日をまたいで次の日。僕とバスケ部のメンバーは荒涼高校に集まっていた。
恭華は昨日のことをみんなに謝った。もちろん、昨日、恭華が理菜に話したことも全部話した。みんなに何を言われるのか、ちょっと不安だったけど。
「やっぱ、僕の思った通りだったね」と瑞希
「そんなこと気にすんな」とまりか
「監督もそんなところあったんだ」と伶
「……」とののか
ののかはなにも言ってないじゃんって思われるかもしれないけど、でも、目を見てしっかりわかる。この子が何を言いたいかなんて。
そのあと、みんなで微笑みを交わし合った。みんなは恭華のことをしっかり理解してくれたらしい。そして、今日集まった意味も。
と、そこへ複数人の足音が聞こえてきた。
「おぉ、やっときましたねぇ」
そういう理菜が見つめる先には人が7〜8人くらい立っていた。
「あれ? 奏徳ってメンバー、ちょうど5人って言ってなかったっけ?」
恭華は疑問に思ったことを口に出した。ちなみに奏徳というのは、正確には私立奏徳女子高等学校で、由架の通ってる高校。実は中高一貫だったりとかする。
「あー、彼女たちのマネーシャーですぅ。なんか、生徒会がサポートしてくれてるらしいですぅ」
へぇ、変わった学校だな。そう思った。
「で、恭くん、心の準備はできてますかぁ?」
「ある程度は出来てるつもりだ」
奏徳のメンバーは8人であるてきて、まずは横一列に並んだ。
「本日はこのような練習試合を開いていただきありがとうございます」
そういったのは由架だった。いつも、一緒に練習していた時の由架と態度が違ったので少し驚いた。
しかし、その驚きから来た緊張も、理菜のところに歩いてきて、本当にありがとね。とボソッとつぶやいた様子を見たとき、スッと消えた。
そして、由架はその足で恭華の前に立った。恭華と由架はしばらく無言で見つめ合っていた。
恭華はこの時、緊張ももちろんしていたが、それよりも由架の可愛さにときめいていた。そりゃ、小学生の時から好きな人だったが、改めて見てみると綺麗になったなと感じる。
由架は緊張した表情を少し緩めニコッとして
「今日は楽しもうね」
その一言だけ告げた。そして、荷物を置くために引かれていたビニールシートまで向かっていった。
でも、恭華には言わなければならないことがある。それは当然、自分の罪のこと。いや、もう罪だなんて言わないけど。それでも、謝らなきゃいけない。
「由架!」
「恭くん!」
2人の声は重なった。パッと見ると由架はこちらを振り返っていた。
「ごめんなさい!……え?」
「ごめんなさい!……え?」
その謝罪の声も重なって、さらに驚きの声さえハモった。
「仲良しさんですねぇ」
理菜がいう。
「でも、なんで二人とも謝ってるんですかぁ?」
理菜の疑問はもっともだ。
「僕は……」
恭華はあのことを全部話した。そして、謝った理由は河川敷に来れなくてごめんなさいということだった。
で、由架はというと、謝った理由は恭華と同じ。河川敷に来れなかったことだ。
由架が言うには恭華との約束の後、たまたま通りかかった体育館で恭華たちの中学が試合をしているのを見つけたらしい。
その試合というのが、恭華が怪我したという試合。由架は怖くなったらしい。怪我をして痛がっている恭華を見て怖くなって辛くなって逃げたらしい。
それで勝手に私が試合見に来たせいで怪我をしたんだって思い込んで。だから、怖くて河川敷に行けなかったそうだ。
「え?それって別に由架ちゃん悪くないですぅ」
理菜がいう。
「てか、似た者同士だったんだな」
似た者同士。そうなのか。そうだったのか。
「二人とも勝手に自分を責めて勝手に落ち込んでたんですねぇ」
そうだな。正直言って、恭華の場合もお互いにとってはそれほどの影響のあることではなかったはずだ。それなのにお互いに背負い込んで。
「あはは、おかしなものだね」
由架は笑いながらそう言った。
「でも……ごめんね。それで、ありがと」
「こちらこそ」
恭華は一応答えたが、ありがとうと言われた理由がわからなかった。
その1時間後くらい試合の準備は整ったのだが。
「こっちメンバー一人足りないんだよ。審判とかは先輩たちにしてもらうけど」
「それなら、ぼ……」
名乗り出ようとした恭華の横からひょこっと理菜が現れて。
「私が入るですぅ。いない子ってちょうどポイントガードですよねぇ」
「うん、ありがと」
それで、チームもようやく決まって、すべての問題が解決した。
恭華はまだまだ理菜と話したいことがあった。だから、試合で全部伝えたいと考えた。
だから……!
