第十八話です。
そろそろこの作品も二十話を越えますね。
東方霊恋記で行われているキャラ投票なる催しをこちらでもしたいなーとは思ってますが、流石にお気に入り登録千件以上のあの作品ほどの投票は期待できないかなーとも思っています。
皆さんのリアクション次第でやろうかどうか決めたいと思いますので、ご一報よろしくお願いします。
※今回のお話はギャグ四割シリアス六割の構成となっております。
それでは、第十八話――スタート!
沙羅良夜は昨日、紅魔館の門番をしている紅美鈴と一緒に居酒屋に行った。――うん。そこまでは何ら問題はない。記憶もしっかり残っている。
だが、その後のことがあまり思い出せない。原因としてはスコールのように飲まされた日本酒が考えられるだろうが、今はそんなことはどうでもいい。
そう、今現在の目下の問題は――
『いらっしゃいませー! 『聖徳道士様のお悩み相談室』へようこそーッ!』
――遠くの方から聞こえる意味深なセリフについてだ。
酒を(文字通り)浴びるように飲んだせいで頭がガンガンと痛むが、良夜はゆっくりと体を起こす。何故か良夜は見覚えのない和室で、見覚えのない布団の中で横になっていた。昨日負ったはずの傷は何故か完治していて、体のどこにも傷なんて残っちゃいない。
「???」展開が急すぎて頭の上に無数の疑問符を浮かべつつも、良夜は布団から抜け出して声のする方へと歩いていく。何故かいつもの学生服ではなくて和服に着替えさせられていることに疑問を覚えるが、とりあえず今は考えないことにしよう。誰かに着替えさせてもらったとか言うオチだったら死にたくなるし。
畳の上を歩き、真っ白な障子の前まで到達。外はもう朝を迎えているようで、障子の向こうから差し込む日光が良夜の目を刺激する。良夜は反射的に右手で目を覆った。
そしてやっとのことで光に目が慣れたので、良夜は思い切り障子を開く。
そこには――
「神子様ぁ! 次のお客さんを入れてもよろしいですかー?」
「オイ布都! まださっきのお客様を入れてから十秒も経っていないだろう! 少しは太子様の苦労も考えろ!」
「いえいえ、別に構わないわよ、屠自古。布都、次のお客様を連れてきてくれませんか?」
「あい分かった!」
――古代日本を彷彿とさせる三人の仙人の姿があった。
☆☆☆
彼女たち三人が仕事を終えたので、良夜は異界にある巨大な屋敷へと連れて行かれ……もとい招かれた。
屋敷の中は豪華な装飾と高級そうな家具が確かな存在感を放っていて、静かに良夜を圧倒していた。特にあのごつくてデカい武士鎧。あんなの一体どこで手に入れたんだろうか。
屋敷の中でも客室に当たるのであろう大きめな部屋に連れてこられた良夜は現在、これまた高級そうなテーブルの上に頬杖を突いている。顔には既に困惑の表情が見て取れ、彼がいかに異様な状況に包まれているかを顕著に表している。
そして、良夜とテーブルを挟んで正座している栗色で猫耳のような髪型の女性――
「お久しぶりですね、沙羅良夜。三日ぶりぐらいかしら?」
「まず最初に状況説明から始めてくれませんかねぇ!?」
額に青筋を浮かべながらテーブルをドン! と叩く良夜に少しだけびくっとしながらも、神子は平静を取り戻して良夜を鎮めるように言う。
「話は簡単なのですよ、良夜。君は咲夜さんの代わりに紅魔館で仕事をしていた。ですが、美鈴さんとの決闘で大ケガを負ってしまい、仕事の続行は不可能。ここまでは間違っていないかしら?」
「なんでそんな細かいことまで知ってるのかについては寛大な俺はスルーしてやる」
「ありがとうございます。それで、君は大ケガのせいで咲夜さんの代わりはできない。結局はただの足手まといになってしまうだけだもの、君は凄い罪悪感に囚われるでしょうね。そう思った私は君の傷を治療し、この屋敷まで連れて行きました」
「そんなわけで」と付け加え、神子は満面の笑みで言う。
「次は私の番なのです」
「ごめん、神子。最後の言葉で分かりそーだった話が逆に分かんなくなっちまったんだ」
「今日はもう仕事もありませんし、一緒にお風呂なんてどう?」
「だから俺の話を聞いてくれませんかねぇ!? 展開が急すぎるって何度も言ってますからぁ! そして一緒に風呂はマズイ! 個人的にはメチャクチャ嬉しいが、これが文に知れたら絶対に殺されるって!」
同棲相手であり家主でありある意味では両想いである鴉天狗の射命丸文の静かな怒りを経験したことがある良夜としては、文に怒られる要素をこれ以上増やすわけにはいかない。すでに美鈴関係で腕の一本は持っていかれる危険があるというのに、神子と一緒に風呂なんて入ってしまったら……首をもぎ取られるかもしれない。
自分の首を病んだ笑顔でもぎ取る文を想像して全身に鳥肌を浮かべる良夜だったが、神子はそんな良夜を腕を掴んで思い切り引っ張った。
「さぁっ、行きましょう良夜! お風呂の準備は既にできてるわ!」
「俺の心の準備はできてねーけどな! ちょっ、マジで勘弁してください! せめて、せめて俺の心の準備ができるまでは待ってくれェええええええええええええええええええーッ!」
五日後ぐらいに襲いくるであろう恐怖に良夜は身を震わせるが、そんなことなど知る由もない神子は彼を風呂場まで連行する。
☆☆☆
ぶっちゃけた話、今の状況は幸せです。
神子に風呂場まで連行された良夜は現在、銭湯かよと言わんばかりに広い湯船の中で温かいお湯に浸かっていた。――背後に神子が密着する形で。
今も妖怪の山のてっぺんで鴉天狗の集会に出席している文に心の底から謝罪しつつも、背中から伝わってくる柔らかな感触に意識を持って行かれそうになっている。一般女性よりもスタイルが良い神子の形の整った双丘が自分の背中に押し潰されて形を変えているのが直に伝わってくるが、良夜は本能に負けないように必死に耐える。俺の理性、根性見せろ……ッ!
