うぅ〜……すっごいドキドキしちゃったなぁ……
ぼくはベンチの隣に座る比企谷くんを横目でチラリと……正確には比企谷くんが持っている缶コーヒーを盗み見た。
かっ……間接キスだよぉ〜……
ぼくなんであんなに大胆に飲みかけのコーヒーをねだっちゃったんだろっ……
いやでもまてぼく!
お、男の子同士の回し飲みなんて、全然普通のことじゃないか!今までしたことないけど……
うん!そうだよ!
ぼくはなにを意識しちゃってるんだろっ。
だって……比企谷くんは全然なんでもないような顔して飲んで……るし……?
もう一度チラリと覗き込むと、比企谷くんはとっても緊張した面持ちでコーヒーに口をつけてた……
や、やっぱり普通じゃないのかな!?回し飲みって!
ど、どうしよう……本当はぼくが口をつけたやつなんて汚ないとか嫌だとかって思ってたら……
うぅ……想像しただけで涙出てきそうになっちゃった……
ぼくのばか……比企谷くんと楽しくテニスが出来たからって調子に乗っちゃったんだ……
でも……でももう一回だけチラリと盗み見てみた。
そしたら比企谷くん、飲み終わったあとに嫌悪感どころかとっても幸せそうな顔してた。なんだか心なしかほっぺも上気してるような……
………良かった……!少なくとも、ぼくとの間接キスに対して嫌な気持ちを持ったわけじゃなさそう……!
ほんのついさっきまで泣きそうになってたのに、今度は顔がとっても火照ってきた。
ぼくはすぐさま比企谷くんから目を逸らし、火照った顔を冷やすようにスポーツドリンクをごくごくのんだ。
そうだ!コーヒー分けてもらったんだから、ぼくのスポーツドリンクを分けてあげるのも普通の事だよね!
間接キス……
うわぁぁぁっ!ダメだぁぁ!
火照りを冷ますように飲んでるのに余計に熱くなってきちゃったよぉぉぉ!
……結局ぼくは比企谷くんにスポーツドリンクをあげるのを諦めた……ぼくのいくじなし……
× × ×
「比企谷くんっ!おつかれさまっ」
「ふぃ〜……おつかれ」
ちょこちょこ休憩を挟みながらも、夢中で練習してたら気付いたらお昼をとっくに回っていた。
まさかこんなに集中して練習出来るだなんて……やっぱり比企谷くんにお願いして良かったなっ♪
「とってもいい運動になったよね!えへへ、ぼく達びしょびしょだねっ!」
汗まみれの自分たちを見て、思わず笑っちゃったっ。
そしたら比企谷くんはなんだかびっくりした顔をして、なぜか赤くなっていた。
「お、おう。そうだな……いい運動になってビチョビチョだな……」
ん?どうしたんだろ?
なんだかちょっとニヤっとしてる。
ぼくなんか変なこと言っちゃったかな?
「んん!ん!……し、しかしホントに汗かいたな。うちの学校、シャワールームでもありゃいいのにな」
「そうだね!汗流したいよねっ」
比企谷くんと隣同士でシャワーかぁ……
なんか激しく運動したあとの男と男の友情!って感じで憧れちゃうなぁ……
……でも想像するとちょっとドキドキしちゃうのはなんでだろ?
うぅ……また熱くなってきちゃった……
「近くにお風呂屋さんでもあれば、一緒にお風呂入れるのにねっ」
「ぶっ!!」
「ど、どうしたの!?比企谷くんっ!」
「い、いや……決してなんでもないぞ……?そう、なんでもない。……いいな、一緒に風呂……」
たぶんぼくの顔は“ボッ!”って音を立てるくらいに真っ赤になっちゃったんじゃないだろうか!?
……ぼ!ぼくはなんて言い方しちゃったんだろ!?一緒にお風呂ってぇぇぇっ!
もっと他に言い方あるのに!
一緒に汗流せるね!とか一緒に洗いっこ出来るね!とか!
…………ってばかぁぁぁぁっ!!!
