初めての二人暮らしin101号室   作:larme

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タイトルは瑞希のときと揃えましたが、書き方は違います。
いやー、もうクライマックスですねぇー。
って、かなり前からそれ言ってるじゃないですか!! もう、これはあれですね。クライマックス詐欺ですね。
私を訴えてみてください! 多分、裁判にすらなりません!
まあ、くだらないことはこれくらいにして……
自分の頭の中ではストーリーは完成しています!
そして、この第1章(仮)のあとの話も少しずつ完成してきてる感じです。
それはさておき、今回はいよいよ恭華の過去。バスケを遠ざけていた理由を書いてみようと思います!
最後までお楽しみいただけたら幸いです
あー、長くなる気がするー。長い戦いが始まるー。


初めての昔話 恭華編

理菜が家を出ていってしばらく経っても恭華は押入れから出ることができなかった。

理菜たちの試合も気になった。もう、試合の開始予定時間の5分前。恭華の手の中にある携帯はそう記していた。でも、それを気にすることさえ、正確には自分が何かしらの形でバスケに向き合うこと自体が罪であるように感じられた。

もともとの罪なんてそんなに大きなことではない。始まりはただの事故。しかし、それに嘘を重ねたり、自分を責め続けたことで、それは大きなものになって恭華を潰していた。

苦しい、辛い、そんな感情がバスケのことを考えるたび、由架のことを思うたび増幅してそれがまた罪の意識へとつながる。

悪い悪循環の中で恭華はもがいた。

監督として試合を見に行くべきだーーそれなのに足は動かない。

しっかりと由架にあの日のことを詫びるべきだーーそれなのに……。

本当は恭華は知っていた……。こんなに狭い押入れから一歩も踏み出せない理由を……。

 

しばらく眠っていたのだろうか? もう、時間は夕刻。試合なんてとうの昔に終わっている。

恭華のモヤモヤした気持ちとは裏腹に、皮肉なほど心地よい眠りにつけた。眠っている間に人は脳の整理をするなんて聞いたことがある。きっとそのおかげだろう。

しかし、その整理された脳がすぐ乱れるのもなんとなく予想がついた。

このままここにいても仕方がないと動き出そうとすると今朝とは比べ物にならないくらいすんなり足が動いてくれた。

やはり、少し脳が落ち着いているのだろう。軽く伸びをして戸を開けようとした瞬間。その戸は向こう側から開かれた。

「きょ……。起きてたんですねぇ。もう、ご飯できてますよぉ。一緒に食べましょう」

恭華は抵抗もせず、押入れから出て驚いた。そこに置かれていたのは恭華の好物。詳しく言うと唐揚げにオムライス。

恭華は無言でテーブルの前に座り、箸を進めた。腹が立った時は食うんだ。頭がすっきりした今ならわかる、なんで腹が立っているのかは。

理菜の料理は以前も言ったように絶品だ。唐揚げは当然、外はカリッと中はジューシーでしっかりとした味がつけ込まれている。それなのに脂っこいわけではなくグングン箸が進む。

オムライスの方のケチャップライスはなんと具は玉ねぎだけ。初めて恭華が見たときも驚いたものだ。それでも、パラパラとしたご飯が一粒一粒しっかりと味わうことができ、玉ねぎと米の本来の甘さに加え、ふんわりとした卵がそれを包み込み、舌に滑らかに絡みこむ。

と、食レポはこの辺にしておこう。美味しいものを食べていると悩みがふっと消えてしまう瞬間がある。そのタイミングで恭華は気になっていたことを聞いた。

「今日の試合、どうだったんだ」

すると、正面に座っていた理菜はピタッと箸を止め、恭華の目を見つめて言った。

「そんなことより、恭くん。私は今朝、逃げるのは一回だけと言ったよね。でも、何から逃げてたなんて私にはわからない。だから、私に話してくれない?」

普段の理菜の口調じゃない。この理菜の真剣な態度は初めてじゃない。あれは会って二日目のことだった。あの日もこんな感じだった。

恭華は俯いた。過去を話すことは自分の罪を更に深める気がして。

「恭くんは伶ちゃんの話を真剣に聞いてあげたんだよね?」

なんでそれを……。伶が話すとは思えない。

「伶ちゃん、恭くんと二人きりで体育倉庫にいた日から少し変わったんだよ。笑うことが増えた。怒ることが増えた。そう考えると恭くんが伶ちゃんを支えてくれたんだよね。受け止めてあげたんだよね」

さすが、理菜だ。どうやら全てお見通しということらしい。

「今度は私が恭くんのこと、受け止めるよ。だから、怖がらないで、話してくれないかな?」

理菜のその声は力強く優しかった。

「恭くん、初めて会ったときと同じ、悲しい顔をしてるよ」

本当にあの時と同じ、不安と恐怖を抱えている。でも、あの時のような暖かい風はない。ううん、違う。今、目の前にそれより強い力で背中を押してくれる人がいる。

だから、恭華は自分の罪を話す。理菜のことを信じて。

 

僕は小学生の時からバスケを始めて中学の春まで、それを続けた。

好きこそ物の上手なれなんてよく言ったものだ。僕はバスケが大好きでぐんぐん上手くなっていた。中学2年の頃に県の選抜にも選ばれた。もう、順風満帆って感じだ。

でも、そんな中でもたまには辛いこともあった。その時に支えてくれたのが由架。

由架との付き合いは小学生の頃から。瑞希と3人でよく遊んでたよ。最初に由架に話しかけたのは僕。瑞希と2人で河川敷でバスケをしていたら由架は悲しそうな瞳をこちらに向けていたよ。

