勉強につかれてしまった。
いや、別に遺書めいたことを言っても自殺なんてしないよ?そもそもそんな勇気もないし。
さて、季節は世間で言う夏休み前。日もかなり長くなってきたというのに外は真っ暗。なんでこうも必死になって勉強しているのかというと、何を隠そう俺は浪人生なんだ。それでも第一希望の大学は諦めてないし、勉強も精一杯やっているつもり。それで朝からずっと勉強しているけど、そんなのモチロン集中力が続く訳がない。
「そうだ!受験生らしく、息抜きに深夜ラジオでも聞こう!うん、これは息抜きだ!」
なんて、誰にでもなく言い訳しながら完全に休憩モードに入ることにしてしまった。手早くスマホの電源を入れ、ラジオアプリを起動し、ローカル放送局にチャンネルを切り替える。
短いロードを挟み、スマホから賑やかな音声が流れ始めた。
『の曲は今週のオリコンチャート2位「世界でいちばん頑張ってる君に」でした〜!真美、どうだった?』
『ん→とね、なんだか元気が出てくるような、ちょ→E感じの曲だったね!』
久々に聞いた女の子の声、しかも2人分。そんな甘い響きのせいで、いきなり聴く番組は決まってしまった。我ながら単純というか、なんというか。
『ところでさ、はるるんは最近、元気が出るようなこととかってあった?』
『えーっと元気か〜……… 最近って訳じゃないんだけど、やっぱり初めてサイン下さいって言われたことかな〜』
『んっふっふ〜、全くはるるんは可愛いですなあ〜。』
『ちょ、ちょっと真美!からかわないでよ〜。って、そう言う真美こそ、何か元気になれる事とかあったの?』
『真美?真美はいつでもちょ→元気だかんね!むしろ真美が元気を振り撒いちゃってるって感じっしょ!ラジオを聴いてる兄C姉Cも、そう思うよねー?』
確かにこの真美って子の声、聞いてるだけでこっちまで楽しくなってきそうな感じだな。
『ほら→!外の兄C達もこう言ってるじゃん!』
『えー!?そ、そんな!わた、春香ちゃんだってアイドルなんですよ!元気振り撒いちゃいますよ!!ほら!ほら!』
なにやらバサッ、バサッと音はしているが、生憎とこれはラジオだ。全く伝わってくる気配がない。
それにしてもこの2人、アイドルなんだ。名前は聞いたことないけど、最近テレビ見てないしなぁ。まあラジオに出るくらいだし、一般人なワケないか。
『あっ、はるるん!カンペ、カンペ!』
『え!?えーっと…私、天海春香は、ラジオをお聴きの皆さんに?』
『ぺらり』
『元気と勇気をお届けするため、この場でさっきの曲をカバーしますぅ!?』
『わ→パチパチパチ〜!』
『で、できませんよぉ!』
『え→、はるるん、この曲きちんと聞いてこなかったの→?』
『そ、それはラジオで使う大事な曲だからって言われてたし、ちゃんと聞いてたけど…あ!ぷ、プロデューサーさんもしかして!!』
『それでは早速はるるんには準備してきて貰いま→す!』
『ちょ!ちょっと真美ぃ!?』
この慌てよう、もしかして本当にドッキリだったのかもしれない。それに、なんだかちょっと可愛いかもしれない。
『あ〜、それでは〜はるるんの準備が整うまで〜え〜真美が即興でも歌いましょう!……コホン…れこーでぃんぐーれこーでぃんぐー、なーがいーのーいーやーだー!れこーでぃんぐーれこーでぃんぐー、みーじーかーめーきーぼーうーっと!おやおやー、はるるんの準備も出来たようですなー…えい!!』
『うしよ、緊張するなぁ…真美もプロデューサーさんも絶対最初から知ってたよぉ……えっ!もうですか!?は、はい!大丈夫です!…え?もう入ってる!?わ、ええ、えーと、それじゃわた、天海春香!歌います!!』
ひとしきり慌てた後、ようやくイントロが流れた。イントロを聞いた限り、俺の知っている曲じゃないみたいだ。それもそうか、ここんとこ勉強漬けだったし…
『僕は知ってるよ♪
ちゃんと見てるよ♪
頑張ってる君のこと♪
ずっと守ってあげるから♪
君のために歌おう♪
当たり前と言うけど♪
当たり前じゃない♪
頑張ってる君のこと♪
ちゃんとわかってあげたいから♪
君のためのラブソング♪』
ついつい集中力まで使って聴いてしまっていた。歌詞はリスナーというよりも、むしろ歌っている本人に向けた方が適切な気がする…それくらい頑張っているのが伝わってくる、少し震えたような歌声だった。後半は吹っ切れたのか、楽しそうに歌っていたけど。
『はるるんおつかれ→!』
『うぅ、緊張したよー…』
『と、言ったところで、残念だけどそろそろ時間なんだ→…』
『えっ!もう!せめて感想くらい言ってよー…』
『はいはい、頑張ってたね→はるるん。それじゃ前半で決めた通り、来週からこの番組の挨拶は『こんばんはるるん〜』で行くかんね!ヨロシク→!』
『え!それだけ!?というかあれ、ホントに採用しちゃうの!?』
『それでは今日はこの辺で!』
『ちょ、ええ〜!?』
『ほらはるるん、いつもの!』
『えーと、あ、天海春香と!』
『双海真美の!』
『『あまみまみラジオ!』』
『でした!!』
『…はるるんさっきから驚きすぎだよ→』
『あうぅ……』
『…………ニュースの時間です。昨夜未明、市内のあ』
厳ついおっさんの声が流れ始めたので、慌ててアプリを落とした。うん、前半を聞き逃したのが実に悔やまれる。忘れないうちに来週のアラームをかけておく。
「さてと、春香ちゃんに元気ももらったことだし、勉強でもしますかね!」
その前にネットで天海春香についてちょっと調べて、ラジオの時間も一応きちんと確認して……あ、そうだ、サイン欲しいですって番組宛にメール出しとこう。
ラジオネームは…そうだな、俺は天海春香のファンです!とかでいいや。