新キャラ登場! この章のキーパーソンにしたかったので色々と模索してました。
それではどうぞ!
事は3時間前にさかのぼる。それは突然届いた一通のメールからだった。
『突然だけど、今日そっちに行くから! パパもママも心配してるし、ちょっと見張っちゃうよ』
妹からのそのメール。これはピンチだ。どうゆう事情にしろ、現状だけ見れば女の子と一緒に住んでいるのだ。
この状態を妹に見られ、父や母に伝えられたりしたらどうなることやら……。
隣でゲラゲラですぅってテレビを見ながら笑ってる理菜を見て少し考えた。てか、なんだよ、その笑い方。
理菜は賢いし、察することができる人だ。事情を話せばわかってくれるはず……なのだが。少し恥ずかしいというか。
うーん。
ひらっ。財布から5千円札を取り出す恭華。
「これで好きなもの買ってきていいから夜まで帰ってこないで」
それを理菜に手渡す。
「ゲラゲラ……え!? 急にどうしたんですかぁ!? 2人集まれば諭吉に進化する樋口一葉じゃないですかぁ!! 悪いですよぉ」
驚きつつも申し訳なさそうな顔をする理菜だが、パッと恭華の顔を見ると何かを感じ取ったようで。
「お釣りはしっかり返すですぅ」
と、言って部屋から出て行った。
それから恭華は部屋にあった理菜のものをとりあえず押入れに突っ込んだ。
そして、掃除機やらなんならの掃除を一通り済ませて、軽くて料理も作った。
素直に言うと恭華は妹のことを大切に思っている。確かに中3の一年間孤独だった。その孤独の一番近くにいてくれたのが妹だった気がした。
空気を読んで喋りかけてくることは少なかったが、恭華のことをわかってくれる数少ない人のような気がしていた。
そして、その妹にはそれなりのもてなしをしたい。
ピンポーン。チャイムが鳴る。
計算通りのタイミングであった。家からここまでの時間、妹の歩く速度であればどれ程かかるかを正確かつスピーディーに計算し、逆算してここまでの計画を立てていた。
これは大切に思っているというレベルを超えて、溺愛してるな。
「はいはーい」
久々の妹との対面。少し緊張もしたが、玄関を開く手は戸惑うことをしなかった。
「にいちゃああん!」
突然抱きつかれた。まあ、あれだ。恭華の妹はブラコンだ。妹は抱きついた勢いそのままに背中の方にくるんと回り込んだ。
「と、冬華、苦しい。離してくれ」
恭華は必死にその手を解こうとした。その対応を見て恭華の妹、冬華は少し驚いたような顔を見せ、さらに力を強めた。
「ふへへ、にいちゃんの背中久々ぁ。このまま、部屋まで連れてってよ!」
やけに明るい声でそう言う冬華。ちなみに恭華の一つ下の冬華。体重に関しても平均よりも軽いかもしれない。が、冷静に考えてくれ。10kgの米から紐をくくりつけそれを首に吊るしたら相当苦しいだろう。それの何倍かはあるのだから苦しいのは察してほしい。
今にも途切れそうな意識をなんとか繋いで部屋まで運んでくることに成功した。
「くんくん、この匂いは冬華の大好きな肉じゃがの香り! にいちゃん、まさか……冬華のために!?」
ひどく喜んでくれている。軽く料理を作ったのもこのためだ。
「あれ? テレビついてる! あ!! レジスタじゃん!」
「レジスタ?」
「冬華のまわりで少し話題の冬華の好きなバンドなの。Resistanceっていうんだ!」
「ふーん」
特に興味もなかったので、反応にも困った。
「ちょっと、にいちゃん! いくらにいちゃんでもレジスタをバカにしたら許さないよ!」
バカにはしてないけど……。
「とりあえず、肉じゃが! レジスタが歌ってるうちに食べるの!」
複数のアーティストが出演してる音楽番組。今、歌ってる歌が終わるのはすぐだろう。
