東方文伝録【完結】   作:秋月月日

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 ついに最終回。

 二話連続投稿ですが、これが最終回です!

 それでは、東方文伝録エピローグ――スタート。


エピローグ

 沙羅良夜の試練終了から一か月後。

 博麗神社は今までにないほどの賑わいを見せていた。

 

「うっわー……流石にこれは派手すぎんだろ……」

 

「そんなことないよっ、良夜! これは貴方の晴れ舞台なんだからっ、これでも全然足りないぐらいだねっ!」

 

「これでも!? なんか出店まで出てきてんのに!? 八目鰻屋とか香霖堂なんか全力で出張営業してらっしゃいますけど!?」

 

 博麗神社の中から外の様子をうかがっていた良夜は、相変わらず病的に親バカなゴスロリ系マザーこと沙羅白夜に絶叫する。

 今の良夜はいつもの学生服ではなく、全体的に黒い着物に身を包んでいる。――紋付袴と呼ばれる、婚礼用の着物だ。外人のような銀髪を持つ良夜には怖ろしいほど似合っていないが、そこをツッコむのは野暮だろう。これは男女の契りを結ぶための儀式――結婚式なのだから。

 少しだけ開いていた襖をぴしゃりと閉じ、良夜は部屋の中央に移動する。

 

「うだー……やっぱこの着物イヤだ。いつもの学生服でいーんじゃねーの……?」

 

「それは許可できないねっ、良夜! 良夜の学生服姿なんて二百枚じゃ足りないぐらい保存してるからっ、やっぱり私は良夜の晴れ姿を写真に収めたいのだよっ! 別に良夜の普段着が嫌とかじゃないけどっ、やっぱり私は息子の洒落姿を写真にグヘヘヘヘ」

 

「完全無欠にアンタの欲求じゃねーか! 思考ダダ漏れだなマイマザー!」

 

 それでもやっぱり脱いじゃいけないことは分かっているのか、良夜はうろうろうろうろと部屋を歩き回ることで紋付袴を全力で体に馴染ませるための努力を開始する。そろそろ呼ばれる時間なのでいつまでもこのままでいるわけにはいかないが、それでも少しぐらいは自分の好きにさせて欲しいと良夜は思ったりする。

 そんな挙動不審な息子に生暖かい視線を向けながら、沙羅白夜はニヤニヤとした笑みを浮かべて指摘する。

 

「ぶっちゃけ恥ずかしいだけなんでしょっ?」

 

「な――ななななな何が誰で恥ずかしーって!?」

 

「いやっ、そんなこと言ってないし」

 

「確かにこれが結婚式だから少しだけ緊張していることは認めましょー! だ、だけど、それが恥ずかしーなんつー意味不明な解釈に繋がるのはどーなんでしょーかなんて俺は思う訳ですよ! た、たかが結婚式だぜ!? 別にこんなの屁じゃないね!」

 

「…………本音は?」

 

「ぶっちゃけ恥ずかしすぎて死にそーっす」

 

 うぎゃぁああああああああああーッ! と良夜は真っ赤に染まった顔を両手で覆いながら天に向かって絶叫する。この幻想郷に来て一番動揺してるんじゃねーの今の俺!? と自分でも今の自分の異常さが分かっている良夜は頭から湯気を噴きだしながらブツブツブツブツブツーッ! と怨嗟のような呟きを漏らす。

 

「嫌だすぐに帰りてーこんな恰好であいつ等の前になんか出れるわけねーよ何だよコレ真面目かよ真面目ちゃんなんですか? いやマジでこれはねーよ何張り切ってんだよ俺恥ずかしすぎて今すぐバンジージャンプできるよマジでこのままだと死んじゃいそーだからとりあえず紅魔館に戻って夕飯の準備でもしてきます!」

 

「逃がすとでも思ったっ?」

 

「いやぁああああああああああああああーッ! お願い離して帰らせてェええええええええええええーッ! 無理! 恥ずかしすぎて緊張しすぎてカッチコチになっちまう未来が見えまくってる! っつーかもはやその未来しか見えねー!」

 

「もうっ、いい加減に覚悟を決めたほうが良いよっ? 良夜のお嫁さんたちだってもう準備オーケーみたいなんだしっ」

 

「…………………………え?」

 

 つまり? と良夜は鬼を間近で見たような表情を浮かべ、そんな良夜にサムズアップしながら白夜は満面の笑みで言い放つ。

 

「出発の時間がやってきましたっ!」

 

「―――――――――――――はぅっ」

 

 緊張が限界突破して良夜は意識を失うが、白夜は鳩尾パンチで緊急蘇生を開始する。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 良夜が目を覚ますと、目の前に白無垢姿の少女が五人いた。

 

「…………Pardon?」

 

「アンタが全然起きないから白夜さんに連れてきてもらったのよ。ったく、好意で神社を貸してやってんのに、何で主役であるはずのアンタが今更目ぇ覚ますのよ」

 

