ヤマトin艦これ   作:まーりゃん000

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第1話

 気が付くと海の上に立っていた。

 気が付いた瞬間「やばい!」と思ったのだが、どういうわけだか沈む様子もなく、地面の上で立つように立てていた。

 いや、地面の上に比べると少々バランスは悪いが。けれども、2回ほどやったことのあるスケートよりは遥かにましだ。それだったら間違いなくコケてるし。

 

 で、ここはどこなのだろうか?

 そう思って見回してみるも、見渡す限りの大海原である。

 水平線とはまさしく線なのだなと実感できるほど、見事に何もない。が、おかしい。俺は自分の部屋にいたはずだ。

 

 記憶をたどるに、俺は確か艦これをやっていたはずだ。

 いわゆるガチ勢でない俺は、ちまちまとやって、好みの艦娘を建造しては悦に浸るタイプだった。

 イベントも参加しないことが多く、参加しても少々進めるだけで、全クリすることはなかった。全体の練度それほど高くなかったし。

 ちなみにウチのトップは長門でレベルは86。以下赤城、加賀、神通、陸奥、伊勢が基本の第一艦隊メンバーだった。大艦巨砲主義万歳。

 言うまでもなく資材の消費は凄まじいものがあったが、積極的に出撃を繰り返していたわけではないので、それでも十分回ったのである。

 

 話が逸れた。

 で、俺は艦これをやっていたのだ。

 特に目的もない場合が多い俺だが、今回は目的があった。大和の建造である。

 

 「大和」――――なんと素晴らしい響きだろうか。

 日本、いや世界に轟くビッグネーム。

 世界最大級と呼ばれる大戦艦。これまた最大級の主砲、46サンチ3連砲塔。ついでに建造費と維持費も最大級である。国が傾くレベルで。

 最強の戦艦であった一方、そもそも戦艦という艦種自体が戦闘に効果的でなくなってきていた時代を生き、ついには目立った戦果も上げられぬまま海へと没した。

 そのネームバリューと悲劇的な結末から、様々な物語にも取りあげられることの多い艦だ。

 有名どころは、やはり宇宙戦艦ヤマトだろう。幼い頃は父が録画していたビデオを繰り返し観たものだ。俺の大好きなアニメの殿堂入り作品である。

 それだけに復活編とか実写版はキレそうになった。というかキレた。けれども2199は褒めて遣わす。

 

 また話が逸れた。

 そんなわけで、俺は大和が大好きだ。

 艦これに大和が出現した当初、「これは欲しい!」と思ったのだが……実際のところウチの戦艦戦力は十分であったし、資材の関係もあってそこまで建造に熱意を燃やしたわけではなかった。

 だから今更大和を建造しようと力を入れたのも、ただの思いつきと言えば思いつきだった。

 

 そうして俺は、貯めた資材をひたすら大型建造に費やしていたはずだった。

 1週間ぐらいは繰り返していたが、なかなか大和は出てこない。

 「元祖ヤマトのテーマ(2199Ver)」を聴きながら、「大和出てこい大和出てこい大和出てこい」と念を送り、最後の資材を費やして建造し――

 

 ――そうだ、思い出した。

 そうして建造した結果、99:99:99という、訳の分からない数字が出たのだ。

 表示がバグったんだろうな、と思いつつも、最後の資材を費やした以上これに賭けるしかない。バグった状態で操作する怖さはあったが、俺は高速建造材を使った。

 結果、いつものように炙られて時間もちゃんと0になった。

 ほっとした俺は、しかし時間が解らなかったので結局何の艦娘が来たのかわからず、不安と期待に胸を膨らませながら新しい艦娘を迎えるべくクリックして――

 

 

 ――で、今に至ると。

 

「……結局何もわからんじゃないか!」

 

 俺は思わず叫び……その高い自分の声に驚いた。

 

「うえっ!? あ、あー。あー! あーっ!」

 

 高い。高すぎる。全く聞き覚えのない声で、それが自分の喉から出ていると思うと気色悪い。

 というか何だこれ。

 

 異常は周りだけでなく、自分にも起きているのだとようやく気が付いた俺だった。

 そもそも海の上に立っているのがおかしいのだ。気づくのが遅すぎると言われればぐうの音も出ない。

 恐る恐る視線を下ろし、自分の身体を見た。

 

 見えるはずの腹が見えなかった。その前にある巨大かつ柔らかそうな、男の憧れであり夢であり、いつか俺が揉みたい舐めたいと感じていながら終ぞ果たすことが出来なかった、そうそれは母性の象徴――ぶっちゃけて言うと、おっぱいだった。

 

「なぁ――――っ!?」

 

 絶句。絶句である。

 だってそうだろう。おっぱいだ。言い忘れていたが俺は男であり、当然おっぱいなんか付いてるわけがない。股間には付いているが――ってまさかいやまさか。

 

 手を――どこへとは言わないが――差し入れる。

 無い。

 無いぞ。

 無いのだ。

 無いのだ! 男の象徴たるアレが!

