くないんだよねっ。
ぼくは肌がちょっと弱いから、身体を拭く時はいつも優しくポンポンと叩くように拭いてるんだ。
身体中の水滴を隅々まで拭き取ったあとは、下着を履いてパジャマ代わりのTシャツとハーフパンツに身を包み、まだ濡れたままの髪にバスタオルをあてながらバンガローへと歩きだす。
さっきは脱衣場で八幡と鉢合わせしちゃってビックリしたけど、湯船に浸かって今日の疲れを癒していたら、ようやく気持ちも落ち着いてきた。
ふぅ〜。やっぱりお風呂っていいなっ♪
バンガローに到着し、扉を開けると男子はみんな揃っていた。
「ふぅ……、お風呂上がったよ」
ふと見ると、八幡だけはもうお布団を敷いていて寝る準備もバッチリみたいだ。
ふふっ、八幡ったら!お風呂から上がったらすぐにお布団敷いてごろごろしてたのかなっ?
ぼくは八幡のすぐ横を通って、バッグからドライヤーを取り出し髪を乾かし始める。
夏だと自然乾燥でも充分乾くからって、そのまま放置するのは髪が傷んじゃうからダメなんだからね?
シャンプー後の、水分をたっぷりと含んだ髪はキューティクルが開いたままだから、とっても傷付き易い状態なんだ。
優しく温風をあてて髪を根元から毛先へと丁寧に乾かして、きちんとキューティクルを閉じさせてあげると髪にツヤが出るんだ〜。
えへへっ、ツヤツヤな髪に仕上がるととっても気分がいいよねっ?
丁寧に髪を乾かしていると、どうやらみんなはぼく待ちになっちゃってたみたい。
「ぼく、もう大丈夫だけど……」
「じゃあそろそろ寝るか」
葉山君がそう言うと、すでに寝床の準備を済ませている八幡以外がお布団の用意を始める。
「よいしょっ、よいしょっ」
ぼくは運んできたお布団を八幡のお布団の隣にピタリと合わせるように敷いた。
「ここ、いい……よね?」
なんかぼく、当たり前のように八幡の隣を占拠しちゃったけど……だ、大丈夫、だよね……?
先にちゃんと確認もしないで敷いちゃった事をちょっと後悔しながらも、ちらりと八幡を覗き込んでそう訊ねてみた。
「……ああ」
よ、良かったぁ……
──うっ……でも改めて八幡と顔を向き合わせると、さっきのお風呂場での大事件が頭を過る……
は、八幡の身体って、結構引き締まってたんだよなぁ……そ、それにっ……それにっ……
わぁぁっ!ダメだぁ!
八幡を真正面から見てると裸に見えてきちゃうよぉ……!
ぼくは恥ずかしくて熱く燃え上がっちゃいそうな顔を八幡に見られちゃわないように、ごろんとお布団に転がり込んだ。
「電気消すぞ」
するとタイミング良く葉山君が灯りを消してくれた。
良かったぁ!こんな近くで真っ赤な顔見られたら、ぼく八幡に変な誤解をされちゃうとこだったよっ……!
部屋が暗くなったから、安心して八幡の方に顔を向けられた。
うっ……ちょ、ちょっと近すぎたかも……
こ、これって寝返りしちゃったら……キ、キスしちゃうくらいの近さじゃない……?
は、八幡て寝相はいい方かな……。一応八幡の方を向いて寝ようかな……
だ!だって八幡の寝相があんまり良くなかったら、すぐに避けられるようにしなくっちゃね!た、他意は無いんだよ……?
今日は色々あったしみんな疲れてるからすぐ寝るんだろうなって思ってたら、戸部君が「なんか修学旅行みたいだ」って興奮しだして、正に修学旅行のノリみたいな話題を提供してきた。
「……好きな人の話しようぜ」
「嫌だよ」
急に好きな人の話とか言いだすからドキッとしたんだけど、意外にも葉山君が即答で拒絶した。
葉山君て人気者で女の子にもすっごくモテるのに、そういうお話って全然聞かないよね。
でもぼくもそういう話題にはちょっぴり弱いから、葉山君の拒絶に乗る事にした。
「あはは……、ちょっと、恥ずかしいよね」
そう苦笑いしながらチラリと八幡に視線を向けた。
うー……部屋が暗くて良かったぁ……
──結局戸部君は葉山君の意見を無視して勝手に話し始めちゃったんだけど、どうやら戸部君が急にその話題を出したのは、単純に自分の好きな人を誰かに話したかっただけみたい。
そしてその好きな人って、まさかの海老名さんだって言うんだ!