あ、洗いっこってなんだよぉ!ぼ、ぼくはいつからこんなに穢れちゃったんだろっ……
うぅ……比企谷くん、変な意味で受け取ってないといいな……
× × ×
シャワールームもなければ近くにお風呂屋さんもないので、結局ぼく達はそのまま帰路についた。
帰り道は比企谷くんが自転車を押しながら一緒に駅まで歩いてくれて、他愛のない雑談に花を咲かせていた。
でも……このままお別れはやっぱり寂しいな。GW明けまでは会えないし……
ちょっと……誘ってみようかな……
学校帰りに比企谷くんと寄り道してくなんて、ちょっと前のぼくにはまるで夢のような出来事のはずなのに、今のぼくにはもう夢じゃないんだから……!
「比企谷くん……あのさ」
「どうした?」
ぼくはゴクリと喉を鳴らした。
断られちゃったらとうしよう……でもでも!今日はぼくのお願いを聞いてわざわざ来てくれたんだもん!大丈夫っ!
「ちょっと……おなか空いてない……?もし比企谷くんさえよければ、……どっか、寄ってか…」
「よし行こう」
そ、即答!?ていうよりぼくまだ言い終わってなかったのに!?
でも良かったっ!そりゃ朝からお昼過ぎまでずっとテニスしてたんだから、比企谷くんだってお腹空いてるよねっ!
えへへ……心配して損しちゃった♪
「良かった!じゃあどこ行こっか?比企谷くんはなにが食べたい?」
「そうだな。俺はサイゼかラーメンてとこだな。でも戸塚が好きなところが一番いいから、戸塚の行きたいところでいいぞ」
「うんっ!じゃあサイゼにしよっか!」
比企谷くんもサイゼ好きなんだなぁ。
やっぱり学生の味方だもんね。
「戸塚はサイゼでいいのか?」
「うんっ!ぼくサイゼ好きだよ!」
ん?比企谷くん?
比企谷くんは唖然としてぼくを見つめてる……
もうっ!比企谷くんたら!……そんなに……見つめないでよ……
「戸塚。もう一回言ってくれるか……?」
へ?もう一回言うの……?
「ぼ、ぼく、サイゼ好きだよ?」
「後半の方をもう一回」
「……?サイゼ、好きだよ?」
「さらに後半の方をあと三回」
「……?す、好きだよ?……好きだよ!……好き、だよ?……はっ!?」
言っちゃったあとに、ぼくはまたも顔が熱くなってしまった……!
「も、もうっ!比企谷くんでば……いつもそんな風にぼくをからかって……ぼ、ぼく、恥ずかしいんだから!……ぶぅっ」
また遊ばれたっ!
もう!比企谷くんのばかっ!
あぁ!もう恥ずかしいよー!
比企谷くんはそんな恥ずかしがって膨れっ面のぼくを、満足そうに幸せそうに見つめていた。
………………ばかっ
× × ×
しばらく歩くとぼく達はサイゼに到着した。
えへへっ!比企谷くんとの初めてのお食事だ!
店員さんに席に案内されると比企谷くんはすぐさま注文した。
「俺はミラドリとドリンクバーで」
まだメニューも見てないのにっ!?
お、男らしい……格好良い……
「えっと……じゃあぼくは……うーんと、小エビのカクテルサラダとドリンクバーで」
料理が運ばれてくるまでの間にドリンクを取ってくると、比企谷くんは持ってきたコーヒーに大量のミルクとガムシロップを入れていた。
「比企谷くんは、ホントに甘いコーヒーが好きなんだね〜……」
「まぁな。練乳が用意されてないのは残念だけどな」
練乳かぁ……ぼ、ぼくも今度から練乳入りコーヒーに挑戦してみようかなぁ。
そしたら、比企谷くんみたいに、強くなれるかな……?
料理が届き、ぼく達は今日のことやあの日のテニス対決のことなど、楽しくおしゃべりしながらの素敵な時間を過ごした。
「しかし戸塚はサラダだけで足りるのか?あんなに動いたのに」
「うん。ぼく少食の方だしね。それにコレ結構ボリュームあるし美味しくて好きなんだっ!」
「……え?なんだって?……さ、最後の方が良く聞こえなかったから、もう一回言ってくれるか?」
ん?最後の方……?
