ヤマトin艦これ   作:まーりゃん000

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友人が艦これSSを書き始めたので、それに影響されて再開。
彼の作品の文字数は、既に私を上回っている。私もこのくらい筆が進めばいいのに……。
艦これシリアス系が好きな方は是非。
http://novel.syosetu.org/56276/

あと祥鳳さんの改新規グラは既にご覧になりましたか?
私の溢れる愛がきっとbob神に通じたのですね。始めて見た時はツイッター上で当分発狂してました。とても素敵ですね、祥鳳さん。私の拙い文章ではその魅力を100分の1も伝えることが出来ず、申し訳なく思います。


第10話

 これは一体どういう状況だろうか――俺はちらりと神通の顔色を窺いながら、そう思った。

 そこまで広くもない独房の中、神通は備え付けの椅子で、俺はベッドに座って食事をとっていた。

 

 わざわざ食事を持ってきたぐらいだ。俺が先ほどの潜水艦であることは伝えられているのだろう。

 きっと俺に話があるに違いない――そう思っていたのだが、神通は黙って食事をとるだけだった。

 そもそも俺も口数の多い方ではないし、あまり親しくない人にあれこれ話しかけられる性格ではない。それが迷惑をかけた相手ならなおさらだ。

 しかし、工廠の妖精さんに叩かれた身。黙ってこの機会を逃すわけにはいかないだろう。

 お互いもうほとんど食べ終えている。謝るなら今しかない。

 

「――あの」

 

 俺は口を開いたのだが、音が出たのは神通の口からだった。

 タイミングが悪かったらしい。神通もこちらを見て、しまった、というような顔をしている。

 

「すみません……どうぞ」

「あ、いえ。その……」

 

 譲られてしまった。申し訳ない気持ちがするが、かといってここで譲り返しても不毛だろう。

 俺はぱくぱくと、何度か口を開いては音を出さずに閉じる。言うと決めても、なかなか謝るということは難しかった。

 

「……ごめんなさい」

 

 言ってしまえば、ただの一言。

 けれどもその瞬間、俺は恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。それは自分の気持ちをストレートに伝えることに対する気恥ずかしさでもあり、自分の浅慮を認める恥ずかしさでもあった。

 

「その、もう提督から聞いているかもしれせんが……実は今朝神通さんに魚雷を放ったのは私で――」

 

 じっ、と。

 俺が拙く言葉を紡ぐ間、神通はこちらを真っ直ぐと見ていた。

 とても真剣な目だった。そんな真剣な表情も綺麗で、こんなときでなければずっと見ていたいぐらいだったのだが、この時ばかりはその眼を直視しづらくて、何度か目をそらす。

 けれども謝るときに顔を見ないのも失礼だ。そらすたびに視線を神通の方に向け直して、俺は伝える。

 魚雷を放ったのはジャマー代わりだったこと。でも予想よりも威力が大きかったこと。神通のことは大好きで、傷つけるつもりは全くなかったのだということ。そして、ごめんなさいという気持ち。

 

 それらを聞き終えた神通は、ほんのちょっと目を閉じてから口を開いた。

 

「こちらこそ、ごめんなさい」

 

 その言葉とともに頭を下げた神通に、俺は「へ?」と思わず声を出した。

 

「な、なんで神通さんが謝るんですか! 悪いのは私ですよ!」

 

 神通の頭を上げさせようと立ち上がろうとしたが――膝の上に載せたトレイの存在に気付いて諦める。

 けれども、謝られなければいけないことなんてない。そう主張する俺に、神通は言う。

 

「私だって、味方の潜水艦である可能性を考えませんでしたし……ヤマトさんに爆雷を投下してしまいました」

 

 けれど、それは仕方のないことだ。

 そもそも艦娘の所在は基本的に鎮守府で把握されているだろうし、出撃しているならなおさらだ。突然近海に現れるなんて有り得ないから、敵だと断定しても仕方ない。

 例えば俺が潜水艦として保護されていたのであれば、きっと俺が無断で出撃した可能性も考えただろう。けれど俺は戦艦としてやってきたし、それが潜水艦にもなるなんて考える人なんかいるわけがない。