これには正直ビックリした。
ちょっと恐がる様子を見せながらも、なんだかんだ言ってやっぱり三浦さんが好きなんだろうなって思ってたから。
確かに海老名さんもすっごく可愛い女の子だもんね。ちょっとだけ変わってるけどっ。
でもぼくって男の子の友達あんまり居ないから、こうやって好きな人のお話をするのってちょっと新鮮!
は、八幡はどうなのかな……?
すると戸部君は自分の好きな人を発表出来た事に満足したのか、ただ聞いてるだけのぼく達に話を振ってきた。
「お前らどうなんだよー」
その無茶な振りに、ぼくの心臓が飛び跳ねた。
ぼぼぼぼくの好きな人っ!?
「好きな女の子ってこと?……女の子、かぁ。うん。特にいないかなぁ」
……うん。ホントに特に居ないんだよね。
ていうか普通にそう返しちゃったけど、今のお話の流れの中で「好きな女の子ってこと?……女の子、かぁ」って返しって我ながらちょっとおかしくないかな!?
これじゃまるで女の子“は”居ないけど……って言ってるように聞こえちゃわない!?
カァッと顔が熱を帯びる……
確かに戸部君に「好きな人」って言われた時に真っ先に浮かんだのは……その…………ごにょごにょ、だけどっ……
で!でもそれは友達としての好きであって、け、決してLOVEというワケでは無いんだよっ……?
そう自分に言い訳しながら、暗いのを良い事に、片手を口元に添えながら八幡に涙目になった視線を向けてみた。
お布団の上にペタンと女の子座りをして、真っ赤な顔ですぐ隣の男の子に涙目の眼差しを向けてるぼくって、傍から見たらなんだかちょっと女の子みたいだよね。
まぁぼくはれっきとした男の子だから関係ないけどね!
その後は戸部君が葉山君の好きな女の子の名前を聞こうとして孤軍奮闘してたみたいなんだけど、正直ぼくにはどうでもいい内容だったからあんまり聞いてなかった。
なんだかイニシャルはYとか言ってた気がしたんだけど……ま、いっか!
お話もそこそこに、今夜は八幡と一緒に寝られるんだなぁ……って暗がりの八幡の顔を見ていたら、なんだか安心して……眠たく…………なって…………………きちゃっ…………
おやす……みっ……はちまん……♪
× × ×
「……んっ」
普段とは違う心地の良い空気感に目を覚ます。
室内ではあるけど、いつもよりずっと多い小鳥のさえずりと優しい木漏れ日で、ぼくは今、高原に来てるんだっけな……って、記憶が呼び起こされる。
徐々に意識と視界がはっきりしてくると、ぼくの目の前に広がる光景は……
「わっ……!」
すっごいアップの八幡の顔だった。
わ、わわわっ……お互いにお互いの方向を向いてたみたいで、少し動いただけでぼくの唇と八幡の唇が触れちゃいそうな程に近いっ……!って……えっ!?
「〜〜〜っ!!」
あまりのアップに一瞬で脳が覚醒すると、今の状況の情報が一気に頭に流れ込んできた!
ぼ、ぼく、八幡のお布団に入って、八幡を抱き枕みたいにしてギュッと抱きついる〜っ……!
はわわっ!ななななんでぇ!?
ぼくはガバッとお布団から飛び出すと自分のお布団の上に慌てて戻り、八幡とは逆方向に女の子座りでペタンと座り込んで、髪を撫でたり乱れた服を直したりと居住まいを正す。
「はっ!?」
思い出したかのように周りを見渡すと、葉山君も戸部君もまだスヤスヤと寝息をたてていた。
はぁぁぁ〜〜〜〜……良かったぁぁぁ………だ、誰にも見られて無い……よねっ……!?
心臓が、壊れちゃうくらいに激しく鳴り響く。顔が茹でたてみたいに熱い。
頭も目もぐるぐるになりながらも、なんでこんな状況になっていたのかを考えてみた。
「……あ、……そ、そういえば……」
──ゆうべ、ぼくが目を覚ますと八幡が居なかったんだ。
夢うつつの中『……はれ〜……?』っとぼーっとしていると、どうやら外出していたらしい八幡が戻ってきたんだよね。
八幡はすぐに寝息をたて始めたんだけど、確かぼくはそんな八幡を確認してから寝呆けまなこでトイレに行ったんだ……
じ、じゃあぼくはっ……トイレから帰ってきたあと、間違えて八幡のお布団に入っちゃって一晩中抱きついてたのっ……!?