 

「ああああああああああああああああああっっっっ!!!」

 

 慟哭。

 俺は海に膝をつけ、泣いた。泣き喚いた。

 友だった。生まれたときから共にあり、死すらも共にするはずだった。血肉を分けたる仲だった。

 いつか俺とともに、女性に突撃しようと誓った戦友だったのだ。

 それなのに! それなのにあいつは逝っちまった! こんなわけのわからない状況で! あいつは逝っちまったんだ!

 

「畜生! 畜生! ちっくしょおぉおおおおおおお!!」

 

 俺はしばらくの間、立ち直ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っすん……。ああ……死にたい……」

 

 思わず友の後を追いたくなるが、堪える。もう少し状況を把握してからでもそれは遅くないし。うん。

 

 改めて自分の体を見る。

 ぼん、きゅっ、ぼん! だった。つまり超スタイル良い。

 最近ありがちな足細すぎで骨ばっているようなタイプではなく、少し肉の付いた、抱き心地のよさそうな感じのスタイルである。エクセレント。

 白と赤を基調とした、セーラー服のようなものを着ている。が、なぜかスカーフの代わりに金色のしめ縄のようなものが巻かれている。ヒールのような靴を履いており、何故か靴下は左だけ長い。

 首元には首輪のようなものが付いている。

 引っ張ってみると、ちょうど正面のところが大きく抉れ、丸く穴が開いた首輪だった。のどに刺さりそう。

 

 そして……あー、そしてである。

 今まで無視してきたけれども、さきほどからちらちら視界の端に写り、なおかつ俺の後ろで圧倒的な存在感を放っているものがある。

 ぐりっ、とちょっと首をひねれば、まるで戦艦に載せられている3連砲塔を小さくしたかのようなものがあった。

 その下には艦を半分にしたようなものがあり、他にもいろいろごちゃごちゃと。それらは全て、俺の腰に接続されていた。ちなみに肉体的には繋がってないようだ。

 

「……うぅん……」

 

 思わず唸ってしまう。自分の出した声が思ったよりも色っぽくて、ちょっと恥ずかしい。畜生、俺でなければ。

 

 さて、結論である。

 

「……これ、大和……?」

 

 大和型一番艦「大和」――その艦娘。俺は持っていなかったが、その姿だけはいろんなところで目にしていた。

 髪も栗色のポニーテイルだし、覚えている限りの特徴が一致する。

 一致するのだが、それにしてはおかしい部分もある。

 なんか艤装がシュッとしているというか、全体的に近未来的というか。そういえば大和の首輪には確か菊の御紋が入っていたはずで……ちょっと待て。

 

「……大和……ヤマト……?」

 

 その瞬間、色々なことが頭の中に浮かんできた。

 俺が今誰であるのか、この世界のこと、艤装の詳細、操作方法――色々なものが突然思い出すように頭に叩き込まれ、俺は思わず頭を抱える。

 そしてそれが収まった後は、別の意味で頭を抱えることになった。

 

「何だこの性能……!」

 

 恒星間航行用超弩級宇宙戦艦 BBY-01「ヤマト」。それが俺の艦娘として背負う艦の名前だった。

 「あ、2199の方なんですね」と思わず現実逃避じみたことを考えた俺を許してほしい。

 機関は当然、ロ号艦本イ400式次元波動缶――つまり波動エンジンである。無限機関であり、おかげで燃料の心配は全くない。

 ヤマトの方である以上、当然宇宙に行ける。空も飛べるし海も潜れてワープも可能。

 主砲は48サンチ三連装「陽電子衝撃」砲塔。副砲に20サンチ三連装陽電子衝撃砲塔を備え、魚雷にミサイル爆雷対空砲などなど全てがヤマト仕様である。

 艤装の後ろ、下の方からは艦載機も発進可能。ちなみに艦載機もコスモファルコンだ。

 そして宇宙戦艦ヤマトを特徴づける波動砲――これも当然使える。

 

 使えるのだが――どこに使う場面があるってんだよ!!

 

 頭に浮かんだ知識によると、この世界は普通の「艦これ」世界であるらしい。

 深海棲艦が海から現れ、シーレーンをずたずたにし、世界のほとんどの海から人間を叩き出し、今なお侵攻を続けている。そんな世界だ。

 現在人類は圧倒的劣勢。しかしながら艦娘が現れたことで徐々に力をつけてきており、日本においては最低限の領海を維持しているらしい、そんな世界。

 

 つまるところ、敵は深海棲艦だ。他の世界からBETAが侵略してきているとかならともかく、そういうわけではないこの世界で「ヤマト」の攻撃力が必要だろうか?

