天使はいつだって憧れの君を見てる   作:ぶーちゃん☆

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今回はあんまりとつかわいいを望めないかもっ><





とつかわいい⑪

 

 

 

川遊びを始めてからしばらく経つけど、八幡は川には入って来ないで木陰でのんびりと休んでいるみたいだ。

んー……やっぱり八幡は水着持ってきてないんだなぁ……八幡と水の掛け合いっこしたかったんだけどな……

 

八幡以外はと言えば、女の子達は水鉄砲まで持ち出して激しい掛け合いをしてるし、葉山君と戸部君は素手で魚を捕まえようとはしゃいでる。

ぼくは男の子だから葉山君たちと一緒に行動はしてるけど、なんだか心此処にあらずで、さっきからずっとチラッチラッ……と八幡の様子を眺めていた。

 

「あっ!……むーっ!」

 

もう!八幡てば!

さっきから女の子達の様子ばっかり見てるんだからっ……!

そりゃ八幡だって男の子だし、あんなに魅力的な女の子たちが水着ではしゃいでたら目がいっちゃうのも分かるけどさ……分かるけどぉ…………もう!八幡のえっち……!

 

「戸塚ー!今だ!魚そっち行った……って、あんれー?どしたん?戸塚。そんなに頬っぺた膨らましちゃって」

 

「え!?な、なんでもないよ?」

 

「?」

 

うわぁ……せっかくみんなで川遊びして楽しんでるのに、ぼくいつの間にか頬っぺた膨らませちゃってたのかぁ……

……もう!八幡がいけないんだからねっ!

 

 

× × ×

 

 

反省したぼくはしばらく八幡の事は忘れて、川遊びに集中していた。

どれくらい経ったのかな。

ふと気が付くと、八幡の隣には鶴見留美ちゃんがちょこんと座っていて、八幡とお話してる。

 

 

───どういうこと……?

確か今日のこの時間は小学生たちは自由時間だって言ってた……

なのに、なんであの子は一人ぼっちでこんなところに居るの……?

その異常事態に気が付いたのか、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんが川から上がり、二人の方へと歩いていった。

しばらくそのまま4人でお話してたみたいなんだけど、気が付いたら留美ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。

 

……なんか……やだな、ああいうの……

ぼくには憶えがある……留美ちゃんのあの光景に……

 

少しだけ苦しくてチクッとする胸を押さえて見ていると、八幡が立ち上がり留美ちゃんにぼそりと一言を告げて去っていく。その顔は、なにかを決意したかのような表情だった。

……八幡は、やっぱり留美ちゃんも救うんだねっ……

 

ぼくは去っていく八幡の背中を見つめながら、もしも八幡が辛い思いをしてでも留美ちゃんを救うつもりなのだとしたら、その辛さを少しでも和らげてあげられるように全力でサポートしようと心に誓った。

 

 

× × ×

 

 

川遊びを切り上げたぼく達は、夜の肝試しに向けての準備を始めていた。

準備って言っても、コースを下見して、小学生が道に迷わないように危険なポイントをチェックして、そのポイントポイントにお化け役を配置しておこうかとかカラーコーンを立てておこうかとか打ち合わせをしながらの散策かな。

 

一通り確認作業が済んでから待機場所に戻ると、確認作業中ずっと黙っていた雪ノ下さんが重い口を開いた。

 

「それで、どうするの?」

 

その雪ノ下さんの質問にみんな黙ってしまう。

この質問が肝試しに対しての質問じゃなくて、留美ちゃんに対しての質問だって分かってるから……

 

チラリと八幡を見ると、難しい顔をして顎に手を当てていた。

 

 

 

『……ねぇ、八幡……さっき、川で留美ちゃんとお話してたよね……どうして自由時間なのに、留美ちゃんは一人で居たの……?なにかあったの……?』

 

『ん?……ああ。なんか自由時間だっていうから、朝メシ食って部屋に帰ったら、もう他の連中は誰も居なかったんだとさ』

 

『……そんなっ……そんなのって、酷いよ……』

 

『……だな。子供ってヤツは残酷だからな』

 

『…………八幡は、なにかするの?』

 

『まぁ、平塚先生にこの林間学校の手伝いは奉仕部の活動の一環って言われちまったからな。なら、依頼を受けた以上はなんかするだろうな』

 

『……依頼?』

 

『ああ。留美がな、惨めなのは嫌なんだとさ。だったら惨めに感じないようにしてやるのが奉仕部の仕事だ』

 

 

