東方文伝録【完結】   作:秋月月日

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 更新に手間取っちゃいました。

というか、評価が低かったのは計算ミスだったみたいです。確認してもらえばわかるでしょうが、ちゃんと前の状態に戻っています(⌒-⌒; )

 いやー、更新が遅れたのは、別にFate stay/nightに嵌ってたわけじゃないですよ?(震え声)

 それでは、良夜は本当のハッピーエンドを掴むことができるのか。

 第二十二話、スタートです。



第二十二話 本当のヒロインとは

 その少女は、幻想郷の誰よりも凛々しかった。

 上昇した体温によって意識が朦朧としている良夜をしっかりと片手で抱きしめながら、良夜と同じ銀髪を持つ少女――十六夜咲夜はもう片方の手でナイフを構える。

 縄で雁字搦めに縛られている、鴉天狗の少女に向かって。

 

「大方、良夜の目標か何かに激昂してこんなバカなことをやらかしたとは思うけど……流石にやりすぎじゃないかしら?」

 

「私が私の良夜になにをしようと貴女には関係ないでしょう! 良夜は私のものなんです、私だけが愛することを許された人間なんです!」

 

「……はぁぁ。前々からヤンデレの気質はあったとは思っていたけど、まさかこれほどとはね……」

 

 流石に予想外ですわ。身体の力が抜けているせいでずるりと床に落ちていきそうだった良夜を抱えなおしながら、それでも鋭い眼光は射命丸文に向けたまま十六夜咲夜は肩を竦める。

 実を言うと、咲夜は良夜の目標のことを神子から聞かされている。良夜が『五人全員を幸せにする!』と誓ったとき、実は神子が彼の声を聴いていたのだ。良夜に不意打ち気味にキスをした後に耳当てを外していた彼女は、人の欲を聞き取ることができる能力によって良夜の言葉を聞いてしまっていたのだ。

 初めはかなり動揺した。自分の行動がきっかけで、彼の意志が変わってしまっていたから。文の為に他の女性を切り捨てると言っていたはずなのに、五人全員を幸せにするなどという夢物語を実現しようと自らを鼓舞していたから。

 だが、神子はそんな良夜について行くことにした。自分が望む幸せだけでなく、彼に好意を寄せている他の女性たちの幸せを実現したかったから。誰も傷つかなくていい本当の意味でのハッピーエンドが実現する瞬間を、この目でこの身でこの心で実感したいと思ってしまったから。

 そして彼女と同じく、咲夜も良夜の意思を尊重することにした。元々五人の中で唯一『ハーレムでも構わない』と想っていた彼女は、なんの嫌悪感も無しに彼の意志を尊重することができたのだ。

 メイドは主に仕える者。メイドは自らが主だと認めた者に従う者。良夜の伴侶になる覚悟が既にできていた咲夜にとって、良夜の望む未来を実現させるために尽力することなど全く持って難しいことじゃない。むしろ、他の女性を出し抜いて彼の心を奪うより圧倒的に簡単なことだ。

 咲夜は文を睨みつけながら、良夜の体温を感じながら――言う。

 

「貴女が良夜を独占したいと思う気持ちも分からないではないけど、そのために良夜の意志を切り捨てるのはいただけませんわ。愛する人の全てを受け入れ、愛する人に全てを授ける。愛する人に外も中も全て捧げることができて初めて――本当の妻と言えるのではなくて?」

 

「知った風な口をきかないでください! 良夜は私だけを愛してたのに、貴女達なんかがいたからこんなことになってしまったんです! 貴女達さえいなければ、私だけが良夜を愛することができたのに……ッ!」

 

 整った顔を怒りで歪めながら文は告げる。良夜と最も長く一緒にいた文だからこそ、自分が彼に抱いている期落ちの重さが一番重いのだと――ぽっと出のサブヒロインに怒りを向ける。

 だが、十六夜咲夜は否定する。

 

「否定する。私は貴女の言葉を否定する。私達がいなければとか、そんなあり得ない妄想をしていても話は始まりませんわ。事実、良夜は貴方を含めた五人の女性を愛している。射命丸文(しゃめいまるあや)十六夜咲夜(いざよいさくや)豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)紅美鈴(ホンメイリン)、フランドール=スカーレット。――今挙げた五人全員を良夜は幸せにすると言っているのだから、別に反対する理由なんてないでしょう?」

