ヤマトin艦これ   作:まーりゃん000

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ああ祥鳳さんへの溢れ出るこの愛しさをどうしたらよいのでしょうか。皆さん、祥鳳さんの梅雨グラはご覧になられたでしょうか? 美しいですね。梅雨の暖かな雨が降る中散歩に出かけ、紫陽花の葉を這うかたつむりを見つけ、自然の営みの美しさにふと笑みをこぼす。あれこそが大和撫子というものでしょう。中破絵欲しさに無茶な進軍を重ねる自らの浅ましさを思い知らされるようです。bob神に感謝を捧げましょう。

あと、主人公が考えなしなのは=私の考えなしです。ごめんなさい。


第8話

 

 その時の俺の気持ちをどう表現すればいいだろうか。

 一言で言うなら、驚愕。

 何か言おうと口を開くが、肝心の音は出てこず、ぱくぱくと動かすだけ。

 

 油断していた。まさか誰かがいるなんて考えてもいなかった。

 いや、本当は考えてしかるべきだったのだろうが、神通に追い回された後でそこまで気が回らなかった。

 

「おやぁ? どうしました、大和さん? 面白い顔になってますよ?」

 

 そう言う青葉も、大概には面白い顔をしていた。

 ちょっとは笑顔をこらえようとしているようだが、こらえきれずに口角が上がっている。要するに、にやけている。

 

「なな、なんで、ここに――!?」

 

 ようやく音になった俺の声を聴いて、青葉は答える。

 

「いやぁ、鎮守府で警報が鳴っているので、さぞ大和さんが戸惑っているのではないかと思って探していたんですよ!」

 

 本当だろうか。そこまで世話焼きな性格には見えないが。

 そんな俺の思いが顔に出たのか、青葉は「これは本当ですよぉ」と、聞かれてもいないのに答えた。

 

「しかしまあ、こんな特ダネに出会えるとは! これは号外ものですよ!」

 

 興奮気味に語る青葉に、ついにその時が来たかと俺は悟る。

 考えてみれば、俺が艦娘として生まれてからわずか一日。あまりにも短い間の秘密だった。

 斯くなる上はどうするか――取れる手段はいくつかある。

 

 ひとつは正直に話すこと。まあ、事実を話しても何を馬鹿なと言われるかもしれないが、実際そうなのだから仕方がない。

 もうひとつは逃走。このまま艤装をもう一回背負って逃走するのだ。ヤマトの能力をもってすれば、追っ手を振り切ることは容易いだろう。しかし、その後はどうするのかという問題もある。

 他にも青葉抹殺なんて方法もなくはないが、まあ有り得ない。そんなことをするぐらいなら正直に話す。

 

「で、ですねぇ。――なにがどういうことか説明してもらえます?」

「…………はい……」

 

 最早これまで――俺は全て話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、神通。下がっていいわよ。お風呂にでも入ってゆっくりしてね」

「はい。ありがとうございます……失礼します」

 

 神通が退出し、ぱたん、と閉じた扉を見て、私は溜息をつく。

 

「あーもう。また次から次へと……何なのよ」

「心中お察しします」

 

 妙高が暖かい緑茶を入れてくれながらそう言った。優しさが身に染みる。

 お茶を啜って一息つく。お茶の温かさが、体も心もほぐしてくれた気がした。

 

 しかし、全くやってられない。結局、神通は敵潜水艦を仕留められなかった。

 神通も、艦娘として着任してから長い。戦闘経験も豊富だし、対潜戦闘も何度か行っており、実際に潜水艦を撃破している。そんな神通が、単艦とはいえこの浅い海域で敵潜水艦を逃すことになるとは思わなかった。

 本当はこの潜水艦、幽霊なのではないかと思うくらい、不審な点が多い。

 この防潜網の張り巡らされた瀬戸内海にどうやって入ってきたのか。この浅い海域でどうやって神通の攻撃を躱したのか。最後の魚雷と思しき爆発は何だったのか。

 自称大和といい、不審な潜水艦といい、どうしてこの2日でこうも面倒な案件が増えるのか。

 

「提督。少しお休みになられてはいかがでしょうか? 今朝は早く起床されましたし、疲れも取れていないのでは?」

「そうねぇ……そうしようかな……」

 

 昨日も何だかんだで遅くまで働いていたし、今朝も不知火たちの見送りに、大和さんの報告書の作成と色々やっていて、結局あまり寝ていない。

 潜水艦についての報告書も書かなければいけないが、とりあえずの報告は妙高でも出来る。

 