 答えは否。どう考えてもオーバースペックである。

 通常の艦娘が持つ、旧式の砲でも十分なダメージを与えられる敵だ。ショックカノンなんか直撃させてしまえば、多分殆どの敵は一発で倒れる。

 波動砲に至っては星を破壊する威力で、使いどころが全くない。

 

 まあ、もちろんこの力を使用して無双しろというのであれば、やぶさかではない。深海棲艦が人間を害していることは俺としても許しがたいことだし、放っては置けない。

 

「……まあ、いいか」

 

 あまり深く考えるのはやめよう。

 ともかく人がいるところへ行きたい。大海原に一人ぼっちは寂しすぎる。

 行くとしたらやはり鎮守府だろうか。艦娘だし。でもどう説明したらいいんだろう?

 というか考えてみると、艦これの世界ということは他の艦娘もいるわけで……やったぁ! 愛しの艦娘たちに会える!

 

 深く考えず、思考の赴くままにまかせながら、俺は海を進み始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 それが聞こえたのは、戦闘訓練からの帰航途中だった。

 微かに女性の声のようなものが聞こえた気がして、朝潮は速度を落とした。

 

 とても澄んだ、透明感のある綺麗な声だった。

 空に溶けて消えてしまうような、そんな声。本当に聞こえたのか、自分でも疑わしくなるくらいに。

 

「朝潮、どうかしたっぽい?」

 

 遅れた自分を観て不審に思ったのか、夕立さんが近づいてきて声をかけてきた。

 見れば、不知火さんと満潮、旗艦である龍田さんも足を止め、何かあったのかとこちらを見ている。

 

「あ、いえ。その……」

 

 女性の声が聞こえた、なんて本当に言ってしまっていいのか迷った。

 何しろ、ここは海の上。他に人なんているわけがないし、いるとしたら私たちと同じ艦娘ぐらい。でもそれなら、連絡があってしかるべきだ。下手をすれば敵と誤認しかねないのだから。

 少し悩んで、口を開いた。

 

「女の人の声が聞こえたんです。歌声のような……」

「歌声?」

 

 不知火さんが静かな声で聞き返して、思わずびくっとしてしまう。不知火さんは秘書艦として早くから提督の元で戦っており、つい最近配属された私と違って、かなりの数の戦闘を潜り抜けてきたと聞いている。今回の戦闘訓練では龍田さんとともに私たちの教導役として付いてきていた。

 殆ど笑わないことで有名で、目つきが鋭いこともあって後輩の駆逐艦たちからは怖がられている先輩だ。

 悪い人ではない、というのは解るのだけれど、やっぱり怖いものは怖い。

 

「何よソレ。こんな場所で歌声なんて聞こえるわけないじゃない」

 

 そう言いつつも、満潮は片耳に手を当てて音を聞いていた。一緒に先輩方から指導を受ける満潮は姉妹艦だ。姉妹艦と言っても、実際に姉妹というわけではないので付き合いはそこまで長くないが、口は悪くとも根は良い子だというのは良く解っている。

 

「そうね~。少なくとも、近くに他の艦娘がいるなんて聞いてないのだけれど……」

「空耳っぽい?」

 

 やっぱりそうなのだろうか。

 そもそもここは陸地から遠く離れた海の上。艦影も見えない距離から声が届くとは思えない。

 

「すみません。そうかもしれないです」

 

 波の音もしているし、風も吹いている。たまたま何かが声のように聞こえたとしても、さほど不思議ではないだろう。

 そう思って謝ったとき、音がした。

 何かが爆発したような重低音が連続で響いた。

 

「これはっ……!?」

 

 思わず声をこぼした。みんなの目が真剣になったのが解る。

 

「砲撃音ですね。近くで演習はやっていないはずですが」

「敵、かしらぁ」

「分かりません。ですが司令に報告するべきでしょう」

「そうね~。提督、聞こえますか?」

 

 不知火さんの言葉を受けて、龍田さんは提督と通信を始めた。

 

 敵かどうかは解らない。けれども、もし敵だったら戦いになる。

 初めての実戦になるかもしれない。唐突に訪れたその恐怖が私を襲った。震えを誤魔化すように、12.7㎝連装砲を強く握りしめる。

 

「朝潮に満潮、大丈夫っぽい?」

「はい、ぃ、大丈夫です。」

 

 大丈夫じゃなかった。元気に声を出そうとして、その声がどうしようもなく震えていた。

 見れば、いつの間にか隣に並んでいた満潮も、必死に平気そうな顔をしている割に足が震えている。

 

「心配しなくても大丈夫っぽい! この辺は私たちの勢力圏だから、敵がいたとしても駆逐艦が何隻かだけっぽい!」

「そうね、出てきても軽巡程度よ。けれど油断はしないように。装備の点検を行いなさい」

「は、はいっ!」

 

 そうだ。不知火さんは普段、主力部隊である第1艦隊に所属して戦っている歴戦の駆逐艦だし、軽巡洋艦である龍田さんもいる。実戦になっても負けることはない。

 その迷いのない不知火さんの背中に、私は少しだけ安心することが出来た。

 言われた通り装備の点検をしなきゃ。

 

 提督との通信を終えた龍田さんから、砲撃音の調査を行うことが伝えられたのは、それから間もなくのことだった。

 

 

 


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