 

「貴女はっ、貴女はどうしてそんな非常識を受け入れられるんですか! 愛する人を他の人に奪われたくない、自分以外の人を見て欲しくない――こう思うことは間違っているんですか!?」

 

「別に間違っていませんわ。愛する人を独占したいという気持ちは、年齢種族関係なく皆平等ですもの」

 

「だったら!」

 

「――だけれど、そんな身勝手が通るほど現実は甘くありませんわ」

 

「ッ!?」

 

 文の言葉を切り捨てるように放たれた残酷な一言に、文は思わず黙り込む。

 

「愛する人が複数の女性を愛しているのなら、他の女たちに負けないほどの愛情を彼に向ければいい。愛する人の意識が他の女に向いてしまっているのなら、色気を使ってでも自分に注目させればいい。恋とはズバリ、女たちの戦争なの。――勝ち目がないからってルール違反してんじゃないわよ、この負け犬が!」

 

 そう言って、咲夜は抱きかかえていた良夜に不意打ちの如くキスをする。朦朧としていた意識が完全に闇に飲まれてしまっているせいで良夜のリアクションはないが、咲夜は構わず彼の口内を舌で蹂躙する。喘ぎながら感じながら――泣きながら、咲夜は文に自分の本気を見せつける。

 正直、途中から分かっていた。――いや、分からされていた。

 自分が良夜に抱いている気持ちは本物なのに、その気持ちを自分の身勝手で潰してしまっていたことを。良夜の意志には大いに賛成なのに、自分の欲望が彼を独占しようと暴れてしまっていたことを。

 自分がしたことは絶対に許されないことだ。自分の愛を周りに知らしめるために良夜と心中しようとした自分の行いは、幻想郷だろうが外の世界だろうが、絶対に許されてはいけないことだ。

 だから、文はその罪を無かったことにはしない。この海よりも深い罪を一生背負ったまま、文はこれから生きていくと誓う。身勝手だと言われるかもしれない、都合が良すぎると嗤われるかもしれない――だからどうした奇をてらえ。

 そんなことを気にしていて、戦争に勝てるわけがない。恋は女の戦争だ。どれだけ業を背負おうが、私は良夜を世界一愛してやる!

 文は風で縄を切り、その場に立ち上がる。先ほどのような病んだ表情ではなく、いつもの『清く正しい射命丸文』としての何を考えているのか分からない笑顔を浮かべて――文は飄々と言う。

 

「誰が負け犬ですか誰が。私を誰だと思っているんですか? 幻想郷最速の女、沙羅良夜の本妻、清く正しい鴉天狗、恋するブン屋――射命丸文とは私のことです!」

 

 元の自分を取り戻した鴉天狗の少女に、メイド長の少女は微笑みを向ける。

 射命丸文はもう迷わない。

 射命丸文はもう過たない。

 沙羅良夜の本妻として――射命丸文は自分に絡みつく楔を蹴り飛ばす。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 第一回、チキチキ告白大会! ポロリもあるよ☆

 

「いや、目が覚めたら紅魔館にてこんな置き書きとかさっぱり意味わかんねーし!」

 

 紅魔館の大広間にある赤のソファの上で目覚めた沙羅良夜は、無造作な銀髪に寝癖を浮かべながらも驚愕を叫びとして放出していた。

 咲夜が自分を助けてくれたところまでは覚えているのだが、その後の記憶が判然としない。こうして五体満足で紅魔館にいるのだからあの修羅場は無事に掻い潜ったとみて正解なのだろうが、それでもこの書置きの意味が分からない。

 テーブルの上に置いてある便箋を手に取り、もう一度確認する。

 と。

 

「ありゃ? なんか裏にも書いてあんぞ……?」

 

 あまりにも普通の便箋だったのでとりあえず裏返してみたわけだが、そこにはかなり丁寧な字で地味に長い文章が書き連ねられていた。この文字の形状から言って、書いた主は咲夜だろう。無駄にスペックが高いあの従姉は、硬筆のセンスもバカ高かったはずだ。

 ??? と頭上に大量の疑問符を浮かべながらも良夜はソファに座りなおし、便箋に書かれている文章に目を通していく。 

 そこには、こう書かれていた。

 