 お昼まで寝ちゃおうかな――妙高の魅力的な提案に心傾きかけた時、扉がノックされた。

 

「提督ぅ、青葉准尉です! ヤマトさんもいますよ!」

「青葉さん……」

 

 困ったように妙高がそう呟く。確かに間が悪い。人が寝ようとしたときに、頭を悩ませる存在を連れてくるとは。

 

「どーぞー……」

 

 自分でも、あまりに力のない返答だと思った。これではいけない、と背筋を伸ばして座り直す。

 

「失礼します!」

 

 相変わらず元気な青葉は、大和さんの右手首を握り、引きずるように入ってきた。心なしか、大和さんは疲れたような表情を浮かべている。

 これは一体どういう状況なのか。入ってきた青葉は、大和さんの手を離さないまま私の前に立つ。一歩遅れて、大和さんも並んだ――が、なぜか項垂れている。

 

「提督! 青葉、すごいもの見ちゃいました!」

 

 「どうしたの?」と聞く前に、青葉が身を乗り出して興奮気味にそう話す。

 

「青葉さん、提督はお疲れです。報告は簡潔にお願いします」

 

 妙高が私の思いを代弁してくれた。青葉は、思うままに喋らせると話が長い。余裕があるときは聞いていて面白いのだが、いまはちょっと疲れが先に来る。

 それを聞いた青葉は体をひいて、少し落ち着きを取り戻す。

 

「あ、これは失礼しました。ええっとですね、結論から言うと――ヤマトさんは大和じゃないんです!」

「…………はい?」

 

 青葉の思わぬ言葉に、私は首をかしげた。

 それは――知っている。けれど、何故それを青葉が知っているのだろうか。

 また青葉の「取材」が思わぬところで役に立ったのかもしれない。

 

「それは、どういうこと?」

「ああ、つまりですね。私たちが『大和』って聞くと、普通第2次世界大戦で坊ノ岬に沈んだ大和を思い浮かべるじゃないですか。でも、大和の名を冠した船って他にもありますよね?」

「まあ……そうね」

 

 それは、確かにある。

 そもそも一般的に知られる大和は2代目だ。初代大和は、帆船時代の戦闘艦であったと聞いている。

 これは大和だけに限らない。軍艦の名前は使い回されている――というと聞こえが悪いか。代々受け継がれているものも多い。

 それこそ妙高の名も、現在の護衛艦に受け継がれている。

 

 だが、敢えて言うならそれがどうしたというのか。

 大和の名を冠した船は、それで終わり。確か実験船でも使われたと聞いているが、まさか実験船があんな装備を有しているわけもない。

 青葉の言いたいことが良く分からず、首をひねる。

 

「なんと! ここにいるヤマトさんはですね……遥か未来からやってきた、宇宙戦艦ヤマトなんです!」

「………………」

 

 ばばーん、と青葉は両手で大和さんを示す。

 

 ――その時の私の気持ちをどう表現すればいいだろうか。

 一言で言うなら唖然。

 何か言おうと口を開くが、二の句が継げず、言葉にならない。

 

「……青葉、あなた……大丈夫?」

 

 ようやく出てきた言葉は、あまりに荒唐無稽なことを言う青葉の頭を心配する言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫とは何ですか! 青葉は正気ですよぅ!」

 

 和子提督の正気を疑う言葉に、青葉はぷんすかと怒る。

 だが、仕方のない反応だろう。少なくとも俺が同じ状況なら、同じように青葉の頭を心配する。

 

 そもそも俺が何故ここにやってきたのか、全く分かっていない。論理立てて説明が出来ないことを、他人に分かってもらおうというのが無理なのだ。

 まあ、それでも俺はここにいて、俺はヤマトである。

 事実は事実である以上、それを受け止めていただく他ない。

 

「そうは言ってもね……いきなり大和さんが未来から来ただなんて言われても信じられないのは分かるでしょ?」

「それはもちろんそうです!」

 

 力強く頷く青葉。それならもっと分かってもらう努力をしたらどうなのか。

 

「で、青葉はそう言っていますが――大和さんは何か言うことはありますか?」

 

 突然こちらに向いた和子提督の視線が、思いのほか鋭くて俺はたじろぐ。

 

「あ、いえ……その、青葉さんが言っていることは事実でして……」

 

 思わず小声になってしまう。だがそれでもきちんと聞こえたらしく、和子提督は目を丸めた。

 そして、溜息。

 

「では、それを証明できますか?」

「えっと、私の艤装……じゃダメですかね?」

 