 だから、神通の行動は正しいのだ――と俺は主張したが、それでもヤマトさんに結果として攻撃してしまったことに変わりはない、と神通は主張した。

 

「だから、おあいこです」

 

 そう言って微笑む神通に見惚れて、俺はそれ以上の言葉を紡げなかった。

 俺が黙ると、神通は俺のトレイに目を向けて、口を開いた。

 

「トマト、嫌いなんですか?」

 

 いきなりの言葉に思考が追い付かなかったが、神通の視線の先にあった俺の皿に残されたトマトを見て納得した。

 俺が綺麗に食した皿の中で、唯一残された赤はなかなかに目立つ。

 

「実は……。その、昔からあまり好きではなくて」

「ちゃんと食べないとダメですよ。これも貴重な物資なんですから」

 

 そう言われると辛い。ただ飯を食ってる分際で、出されたものに文句をつけるものではないだろう、というのは理解している。

 しかしながら、トマトである。俺はあのトマトの汁の味わいが嫌いだった。

 噛んだ瞬間、じゅわっと口いっぱいに広がる形容しがたい味。プチトマトならあるいは噛まずに飲み込むという荒業も使えるのだが、大変遺憾なことに、このトマトは4分の1ぐらいにカットされたトマトだった。しかも結構大きい。

 

「……」

 

 しかし、神通の手前「食べられない」なんて言うことはできない。

 負い目があるというのもそうだが、それ以上にそんな格好悪いところを見せられないという男の矜持があった。今女だけど。

 ただ、そう。少し時間が欲しいのだ。覚悟を決めるまでの時間を。

 

 そう思いながら、トレイのトマトをにらみつけること数秒。ヤマトパワーでトマトが消滅――するわけもないが、目の前から伸びてきた箸がトマトをつまんで視界から取り去った。

 それを追いかけて視線を上げると、目の前に差し出されたトマト。

 

「はい、あーん」

 

 この瞬間の俺の内心をどう表したらよいだろうか。

 愛しの神通から「あーん」をされるという、今ほど艦娘として生まれ変わったことに感謝したことはないという歓喜。

 しかし差し出されたものは、俺の幼稚園以来の敵であるトマトであるという絶望。

 だが、嗚呼――神通の応援を受けて倒せない敵などいるだろうか?

 

 俺は恐れと羞恥と歓喜から震える身体を押さえつけながら、箸先に挟まれたトマトをゆっくりと口で迎えに行く。

 そして――口に含んだ。

 

 口にあの苦味が広がる。けれども、恐れることはない。これは神通が「あーん」してくれたものなのだ。俺の身体が受け付けないなど、そんなことは「――ぅぷ」ごめんちょっとあった。

 噛むところまではいけたし、味にも耐えられそうだったのだが、汁が喉を通ろうとした瞬間思わず拒否反応が出た。

 

「だ、大丈夫……? 頑張れる?」

 

 口を押えてうつむいた俺に、神通のちょっと心配そうな声が聞こえ、俺は小さくこくこくと頷いた。

 大丈夫だ――既に少しは飲みこんでいる。あとはひたすら噛んで小さくなったものを送るだけ――

 

 

 

 ――で、結局数分かかって何とかトマトを飲み下した涙目の俺を、神通は背中をさすりながら褒めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外ですねぇ。未来から来た最強の戦艦が、トマトが嫌いだなんて」

 

 ニヤニヤと笑いながら、これは使えるネタかもしれませんね、とメモを取るあたり、青葉さんらしい。

 その情報を提供した神通さんも苦笑している。

 

 まだ仕事を残していた提督と別れ、そのまま食堂を訪れた私は青葉さんと出会って、一緒に昼食をとることにした。

 そこにトレイを戻しに来た神通さんとも出会い、そのままお喋りに興じることとなっていた。

 神通さんは、営倉に入れられたヤマトさんのところへ昼食を持って行っていたらしい。そこでヤマトさんときちんと話をしたそうだ。

 わだかまりはないようで、神通さんの顔は晴れやかだ。そのことに、私もほっとする。

 