川遊びから帰ってきて、肝試しのコースチェックに向かう前に八幡とした会話。

あの時点ではまだなにをどうするかは思案中みたいだったけど、考えはまとまったのかな。

 

「留美ちゃんがみんなと話すしかない、のかもな。そういう場所をもうけてさ」

 

さっきの雪ノ下さんの投げ掛けた質問に、苦しんだ末に葉山がそう答えた。

……でも葉山君……それはちょっと……

 

「でも、それだと、たぶん留美ちゃんがみんなに責められちゃうよ……」

 

そう、由比ヶ浜さんの言う通り……。たぶん葉山君はそういう悪意に曝された事が無いから分かってない。

こういうのって、そんなに簡単じゃない。

 

「じゃあ、一人ずつ話し合えば」

 

だから、そういう問題じゃないんだよ……

由比ヶ浜さんに意見を否定された葉山君が食い下がるのをちょっと苦々しい気持ちで見ていると、とっても意外な人が口を開いた。

 

「同じだよ。その場ではいい顔しても、裏でまた始まる。女の子って隼人君が思ってるよりずっと怖いよ?」

 

……海老名さんが低い声で放ったその意見に、さすがの葉山君も言葉を詰まらせた。

 

そっか……海老名さんもそういう経験があるんだね。

でも、それは別に女の子だからってワケじゃないと思うよ?集団心理の中では、女の子でも男の子でも異端な存在はやっぱり異端だし、周りの子たちも男女関係なく排除しようとするんだ。

 

海老名さんの発言でみんなが押し黙る中、ついに八幡が口を開いた……!

 

「俺に考えがある」

 

「却下」

 

ゆ、雪ノ下さんっ……

ぼくだけじゃなくみんながそんな八幡と雪ノ下さんの夫婦漫才のようなやりとりに苦笑していると、八幡が『肝試しだからこその案だ』と説明を始めた。

 

八幡が言うには、肝試しと不良という恐怖心理を上手く利用するみたい。

 

「本当に怖いのは身近な人間だよ。中途半端に信頼しているから、裏切られるなんて思っちゃいない。予想外のところからくるから怖いのさ。あいつらで言うならそうだな、友達が一番怖い」

 

友達が一番怖い、かぁ……

でもたぶんだけど、そんなのは本物の友達なんかじゃないよね。

八幡もそれが分かってるから、こんな言い方をするんだろうな。

 

周りのみんなは、つまりどういう事なんだ?と表情で説明を求める。

すると八幡は「具体的に説明する」と前置きしてから語り始めた。

 

「人間、極限状態でこそ本性が出る。本当に怖い思いをしたら、何が何でも自分を守ろうとするだろ。人のことなんて考えていられない。周りの人間を犠牲にしてでも助かろうとしたがる。そうやって醜い部分を晒したらもう仲良くなんてしてられないはずだ。そうやって連中をばらばらにしてやればいい。……みんながぼっちになれば争いも揉め事も起きないだろ」

 

 

ここまで言うと八幡はニヤリとして、ここからが本題とばかりに具体的な説明を始めるのだった。

 

 

× × ×

 

 

「要は中途半端に信用しあってるあいつらに、不良に暴力を振るわれるかもという恐怖を与えて、お互いを裏切らせりゃいい。なにせあんなに薄っぺらい集まりだ。自分だけが助かる為なら、簡単に裏切るだろう」

 

「……つまり、自分が助かりたいのならば、他の誰かを生け贄に差し出せと選択を迫るというわけね」

 

「さすがに理解が早くて助かる。まぁそういうことだな」

 

「でも一体それをどうやって遂行するつもりなのかしら。あのグループだけにそんな選択を迫る手立てなんてあるの?」

 

「ああ、それはもう考えてある」

 

な、なんだか恐ろしい会話をしてる気がする……

八幡と雪ノ下さん以外は、ちょっと引きつった顔でそんな二人の様子をただ見守っている。

 

「ただこれには、葉山達に汚れ役をやってもらわなくちゃならない。やるかどうかはお前ら次第だけどな」

 

急に話を振られた葉山君達がギョッとした。

 

「……は?あーしらが汚れ役なん……?」

 

「……え、あ、やー……その……」

 

わわわっ……三浦さん恐いっ……!