 ヤマトの能力が詰め込まれたあの艤装は、明らかに未来技術の塊だ。今の妖精さんたちだって再現することは出来ないだろう。

 実際、三式融合弾を作るために設備を借りようとしたヤマトの妖精たちは、三式弾を作るための設備を作る必要があると嘆いていた。

 でも作れるらしい。流石妖精さんだ。

 

「工廠の妖精さんから上がってきた報告書によると、貴女の艤装の兵装は確かに今までにないものですが――未来からやってきたという証明には弱いですね」

 

 ……しまった。そういえば、工廠の妖精さんが偽の報告書を上げてくれたのだ。

 正確には偽の、というよりも、見た目から分かることだけを並べた報告書だ。ショックカノンだって見た感じはただの砲塔だし、八連装ミサイル発射塔も、ぱっと見は煙突である。

 あれ、そうなると何が証明になるのだろうか。

 和子提督の厳しい視線に、頭が真っ白になって何が証明になるのか分からなくなってくる。

 

「本当ですよう。青葉、ヤマトさんが海から浮上してくるところ見ましたから!」

「……浮上?」

 

 青葉の言葉に、和子提督が興味を示したのを見て、そうだ、と思いつく。

 

「ああ、その……見た目ではあんまり違いはないんですけど……宇宙に行けますし、海にも潜れます」

「………………はい?」

 

 俺の言葉に、和子提督は聞いたことが信じられない、という感じでそう零す。

 

「だから、宇宙に行けます。宇宙戦艦なので」

「……俄かには信じがたいのだけれど……」

 

 そんなことを言う和子提督に、更に言葉を重ねようとするが、その前に和子提督が「ところで」と遮った。

 

「青葉が今、海から浮上してきたと言いましたが……先ほど発見された潜水艦はもしかして、貴女ですか?」

「……はい。そうです」

 

 俺がそう答えると、和子提督の顔が厳しくなった。正直怖い。

 和子提督は俺から視線を逸らさないまま机の上の機器を操作し、置かれていたマイクに「提督室へ」と話す。

 

「なるほど……ではもう一つ尋ねます。先ほど発見された潜水艦は、魚雷と思しきものを発射しています。貴女はどういった意図でこれを発射したのですか?」

「えっと……」

 

 静かながら問い詰めるような和子提督の言葉に、身体がこわばる。

 

「その、ピンで追跡されたら正体がばれると思って……ソナーを妨害するために、発射しました」

「それにしては、随分と威力があったようですが?」

「わ、私の兵装の中では、えと、あれでも威力が低い方で……」

 

 声が震えているのが自分でもわかった。

 何が言いたいのかは分かった。俺に神通を攻撃する意思があったのかということを知りたいのだろう。

 誓って言うが、神通を傷つける意思なんか欠片も持っていなかった。でも、魚雷の威力が思っていたよりあったのも事実で、結果として傷つける可能性があったのも事実だ。

 

「そうですか……分かりました。貴女の発言内容については、調査をさせていただきます。ご協力いただけますね」

「は、はい……もちろん」

 

 有無を言わさぬ和子提督の問いに、俺は首を縦に振る。それと同時に、部屋の外からどたどたという足音が聞こえてきた。

 その足音は提督室の前で止まり、「失礼します!」という男性の声とともに、ぞろぞろと人が入ってきた。

 思わず振りかえると、「特警」と書かれた腕章を付けた軍服姿の人が5人ほど並んでいた。――海軍の憲兵さんみたいなものらしい。

 鋭い目つきの方々に囲まれて、俺は不安になる。

 

「あ、あの…………」

「それでは申し訳ありませんが、こちらで艤装の調査が終わるまでは貴女を拘束させていただきます」

 

 あ、そうなるんですね――考えてみれば当然の流れだろうか。

 俺は項垂れた。そして、和子提督の「その子を連れて行きなさい」という発言で、女性の憲兵さんに両腕をつかまれ、引きずられるようにして提督室を退出。

 

 失意の俺の耳に、「大和さん!?」という声が聞こえてくる。

 見れば、提督を訪ねてきたのだろうか? 祥鳳がこちらを見て口元を抑えていた。今朝一緒に食事をした人が憲兵に捕まっているのだ、さぞびっくりしたに違いない。

 

「ど、どうして……?」

 

 小さく聞こえたその声に、しかし俺は言葉を返すことを許されなかった。

 ぐい、と引っ張られ、憲兵に囲まれたまますれ違う。

 

 ――そうして俺は、この呉で初めて営倉入りを命じられた艦娘となったのであった。

 

 

 


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