 

 文のヤンデレな修羅場を切り抜けた貴方は、見事無事に難易度ルナティックなハーレムルートをクリアしましたわ。

 なので、今から貴方には私を始めとした五人のヒロインたちを探しだし、そのヒロインたちから告白されてもらいます。貴方の気持ちは既に全員に伝わっているから、次はあなたが私たちの気持ちに応える番なのよ。

 制限時間は五時間。一人一時間と思ってくれればいいわ。私たち五人はこの紅魔館のどこかで貴方が来るのを待っているから、制限時間内に絶対に辿りつきなさい。

 ですが、流石にこの紅魔館で人を探すのは至難の業でしょう。私だって五時間で五人を見つけるのはキツイですもの。

 そこで、お嬢様とパチュリー様と小悪魔の御三方にアドバイザーとなってもらうことにしましたわ。お嬢様は寝室、パチュリー様は図書館、小悪魔は食堂で待機しています。もし私たち五人の居場所のヒントが欲しくなったら、彼女たちのところに行きなさい。……まぁ、ただでは教えてくれないでしょうけど、結果的には大事なヒントをくれるハズよ。

 誰の告白から受けるかは、全て良夜の選択次第。私たちは全員が全員最後に順番が回ってくるのを望んでいますけど、それが実現するかどうかはまさに神のみぞ知るって言ったところでしょうね。もちろん、私もその中の一人ですからね。

 五人全員を幸せにするというのが本気なら、絶対にこの試練をクリアしなさい。私達は貴方のことを信頼してる。絶対に制限時間内に自分の元にやって来て、自分の想いを受け入れてくれると信じてるわ。

 試練開始時刻は午後十二時ちょうど。繰り返し言うけど、試練終了時刻は午後五時ちょうど。

 私たちの愛する沙羅良夜――私たちの幸せを貴方に託しますわ。

 それじゃあ、健闘を祈ります。

 

 

「…………後、五分か」

 

 文章に目を通し終わると同時に大広間の掛け時計に目をやった良夜は、左手に装着している腕時計の時刻をしっかりと合わせた。

 まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったが、これは望んでもいないチャンスだ。誰も傷つけず誰も傷つかず、みんなが幸せになる本当の意味でのハッピーエンド。こんな途方もない夢物語を現実にするための最終試験なんて――逆にこっちが幸せすぎる。

 五時間という長いような短いようなとにかく微妙な時間内で全てが決まる。自分が愛する少女たちの告白を受け止め、精一杯の答えを返す。相手に遠慮することなんて考えない。自分の意志に従い、自分の本心を相手にぶつけろ!

 テーブルの上に用意されていた飲み水を頭にぶっかけ、ぼさぼさになっていた銀髪を整える。いつもの無造作な銀髪に整えた後、鏡を見ながら普段通りの表情を取り戻す。――目つきの悪いダウナーな配達屋としての、沙羅良夜を取り戻す。

 白いカッターシャツの裾を黒のスラックスからだらしなく出し、腰の後ろのほうにあるポケットに入れている財布のチェーンをベルト付近にしっかりと留め、普段通りの姿を取り戻す。――よし、これで完全無欠にいつも通りだ。

 全ての準備が整ったところで良夜はソファから飛び上がるように立ち上がり、大広間から迷路のような廊下に続く扉へと移動する。

 この扉を開けた瞬間、沙羅良夜の最後の戦いが始まる。誰も実現したことが無いハッピーエンドを実現させるための、最後の戦いが幕を開ける。

 ――数秒後、良夜の腕時計のアラームが鳴った。

 十二時を知らせる、試合開始のゴングだった。

 

「よっし! 俺の本気で目にもの見せてやる! あまりにもかっこよすぎて、告白の言葉を忘れちまうぐらいになぁああああああああああああああああーッ!」

 

 選択ルート:ヒロイン全員幸せにしてあげましょう。

 

 選択ヒロイン:射命丸文。

        十六夜咲夜。

        豊聡耳神子。

        紅美鈴。

        フランドール=スカーレット。

 

 幻想郷史上最も小さな範囲での恋愛劇が――幕を開けた。

 




 次回もお楽しみに!

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