僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた。 作:楠富 つかさ
「いろいろ考えなきゃいけないわね」
麻琴の衝撃的な告白をなんとか保留にしてもらった夜。夕飯の席で母さんがおもむろに口を開いた。
「何を?」
食卓につく唯一の男子になってしまったことを全く気にするでもない夏希。そんな夏希が母さんに尋ねると、母さんは僕の方をじっと見て口を開いた。
「まず、悠希のことについて。部屋の模様替えの要ありね。あと学校のこと。今の悠希を共学の高校に入れるのは不安ね。あと二週間で新学期。それまでに女子道をあらかたマスターしないと、隙だらけの女の子になってしまい、男子高校生たちに……。これから先は夏希もいるから言えないような内容になってしまうわ」
「年齢制限かしら? 年齢制限なのかしら?」
三人の子供がいるとは思えないくらいに艶やかな笑みをうかべる母の、言葉の意味を理解してしまった僕から血の気が引く。嫌だ。ちょっと前まで同性だったはずの人間に……。
「そこで、私のコネクションを使って星鍵女学園に通ってもらおうと思うんだけど? どうかしら?」
「……うはぁ。悠希も星鍵に入れるんだ。というか、コネって?」
「光さんがプロデュースしているアイドルのお母様が経営なさっているの。もちろん、私とも仲良くさせてもらっているわ」
「……なるほど。道理で私も通わせてもらえた訳だ」
星鍵女学園というのは、市内中央部にある中高一貫の私立女子校だ。もちろん、高校受験の頃は男子だったから、姉が通っている学校以外に認識を持ってはいなかった。ただ……。
「そしたら……麻琴と離れ離れになっちゃうじゃん……」
自分でも想定していないくらいに寂しげな声が出た。確かに麻琴は僕が好きだといった。女の子になった僕をだ。それはつまり……アブノーマルなわけで。遠まわしに母さんは私と麻琴を切り離そうとしているのだろうか。
「麻琴ちゃんも入れてもらうつもりよ。あそこ、陸上で活躍できる女の子を喉から手が出る勢いで欲しているから。授業料免除くらいしてもらえるだろうし」
分からない。母さんの真意がさっぱり分からない。ちなみに今日の夕食はおろし大葉のハンバーグ。こちらもさっぱりである。……言うてる場合か。
「女子高に通うことに反対はしない。麻琴がいるなら尚更。でも……模様替えは意味ある?」
僕が母さんに質問すると、ずっと食べることに集中していた夏希も、確かにと声をあげた。母さんは察しの悪い僕らになんだかなぁといった表情をしながら答えた。
「今の悠希の部屋なんて女の子が過ごす部屋じゃないじゃない! 壁紙から津学習机から……あと、クローゼットだよ! 置かなきゃ!!」
まぁ、体格が変わった以上、もろもろの家財を買い換える必要があるんだろう。それは分かる。……夏希の部屋も去年、学習机や椅子を変えたんだよなぁ。しかも成長に合わせて大きくできるやつ。僕のは……結構長く使っているんだっけ。
「家具屋? ネット?」
聞けばモールとは逆方向にある家具屋まで行くそうだ。
翌日向かった家具屋では、壁紙やカーテン、ラグや机といったインテリアを買った。模様替えなんて初めてだけど、まさかここまでの金額が動くなんて。水色系が好きなのは変わらないけど、寒々しくなりそうだからグリーンをベースにコーデした。服と同じで大事なのは色調とバランス。ある程度自分でものを決めてから、母さんと相談して最終決定をした。現在、部屋にあるものは捨てることになるので、廃棄の準備には夏希が大活躍だろう。……非力になったことを再確認させられた。
あと、移動中に母さんのところへ星鍵の理事長である星井さんから入学を許可するという連絡があったため、洋装店に立ち寄って制服も作った。グレーをベースとしたブレザータイプ。姉が着ている姿を何度か見ているので、特別に新鮮という感じではない。ただ……試着で自分が着るとなると。まぁ、昔の自分の面影なんて見いだせないが。
「うんうん。似合うわね。流石、私がデザインした制服ね」
……今、軽く衝撃的なセリフが。
「これも母さんの作品だったの!? 制服まで作ってるの!?」
「ほら、この制服って四年前に新しくしたでしょ?」
そう、姉が入学する年だ。どうやら、制服のデザインを引き受ける代わりに姉が入学できたのだろうか。まさか……。
「元はと言えば、星井さんの娘さん。まぁ、アイドルのね。彼女に似合う制服をデザインしてくれっていう依頼でね」
「なるほど。じゃぁ、先輩にあたるのかな?」
「そうね。星鍵にはアイドルとか役者とか声優さんとか、副業を持っている女の子がちらほらいるのよ。別に、そういう科があるわけじゃないのよ? あ、家に資料があるから見とくのよ。麻琴ちゃんの家にも郵送してあるから」
制服購入の手続きを済ませながら淡々と話す母さん。ちなみに、麻琴の制服は姉のものが流用されるらしい。……あの二人が姉妹じゃないかというくらいに体格近いし。
「さてと……明日からは特訓ね」
「と、特訓!?」
母の運転する日産リーフで家に向かう車中。母が僕に言った特訓という言葉。その意味を知るのはもう少し先になる。