初めての二人暮らしin101号室   作:larme

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この話もやっと9話
書き始めたあの頃は8話くらいで大きな波を迎える予定だったのに、書き続けてみれば案外すんなりはいかないものですね。
しかし、ここからヒートアップさせていきたいです。って前回の話も結構大きな波のつもりでしたが……。


初めての入部届け

瑞希と恭華が河川敷で一対一をした次の日。今日はこの先のことを考えても恭華にとって大きなイベントが起こる。

とは言っても昨日のことがあのまますんだかといったらそうではなくて……。

昨日、あの後、恭華は理菜に連れられ家に帰ったらそこには洗濯機が届いていた。どうやら、理菜の親が子供のために送ってくれたものらしいのだが、それをどう設置すればわからなかったらしい。仕方なく、恭華は詳しくはわかっていないながらもなんとなく勘で作業を始めた。

その間、2人はなんでもない会話をしていた。

 

「理菜はあのファミレスが瑞希の実家だって知ってたのか?」

「もちろんですぅ。みずぽんぽんが恭くんのことを……ってなんでもないですぅ。あと、ちゃんを忘れないでください!」

なんで、最後だけ力強く言うんだ。

「そう考えると、私はとんでもない人に一目惚れしてしまったんですねぇ」

小声でそうゆう理菜。もちろん、恭華の耳にそれは届いていない。

「そうか、知っててわざわざ連れて行ってくれてたんだな。僕も瑞希のことをもっと理解してあげていれば……」

単なる後悔。小学生だった自分には仕方がないのかもしれないと思っても、いろいろわかる今なら彼女の辛さがわかってやれる気がして、自分が悪いように感じてしまう。いや、実際自分が悪いのだ。

「たぶん、みずぽんぽんには恭くんの優しさや思いやりがしっかり伝わってると思うですぅ。そんな落ち込んでると明日、学校で気まずいですよぉ」

「そうだな……でも……」

「もう、そんな暗い顔しないでくださいよぉ。ほら、明日は部活見学ですよぉ。しかも、うちの学校って明日からいきなり入部届けを提出できるんですぅ。便利なシステムですよねぇ。で、恭くんは部活どうするんですか?って、みずぽんぽんとあんな約束をしてたら必然的に決定してますねぇ」

「ん?最後の部分が聞き取れなかったんだが」

「あ、気にしないほうが身のためですよぉ。あと、みずぽんぽんの性格は恭くんが一番わかってると思うんで、今更忠告の必要もないかと」

「?」

正直よくわからないままの恭華であった。

 

 

「はい、これが入部届けです。クラス、出席番号、名前と住所、電話番号を記入して、顧問、もしくは部長にこれを提出した時点で入部完了です。わからないことがあったら先生に聞きに来てください」

入部届けに対する丁寧な説明。担任の先生は親切そうで優しそうな20代後半くらいの若い先生だった。長い黒い髪が艶やかで美しく大人らしい雰囲気を醸し出している一方で、顔は童顔でそのギャップが何人もの生徒を魅了してきたとか。

喋り方は品のある感じで、声質もおとなしい。確かに普通に惚れてしまいそうな先生。それなのに、未だ独身と聞くと、今のご時世がどれだけ結婚に向いてないのかが実感できた。

さて、それはともかくとして、恭華の手の中には今、入部届けがある。

昨日、久々にしたバスケ。しかし、バスケ部男子がこの学校にないのはリサーチ済みでもう、バスケとは関わる必要はなさそうだ。

強制ではないにしろ、何かしらの部活に入ってるっていうステータスは欲しいな。なんて、考えていた恭華は軽く、文化部の見学をしようと席を立った。

そんな恭華の行く手を阻む人物。瑞希が目の前に立っているのだった。

「ちょっと、恭華くん、どこ行くのかな?」

どこに行こうと僕の勝手だろ。

「文化部を見て回るんだ」

ありのままを話す恭華。別に、瑞希に止める理由もないだろう、なんて考えは甘かった。

「え?何言ってるの? 僕と一緒にバスケするんでしょ?」

あ、そんな約束したな昨日。

「だから、恭華くん、3年間、女バスマネージャーね。はい決定。じゃあ、行こう! 体育館へ」

昨日の今日でこんなにケロっとしてる瑞希が恐ろしい。そして、昨日の約束をすんなり利用するなんて……。なんというか、女の涙は恐ろしい。

 

恭華は瑞希と一緒に(渋々)体育館へ向かっていると、途中で理菜と謎の少女AとBに出会った。

二人の女の子のうち、一方は背がめちゃくちゃ高い。恭華は男子でも平均よりちょい上くらいの身長なのだが、ゆうにそれを超えていた。ポニーテールとメガネと丸顔が印象的。目はキリッとしてるというわけでもないのに、ものすごい目力を感じた。

