恭華は何かしらのトラウマを持つ男の子。
理菜はそんな恭華と暮らす女の子。
この設定さえおさえておけば読めると思います。
少し雑になってるかもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです。
それでは、お楽しみください
昨晩、あの騒音は夜中の1時ごろまで続いた。
つまり、その時間帯まで恭華は寝ることができなかったのだ。
いや、正確には押し入れに入る前のぬくぬくした気持ちはその頃には冷めきっていたため、眠りにつくのにもそこからしばらくかかった。
しかも、前日の出来事の疲れも重なり、朝の10時頃だろうか? ようやく恭華は目を覚ました。と、言ってもまだうとうとしている。
はっきりとしない意識の中、ガチャという音が遠くで聞こえた。誰かがこの101号室の中にはいってきたのだ。その人物の足音は真っ直ぐにこちらの方へ向かってきて、ガラガラと押入れの戸を開けた。
「恭くん、起きてますかぁ? あさごはんかってきたんですけどぉ」
その人物ーー理菜は上下ジャージ姿で首からタオルを下げ、手にはレジ袋を持っていた。
しかし、それより恭華が気になったのは彼女の後ろに積まれた段ボール。
「あれはなんだ?」
恭華は眠い目をこすりながら聞いた。
「ああ、あれはですねぇ……」
理菜は語り出した。
「一時間くらい前でしょうか。この家の呼び鈴が鳴ったんですぅ。私は急いで着替えましたぁ。その結果がこれですぅ!」
と、言って自分の服装を指差した。
いや、きになったのそこじゃないよという恭華の顔を気にする間も無く、理菜は話を続けた。
「で、出てみると恭くんの荷物が届いたとのことでしたぁ。そして、その荷物を届けてくれた人が印を要求してきたので、慌てて恭くんのカバンを漁って、印鑑を見つけだし、ペタンとしてあの箱たちを受け取ったのですぅ。それで、せっかくジャージに着替えたし、外を走ってこようと思ってぇ、そのついでに朝ごはんを買ってきたのですぅ」
「ああ、そうか、じゃあ、飯もらうわ」
頭がぼんやりしていたので『朝ごはんを買ってきた』という情報しかさばくことができず、それに対する返答しかできなかった。
とりあえず、理菜からおにぎりとお茶を受け取った恭華は押入れから出ておにぎりが包まれている1、2、3と書かれたビニールを剥がし出す。
全然、頭がすっきりしてこない。今、恭華が考えていることといえば、この1、2、3の番号の2と3って逆でも問題なくないか?ということだった
おにぎりの袋をノリを持って行かれてることなく綺麗に開け一口食べる。
咀嚼をしていくごとに頭がすっきりしていくのがわかる。
そして、すっきりしてきた頭であの荷物のことを考え始めた。
ーーQ.そこの荷物は誰のだっけ?……A.僕のだ
Q.なんでこにあるんだっけ?……A.理菜が受け取ったからだ
Q.なんで、僕じゃない、理菜がこの荷物を受け取れたんだっけ……
ここで恭華はやっと気付いた。
「おい!お前!!」
恭華は怒鳴る。
「お前じゃないですぅ。理菜ちゃんですぅ」
理菜は180度違った方向の返事をする。
「そんなことはどうでもいいんだよ!!」
怒鳴る恭華。
「どうでもよくありません!理菜ちゃんは理菜ちゃんでふぅ」
反論する理菜。
「人のカバンから印鑑を取るのはどう考えても犯罪だろ!」
そう言うと理菜はしゅんと固まってしまった。
「警察に通報するぞ!!」
と、言って携帯を取り出す恭華。
「あ!人のネタパクるなんてずるいですぅ。恭くんも窃盗罪ですぅ」
「うっさい!こっちは真剣だ!」
まだ、ボケるかこいつは、と恭華の怒りはピークを迎えつつあった。
その恭華怒鳴り声を聞き、怒りの表情を見た理菜は目をうるうるさせていた。
「ごめんなさい」
理菜はポケットから、恭華の印鑑を取り出し、頭を下げた。
「だって、昨日は私のせいで恭くんなかなか寝れなかっただろうし、起こしたらダメかなって思って……。こうしたほうが恭くんのためかなって勝手に判断しちゃ……ヒッ……しちゃったんだよぉ〜……うわあああああああん」
理菜はまるで子供のように泣き出した。
その姿を見ていると、恭華は自分も悪かったような気がしてきて、
「こっちこそ、ちょっと言いすぎた。ごめん。次からはこうゆうことがないようにしてくれ」
「うん」
涙を拭くように目をこすりながら答える理菜。
「じゃあ、一緒に荷物の整理手伝ってくれないか? 人に見られて嫌なものは多分入ってないし」
恭華は仲直りできるよう、一緒に何かをしようと提案した。
するとやはり、小さい子供のように
「うん!わかったよぉ」
と、けろっと元気になってふわっと笑って見せた。
「よし、じゃあ早速」
会話のうちにおにぎりを食べ終えていた恭華は3つ積まれている段ボールの一つのガムテープを剥がした。
そして、その中身を確認した恭華。
「え?」
恭華はありえないものを見たというような驚愕の表情を浮かべていた。
しかし、そんな表情、気にもせず、理菜は段ボールのなかからそのものをとりだした。
「あーーー!!バスケットボールじゃないですかぁ!!」
理菜は恭華の驚きとは別のベクトルで驚いた。恭華のそれが落胆であるなら、理菜のそれは歓喜だ。
「恭くんとバスケやってたんですねぇ!! 私もずっとやってたんですよぉ!!」.