試合が始まってすぐ恭華にボールが渡った。そこに対面したのは由架。完全に一対一の形。僕はすぐシュート体制に入った。恭華は由架に伝えたいことを全部シュート込めた。
由架も何本もシュートを撃ってきた。そのすべてに言いたい気持ちが込められてるのがわかった。
恭華にはいろいろ言いたいことがあった。
ーーあの日の約束を破ってごめんな
ーー一緒にバスケできなくてごめんな
ーーまた、一緒にバスケできて嬉しいよ
ーーまた、これからも一緒にバスケをしていたいよ
そして……
「由架、僕、お前のことが好きだ!!」
…………。
場に沈黙が流れる。え?今の声に出てた? 全部シュートに込めただけで声には出してないつもりだった。
由架は顔を真っ赤にして走って体育館から出て行った。
「……やっちゃったかな?」
やばい、嫌われたかな。そう恭華は思ってしまった。口には出さずに秘めて置くつもりだったのに。
「いや、そんなことないと思うですぅ。由架ちゃん、ちょっと嬉しそうでしたよぉ」
「そうか、良かったのか」
「そうですよぉ。由架ちゃん喜んでくれてると思いますよぉ」
告白なんて勢いに任せないとできないだろう。それなら今できてよかったのかもしれない。それで、、由架が喜んでくれたのならなおさら……。
「なんか、試合終わっちゃいましたねぇ。わざわざ誘ったのに恭くんが余計なことをしたせいですみません」
おい、僕のせいにしないでくれ! 恭華が言う前に奏徳のメンバーの一人が答えた。
「いいよ。私も4月からの付き合いだけど、あんなに魂動いた顔してた由架は初めて見たよ。私もあんな由架を見ることができて嬉しかった」
由架のチームメイトからも、客観的に見ても自分の行動に間違いがなかったと肯定してもらえた気がした。
結局、その日は由架と顔をあわせることはなかった。理菜と恭華は一緒に帰った。
「由架ちゃんって昔からあんな感じだったんですかぁ?」
「告白とかしたことないからわかんないよ」
「そうですよねぇ。まず、恭くんって告白とかする柄じゃないですよねぇ。今日はどうしたんですかぁ?」
「どうもしてないよ。ただ、気持ちが溢れちゃっただけだ」
「恭くんっていろんなことに真剣に向き合うんですねぇ。由架ちゃんのことも伶ちゃんのこともものすごく真剣に向き合ってましたねぇ」
「そうなのかな」
「そうですよぉ。で、由架ちゃん、恭くんとそっくりですからきっと由架ちゃんも恭くんのことを真剣に考えてくれてるはずですぅ」
「そうか……そうだな!」
理菜はしっかりと人を見てその人の態度とかで性格や悩みのようなものを一瞬で見抜いてしまう。そんな理菜が由架のことをそうゆう人物だというのであれば間違い無いのだろう。
アパートに着くと美鈴が待ち構えていた。
「お、そういえばお前らの隣の部屋のリフォームが終わってな。来週から新しいお隣さんが来るぞ」
らしい。恭華はトラウマを引きずったままここに越してきた。それは周りの環境を変えるためだ。でも、今は中身も変わった。そして、今度はまた新たな変化が訪れる。お隣さんのこともそうだし、由架のことだって……。
そんな、これからの新しい日々にわくわくせずにはいられない。
恭華はワクワクした気持ちのまま、飛び出した。
「ちょっと走ってくる!」
恭華は今まで過去にとらわれていた。そんな恭華が自らを解き放ちまるで未来にかけていくように走り出した。それは新たなステップの始まりだった。
うーん、まとまった気がしないですが。
第1章はこれにて完とさせていただきます。
続きまして第2章を始めていきたいのですが……。
ちょうど現実でも夏。それに合わせる形で夏の話をしていきたいです。
次回のタイトルはズバリ! 初めてのお隣さんでいきます!
楽しみにしててください
ではでは