さっきまでちょっと悪そうな顔で説明してた八幡も、これにはさすがに怯えちゃったみたい。

 

「優美子。とりあえず一旦ヒキタニ君の話を最後まで聞いてみよう」

 

「……まぁ、隼人がそう言うならぁ……」

 

葉山君が三浦さんを宥めたところで、ちょっとおっかなびっくりしながらも八幡の説明が再開した。

 

「……えっとだな……んん!…………あいつらはリア充グループ予備軍だ。そして見てりゃ分かると思うが、あいつらは葉山グループに将来の自分達を重ね合わせて憧れを抱いている。憧れと同時に同族に対する気安さもな。だからそこを突く」

 

「えっと、どゆこと?ヒッキー」

 

「いいか?肝試しはグループごとに分かれて行動する。昨日のオリエンテーリングみたいにな。だからあのグループだけを違う場所に上手く誘導するんだ」

 

「なるほど。それで先程の選択の件はクリアというわけね」

 

「ああ。そして誘導した先に葉山達を待機させておく。肝試しで暗がりの山道を不安な気持ちで歩いてきたあいつらが、憧れの葉山達を発見したらどういう行動を取ると思う?」

 

あっ……そのシチュエーションをぼくに重ね合わせたら分かっちゃった!

不安でいっぱいの時に目の前に八幡が現れたら……

 

「……すっごく安心して、抱きつく……?」

 

「え?あ、いや、抱きつきはしないと思うが……」

 

はわわ……ち、違っちゃった……は、恥ずかしいっ……

でもなぜか八幡も顔を赤くしてる……

 

「で、でもまぁ安心するって所はその通りだな。で、たぶん気安く話かけてくんだろ。場合によっては、調子こいた感じで接してくるかもな」

 

……うん。なんだかその姿は容易に想像できるかも。

みんなもその姿を想像して頷いてる。

 

「そこがポイントだ。そんなガキ共にこう言ってやるんだよ。『お前らなに調子乗ってんの?ムカつくからやっちまうか』ってな」

 

その一言で、みんながハッとした。

ぼくもだけど、八幡のその作戦に気が付いたんだ。

 

「つまり、そこで選択を迫る訳ね。何人かは助けてやるから、何人かは残れ……と」

 

「そういうことだ。まず最初の生け贄に留美が差し出されるだろう。だがそのあとはどうする?自分さえ助かりゃいいと考えるんなら、醜い部分を晒しまくってお前が残れお前が残れと言い争いになんだろ。4人と1人だったグループも、そこまで行きゃ5人の立派なぼっちの出来上がりだ。あんな薄ら寒い関係は一旦ぶっ壊しちまえばいい。そして留美も惨めじゃなくなる」

 

「はぁ?ちょっと待つし!んなことしたら大問題になっちゃうんじゃね!?親とか先生にチクられたら、あーしら退学とかになっちゃうんじゃないの!?」

 

「……それは大丈夫だ。その場で俺が「これはドッキリでしたー」とか言って出ていく。そうすれば非難が俺だけに集中してその場は収まるし、肝試し中ということもあり、あくまでもイベントの一環だったという事でカタが付く」

 

 

そこで八幡の説明は終了した。

みんな……思いっきり引いている。正直ぼくもそれでいいのかどうか良く分からない。

 

でも、ぼくは八幡を全力でサポートするって決めたんだ。だから、みんなは引いてるけど、ぼくだけは八幡を肯定するんだっ。

 

「八幡はよくいろんなこと思いつくね」

 

ぼくのその言葉に八幡は少しだけ驚いた顔をしたけど、ぼくが真っ直ぐな目で八幡を見つめてたら、八幡も少しだけ笑ってくれた。

 

 

 

結局そのあともみんな悩んんだり反対意見が出たりもしたけど、他に考えが浮かばないという事でその作戦で行く事に決定したのだった。

 

作戦決行まであと数時間。今夜は、ちょっと苦い肝試しになりそう……

 

 

 

 

でもぼくは一つだけ気になってたんだ。

八幡が最後に言ったセリフ。

 

 

『そうすれば非難が俺だけに集中してその場は収まる』

 

 

八幡は……やっぱりなにかを1人で背負い込むつもりなんだね。

だったらぼくは、八幡が1人で背負い込んだ荷物を少しでも軽く出来るように支えよう。

それが、薄っぺらい関係なんかじゃない、本物の友達だから……

 

 

 

続く






今回もありがとうございました!

いやぁ、今回はほとんど戸塚の暴走が無かったですねー。
でもあれだけ書き辛かった戸塚SSも、戸塚が真面目モードに入ってきたら途端に書きやすくなりました。
やっぱりそれは私の根が真面目なんだからでしょうね!
・゚(Д`(⊂≡ ボゴォッ!



ようやく次回かその次くらいには締められそうです!
なんとか今年中には締めるぞー☆おー!



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