よく考えてみると今の僕みたいな表情かな? そう考えると僕らは似ていたのかもしれない。だから、僕は由架に惹かれた。彼女は僕のシュートを真似してすぐに習得したんだ。自分と同じシュートが打てる人間、親近感がすごく湧いた。そこからも好きという感情が育った。

瑞希が転校してからもよく由架とはバスケをした。中学に入ってもそれは変わらなかったんだけど……。

僕、自分で言うのもなんだけど選抜に選ばれるような選手だったから、顧問も力入っちゃってさ。3年になってから中々河川敷に顔を出すことができなくなってきたんだ。

だから、僕は約束した。由架にこう言ったんだ。

「夏に県大会がすぐそこの市民体育館であるんだ。だから、それを見に来てくれないか。で、その大会が終わった後でこの河川敷に来てくれ。由架に伝えたいことがあるんだ」

伝えたいことなんて当然告白。僕は当然、県大会で優勝してかっこよく告白するつもりだった。ただ、この段階でもミスがあった。自分の通っている学校を教えていなかったこと。それが大きなミス。

夏の大会の前、5月の中旬ごろに同地区のチームだけが参加する小さな大会があった。その大会で僕は怪我をした。ただの骨折。全治3週間程度。

でも、その3週間で試合の勘が鈍ったらどうしようとか、もし、スタメンから外れたらどうしようとか変な気持ちが渦巻いちゃってね。その時はその時だけの気持ちでチームメイトに告げたんだ。夏の大会には……間に合わないって。

僕は逃げたんだ。不安から。それで僕らの中学は夏の県大会は地区予選敗退。もちろん、僕は試合になんか出ていない。チームにさえ参加していない。

そんな僕に由架と会う資格なんてないだろう? 僕は河川敷にも行けなかった。そして、学校では旧チームメイトに責められたよ。お前のせいで負けたんだって。どうやら、怪我がそんなにひどくないこともバレてたみたい。

それで、僕は独りになった。僕からバスケを取ったら何も残らなかったんだ。でも、何よりも辛かったことは由架を裏切ってしまったこと。そして、それが今でも僕を苦しめるんだ。

 

「それで、今も由架ちゃんから逃げてるってこと?」

理菜の口調はかわらない。全てを受け止めてくれた上で理菜はそう切り出した。

「僕は由架を裏切った。だから……」

「そうじゃない! なんで、由架ちゃんから距離を置き続けなきゃいけないの?」

「だって、僕は……最低な人間だから」

「……恭くんって馬鹿だよね……。自分が弱いだけってわかってるのに……認めないんだよね」

ストレートに言われて気づく。いや、本当は最初からわかっていた。僕は弱いんだって。弱いから言い訳を並べるんだ。弱いから逃げたんだ。なのに、それを認めない自分がいた。

「一人で勝手に背負いこんじゃってさ」

確かに責められた経験はある。でも、それは由架からじゃない。

「確かに恭くんは不安に押しつぶされそうになったかもしれない。それでも、心を支えてくれていた、大切な人から逃げる理由はこの話のどこにもなかったよ」

……うん、その通りだ。自分が勝手に罪だと思い込んで勝手に逃げて、そんな自分は……弱いんだ。

「恭くん。由架ちゃんに謝ろう。由架ちゃん言ってたよ。恭くんがこっちを見てくれなかったって。とうの本人目の前にして逃げるなんて、恭くんも酷いよ」

柔らかく諭すような声に恭華は救われた。弱いくせにずっと一人だった自分。弱いのに自分を支えてくれる人にもすがれなかった。そんな恭華の心はもう限界だった。涙が頬を伝っていることがわかった。

「……由架に会いたい。会って、しっかりごめんって言いたい。それで、僕の気持ちを伝えたい」

涙とともにボロボロとこぼれ落ちる本心。その一つ一つをしっかりと理菜はすくい上げてくれた。

「やっと、本心を見せてくれましたねぇ。じゃあ、思い立ったが吉日ですぅ」

といって携帯を取り出し、どこかにメールを送った。

「ちなみに、私たち、今日の試合負けたですぅ。由架ちゃんたちもその次の試合で負けちゃってぇ……。だから、私たち、明日暇なんですよぉ。だから、練習試合、もといリベンジマッチをすることにしたんですよぉ」

いつもの口調に戻った理菜。やっぱこっちの方がしっくりくるな。

「で、もうちょいわかりやすく言うと」

涙をぬぐって半分笑いながら恭華は聞いた。

「明日、由架ちゃんたちと一緒にバスケをするですぅ!」

「おう!」

恭華は理菜に昔の話をしてよかったと思った。ずっと一人だった恭華にとって理菜は自分支えてくれる掛け替えのない存在。家族のような……そんな存在。

初めての二人暮らしは恭華に理菜という大切な存在に巡り会わせてくれた。




タイトル回収です!!
いやー、この作品でまさかタイトル回収ができるとは……。
そして、長かった第1章もいよいよ終わりますよ。

そしてそして、第2章。サブタイトル(仮)はこんな感じです
「夏の合同合宿大作戦!」

さらに、これは読者のこれからの増え方にもよるんですが、由架ちゃんサイドの設定も考えてますので、スピンオフとして由架ちゃん主人公の話も書けたらなって思います!

それでは、また次回!

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