そう言いながら、段ボールのなかから奪い取ったボールでハンドリングを始めた理菜。
しかし、恭華はうつむいていたために経験者であってもその判断ができなかった。
「えー、嬉しいなぁ。恭くん、ポジションはどこだったんですか?」
このニコニコした顔、明るい声だってあの子に重なってしまう。そして、恭華のなかで罪の意識が増していく。
「ねぇ、恭くん?」
恭くんと呼ばれるたびに背筋が凍る。昨日は理菜に恭くんと呼ばれても平気だったのに。
その恭くんと呼ぶ姿をあの子と同一化してしまい、あの子が恭華。攻めているように感じた。
『なんで、あの日、河川敷に来てくれなかったの?』
「うるさい!!!」
恭華はあの子の幻影を追い払うように大声で叫ぶ。
「僕はもうバスケをやめたんだ! その話はやめてくれ!」
そう言って恭華は101を飛び出した。
苦しかった。自分の罪で押しつぶされそうな気持ち、そして、関係のない理菜を傷つけてしまったかもしれないという恐れ。
彼はどうしていいのかわからず、走り続けた。そうしないと色々考えてしまい、罪に押しつぶされてしまうから……。
どれくらい走っただろう? 時間はもう夜の9時。
結局、彼はボロアパートに戻ってきた。101号室のドアノブに手をかける。が、鍵がかかっていて開かない。恭華はポケットから鍵を取り出し開ける。
101の中には誰もいなかった。一人でいる101は思いの外広く、寂しいものに感じられた。
恭華は真っ先に押し入れに向かった。戸を開けると中には丁寧に布団が敷いてあった。
そこに理菜の優しさを感じた。
ーーさっき、あれだけ怒鳴ったのに……。
恭華は押し入れに潜り込んだ。
それから20分か30分かしてからがちゃと玄関が開く音がした。
恭華は全然落ち着くことができず、眠ることができていなかった。
そして、その人物は一目散に押し入れに向かってきて戸を開けた。
「……ハァハァ……恭……ハァ……くん……」
とても、息づかいが荒く、そして、声が震えていて泣いているのがわかった。
僕に構わないでくれ、あっちに行ってくれ、と言わんばかりに背中を向け、嫌悪のオーラを出していた。
自分は罪を背負った人間だから優しくされる資格なんてないんだってずっと思ってたから。
でも、理菜がとった行動は意外だった。恭華の布団に潜り込んできて、背中を強く抱きしめたのだ。
「心配したんだよ。私、何かいけないことしちゃったかなって。恭くん急に飛び出して行っちゃうし。全然帰ってこないし。どこ探しても見つからないし」
理菜に強く抱きしめられているので、理菜の心臓の音が背中から恭華に直接伝わってくる。そこからも必死になって自分を探してくれていたんだって感じた。
恭華の胸でドクンとあたたかい何かが揺れた。
「勝手に出て行かないで、私たちは理由はどうであれ、一緒に暮らすことになった家族みたいなもの……ううん、もう家族なんだよ」
理菜の普段からは考えられない力強い口調は、恭華のことを大切に想う心は、どちらも恭華の中に優しさとして染み込んだ。
恭華はその温もりで安心しきって眠ってしまった。
そうとも気づかず話を続ける理菜。
「私ね、恭くんのことを初めて見たとき悲しい目をしてる人だなって思ったの。でも、ニコッと笑う優しい恭くんもいえ……。私そんな恭くんが好きなの。だから……」
ここで理菜は恭華が寝ていることに気づく。「もう」と呆れたように言いながら、自分の唇を恭華の頬に軽く当てた後、それを恭華の耳に持ってきて
「ずっと優しい恭くんでいてくださいね」
と、いつもの口調で囁いた。
そんな声が恭華に届いたわけもないが、恭華は寝言で理菜に聞いた。ずっと気になっていたことを。
「なんで、俺なんかに優しくするんだ」
寝てるときにでも聞いてしまうくらいずっと疑問に思っていたこと。
すると理菜はあっさりこう答えた。
「ただの一目惚れですぅ」
その声は眠っている恭華には届かなかった。
二人の間に初めて見つけたバスケという接点はそう嬉しいものでもなかった。
バスケは作者がずっとやってる唯一のスポーツです。
だから、書きやすいかなーって思ったんですけど……。
キャラクターが増えまくりそうですw
まず、恭華と理菜の通う高校のバスケ部のメンバーに、そのライバル校のメンバーにって考えるだけで頭がいたいです。
キャラクターの設定はある程度はできているのですが、名前が……。
でも、頑張って連載続けていきます!
それではまた次回まで