「ん? 君、心臓の鼓動が早くなっていますよ? もしかして、私の裸にドキドキしていたりするのかしら?」
「ン、ンなわけねーでしょう!? お、俺は別に、柔らかいなーとか良い感触だなーとかなんて思ってねーからな!?」
「はいはい、相変わらず素直じゃないわねぇ。人の欲が分かる私に、嘘なんて意味ないですよぉ?」
「バッ、さらに身体を押し付けんな!」
むぎゅっという音と共に背中に当たっている双丘が押し潰され、良夜の理性をガリガリ削っていく。湯気のせいで頭がぼーっとしてきているので、これ以上はヤバイかもしれない。
一方、良夜に抱き着いている神子はというと。
(は、恥ずかしいけど仕方がありません! 文さんと咲夜さんに比べて良夜との絡みが極端に少ない私は、お色気ポイントで距離を縮めるしかないッッッ!)
結構必死だったりする。
良夜に恋する聖徳道士は住んでいる場所と仕事の都合上、良夜に会える機会が少ない。なんとか暇を見つけて良夜のもとを訪ねてみたりはするのだが、そういう時に限って良夜が外出中なのだ。悪霊でもついてんのか私は! とか思いながら部下二人に泣きついたのは記憶に新しい。
そんな不遇な彼女が良夜の好感度を上げるためにお色気作戦に出てしまうのは、まぁ責められることでもないだろう。神霊関係ならエキスパートな彼女も、悪霊が齎す災いには勝てなかったという訳だ。本当に悪霊がついているわけじゃあないが、そこはほら、言い訳だと思ってほしい。
良夜の身体に背中から腕を回し、顔を彼の顔の真横まで移動させる。これで本当の意味で二人の距離はゼロになった。
良夜は顔を真っ赤にしながら叫ぶように言う。
「分かった! お前の身体の感触が気持ち良くて俺が幸せなのは認めよう! だから頼む、とりあえずは俺を解放してくれ!」
「いやです。絶対に離さない」
「いやとか言われても! これ以上こんなことやってたら、文に怒られちま」
「文さんの気持ちだけじゃなくて、私の気持ちだって考えてよ!」
「ッ!?」
悲鳴のような絶叫が浴場に響き渡る。
神子の叫びに良夜は目を見開くが、反論するわけでもなくそのまま沈黙した。
良夜が静かになったと同時に、神子は良夜を抱きしめながら言う。
「こんなに君が好きなのに! 君は文さんのことばかり! 分かってる、私のこの想いが一方通行な思いだってことぐらい、分かっているんです! 君が本気で文さんのことが好きだってことぐらい、分かっているのよ! ……でも、このまま何もせずに恋が終わってしまうだなんて、悲しすぎるじゃない!」
「…………」
沈黙する良夜に構わず、神子は続ける。
「別に君に文さんを諦めろって言っているわけじゃない! 本当は私にその想いを全て向けて欲しいけど、それが叶わぬ願いだってことぐらい分かっています! でもっ! 私だって! 君と一緒にいたいのです……ッ!」
「神子……」
彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。目は真っ赤に腫れ上がり、大量の涙で瞳も潤んでいた。
神子の気持ちには気づいている。それは、良夜が紅魔館でレミリアに言った言葉だ。神子が自分に好意を向けていることぐらい分かっているし、神子が自分に恋をしていることだって知っている。
だが、沙羅良夜は射命丸文のことが好きだ。
神子のことだって好きだし、咲夜のことだって好きだ。美鈴のことだって好きだし、フランドールのことだって好きだ。――だが、それ以上に、文のことが好きだ。
自分が優柔不断なのは分かっている。――だが、ハーレムだなんてふざけたことは絶対にしないと心に決めている。
だから、良夜は神子の想いには応えられない。もちろん、咲夜と美鈴とフランの想いにも応えられない。今の仲のいい友人という関係でストップさせないと、自分は最低の人間になってしまうから。
良夜は自分を最弱の人間だと思っているが、最低の人間にはなりたくないと思っている。選べないからみんな好き、だなんて最低な行為は絶対にしないと決めている。
だから、良夜はココで神子に言わなくてはならない。自分は文のことが好きだからお前の想いには答えられない、と。
「……神子、俺は」
「いいのです、分かっています。私は人の欲を読めるから、君が言いたいこともちゃんと理解しているわ」
「だけど、これだけは言わせてほしいのです」今もなお涙を流し続けている神子は複雑な表情をしている良夜の顔を両手で抑え、
「――愛しています、良夜」
自分と良夜の唇を重ねた。
感想・批評お待ちしております。
次回もお楽しみに!