軽く、肉じゃがを温めなおしているとチャイムがなった。
「あれ? お客さん? にいちゃん、誰が来たの?」
「まあ、出てくるよ」
「あ、いいよ! 冬華出てくるよ!」
どうやら、レジスタとやらの曲は終わったらしい。
そう言ってドタドタと玄関に向かう冬華。
ガチャリ、玄関が開く音がした。
「恭くん、今日さ、お母さんがいっぱいジュースを……って、え!? 冬華ちゃん!?」
あら、玄関から驚いてる声がする。由架だったか。
「あ!! 由架さん! お久しぶりです!」
由架に部屋に上がってもらい3人で小さなテーブルを囲む。みんなの手には缶ジュース。テーブルのセンターには肉じゃがが堂々と湯気を立てていた。
「肉じゃがにオレンジジュースは合わないと思うんだけど、どうしてくれるの! にいちゃん!」
「いや、僕に言われても……。だって、ジュースを持ってきたのは由架だし」
「え? 私のせい!? お母さんが大量に送ってきたからおすそ分けして喜ばれると思ったのに……」
「これはにいちゃんが悪い! 由架さんも傷つけたからダブルで悪い!」
由架の母から大量に送られてきたというこのジュース。
一人暮らしは大変でしょうし、お金も毎月十分にあげられてないからよかったら足しにしてね、と届いた荷物の中に入ってたものがそれだという。
そこまで足しにならない上に量が多かったためにうちに分けてくれたのだとか。
まあ、嬉しいっちゃ嬉しいのだが。由架も変わった母を持って大変だな。
「うーん、意外に肉じゃがのホクホクにオレンジのさっぱりがマッチするね! 仕方ない! オレンジよ!そなたを冬華のフェイバリットドリンクにしてあげよう!」
何言ってんだか……。て、おい!肉じゃがもうほとんどなくなってるし!
「ふふ、冬華ちゃん、昔と全然変わらないね」
「いえいえ、昔より100倍元気です!」
そう言いながら、冬華は肉じゃが、最後の一口をパクっ。
「にいちゃんの肉じゃが最高! 冬華のナンバーワンフードだね!」
「お、そりゃどうも」
素直に嬉しい。
「それはそうと、冬華さ。由架さんの作ったクッキー食べたいなぁ。小さいときに一回食べたけど、いやぁ、美味しかったなぁ。あれを超える食べ物はないと思うよ!」
肉じゃががナンバーワンじゃないのかよ! ほら、由架も苦笑いしてるじゃないか!
「クッキーかぁ……。 今、家にお菓子作りの材料が全くなくて……。ごめんね」
「うぅ、冬華がっかり」
冬華の目からキラキラが消える。
「あ、クッキーの代わりと言ったらなんだけど、お母さんがジュースと一緒にチョコレートも送ってきてくれたんだ。一緒に食べよ」
冬華の目が再び輝き出す。
「はい!」
冬華は単純なやつである。すぐに喜怒哀楽が表に出る。
今だってすぐに表情が変わったし、昔もそうだった。僕が喜べば、冬華も喜ぶ。僕が悲しめば、冬華も……。
僕が孤独だった1年間だってきっと、冬華は悲しんでいたのだろう。
そして、怒りも表情だって当然はっきりと出るわけで……
ガチャリ、玄関が開く。でも、この玄関の開く勢い、足音、完全に由架のものじゃない。
「ただいまですぅ」
理菜が帰ってきやがった。
「「え?」」
理菜と冬華はしばらく顔を合わせ、お互いに顔を覗き込んでいたが……。冬華の表情がすぐに変わり始めた。
「にいちゃん、これってどうゆうことかなぁ?」
「さ、さあ?どうゆうことかなぁ……」
「説明しやがれ! この馬鹿にいちゃん!!」
「ひぃ!」
冬華は怒りの表情をはっきりと出す。そして、その怒りはこの上なく怖い。
そんな様子を玄関から覗き込んでいる、由架を発見した。
由架は恭華のSOS信号を発見すると、ぺこりと頭を下げて、ごめんなさいと言ってからその場を去った。