うぅ……ぼくはなんてことをっ……!全然記憶にないなんて勿体な………………………って違ーーーうぅっ!
× × ×
「あんれ〜?ヒキタニ君まだ寝てるん?」
「あ、うん。何度か起こしたんだけど全然起きなくて。……な、なんかゆうべ眠れなくって、夜お散歩してたみたいだから、寝るのが遅かったのかも……」
「じゃあ無理やり起こすか。もうそろそろ朝食の時間だしな」
「それな!」
葉山君と戸部君が八幡を無理に起こそうと近寄ってきたんだけど、ぼくは慌ててそれを止めた。
「わわっ……あ、あんまり無理に起こしちゃうのも可哀想だよっ。ぼく、もうちょっと待ってるから、葉山君達は先にビジターハウスに行っててもいいよ」
「そうか。じゃあよろしくな、戸塚」
「うんっ」
「ちょりーっす!」
葉山君はともかく、戸部君の起こし方はちょっと雑そうだもんね。
せっかくの高原の朝なのに、気持ち良く起きれないなんて可哀想だもんね。
葉山君達がバンガローを出ていくのを確認してから、ぼくはもう一度八幡に向き直って優しく揺する。
「八幡、はちまーん。起きて〜」
でもやっぱりいくら揺すっても中々起きそうもない。
「ねぇ、はちまんってばぁ」
今度は可愛い寝顔の八幡の頬っぺたをつんつんしてみた。
つんつんつんつん。
えへへっ……八幡可愛いなぁ!んー、でも起きないなぁ……
ぼくはキョロキョロと周りを確認してから……そっと八幡の耳に口を寄せてささやいた。
「……はちまーん?早く起きないと……頬っぺにちゅーしちゃうよ……?」
「……んー」
わっ!きゅ、急に起きそうになったからビックリしちゃった!
うん。これならあとちょっと揺すれば起きてくれそうっ。ちょっと残念っ!……………………ってなにがっ!?
「八幡、朝だよ。起きないと……」
ようやく目を開けた八幡にぼくは微笑みかけた。
「やっと起きた……。おはよ、八幡」
「…………おお」
「早くしないと朝ご飯に間に合わないよ」
「あとの連中は?」
「葉山君と戸部君には先に行ってもらったんだ。八幡、起きそうになかったし……」
「悪い……」
すると八幡はちょっと申し訳なさそうに頭を掻いた。
これは……この旅行?が決まってから計画していた作戦を実行するチャンスかも……!
「八幡はさ、夏休み不規則な生活してるでしょ?運動とか全然してないでしょ」
ぼくはちょっと怒ったフリをして八幡に訊ねた。
えへへ、ぷくっとしてる方が、このあと提案しやすいよねっ?
「あー、そうな。特になんかしようとは思わないしな。暑いし」
「身体によくないよ?何か運動を──あ、そうだ。今度テニスしようよ」
「おお、やるか。そのうち適当に連絡くれ」
やった!八幡が提案に乗ってきてくれたっ!
でもでも!その為には聞いとかなくっちゃならないことがあるんだよね♪
「うん、わかった!絶対連絡するよ!……あ、あの、ぼく、八幡のアドレス、知らない……」
そして遂に!遂にぼくは八幡のアドレスを手に入れたんだ!
八幡の教えてくれたアドレスを、機械が苦手なぼくは悪戦苦闘しながらもようやく登録し終え、試しに送ってみるからって言って、八幡に初メールを送ることにした。
んー……なんて書こうかな……?
───よし!やっぱり初めてのメールだもん!シンプルなのが一番だよね。
君に届け!ぼくから八幡への初めてのお便りっ!
[題名:彩加だよ。
本文:八幡、おはよ。初めてのメール、です。これからもよろしくね!]
続く
お待たせしてしまってスミマセン><
ようやく最新話の更新です!
ふぅ……なんとかまだ書けたぜっ(吐血)
そしてまだギリギリセーフ(・ω・)
もしまだ続くようなら、また次回会いましょう!全国津々浦々のトツラーの皆さまっ☆彡