「結構ボリュームあるし美味しくて…………………はっ!もーっ!またそうやってぼくをからかうの!?比企谷くんのばかぁっ!」
ホントに比企谷くんてばぁ……
こうやって怒ってむくれてるぼくを見て楽しむんだから!
「おう、すまんすまん。あまりにも戸塚が可愛くてな」
うぅ……またそうやってぇ……
「だから……ぼく男の子なんだよ……?そ、そんなに可愛い可愛い言われると、その……ちょっと困っちゃうよ……」
ホントに比企谷くんてばいじめっ子なんだからっ……もうっ!恥ずかしい……っ
でも、こんな風に笑ったり怒ったり恥ずかしがったりし合えてる今が、とっても楽しくてとっても幸せ……!
× × ×
「比企谷くんっ!今日は本当にありがとねっ!とっても楽しかった」
「俺も楽しかったぞ。俺なんかでも戸塚の役に立てたのなら幸いだ」
「そんなっ!役に立つだなんて!……ぼくは……そういうんじゃなくって……もっと、比企谷くんと……対等な関係になれたらなって思ってるよ」
「そっか……スマン。言い方悪かったな……その、二人で一緒に楽しめて……うん。今日は良かった」
「…………うんっ!」
ぼく達はサイゼでの食事を終えて、もうお別れの挨拶をしている。
なんだか名残惜しいな……次に会えるのはGW明けかぁ……
こんな風にお話が出来るようになってまだたった半月くらいだけど、本当に毎日が充実してたなぁ。
思えば、一年の間ずっとお話してみたい、お友達になりたいと願ってた比企谷くんと、こうして休みの日に一緒に大好きなテニスをして、一緒に道草して、そして一緒に別れを惜しむ貴重な体験が出来るだなんて夢にも思ってなかった。
初めてお話出来たお昼のテニスコート脇でのやりとりも、由比ヶ浜さんに連れられていった奉仕部という部室での奇跡の再開も、その日から毎日のように付き合ってくれたテニス特訓も、あの葉山くんや三浦さんを相手にぼくの為に戦ってくれたテニス対決も、そして今日の素敵なひとときも、全部全部ぼくの宝物……!
こんな素敵な宝物が、これからもたくさん増えていってくれるのかな……
「……ねぇ、比企谷……くん……」
「ん?どうした?」
「……あの……その……GWが明けてからも……またぼくとこうして……いっぱいいっぱいお話してもらえる……かな……」
ぼくは今、どんな顔をして比企谷くんを見つめてるんだろう?
期待するような顔?
嬉しそうな顔?
不安でいっぱいの顔?
…………泣きそうな顔?
どんな顔を向けているのか自分では全然分からないけど、そんなぼくの顔を見て、比企谷くんは真っ赤な顔してニカっと素敵な笑顔を浮かべて即答してくれた。
「おう、あたりまえだろ」
…………良かった
…………比企谷くんとお友達になれて…………
こうしてぼくと比企谷くんは、たくさんの出来事を経験し色んな事がありながらも、とっても素敵な遭遇を迎えられたんだ。
まだまだ君と本当の意味での対等には程遠いかもしれない。
まだまだ君と肩を並べて、君の隣に胸を張って立ててるってわけではないのかもしれない。
でも……でも君とのこんなに素晴らしい日々がこれからもずっと続いていけるのだとしたら…………いつか、きっと……!
ぼくと比企谷くんの友情物語は………………まだまだ始まったばかりだっ!
第一部【友達との遭遇編】……おわり☆
ありがとうございました!
急に【第一部・完】みたいになってビックリしましたか!?
作者もビックリしました(笑)
一応キリのいいトコまで書けたんで、一旦区切ろうかなぁ……と。
というのも、発売日が伸びたとはいえ11巻発売が目の前に迫ってるので、それを穴が開くまで読んだり、11巻関連の物語も書かなきゃいけなくなるかもなので、どっちにしろ更新開いちゃいそうなんですよね(汗)
なので中途半端なとこで開いちゃうくらいなら、キリのいい今回で一旦区切ろうかなと。
でも大丈夫です!戸塚SSはこのまま消えたりはしません!(たぶん)
天使トツカエルを求める熱狂的読者さまが居る限り、なるべく早く帰ってきますっ!(たぶん)
それではまたお会いしましょう!(たぶん)