 いつもの露出の多い巫女服とは違い、白を基調とした上衣に赤袴という平平凡凡な巫女服を着た霊夢の言葉に、良夜の顔が一瞬でさぁーっと青くなる。

 そして顔を強張らせながら、恐る恐ると言った風に周囲を見渡してみる。

 そこ、には――

 

 八雲一家。

 地霊殿組。

 鬼コンビ。

 仙人と邪仙と尸解仙(二人)。

 守矢一家&博麗神社の居候。

 妖怪の山組。

 紅魔館メンバー。

 人里組。

 輝夜姫と愉快な仲間たち。

 白黒魔法使い。

 道具屋。

 八目鰻屋。

 人形遣い。

 フラワーマスター。

 虫使い。

 白玉楼組。――エトセトラエトセトラ。

 

 どうやってこの敷地に収まったんですか? というツッコミが逆に必要のないぐらいの大集合っぷりだった。

 基本的に彼女たちが暇なのは分かっているが、まさか自分の結婚式の日に限って全員集合するとは思いもしなかった。というか、八雲紫が起きていることに一番驚いている。アンタそろそろ冬眠の時期じゃありませんでしたっけ?

 まさかのサプライズに口をあんぐりと開けて硬直してしまう良夜さん。そんな良夜に白無垢姿の少女五人はクスクスと笑いを零す。

 「こ、こほん! それじゃあ主役が起きたことだし、ちゃちゃーっと済ませちゃいましょう」霊夢はわざとらしく咳き込むことで皆の意識を自分へと集中させ、彼女にしては珍しい真剣な表情で言葉を紡いでいく。

 

「紅美鈴。汝、この者に一生の忠誠を誓うか?」

 

「ちっ、誓います!」

 

「フランドール=スカーレット。汝、この者に一生の忠誠を誓うか?」

 

「うんっ、誓うよぉっ!」

 

「豊聡耳神子。汝、この者に一生の忠誠を誓うか?」

 

「ええ、誓います」

 

「十六夜咲夜。汝、この者に一生の忠誠を誓うか?」

 

「もちろん、誓いますわ」

 

「――射命丸文。汝、この者に一生の忠誠を誓うか?」

 

「はいっ、誓わせてもらおうじゃないですか!」

 

 彼女たちの顔には、迷いなんてどこにも存在していなかった。

 

 彼女たちの言葉には、躊躇いすら存在していなかった。

 

 そこに存在しているのは――『愛情』と『信頼』と『期待』の三つだけ。

 

 故に、五人の少女は銀髪の少年を真っ直ぐ見つめる。今までの願いを今この場で成就し、次のステップで一番の願いを成就するために。

 「その覚悟や良し。神は汝に絶対の幸福を授けるであろう」霊夢は少女たちに向かって微笑むが、すぐにくるっと良夜の方へ向き直った。

 思わず直立不動になってしまう良夜に呆れた表情を浮かべつつ、霊夢は言う。

 

「汝、この者たちに――――永遠の幸福を約束できるか?」

 

 そんなこと、今さら聞かれるまでも無い。

 

 そんなこと、今さら再確認するまでもない。

 

 沙羅良夜は――いや、俺はコイツらに誓ったんだ。

 

 愛に応えて信頼に応えて期待に応えるために――俺は最弱ながらに頑張るって。

 

 だから、答えなんて決まってる。

 

 俺は、コイツらを――――――

 

 

「――――――絶対幸せにしてみせる! 異論は認めねーッ!」

 

 

 そんな最弱の少年の言葉に、五人の少女は幸せそうな笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 ――――――東方文伝録、『完』。

 

 

 




 はい、これでこの作品は最終回となります。

 いや、まさか完結に半年以上かかるとは思いもしなかったです。

 普通の言葉かもしれないですが、この作品を完結まで続けることができたのは――確実に火を見るよりも明らかに読者の皆様方のおかげです。

 元気の出る感想、ハッチャケタ感想、真面目な感想――そんな全ての感想・評価がこの作品の糧となっています。

 本当に、ありがとうございました。


 ――――まぁ、終わるって言っても番外編があるんだけどね!


 だって本編では書けなかった話がたくさんありますし。まだ登場させられていないキャラがたくさんいますし。

 本編終了から二十年後――つまりは彼の子供たちの話も書きたいですし! 短編として!

 そんなこんなでなんともグダグダな後書きとなりましたが、本編に関しては一応この場で筆を降ろさせていただきたいと思います。いや、筆じゃなくてキーボードだけど。そこはツッコんじゃいけないのですよ。

 それでは、良夜のハッピーエンド成就を祝って――もう一度感謝の言葉を告げたいと思います。

 今までこの作品を見守って下さり、本当にありがとうございました。

 そして、番外編での良夜たちの幸せっぷりを楽しみに待っていてくだされば幸いです。

 それでは、次は番外編の前書きでお会いしましょう。

 ――本当に、ありがとうございました。

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