そして、もう一方の方なんだが、僕が現れた瞬間にそのでかい奴の背中に隠れてしまって顔がよく見えない。

瑞希曰く、彼女は超恥ずかしやなので許してください、だそうだ。

ここにお前がいると邪魔だからどっか行けと無理やりのけ者にされて、なおかつ、体育館にいなかったら殺すと脅された。

恭華は1人、寂しく体育館への道を歩き始めた。よく考えてみれば、中学の三年の時はいつも一人だったのに、この一週間、誰かと触れ合っていない瞬間はほとんどなかった。そして、今、中学の時はなんとも感じていなかった孤独を寂しいものだと感じた。

体育館への道を歩いていると、横を同じように歩く女の子がいた。この子も体育館へ向かっているのだろうか? その子は右手に文庫本を持ち、それを読みながら歩いていた。見た目は背は小さく、髪も短い。眼鏡をかけていて、クールな印象を感じた。

退屈というのもあってちょっと横を歩く女の子に声をかけてみることにした。

「あの、体育館に向かっているのですか?」

……無視だ。まあ、急に知らない人に声をかけられたら無視してしまうのも仕方ないかもしれない。まずは自己紹介から始めてみよう。

「あ、僕は池崎恭華といいます。あなたは?」

……また無視。かと思いきや、

「私は体育館へ向かっている。目的はバスケ部の入部届けを部長に差し出すこと」

やけに早口に、早口なのに、しっかり頭に残る声でそういう謎の少女C。てか、今更そっちに答えるの?って思った矢先に

「よろしく、池崎さん。ところで私もあなたと同じクラスにいるはずだけど。もっと言わせてもらえれば、昨日はよく約束をすっぽかしたわね」

なになに?よくわからん。いや、声は通るし言葉が聞き取れないとかではない。

まず、同じクラスだということ。こんな子いたか?仮にいたとしてもこんなにクールな雰囲気を、言い方を悪くすると地味な雰囲気を纏ってる人には見向きもしないのかもしれない。

そして、約束をすっぽかしたとは?

すると、突然、その少女がパタンと本を閉じ、口を開いた。

「あなたは私の友達の友達になるわ。瑞希、もしくは理菜が共通の友達といったところね。それで、私たちは昨日、西公園でバスケをすると間接的にではあるけれども、約束していたはずよ。なのに、あなたと瑞希はそれをすっぽかした。私はあなたに謝罪を求めるわ」

急に饒舌になったなこの女。

しかし、名前もわからない。恭華としては認識したのも初めての女の子に謝罪を求められても……。

女の子は恭華の謝罪を待つことなく再び本に目を移していた。

変わった人だなという印象はもちろんあったが、この人が瑞希や理菜と友達になれたというのが意外で仕方がなかった。

すると、再び本を閉じた、少女。急に回れ右をした。

「おい、体育館に行くんじゃないのか?」

恭華は思わず聞いてしまった。

突然の質問に驚いたのか、顔だけ振り返って文庫本で顔を抑えながら顔を真っ赤にして

「ト、トイレよ……」

と、だけ少女はいった。

その表情はなんとも可愛いものであった。

さて、また孤独。それにしても、今日初めて会った人の名前を一人も聞いてないなと感じた恭華。

体育館についた恭華。体育館シューズに履き替え中に入るが誰もいない。おかしいなと思い、あちこちを探すと、体育倉庫の扉に「ぶちょーしつ」と大きく書かれた紙が貼ってあった。イタズラとも思えないし、もしかしたら目的の人物がいるかもしれないのでその戸を開けた。

中に入ると跳び箱とか平均台とかが醸し出す、体育館独特の匂いがした。そして、その跳び箱の上に一人の女の先輩が寝転んでいた。

その人は三年生と書かれたハチマキと本日のぶちょーと書かれたたすきをかけていた。なんだこいつ。そんなコメントしか浮かんでこない。

その本日のぶちょーさんは面倒くさそうに顔を上げ、こちらを見ていった。

「ここは女バスの部長しかいないよ。坊ちゃんは女じゃないっしょ?」

「あのー、マネージャーという席は空いてないでしょうか?」

正直、普段の恭華なら迷いなく、「はい。そうですか」といってここを抜け出す。だが、瑞希に脅されているのでそれはできない。

部長さんはしばらく考え込んでから恭華にいった。

「マネージャーは無理だね……」

「やっぱりそうですか……」

「ね?どうしても、女バスに入りたい?」

「如何してもってわけじゃ……」

瑞希の顔が浮かぶ。

「はい!どうしてもです!」

「わかった。君、我がバスケ部に監督として受け入れるよ。じゃあ、入部届けだけ受け取ってやる。じゃあね」

 

……恭華はバスケから縁を切るためにこの高校に入ったはずなのに、選手でも、マネージャーでもなく、晴れて監督に就任した。

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