「でも、ちょっと分かります。私も小さいころは苦手でしたから」

「私はオクラが苦手でしたねぇ。あのねばぁ、っとした感じが嫌いで」

 

 「今は食べれますけどねー」と言う青葉さんの視線は、自然と神通さんへと向かう。

 

「私は……特に無かったです」

「えー。それじゃ面白くないですよ! 何かないんですか、苦手なものとか」

「本当に無かったんです……。姉さんや妹は好き嫌いが多かったんですけど……」

 

 神通さんの姉妹というと、川内さんと那珂さんだ。

 川内さんはあまり知らないけれど、那珂さんは艦娘の広報としてよくテレビに出ているのを見かける。

 

「あー。確かにお二人とも好き嫌いは激しそうですね。じゃあやっぱり、お二人が残した分の野菜とか押し付けられたんじゃないんですか?」

「いえ、食べさせました」

「……食べさせた?」

 

 笑いながら言う神通さんだったが、子供に嫌いな野菜を食べさせるのは難しい。

 瑞鳳もトマトが苦手だったし、小さい頃は絶対に食べようとしなかった。私も苦手だったので無理に食べさせるようなことはしなかったけれど――いったいどうやって食べさせたのだろう、と疑問に思う。

 同じことを思ったのか、「それはまた、どうやって食べさせたんです?」と青葉さんが尋ねる。

 

「どうやって、と言われても……普通に口の中に押し込んだんです」

 

 ――それは、普通って言うんでしょうか。

 思わず青葉さんと顔を見合わせる。

 

「……それ、嫌がりませんでしたか?」

「もちろん嫌がってましたけど……そうしないと、いつまで経っても食べないので……」

 

 「よく、泣きながら嫌がる那珂の口に無理やりトマトを押し込んで食べさせましたね……」と思い返すように神通さんは呟く。

 ――優しそうに見えて、かなり厳しいらしい。

 

「そ、それにしてもヤマトさんが思ったより元気そうでよかったです!」

 

 わざとらしく、話題をそらすように青葉さんが言う。けれど、その思いには私も同意する。

 

「そうですね。急に営倉に入れられましたから、もっと出たがってるものかと思いましたけど」

「やー、まさかその場で営倉入りになるとまでは思ってなかったもので……青葉も後で謝っておかなきゃなぁ」

 

 青葉さんがそう呟いたところで、食堂の扉が開く。

 扉に視線を向けると、入ってきたのは提督と妙高さんだった。残してきた仕事は終わったらしい。

 

「こんにちは」

「やっほー。みんな居るね」

 

 私たちが挨拶をする中、和子提督はフランクに声をかけてくる。

 だいたい提督はいつもこんな感じだ。もちろん、規律を保つべきところではそれを求めるが、艦娘寮の中などはほとんど無礼講だ。

 

 「とりあえずごはんごはんー」と鼻歌交じりに昼食を受け取りに行き、私たちの席へと戻ってくる。

 

「神通はヤマトさんと食べてきたんだよね。どうだった?」

「そうですね……とても反省されていて、私にも謝罪してくれました」

「そうなんだ……やっぱり、基本良い子なんだろうねぇ……」

 

 うーん、と唸りながら提督は食事を口に運ぶ。

 そんな提督に、「そういえば司令官」と青葉が話しかける。

 

「青葉もヤマトさんに会いに行っていいですか? ちょっと謝っておきたいですし……」

「んー。一応営倉に入れてるから、本当はあまり自由にするのも良くないんだけどね。でもまあ、彼女も当分ここにいることになりそうだから、許可します。みんな仲良くしてあげてね」

 

 その言葉に、私たちは「はい」とそれぞれ頷いた。

 

 

 

 

 

「――本当に……仲良くしてね……」

 

 彼女を敵に回してはならない。

 提督の心中をそこまで察しているのは、今は妙高だけだった――。

 

 

 


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